第106話 教会 動き出す者たち2

スベラハートは、急いで教会に戻る。


「オルゴーナ様!オルゴーナ様!」


慌てた様子で、オルゴーナの部屋の扉を開けた。


「騒がしいではないか!

 落ち着きなさい」


「し、失礼致しました!」


息を切らしているスベラハートは、

手で『パンッ!パンッ!』と衣服の埃を払い除ける。


「それで・・・・・お前がそんなに慌てているとは、何かあったのだな」


「はい、ルードル学院長から聞いたのですが、ガルバンが捕まったそうです。


 それに、既に処刑されたと・・・・・・」


オルゴーナは、見たことも無いほど狼狽えた。


「まさか・・・そんな・・・

 スベラハートよ、

 そ、それは、事実なのだな・・・・・?」


「はい、他にもガルバンに係わっていた教会の者も捕まったとか・・・・・」


この情報から、導かれる答えは一つ。


ゴンドリア帝国の教会は、壊滅状態だということ。


上層部が捕まれば、教会は機能しなくなる。



それに、そのような者たちがいた教会を、王家が放って置くとは思えない。


「スベラハートよ、ゴンドリアの教会と、連絡を取りたいのだが、

 良い方法は無いか?」


「それが、例のアンドリウス王国への進攻の件で、全面封鎖だそうです」


「それでは、このまま指を咥えて見ている事しか出来ぬのか!」


『バンッ!』と机を叩き、怒りを露わにするオルゴーナ。


──何か良い手はないのか?・・・・・・・


暫く考えこんでいたが、ふと、思い出す。


──そうだ、あ奴を使おう・・・・・・


オルゴーナが目を付けたのは、チャコール男爵だった。


「例の貴族なら、通れるかもしれぬ。


 今から、手紙を書く。


 直ぐに届けさせる準備をしてくれ」


「畏まりました」


スベラハートが部屋を出て行くと、

直ぐに、オルゴーナは机へと向かった。


──あ奴の弱みは、いくらでもある。


   大人しく言う事を聞いてもらおうか・・・・・・





時を置き、オルゴーナが書いた手紙が、

チャコールに届く。


手紙を受け取ったチャコール。


──何故、教会が私に手紙など・・・・・


疑問に思いながらも、封を開けた。


「!!!」


そこに書いてあったのは、モンタナを庇った事、ギドル商会に借金があり、

王家の情報を、息子を使って聞き出していた事などが記してあった。


「どうして、息子の事が!!!」


息子から聞き出していた事は、誰にも話していない。


それなのに、教会が知っていたことに驚きを隠せないまま、

手紙の続きに目を向けた。



その先に記されていたのは、予想された通りの脅し。



『お前がしてきた事、息子にさせた事を、公にされたくなければ、

この手紙を持って、ゴンドリア帝国の教会に行け』と記してあった。


チャコールは、同封されていた手紙を握り締める。


「何故、貴族の私が、小間使いの真似事など・・・・・」


そう思いながらも、従うしかないチャコール。


翌日、早朝・・・・・


「旦那様・・・・・・」


執事が心配そうに声を掛ける。


「大丈夫だ。


 問題ない」


執事は、馬車の扉を閉めると、御者に合図を送り、馬車を走らせた。


本来なら、数台の馬車で、多くの従者を連れて行くのだが、

今回の事に、従者と言えど、連れて行くのは忍びない。


その為、昔から、仕えてくれている御者とチャコールの2人旅だ。



王都を出発して、数日経った頃、チャコールの馬車は

アンドリウス王国とゴンドリア帝国の境にある砦に辿り着く。


アンドリウス王国側の出入口で警備をしている兵士は、

チャコールの馬車を止めた。


「ここから先は通行禁止だ」


兵士の言葉に、チャコールは馬車から降りる。


「私は、アンドリウス王国のチャコール ベクターだ。


 急用につき、ここを通してもらいたい」


その言葉に反応したのは、

偶然居合わせたメビウスの息子のガリウス。


「急用とは、どういうことですか?」


「ガリウス殿が、何故、ここに・・・・・」


チャコールもガリウスを知っているが


このタイミングでは、一番会いたくない人間だ。


「俺の事は、どうでもいい。


 それよりも、もう一度、お聞きするが、急用とは、どのような用事ですか?」


不穏な空気を感じ、多くの兵士が集まってくる。


ゴンドリア帝国から奪って以来、この砦はメビウスの管理下に置かれている。


また、『砦』と名が付いているが、ほぼ街と化している為、

生活に、困ることはない。


おかげで、メビウスの一族は、今は、ここで生活をしているのだ。



その事を知らなかったチャコールの額からは

滝のように汗がこぼれ、

動揺する様は、表情からも見てとれた。


チャコールや、オルゴーナは、砦には兵士しかおらず、

貴族なら、安易に通れると考えていた。


だが、実際は、メビウス率いる王家の部隊が駐屯していたのだ。


これは、全くの誤算である。


国王、ゴーレン アンドリウスは、前回の事を踏まえて、

軍事行動については、一部の者にしか、話していない。


その為、チャコールの耳には届いていなかった。


勿論、オルゴーナにも・・・・・・


「遠慮は要らん、捕えろ」


ガリウスの言葉に従い、動き出す兵士たち。


チャコールは、慌てて逃げようとしたが

抵抗空しく、呆気なく捕らえられた。


その後、チャコールは、オルゴーナから受け取った手紙も没収され、

この砦で、尋問を受ける事となった。



そんな事になっていると知らないオルゴーナは

チャコールが王都を出立したと連絡を受け取って以来

ゴンドリア帝国からの返事を、今か今かと待っていた。


だが、数日経っても、音沙汰無し。


オルゴーナは、スベラハートを呼びつける。


「オルゴーナ様、お呼びでしょうか?」


オルゴーナは、スベラハートの顔を見た途端、

怒気混じりの口調で問い質す。


「本当に、チャコールの奴は、王都を出発したんだな!」


「はい、それは勿論です」


「ならばなぜ、連絡が無いのだ!?」


「それは・・・・・わかりません。


 ですが、間違いなく、王都を出発致しました」



現在の王都では、厳重な情報規制が敷かれている為、

2人の元に、チャコールが捕まっていたとしても

情報が届くことはない。


その為、それから数日が経っても、何の情報も得ることが出来なかった。


このままでは、埒が明かないと思ったオルゴーナは、かの者を呼びつける。


「神父の【ヌードルフ】を呼んでくれ」


神父見習いの【ホルト】は、直ぐにヌードルフの元へと向かった。




教会の奥にある見習い神父たちが暮らす宿舎を抜けると、古びた協会がある。


普段は、誰も近寄らない場所だが、

ここが『教会騎士』とも呼ばれる神父たちが集まっている場所なのだ。


普通、敷地内の教会の扉は、何時でも祈りを捧げられるように

解放されているのだが、

ここの教会の扉は、閉まっていた。


ホルトは、扉を叩き大声を上げる。


「オルゴーナ様の使いで参りました。


 ヌードルフ様は、居られますでしょうか?」



『ギィィィ』という音を立てて、ゆっくりと扉が開くと

神父とは思えない程、筋骨隆々の大男が姿を見せた。


「誰だ?

 隊長に何の用だ?」


「あ、あ、あの・・・・・」


大男の影に、覆い隠されてしまったホルト。


男の異様な雰囲気に飲まれ、声が出ない。



『ジロリ』と睨みつけられ、用件を忘れそうになる。


その時・・・・・


「【モンゴラ】、そのへんにしておけ」


モンゴラと呼ばれた大男の後ろから、細い目をした銀髪の男が姿を見せる。


「怖がらせて、すまなかったね。


 隊長に用事なんだろ。


 案内するよ」


「はっ、はい!」


ホルトは、モンゴラに一礼すると、銀髪の男の後を追った。




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