第105話 教会 動き出す者たち


エンデ達の報告から、数日後・・・・・


神父であり、オルゴーナの補佐を務める【スベラハート】という男が

学院を訪れていた。



「ルードル殿、ご無沙汰しております」


「スベラハート殿が学院を訪れるとは、一体、どのようなご用件でしょうか?」


普段なら、学院に用事がある時は、

小間使いのような神父見習いの男が来る。



それなのに、オルゴーナの補佐であるスベラハートが、直々に顔を見せたという事は

無理難題を押し付ける為だと踏む。


──どうせ、金当ての良からぬ事を、企んでおるのじゃろう・・・・・


そう思うルードルだが、表情には出さない。


「今日、訪れたのは、今後の学院と教会のあり方についてでございます」


「あり方・・・・・?」


「はい、先日、貴族の紹介で入った教師が、揉め事を起こしたと聞きました。


 やはり、一貴族の推薦では、今後も同じような事が起こり得ません。


 元々、教会は、祈りを捧げるだけの場所ではなく、

 教養を身につける場所でもあります。


 その為、私共、教会に属する者の中には、

 生徒達に、教えることの出来る者が多くおりますので、

 今後は、私たちにも、教師となる者を推薦させて頂きたい」


『ああ、そういうことか』と納得するルードル。

グルーワルド学院では、偏った教育を避ける為、

教会に教師を推薦する権利を与えていなかった。


その為、この度の事件に乗じて、その権利を頂こうという腹積もりだ。


だが、それだけではない。


学院に教師を派遣できれば、エンデやエブリンの監視も容易に出来る。


その意味もあった。


スベラハートは、優しい笑みを受けべながら

ルードルに問いかける。


「如何ですかな?


 急な申し出な故、即答は難しいと思いますが、

 先ずは、試しに1人を推薦させて頂けませぬか?」



1人を受け入れれば、後は、なし崩し的に、

教師を送り込んでくることは明白。


それがわかっているからこそ、受け入れ難い。


だからこそ、『試し』の推薦も断る。



「いや、待ってくれ。


 1人を受け入れれば、それは、推薦を受けたことと同じじゃ。


 試しなどは要らぬ。


 取り敢えず、今日のところは、帰ってくれ」




即答どころか、1人の推薦も断ったルードル。


その態度に、スベラハートは、膝の上に置いていた拳を強く握りしめた。



──このクソじじい、素直に従えば良いものを・・・・・



スベラハートは、教会に楯突かれることを嫌う。


彼の中で、オルゴーナと教会は、絶対的なのだ。



「学院長、本当に、このまま私を帰して宜しいのか?」



「『ムッ!』

 どういう事じゃ?」



「この国、いや、この世界全体に広がる我が教会の力を、

 知らぬわけではないでしょう。


 どの国でも、我らに逆らう者などおりませぬ。


 その意味を、貴方ほどの者になれば、お判りでしょう」



『黙って、申し出を受け入れろ』と脅しているのだ。




「ならば、こちらも、言わせていただくが

 この学院が、陛下のお志から成り立っている事も、

 教会の者なら知っておろう。


 それでも、我らに、脅しをかけるというのか?」


ルードルも引くつもりはない。


スベラハートが『教会』を盾にすれば、

ルードルは、『国王』を盾にして対抗する。



これ以上、スベラハートが対抗すれば、

それは国王に反意を示すことになり兼ねない。


その為、直線的な圧力をかける事が難しくなった。



だが、スベラハートは、切り札を隠し持っていた。


ソファーに、腰を深くかけ直したスベラハートは

一息ついた後、肩の力を抜く。


「少々、熱くなり過ぎましたね。


 少し、雑談でもしましょう」



そう切り出したスベラハートの顔には、笑みが零れている。



「最近、他国からの侵攻があったと聞き及んでおります。


 陛下も、大変ですね。


 それがあの『ゴンドリア帝国』なのですから・・・・・

 まぁ、私どもの教会は、かの国にもありますが、

 優秀な者ばかりでしてね。


 今では、教会出身の者が『宰相』を務めているようでして・・・」


『ゴンドリア帝国は、教会の手中にあり

 こちらから、話を持ち掛ければ、動かすことが出来るぞ』


そのように、国に対して、国を動かすことが出来ると

再び、脅しをかけているのだ。


これが、スベラハートの切り札だったのだが

この話を聞いても、

ルードルには、動揺する気配すらない。


それどころか、スベラハートに向かい、

嘲笑うかのような表情を見せる。


「その事なら、知っておるぞ」


「えっ!」


「今、アンドリウス王国とゴンドリア帝国への通路は、全て遮断されておるから

 教会の者であっても、最近の事は知らぬようだな」


「な・・・」


ルードルは、一息つくと続けた。


 「その『宰相』まで上り詰めた男の名だが、『ガルバン』ではないか?」



「ええ、、よくご存じですね」


「知っているも何も、

「奴なら、反逆の罪で、死刑になったぞ」


切り札が、全く役に立たないどころか

逆に驚かされるスベラハート。


「!!!」


実際は、エンデが殺して王家を助けたのだが、

対外的には、王家がガルバンの企みを見破って、討ち取った事になっている。


ルードルは、話を続けた。


「それにな、今回の反逆に加担したと思われる教会の者たちも

 捕まったと聞いておるが」


全身の力が抜けて行くスベラハート。


「嘘だ・・・・・そんな・・・・・」


言い返すことも出来なくなったスベラハートに、

ルードルは、言葉を掛ける。


「こんなところで、道草を食っていても良いのか?


 早く知らせなくても、良いのか?


 もしかしたら、教会にとって大事になるやもしれぬぞ」


脅しをかけられたスベラハートは、

挨拶もそこそこに、学院長室から、去っていく。


その後姿を見ながら、ルードルが呟く。


「小物め・・・馬鹿にしおって・・・」



ルードルは、ずっとテーブルの上に置いてあり

完全に、ぬるくなってしまっていたお茶を

一気に飲み干した。




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