第103話 学院生活 報告

キルードとエブリンは、

モンタナの生死について、エンデから報告を受けた。


『もう、この世にはいない』と・・・・・


「そういう事だったのね」


エブリンは、アンデットオオカミたちが、警戒を解いたわけを知った。


だが、キルードは理解出来ていない。


「どういう事だ?」


「エンデが、倒したという事ですよ」


「そうか・・・・では、死体はどこにある?

 その場所に、案内を頼む」


『え~』という顔をするエンデ。


「任務上、確認しなければならないのだ。


 頼む」


頭を下げるキルードに、エンデは困る。


「無理だよ。


 もう残っていないから」


「???」


困惑するキルード。


エンデは、見せた方が説明が省けると思い、左手に『黒い塊』を出現させた。


「出ておいで」


「???」


『何が起きるんだ?』と不思議そうに

『黒い塊』を見つめるキルードも前に、

アンデットオオトカゲが姿を見せる。


「うわぁぁぁぁぁぁ!

 竜だぁ!」


巨大なオオトカゲの出現に、その場にいた兵士達は、

パニックになり、慌てて逃げ出したが

キルードは、その場で腰を抜かしたかのように、へたり込んだ


そんなキルードを見ながら、

エンデは、アンデットオオトカゲの体を『ポンポン』と叩く。


「モンタナの死体は、この中だよ」


「は・・・・・なんだと?・・・・・」


「この子が、食べちゃったんだ」


『ギャギャ』と笑っているような声をあげるアンデットオオトカゲ。


「『美味しかった』だって」


無邪気に伝えるエンデに、困惑しながらも返事をする。



「そ、そうか・・・・・

 1つ尋ねるが、この事は、陛下に報告しても良いか?」


エンデは、エブリンを見た。


「知っていると思うから、構わないわよ」


「だって・・・・・」



「では、そのように報告しよう。


 もしかしたら、陛下から呼び出しがあるかもしれん。


 その時は頼むぞ」


キルードは、ゆっくりと立ち上がると、

パニックになっている兵士達をまとめ上げて

撤退を始めた。



その様子を見て、エブリンがエンデに告げる。


「私たちも帰るわよ」


エブリンも、エンデを連れて屋敷に戻ろうとしたが、

同行していたグラウスに引き留められた。


「ちょっと待ってください!」


足を止めるエブリン。


「帰ってからの事なのだが、

こちらも説明が必要なので、

学院長の前で、改めて説明して頂きたいのですが」


学院で起こった事件。


今後の事を考えれば、学院長が知っておく必要がある。


その為には、当事者たちから聞くのが一番。


グラウスは、『これから学院に来て欲しい』と言っているのだ。


「『明日』という訳には・・・・・」


この提案に、グラウスは首を横に振る。


『はぁ~』と溜息を吐くエブリン。



「わかりました。


 これから伺います」



エンデは、アンデットオオトカゲを回収したが

アンデットオオカミ達は、

楽しそうに、2人の周りをまわっていたので

この地に残した。


シャーロットに抱かれている小型のアンデットオオカミ。


エブリンの横を歩く、首輪をつけたアンデットオオカミ。


その他のアンデットオオカミ達も、2人の周りをウロウロしながらも

ついて歩いている。


その様子を見て、エンデが言う。


「僕もトカゲを出していい?」


「「「ダメです!」」」


即座に、エブリン、シャーロット、グラウスに却下された。




街中で、10メートルにも及ぶアンデットオオトカゲを出現させれば、

アンデットオオカミなど、比べ物にならない程のパニックになる事は明白。


そんな事を、許す筈が無い。


「絶対だめだからね」


エブリンに、釘を刺されたエンデは、仕方なく、諦めた。




学院に到着すると、グラウスと共に学院長室へと向かうエンデ達。


誰もいなくなった教室を横目で見ながら、

エンデたちは廊下を進み、学院長室の近くまで来ると

部屋の扉が、開いていることに気付く。


「中におられるようですね」


グラウスは、

学院長室の前まで来ると、軽く扉を叩いて、声を掛ける。


「学院長、エブリン ヴァイスとエンデ ヴァイスを連れて来ました」


「おお、待っておったぞ。


 中に入ってくれ」


ルードルの指示に従い、

学院長室の中に入ると

ルードルの他に、2人の教師が待機しており、

その2人は、エンデから目を離さない。


そんな2人の態度を気にも留めず

ルードルが、再び声を掛けてくる。


「ご苦労だったな。


 好きなところに座ってくれ」


指示に従い、エブリンが座ると、

その横にエンデが座った。


すると、何故かついて来ていたシャーロットが

エンデの横に座る。


勿論、シェイクを抱いたままだ。



「なんで来たの?」


エンデが小声で、シャーロットに問う。



「私も当事者です。


 同伴するのは、当然のことですわ」



『ツン』とした態度で、エンデに言い返すと

抱いているシェイクの頭を撫でた。


他のアンデットオオカミ達は、校庭で待機しているが

シャーロットは、譲られたシェイクを連れてきた為

先程まで、エンデから、視線を離さなかった2人の教師も

そちらの方が、気になったのか

エンデから、アンデットオオカミであるシェイクへと視線を移した。


まじまじと、シェイクを見ている教師たちのせいで、

話をしようにも、気が削がれてしまい、

説明をするような雰囲気にならない。


思わずため息を吐くエブリン。


「貴方、どうして連れて来たの?」


「そんなこと、決まっておりますわ。


 この子は、私の護衛ですもの。


 一緒にいる事は、当然のことですわ」



シャーロットが、そう答えて、

再び、シェイクの頭を撫でていると

ルードルが、3人を代表して、

問いかけてきた。


「シャーロット、その抱いている動物はなんだ?」


その質問に、シャーロットは、満面の笑みで答える。


「この子は、シェイク。

 

 私の護衛のアンデットオオカミですわ」


『アンデットオオカミ』


その言葉に反応したのは、ひょろっとした男性教師

【メルガ】だった。


「やはり、そうでしたか!」


思わず、声を上げたが

学院長の手前、『コホンッ』と軽く咳払いをした後

落ち着いた表情に戻り、シャーロットに問いかける。


「もしかして、先程から

 校庭にいるアンデットオオカミの群れも、

 貴方が連れているのですか?」


「いえ、違います。


 私の護衛は、この子だけです。


 外にいるのは・・・・・」


シャーロットの視線は、何故か、エブリンへと向いた。


思わず、『僕じゃないの?』と

問いそうになったが、口を挟むと

話が、ややこしくなりそうなので

エンデも、シャーロットに倣い、エブリンへと視線を向ける。



その視線に気付いたエブリンは、ため息を吐く。


「あの子達は、私の家のアンデットオオカミです」


「そうでしたか・・・」


エブリンは、メルガが、何を言いたいのかわからなかったが

その答えは、直ぐに判明した。


「アンデットオオカミでしたら、食事は、人肉ですか?」


「は?」


「オオカミも人を襲いますが、アンデットとなれば

 それ以上に、危険なのではありませんか?」


「それについては、問題ありません。


 あの子達は、召喚獣なので、

 無暗に、人を襲ったりしません」


「嘘を吐くな!」


机を『バンッ!』と叩き、突如、大声で怒鳴るメルガ。


その様子を見て、ルードルが、声を掛ける。


「メルガ先生、落ち着いてください」


「ですが、学院長・・・」


未だ、メルガは、エブリンを睨みつけている。


「いいから、落ち着きなさい。


取り敢えず、最後まで、話を聞こうではありませんか」


ルードルに、窘められた、メルガが座りなおすと

エブリンに、話を続けるように、促した。


「何度も、申しておりますが

 あのアンデットオオカミ達は、エンデの召喚獣ですので

 普通の獣魔と、なんら、変わりはなく

 無暗に人を襲ったり・・・・・」


エブリンは、冷静に伝えようとしているが、

メルガに、聞く気が無いのか、

一向に、変化が見られない。


「嘘だ!

 私は、騙されませんぞ!


 先刻、何人かの生徒が、実際に襲われているではありませんか!

 それなのに、『人を襲わない?』など、滑稽でしかありません。


 学院長、判断を!」



『召喚獣』だと知っても、この場から排除しようとするメルガ。


その様子から、このままでは話が進まないと判断した学院長のルードルは、

エンデに伝える。


「エンデよ、そなたの召喚獣なら、一度、住処に戻してくれぬか?

 このままでは、話が聞けぬ」


「わかりました」



エンデは、一度、校庭に出ると

アンデットオオカミ達に、告げる。


「ごめん、また、後で遊ぼう」


『ガウッ!』


エンデが左手を差し出すと、そこに現れる『黒い塊』。


その黒い塊が巨大化し、一種の『ゲート』のような形に変化した。




すると、アンデットオオカミたちは、次々と『黒い塊』の中に飛び込み始める。


そして最後に、

エブリンが可愛がっているアンデットオオカミだけになると、

学院長室の窓から見ていたエブリンが、声を掛ける。



「エンデ!

 その子、連れて来て!」



エブリンの声を聞くと、エンデが返事をするより先に、

『ガウッ!』とアンデットオオカミが返事をして

エブリンの元へと駆け出した。


──やっぱり、『召喚獣』じゃない!・・・・・


そう思ってしまったエンデだったが、

 急いで、アンデットオオカミの後を追った。


その頃、学院長室の窓から、一部始終を見ていたメルガは、

何が気に入らないのか、

誰にも気づかれない程の音で舌打ちをした。

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