第104話 学院生活 学院長への報告

エンデが、アンデットオオカミ達を回収し、学院長室に戻って来た。


だが、先程と違い、

エブリンの横には、『伏せ』をした状態のアンデットオオカミが居座っている。



エンデがソファーに腰を掛けると、

アンデットオオカミから距離を取り、部屋の隅にいるメルガが怒鳴る。


「こ、これは、どういうことですか!?」


アンデットオオカミが怖いのか、先程のような威勢は消え失せている。


そんなメルガに、答えたのはエブリンだった。


「どうもこうも無いわ、私の従者を連れて来ただけよ」


完全に、嫌がらせである。


「・・・・・・」


シャーロットの抱いているシェイクは小柄で、

まだ、可愛さを残している。


しかし、エブリンの横で、『伏せ』の状態で待機しているアンデットオオカミは、

牙は剥き出しで、目元の皮膚が裂けている為、

オオカミ以上に、恐ろしい形相をしている。


そして、禍々しいオーラも・・・・・・


シャーロットの抱いているシェイクなど比べ物にならない。


「そ、その化け物は、何とかならないのですか?」


その言葉に、エブリンが反応する。


「私の護衛を『化け物』呼ばわりするとは、良い度胸をしていますね」


文句ばかりを言うメルガに辟易していたエブリン。


『化け物』と言われ、我慢していた感情を露にし、メルガを睨みつけた。


すると、アンデットオオカミも立ち上がる。


『グルルルルルル・・・・・』


威嚇するように唸り声を上げる。


「ひぃぃぃぃぃ!」


恐怖に慄き、体を仰け反らすメルガ。


だが、エブリンがアンデットオオカミの頭を『ポンポン』と軽くたたくと

唸り声を止めた。


場が収まると、メルガがソファーに座り直す。


そこで、ルードルが口を挟む。


「メルガ、お前は少し黙っておれ、このままでは話が進まぬ」


「・・・・・・」


流石に学院長に言われては、メルガも押し黙る。


「こちらから呼びつけておいて、すまなかった。


 そろそろ話を聞かせてもらおうか」


ルードルの謝罪を受け、エブリンが今回の出来事のあらましの説明を始めた。


この度の事件の発端になったのは、

ハーベスト家が準男爵に戻されたことを、エンデのせいだと思い込み、

仲間を引き連れて襲撃した事が始まり。


ただ、わからないのが、いつからモンタナが関わっていたかという事。


その事も、しっかりとルードルに伝えた。


「モンタナか・・・・・・

 あ奴に関しては、チャコール男爵の推薦があったから、教師にしたんじゃ」


──チャコール男爵か・・・・・・


エブリンは、何故、チャコール男爵が

モンタナを推薦したのかがわからなかった。


だが、その理由は後に判明することとなる。


結果として、

チャコール男爵は、今までしてきたことが表沙汰になる事を恐れ

言われるがままに従い、奥の屋敷にモンタナを住まわせ、

学院の教師に仕立て上げたのだが・・・・・


ここで誤算が生じた。



ガルバンのターゲットとなっていたエンデが、学院に現れたのだ。


当分は、鳴りを潜める予定だったが、

エンデが現れた事により、予定を変更する。


──あのガキの実力を、この目で確かめる・・・・・・


モンタナは、エンデにけしかける為の手駒を探していると

偶然にも、恨みを持つ貴族を見つけたのだ。


グラン ハーベスト。


モンタナは、言葉巧みに誘導する。


「決闘にすれば問題ありません。


 立会人は、私が務めましょう」


この一言が決め手となり、グランたちは、エンデ襲撃を企てた。


その結果は言わずもがな、トラウマを植え付けられんばかりの重傷を負い、

当の本人であるモンタナは、逃亡したうえ、命を落とした。


そして、今に至る。


「成り行きは、理解した。


 今日は、もう遅い、エブリン嬢も、エンデ君も

 引き留めて悪かった。


 今後の事は、また今度、話をすることとしよう」


ルードルのその言葉を最後に

お開きとなった。


説明を終えたエンデ達が、学院長室を出て、

廊下を歩きだすと、後ろから声を掛けられる。


メルガだ。


「エンデ ヴァイス、それとエヴリン ヴァイス。


 今度、何かした時は、必ず退学にしてやる。


 いいか!


 覚悟しておけ!」



そう言い放つが、エブリンの横にいたアンデットオオカミが、

唸り声を上げると、一目散に、その場から逃げ出した。


「お姉ちゃん、あの人、何を怒っているの?」


「わからないわ。


 放っておきましょ」


相手をすることも馬鹿らしくなったエブリンは

放っておくことにした。



双方が離れた後、話し合いの最中は、一言も発さず、

ただ聞いていただけの女性【ミラーナ】が、学院長室から出て来る。



「・・・・・では、ご報告に参りましょうか」


独り言のように呟くと、廊下に風が吹く。


「ええ、あの子は、危険だわ。


 早くお伝えしなくては・・・・・・」


ミラーナも、何処かへ向けて歩き始めた。



ミラーナが、訪れたのは

王都にある教会の懺悔室。


ミラーナは、慣れた様子で、片側の部屋に入ると扉を閉める。



「この場での事は、神様しか知り得る事はありません。


 貴方の心の声を、思う存分、吐露して下さい」


神父の言葉に、ミラーナは『クスッ』と笑う。



「【オルゴーナ】様、冗談が過ぎますよ」



「冗談などではない、これが儂の本業だからのぅ」



生やしている顎髭を、触りながらオルゴーナも笑った。


「ミラーナよ、今日は?」


「ええ、少し聞きたい事があったの。


 ガルバンの放っていた暗殺部隊のリーダーの名前だけど

 『モンタナ』だったかしら?」


「その通りだが、奴は、兵団長のキルードが、

 あの商人の屋敷に襲撃を掛けた時、

 逃げたと聞いておるぞ」


「その男、チャコール男爵の屋敷に匿われていたのよ」


「ほう・・・・・

 それで、奴は、今、何処に?」


「死んだわ。


 正確には、殺されたのよ」


その言葉に、オルゴーナの眉が『ピクッ』と動く。


「あ奴は、仮にも暗殺部隊のリーダーだった男だぞ。


 そんな男が、簡単に殺される訳が・・・・・・」


「事実よ・・・・・」


オルゴーナは、息を飲む。


「それ程の手練れが、この王都にいるのか?」


「・・・・・ええ、しかも、その相手は、子供よ」


「はっ、今、なんと?」


「モンタナを殺したのは子供だと、言ったのよ。


 エンデ ヴァイスという子爵家の跡取りよ」


本来なら、ガルバンから教会にも報告が届いていそうだが、

プライドが邪魔をして、エンデの事は、教会には知られていなかったのだ。



「エンデ ヴァイス・・・・・聞いたことは無いが

 その子供は、今どこに・・・・・・

 いや、迂闊に接近しない方が良いかのぅ・・・・」



色々と考えを巡らせながら、ブツブツと呟いているオルゴーナ。


「オルゴーナ様、どうなさいますか?」


しばしの沈黙の後、オルゴーナが口を開く。


「少し、こちらで探ってみるとしよう」




翌日から、オルゴーナは、部下を使いエンデの周辺を探る。


その為、王都では、色々なところでシスター見習いや、神父見習いの姿を見かける事になった。



その頃、エンデとエブリンは普段通り?というか、

最近は、何事も無く、学院に通う毎日を送っていた。


だが、その学院にも、教会の者の手が・・・・・


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