第107話教会 教会騎士

銀髪、細目の男の後を、ついて歩くホルト。


教会の礼拝堂には、多くの教会騎士が屯しており

ホルトをジロジロとみている。


「ギャレット副隊長、そいつは、新入りですか?」


銀髪、細目の男は、副隊長で、名前を【ギャレット】というらしい。


「違うよ、隊長のお客様」


「へぇ~、珍しいですね」


教会騎士たちは、笑っていたが、その眼の奥は、笑っていない。


そんな教会騎士達が、屯していた礼拝堂を抜け、

奥に進むと、いくつも部屋が並んでいた。


「こっちだ」


ギャレットは、一番奥の部屋の前まで進み、

足を止めると、扉を叩く。


「隊長、お客です」


「おう」


部屋に入ると、教会騎士団の旗が飾ってあり

それ以外には、隊長専用の机と

簡易的な応接セットがあるだけだった。


その隊長専用の机に脚を乗せ、

腕を頭の後ろで組んでいた男が、

ギャレットの方へと視線を向ける。


「誰だ、そいつ?」


「オルゴーナ様の使いらしいですよ」


そう告げたギャレットは、

応接セットのソファーに腰を下ろした。


1人、取り残された形で、『ポツン』と立っているホルトは

隊長であるヌードルフに、伝言を伝える。


「お、オルゴーナ様から、ヌードルフ様を呼んでくるように仰せつかりました。


 い、一緒に来て頂けますでしょうか?」


場の雰囲気に飲み込まれそうになりながらも、用件を伝えたのだが

雰囲気が悪い。


ヌードルフが、ホルトを睨みつける。


「俺に、『来い』だと・・・・・」


ヌードルフが立ち上がった。


眼光が鋭く、今にも、食い殺しそうな圧力を放ちながら

距離を詰めてくるヌードルフにより

蛇に睨まれたカエルのようになったホルトは

股間のあたりが不味い事になりかける。


──こんなの・・・・・無理・・・


完全に、怯えてしまったホルト。


その様子を見ていたギャレットが

仕方なく、ヌードルフに声を掛けた。


「隊長・・・・・怯えていますよ」


「ああ、すまん」


ギャレットの一言で、ヌードルフの圧は消えたが

未だ、緊張したままのホルトを放置し、

ヌードルフが、ギャレットに告げる。


「ちょっと、行って来る」


「護衛は、どうしますか?」


「いらん」


ヌードルフは、ホルトを放って、

さっさと部屋を出ると、オルゴーナの元へと向かって歩き出す。


未だ、立ち尽くしているホルトに、ギャレットが声を掛ける。


「隊長は、もう行ったよ」


『はっ!』となり、ギャレットに一礼をした後、

ホルトは、後を追った。



ヌードルフの足は速く、ホルトが教会の外に立た時には、既に姿が無い。


駆け足で後を追う。


だが、ホルトが追い付いた時には、

ヌードルフは、既にオルゴーナの部屋の前にいた。


彼は、ノックもせずに扉を開ける。


「俺に、用だって?」


不躾に言い放つヌードルフだが、

オルゴーナは、いつもの事だと気にも留めていない。


『ズカズカ』と部屋に入ると、

ヌードルフは、ドカッとソファーに腰を下ろす。



「用件は、手短に頼むぜ。


 爺の話は、長ぇからな」


「わかっておるが、今回ばかりは、そうもいかん。


 少しは、辛抱してくれ」


オルゴーナは席を立ち、ヌードルフの正面に座り直した。



「ゴンドリアの教会が壊滅した」


思わず、真顔になったヌードルフは、オルゴーナを見る。


「それは、本当なのか?」


「報告は、来ておらぬが

 間違いないだろう。


 それでだ・・・・・」


オルゴーナの言わんとすることが分かった。


「俺たちに、調べて来いという事か?」


「ああ、頼めるか?」


その言葉を聞き、しばしの沈黙の後、ヌードルフが口を開く。


「俺達は、調査という面目で、動くことはあるが

 実際は、戦闘だ。


 そんな俺達が、出ないといけない事のようには思えんが・・・・・」


「それが、そうでもないのだ。


 色々と、ややこしい事になっておっての。


 まず、このアンドリウス王国からゴンドリア帝国への通路は塞がれており

 正規のルートでは、誰も通してもらえぬ。


 だが、それだけではない。


 ガルバンや教会の上の者たちは、全員、処刑されておるらしいのじゃ」


『ふうん・・・・』と頷くような素振りを見せた後、ヌードルフは尋ねる。


「その事実を全部確かめた上で、俺たちに何とかして来いという事か?」


「頼めるか?」


「教会を潰したとなれば、容赦なく、暴れれるかもしれないぜ。


 それでも、俺達に頼むのか?」


念を押すように、尋ねたが、オルゴールの決断に変化はない。


「ああ、教会を敵に回したとなれば、

 それも、仕方なかろう。


 だが、体裁は、つくるのじゃぞ」


「任せろ」


ヌードルフは了承した。


だが、これで、解決したわけではない。


「道は、塞がれておるが、どうする?」


「簡単なことだ。


 道では無い所を進めばよい」


そう言って、ヌードルフは席を立った。




翌日深夜、王都の出入口とは別の隠し通路から、

ヌードルフたちは出立した。


当然、途中までは、ゴンドリア帝国に向かういつもの道だったが

砦が近づくと、道から逸れて、山の中へと入った。


彼らが進む山には、獣や魔獣が多く生息している。


その為、一般の者たちが進めば、5分と持たず、餌になるような場所だが

教会騎士達には、関係ない。


襲い掛かる獣や魔獣を倒し、悠々と進む。



だが、苦難はその先にあった。


ゴンドリア帝国に向かう為には、

山肌が全て石で出来ている断崖絶壁を越えなければならない。


その場所に辿り着くと、ヌードルフは、皆に声を掛ける。


「先に行く」


そう言い残し、断崖絶壁の頂上から、飛び降りた。


「では、私も・・・・・」


続くように、ギャレットが飛び降りる。


それに習い、次々に騎士隊員も飛び降りた。



先に、地上に辿り着いたヌードルフが、剣を掲げると

オーラのようなもの放たれ、傘のように広がった。


そして、オーラに騎士達が触れると、

勢いが和らぎ、何事もなかったかのように

全員が、無事に着地をする。


全員が無事に着地した後、ヌードルフは剣を収めて歩き出すと

教会騎士達も後に続いた。



砦を抜け、ゴンドリア帝国に辿り着いた一行は、真っすぐに教会を目指す。


だが、辿り着いた教会は、国の兵士が見張り、封鎖されていた。


「オルゴーナの言っていた事は、事実のようだな」


ヌードルフは、隠れる事もせず、教会の入り口に向かって歩を進める。


「待て!

 ここは封鎖している」


兵士が棍棒で道を塞いで、ヌードルフたちに告げる。


しかし、別の兵士が、鎧を見て教会騎士隊だと気が付く。



「ちょっと、待て!」


慌てて、棍棒を下げさせた。


「教会騎士の方々ですか?」


兵士の問いに答えたのは、教会騎士の1人【ボーグル】。


隊長の側近である。



「そうだ、この国の教会で不手際があったと聞き、参上した。


 そこを通してもらおう」


ここは教会。


いくら封鎖しているとはいえ、教会騎士たちの道を阻むことは出来ない。


「どうぞ、お通り下さい」


「うむ、お勤めご苦労」


ボーグルは先頭を歩き、封鎖されていた教会の扉を開く。






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