第99話学院生活 策

その日の下校時、

グランは、同じ準男爵や商人の息子、

その他に、昔から繋がりのある貴族の息子達などの仲間を集めた。


「おい、グラン、何があったんだ?」


グランは、ハーベスト家が準男爵に降格した事、兄が家を出て行った事を話した。


「そんなことがあったんだ・・・・・」


「でも、ヴァイス家って、どこかで聞いたような・・・・・?」


貴族の子【ノートン ヤード】が答えた。


だが、他の貴族の子供たちは、一様に首を振る。


「王都では、聞いたことが無いよ」


「何処かの田舎者の貴族だろ」


「多分そうだ・・・・・

 あいつは、その親の力を借りて何かをしたんだ・・・・・


 そうでなければ、こんな事になる筈がないんだ」


「なら、そいつを捕まえて、吐かせればいいのか?」


「ああ、でも素直に吐くとな思えないから、

 先ずは、痛い目に遭ってもらう。


 それから吐かせてやる」


「わかった」


仲間達も同意し、エンデが出てくるのを、隠れて待っていると

エンデが、少女と一緒に、姿を見せる。


その時、少女の姿を見たノートンが、思い出す。


「思い出したよ!

 ヴァイス家って、あのエブリン ヴァイスの実家だよ」


「エブリン ヴァイス?」


「それが、何?」


「どちらにしろ、田舎貴族だろ」


口々に、ものを言っている仲間達に、

ノートンが答える。


「宰相様の親族だよ」


「「「えっ?」」」


「僕は、パーティーに出席した時に、見たことがあるから

 間違いないよ。


 悪いことは言わない。


 あの子に手を出すと、本当に不味い事になるぞ。


 それに、『エンデ ヴァイス』って事は、エブリンの弟だろ」



『宰相の親族』


グランも知らなかった事実。


思わず、言葉に詰まる。


その間に、ノートンは、『僕は、抜ける』と言って、

その場から去って行った。


「おい・・・・・」


本当に不味いと知った一部の貴族の子供達も後を追った。


その結果、残ったのは準男爵や商人の息子達だけ。


それでも、10人はいる。


「グラン・・・・・」


「大丈夫だ、今回の俺たちの行動は、先生も許可を出してくれているんだ」


「本当なのか?」


「ああ、嘘じゃねぇ」



その言葉に、この場に残った者たちは、お互いの顔を見合わせた後、

今回の計画に、改めて参加することを誓った。


「よし、やるぞ!」


皆が、それぞれに武器を持ち、

エンデたちが近づくのを、木の裏に隠れて待つ。


そして、エンデとエブリンが予定の場所に来ると、

道を塞ぐように、グランは姿を現した。


「お前、エンデ ヴァイスだな」


「ん?」


グランは、エンデを睨みつけながら

問いかけると

その隙に、仲間達が後方の道を塞いた。


「兄様が世話になったな。


 お前のせいで、我が家は、準男爵に降格させられたよ」


この言葉を聞き、エブリンは、相手が、どこの貴族の誰なのかが、理解できた。


それでも、確認の為にエンデに問いかける。


「誰?

 知り合い?」


エンデが首を横に振った。


「知らない」


怯える事も無く、淡々と答えるエンデに

グランは、顔を赤くして怒りを露わにする。


「知らないだと!

 俺は、クラスメイトだろ!」


「あっ、そうなんだ」


驚くエンデ。


「あんた、知らなかったの?」


「うん、まだ全員は、覚えていないんだ」


「なら、仕方ないわね」


エンデに同意するエブリン。


そんな2人の態度に、グランは、仲間と共に木刀を手に襲い掛かる。


「貴様には、聞きたいことが山ほどあるが

 その前に、少しばかり痛い目に、遭ってもらうぞ。


 おい、おまえら、いくぞ!」


グランの合図で、

四方から襲い掛かって来るグランの仲間達。


その時、エンデは、とある事を思いつき、エブリンに耳打ちをする。


「僕に、何があっても、我慢してね」


「えっ!?」


驚き、エンデに問い返そうとしたが、それだけの時間は無い。


一斉に襲い掛かるグランとその仲間達。


そのグランの仲間達の中には、

エンデではなく、エブリンに攻撃を仕掛けてきた者もいた。


その為、エンデは、エブリンを庇うような行動に出る。



振り返り、エブリンに抱き着くと

そのまま地面に倒れ込み、エブリンに覆い被さる。


本気を出せば、躱すことも可能なのだが、

学院に顔を出すたびに、面倒に巻き込まれ、

エンデは、うんざりしていたのだ。


ここで倒しても、今度は、他のグループが、手を出してくる可能性はある。


それに、手を出せば、今回の事も

子供同士の喧嘩で、収められる可能性もあった。


そこで、エンデは考えた。


抵抗せず、一方的に、やられれば、それは、喧嘩ではなくなる。


そうなれば、大事になり、子供同士の喧嘩として

収めることが出来ない筈だ。


そう考えたエンデは、無抵抗で殴られることにした。


何も知らないグランと仲間達は、木刀を手に

遠慮なく、殴る。



必死に、エブリンを守るエンデ。



『ゴンッ!ドカッ!ゴンッ!』と鈍い音が響く。


必死に、エブリンを守ろうとしているが、

小柄なエンデの体では限界があり

エブリンも傷を負う。


その傷を見たエンデは、流石に怒りが込み上げてきたが

今は、我慢すると決め、

こっそりとエブリンの傷を治す。


その間も、殴られ続けるエンデ。


「これは、貴様のせいで、勘当された兄様の仇だ!

 覚悟しろ!」


その言葉通り、いっそう力を込めて、エンデを殴りつける。


執拗に続く木刀を使っての殴打の嵐。

 

「エンデ、もういいから、お願い離れて!」


エブリンが、必死に叫ぶが、エンデは、離れようとしない。


その様子を、下校で集まっていた生徒たちも見ているが、

誰も止めようとはしない。


関わりたくないのだ。


そんな中、エブリンの悲壮な叫びが続く。


「エンデ!、エンデ!エンデ!

 もういいの、そこをどきなさい!

 お願い、 言うことを聞いて!」


エブリンの叫びを聞き、エンデが答える。


「・・・お姉ちゃん・・もう少しだから、我慢して・・・」


「エンデ・・・・・」



エンデの言葉通り、グラン達は、殴り疲れて

攻撃を止めた。


服が破れ、頭部から血を流しているエンデを見下し

吐き捨てるように、言い放つグラン。


「どうだ、思い知ったか!

 だが、まだ終わりではないぞ。


 おい、こいつを離せ」


その命令に従い、グランの仲間の一人がエンデに歩み寄ると、

首根っこを掴み、エブリンから引き剥がそうとする。


だが、びくともしない。


「こいつ!」


再び木刀を振り上げる。


その時、取り囲む生徒たちの奥の方から、大きな声が聞こえてきた。


「貴方たち、そこで何をしているのですか!」


声の主は、黙って見ていた生徒達の間を抜けて

颯爽と歩いてくる。


シャーロット アボットだ。


いつも通り、後ろには、数人の男子生徒が付き従っている。


野次馬を抜けると、地面に倒れ、

血を流しているエンデを見たシャーロットは、

グラン達に、目を向けた。


「これは、どういう事なの?」


流石に子爵家のご令嬢の事は、グラン達も知っており

思わず、後退る。


その隙に、シャーロットは、倒れている2人に歩み寄り、気付く。


「エンデ ヴァイスとエブリン ヴァイスなの・・・・・・」


状況から、姉を庇って、このような状況になった事は容易に想像出来た。


「誰か、早く治療を!」


シャーロットの指示に従い、取り巻きの男達が動き出すが

グランが、それを止める。


「シャーロット様、これは貴族同士の決闘です。


 部外者は、ご遠慮ください」


「はっ?

 これが決闘ですって!?

 どうみても一方的に攻撃しているだけではありませんか」


尤もな意見だが、グランは、これを否定する。


「それは、あくまでも結果であって、決闘ではないという理由にはなりません。


 それに、まだ、勝負はついていませんので、

 大人しく、見ていて下さいませんか?」



下卑た笑みを浮かべながら、シャーロットに言い返したが

シャーロットは、引き下がろうとしない。


「立ち合いの先生もおりませんのに、それでも決闘だと?」


「立ち合いの先生ですか?」


「ええ、本来、貴族同士の決闘には、立会人が必要な筈です。


 それなのに、ここには、そのような方が見受けられません。

 ですので、決闘だという言い訳は通用しませんわよ」


『これで、治療が出来る』


そう思ったシャーロットだったが、グランに、焦りも動揺も見受けられない。


それどころか、先程からの下卑た笑みを崩そうともしない。


「先生なら、いますよ」


「えっ!?」


「先生!」


グランが叫ぶと、木の影から男が姿を現す。


「グラン君、どうしたのかね?

 まだ、決着は付いていないようだが?」


「いやぁ、少し誤解があったようで・・・・・」


グランの言葉を聞き、先生と呼ばれた男は、シャーロットに向き直る。


「君が介入者か?

 私は、【モンダン】と申します。


 赴任したばかりなので、まだ、ご存じないかもしれないが

 一応、この学院の先生なんだよ」


見たことのない男だったが、確かに、学院の教師を示すバッジを付けていた。


「そんな・・・・・」


一刻も早く治療をしたいシャーロットだが、

立会人が現れたことで、手出しができない。


モンダンも、その様子に、思わず笑みを零した。


だが、彼の本当の姿は、ゴンドリア帝国の暗殺部隊リーダーのモンタナ。


あの日、キルードの部隊の襲撃にあったが、

モンタナは、仲間を囮にして、逃亡を成功させていたのだ。


その後は、子飼いとなっているチャコール男爵に匿ってもらい

この出来事の裏を探った。


そして、色々と探っていくうちに、

裏で動いたエンデとエブリンの事を知り、

暗殺部隊のプライドと、仲間の仇を取るためこの地に残る。


情報の中で、2人が、学院に通っていることを突き止めると

チャコールの力を使い、教師として、潜り込んでいたのだ。


そして、そこで見つけたのがエンデに恨みを持つ者、グランだ。


モンタナは言葉巧みに、エンデに恨みを抱いているグランを焚きつけて襲わせた。


モンタナの狙いは、エンデの実力を知る為だったが

その思いは裏切られた。


エンデは攻撃どころか、反撃する素振りも見せず

一方的に打ちのめされて、身動きすらしない。


──期待外れですね・・・・・・


ため息を吐くモンタナだが、『これはこれでいい』と思い直す。


警戒していた小僧を殺すことで、ガルバンに、借りが作れると考えたのだ。


モンタナは、ゴンドリア帝国でガルバンが倒されたことを知らない。


その為、計画は上手く進んでいると思っている。



途中、シャーロットという少女の邪魔が入ったが、

これはこれで、情報が得られるとほくそ笑んだ。


『私は、モンタナと申します。

 赴任したばかりなので、まだ、ご存じないかもしれないが

 一応、この学院の先生なんだよ』



姿を見せてシャーロットに告げ、この場を仕切った。


「彼はまだ、降参の意思を示していない。


 さぁ、グラン君、続けたまえ」


「はい」


グランと、その仲間たちは、再び木刀を手に持ち、エンデに近寄る。


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