第100話 学院生活 反撃

教師であるモンタナから、お墨付きをもらったグランと、その仲間達は

木刀を手に、再びエンデに襲い掛かる。


当初の予定では、先生が仲介に入り、

その後、今回の事を大事にする予定だったが

先程の会話の内容から、それは無理だと悟ったエンデは

作戦を放棄し、『スクッ』と立ち上がった。



「お姉ちゃん、ごめん・・・・・

 こんなことになるなんて、思っていなかったんだ・・・・・

 本当にごめん」


「エンデ?」


エブリンを背中に庇い、立ち上がったエンデの左手には、

既に『黒い塊』がある。



一瞬、止めようかと思ったエブリンだったが、

『ここまでされて黙っている必要はない』と考えを改めた。



「エンデ、ほどほどにしなさい」


そう伝えると、

背を向けたままのエンデが、『うん』と返事をした。


━━━これで、大丈夫・・・

   相手が死ぬことはないわね・・・・・・


安堵するエブリン。


そんな2人のやり取りの間に、グランと、その仲間達が、接近しており

先程と同じ様に、一斉に、木刀を振り上げた。



だが、先程とは違い、エンデの左手には、黒い塊がある。


「行け」


その言葉に従い、黒い塊から、アンデットオオカミ達がが姿を現し、

グラン達に襲い掛かった。


木刀しか持っていないグラン達に、防ぐ手立てはない。


「ひぃぃぃぃ!」


「た、助けて!」


牙で、木刀を砕かれ、無防備となったところに

襲い掛かるアンデットオオカミ達。


エンデの魔力で、アンデットと化したオオカミの一撃は強力で

いとも簡単に、腕や足を引き千切った。


腕や足を失くし、のた打ち回りながら泣き叫ぶグランの仲間達。


中には、あまりの恐怖から、失禁する者までいる。



当然、集まっていた生徒たちも、蹂躙されるグラン達の姿を見て

恐怖し、失神する者や、逃げ出す者がいた。


そんな中、唯一、残っていたのは、シャーロットと、その取り巻きの男たちだった。


彼らも、逃げ出したかったが、シャーロットが逃げようとしないので

仕方なくその場に残り、シャーロットに危害が及ばぬように、守っていたのだ。



そのシャーロットが、大声でエンデに向かって叫ぶ。


「エンデ ヴァイス、もう気が済んだでしょ。


 そろそろやめてあげて!」


シャーロットの声に、視線を向けるエンデ。


2人の間には、どこかしらの欠損部分を作られ

地面に横たわっているグラン達の姿があった。


そのような状態だが、当然、殺してはいない。



風が舞う毎に、鉄の錆びたような匂いが漂う中、

エンデが、アンデットオオカミ達に、声を掛ける。


「もういいよ、戻っておいで」


『ガウッ』


アンデットオオカミは返事をすると、

エンデとエブリンの元に戻り、傍らで座った。


アンデットオオカミの頭を撫でるエンデ。


「ありがとう」


『クゥゥゥゥン・・・・・』


そんなやり取りを見ながらも

警戒してエンデたちに近づく事の出来ないシャーロット。


そんなシャーロットに、エブリンが声を掛ける。


「この子たちは、命令なしに、襲ったりしないわよ」


エブリンは、自身の言葉を証明するかのように、

傍らにいたアンデットオオカミの頭を撫でると

アンデットオオカミは、嬉しそうな反応を示す。


外観は禍々しさを醸し出しているが、

その行動は、飼いならされた、ただの犬と同じように思える。


攻撃される心配がなくなったシャーロットは、

取り巻きの男たちに命令を出す。


「この者たちの治療を」


取り巻きの男達は返事をすると、

グラン達の治療へと向かう。


その間に、恐る恐るアンデットオオカミに近づいて行くシャーロット。


エブリンの言った通り、

アンデットオオカミたちは、襲い掛かる素振りすら見せない。


「本当に、襲って来ないのね」


「当然よ」


『フフッ』と笑いかけるエブリン。


シャーロットは、『コホン』と咳払いをした後、背筋を正した。



「改めまして、久しぶりですね、エブリン ヴァイス。 


 それとエンデ ヴァイス」


「ええ、おひさしぶりですわね」


エブリンの返事を聞き、辺りをもう一度見渡した後、

軽くため息を吐き、呆れた表情をするシャーロット。


「それにしても貴方たちは、

 学院に来る度に、騒ぎを起こさないと気が済まないのかしら?」


呆れたただけでは済まないほどの惨状だが、事の成り行きを見ていただけに

エンデたちを責めるような事はしない。


「それで、貴方たちは、いつから狙われていたの?」


「そのことですが、グランって子の家が、男爵から準男爵に降格したのよ。


 その事で、恨みを買ったみたい」



「爵位の降格なんて、陛下しか出来ない事なのに、

 どうして、貴方たちが・・・・・・」


エブリンは、王城での一件を掻い摘んで話すと、

シャーロットは、眉間に皺を寄せる。


「それって自業自得よね、逆恨みもいいところね」


アンデットオオカミと戯れながら、

『うんうん』と頷いたエンデに、

シャーロットが、視線を向けると

エンデの怪我は、既に完治しており、ダメージを受けた気配もなかった。



そのことに気付くシャーロット。


「もう怪我が治っているの・・・・・・」


驚くシャーロットに、エブリンが告げる。


「この子の力だから、気にしなくていいわよ」


「そうなのね・・・・・」


納得しがたい事だったが、

それよりもシャーロットは、アンデットオオカミの方が気になっていた。


「ねぇ、この子達、私が触れても大丈夫かしら?」


「それは・・・・」


エブリンがエンデを見る。


「大丈夫だよ」


エンデの返事を聞き、エブリンは、シャーロットに『触ってみたら』と提案をした。


「いいの?」


何故か、アンデットオオカミに興味津々のシャーロット。


恐る恐る触れてみる。


その感触は、ひんやりしていたが、柔らかくモフモフだった。


「とっても、気持ちがいいわ・・・」


凶暴な顔をしているが、

慣れてくると、その顔が可愛く見えてきたシャーロットは、質問をする。


「この子たちは、普段何を食べているの?」


「食事は殆どしないわ、

 でも、お肉を与えると、嬉しそうに食べるわよ」


「そうなのね」


シャーロットは、返事をしながらも、

アンデットオオカミから視線を離さない。


ゴンドリア帝国での戦闘で、多くのアンデットオオカミを失った為

以前のように多くはないが、それでも、エンデ達の傍らには

5頭のアンデットオオカミがいた。


そのアンデットオオカミ達を眺めていたシャーロットは

1頭だけ極端に小柄なアンデットオオカミを見つけると

自ら近づき、頭を撫でる。


『クゥゥゥゥン』


シャーロットに頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を細める。


──この子、可愛い・・・・・・


一目で気に入ったシャーロット。


「ねぇ、エンデ ヴァイス」


「エンデでいいよ」


「わかったわ、私も、シャーロットと呼んでいただいて構いませんわ」


「わかった。


 それで、シャーロット、どうしたの?」


「1つ、お願いを聞いていただけないかしら?」



エンデとエブリンが、顔を見合わせた。


「お願い?」


 「ええ、可能でしたら、この子を、私に譲ってくれないかしら?」


「「えっ!?」」


2人の声がハモる。


「シャーロット、この子たちはアンデットよ。


 死ぬことも殆ど無いし、成長もしないわよ」


「ええ、わかっているわ」


既に、小柄なアンデットオオカミを抱きしめているシャーロット。


「それに、譲って貰ったら、ずっと飼う事になるのよ」


「当然です。


 誰にも渡さないし、大切にするわ」



小柄なアンデットオオカミもシャーロットを気に入っていたのか

顔をペロペロと舐めている。


「エンデ、どうする?」


エンデからしたら、偶然だが仲間にした者たち。


幸せになって欲しいと思っている。


だからこそ、シャーロットに問う。


「本当に、大切にしてくれる?」


「勿論よ、大切にするし、一生面倒を見るわ。


 だから、お願い!」


「屋敷に連れて帰った後、ご両親に反対されて

 やっぱり無理だったなんてことは・・・」


「ありえません!

 お父様もお母様も、何があっても説得致します」


もう手離す気が無いのか、シャーロットは

小柄なアンデットオオカミを抱きしめたままだ。


──これで、幸せになれるなら、いいかな・・・・・


そう思ったエンデが、シャーロットに告げる。


「気持ちは、わかったけど、

 最後の判断は、その子に任せるよ」


「えっ?」


シャーロットは、エンデが一瞬、何を言っているのかわからなかった。


だが、行動を見て理解する。


エンデは、小柄なアンデットオオカミを呼び戻すと、目の前で座らせた。


「彼女が、君と一緒にいたいと言っている。


 彼女を守っていけるかい?」


エンデの問いに『ガウッ』と返事をすると

踵を返して、シャーロットの元へと向かい、

到着するや否や、足元で座った。


━━━これって、もしかして・・・・・・


そう思うシャーロットに告げた。


「一緒に行くって」


エンデの言葉を聞き、シャーロットは満面の笑みを浮かべ、抱き上げる。


「これからよろしくね」


『ガウッ!』


アンデットオオカミは、その場で【シェイク】と名付けられ、

シャーロットのアンデットオオカミになった。

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