第101話 学院生活 逃亡者

シャーロットを正式に『シェイク』の飼い主にする為、

ゴンドリア帝国に預けたホルストのときとは違い、

エンデは、『契約の魔法』を行使する。


淡い光に包まれた中、向き合っているシャーロットとシェイク。


その2人?に向けて、エンデが、契約の呪文を唱える。


『汝、この者に、忠誠を誓い

 如何なる時も、寄り添うのならば

 新たな真名を認めよ。


 汝の名は?』


エンデが問うと、シャーロットが、授けた名を告げた。


『シェイク』


その名を認めるように

アンデットオオカミが、吠える。


『ガウッ!』


すると、淡い光が2つに割れ、

シャーロットとシェイクの中に取り込まれると

儀式が、終わった。


シャーロットが、笑みを浮かべる。


「これからよろしくね」


「ガウッ!」


こうして、シャーロットがシェイクとの契約を終えた頃、

取り巻きの男達も、倒れていた者達の治療を終えていた。


取り巻きの男達に、労いの言葉を掛けた後

その場を仕切り始めたシャーロットは

項垂れているグランと、その仲間達に告げる。



「今回の事は、学院長と生徒会に報告させてもらうから、

 何かしらの処分が下る事を、覚悟なさい」


シャーロットの言葉を聞いても、返事はない。



そこに、校舎の中に逃げ込んだ生徒から事情を聞いたグラウスが、

他の教員たちと一緒に駆け付けた。


遠目からも見えていただろう光景だが、間近に来れば、はっきりと分かる。


「これは、一体・・・・・・・」


グランと、その仲間たちは、既に治療を終えている為、

生きてはいるが、体には欠損部分があり、

服も、ズタボロに引き裂かれていた。


また、地面は、惨劇を物語るかのように、

赤黒く染まっており、

未だ、立ち込める鉄錆びの匂に

同伴して来た女性教員は、思わず、口元を押さえる。


『うっ!』


吐きそうになるが、何とかとどめて、その場に残り

周囲に目を向けると

地面に座り込んでいる生徒たちの様子がおかしい事に気付く。


「グラウス、これは・・・」


「ああ・・・酷いな」


無言で俯いている者はまだしも、独り言をブツブツと呟いている者や

ひたすら謝り続けている者がいた。


「何がどうなったら、こんなことに・・・・・・」


グラウスの言葉に、シャーロットが答える。


「その事なんですが・・・・・」


シャーロットから説明を受けたグラウスは

なんとか事態と状況を把握し、

逆恨みで、エンデたちに危害を加えようとして、

返り討ちにあったという事を理解した。


「それで、立会人を受けていた先生は?」


「それが・・・・・」


エンデがアンデットオオカミを、グランたちに仕掛けている最中に、

モンタナは姿を消していたのだ。


そのことを告げると同時に、シャーロットが疑問を投げかける。


「『モンタナ』と言いましたか、あの方は、本当に教師なんですか?」



シャーロットの問いかけに、

グラウスも悩む素振りを見せた後、答えた。


「ええ、確かに少し前に、教員として採用された方ですが・・・・・」


「何か、あるのですか?」



「実は、とある貴族の推薦で教員になったのですが、

 以前、何をしていたのか、さっぱりでしてね」



貴族の推薦を受けていると、前職や出生などを隠すことはあるが

それでも、万が一の時に対応出来ないと困るから

『箝口令』を敷くが、ある程度の事は教えられる。


だが、今回は、何も聞かされていない。


その為、グラウスも返事のしようがないのだ。


「裏がありそうね」


シャーロットがそう呟いた時、エンデが声を上げた。


「あれ、1頭足りない!」


エブリンも、辺りを見渡す。


すると、いつもエブリンの護衛をしているアンデットオオカミの姿が見えない。


「本当ね、私が首輪をつけた子がいないわ」


「えっ!首輪?」


気にはしていなかったが、初耳だった。


なんやかんやとエブリンもアンデットオオカミを可愛がっているのだ。


エブリンが、居なくなった子を探し始めたが、

エンデには、1つだけ心当たりがある。


「モンタナを追っているのかも・・・・・」


皆もその言葉に頷いた。



事実、グランたちが蹂躙される様を、目の当たりにしたモンタナは、

直ぐに逃亡を図った。


それは、正体が露見すると不味いという事もあるが、

それ以上に、エンデの力を見誤っていたからだ。


──あのガキが、こんな力が使えるなんて・・・・・・


あの場にいたら、自分も殺されると判断し、直ぐに逃げ出した為

モンタナは、気が付いていない。



後ろを振り返る暇もなく、全力で走るモンタナの後方から、

ある程度の距離を保ちながら、尾行する者がいたのだ。



それが、エブリンに可愛がられ、首輪をつけてもらったアンデットオオカミだ。


人よりも、オオカミの方が足が速い。


ましてや、アンデットとなって、疲れる事を知らないオオカミなら尚更の事。



完全にロックされたモンタナが逃げ込んだのは、

チャコール男爵の屋敷だった。


屋敷に辿り着いたアンデットオオカミは吠える。


『ワオォォォォォン!!!』



アンデットオオカミの遠吠えは、

学院にいる仲間のアンデットオオカミの元に届いた。


『ガウッ!ガウッ!』


エンデたちの周りにいたアンデットオオカミたちは、その声を聞き、騒ぎ出す。


シャーロットに抱きかかえられていたシェイクも暴れ出し、

胸元から飛び降りた。


『ガウッガウッ』



シャーロットのスカートの裾を咥えて引っ張った後、

一旦、スカートから口を離し、首を『クイッ!』と動かし、

何処かに案内するようなジェスチャーをした。



「ついて来いって、言っているよ」



エンデの言葉を聞き、シャーロットは『お願い、案内して』とシェイクに伝えると

『ガウッ』と吠えた後、シェイクは走り出した。


すると、後に続くように、他のアンデットオオカミたちも走り出す。


「これって、モンタナの所に案内しようとしているのね」


「うん、間違いないよ」


「私たちも行くわよ」


エブリンとエンデも後を追う。



「待って下さい。


 私も行きます!」


グラウス達も後に続く。


街中を走るアンデットオオカミの群れ。



時折、周囲から『キャァァァァァ!』とか『ひぃぃぃぃぃ!』とか聞こえてくるが

エンデたちは気にしない。


だが、こんな状況が、騒ぎにならない方がおかしい。


情報を聞きつけた兵士たちも、アンデットオオカミの群れを探し始める。


そして、発見すると、そのまま後を追う。



この騒ぎは、瞬く間に広がり、

やがて宰相であるグラウニーの耳にも届く。


「王都にアンデットオオカミの群れだと・・・・・・」


あまりにも心当たりがあり過ぎて、頭を抱えた。


──あの子たちは何をしておるのだ・・・・・・


このまま野放しにするわけにもいかず、すぐさま指令を飛ばす。



「後を追え、だが、決して手出しはするな。


 いいか、後を付けるだけだぞ!」



「はっ!」


報告して来た兵士に念を押した後、グラウニーが向かったのは、

全軍の統括をしているキルードの所だった。



兵舎に現れたグラウニーに対して、キルードは、笑みを浮かべた。


「厄介ごとか?」


「ああ、我が孫たちが、この王都で何かを追っておる。


 それも、アンデットオオカミの群れを使ってだ」



「アンデットオオカミの群れだと・・・・・・

 では、今しがた報告に上がって来たのは?」



「間違いないと思う。


 孫たちだ」


力無く答えるグラウニーに、キルードの顔も曇る。


前回、エンデの力を借り、王都に潜んでいたゴンドリアの残党を始末した。


だが、その時に、主犯格であるリーダーを取り逃がしていたのだ。


──あの男も、まだ捕まっていないのに・・・・・・


度重なる王都での事件に、頭を悩ませる。


だが、このまま放置するわけにもいかない。



「私が出よう。


 後の事は、この私に任せてくれ」


グラウニーにそう伝えたキルードが立ち上がる。


そして、自ら兵を伴い、アンデットオオカミの群れの捜索と同時に

エンデたちの捜索を行う事になった。




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