第98話 学園生活 登校

オルタナ ハーベストと4人の兵士たちは、

グラウニーが連れて来た兵士たちにより、連行された。


数日後、国王の命により、沙汰が下された。


ハーベスト家は、爵位の剥奪は免れたものの、準男爵へと降格。


また、オルタナは、牢番を任命され、向こう1年間、許可の無い外出を禁じられた。


同時に、実家からも勘当され、現在は、牢番専用の兵舎で集団生活をしている。



牢番の仕事と言えば、見張りだけだと思うが、そうではない。


勿論、牢獄の見張りという仕事もあるが、

主に行うのは、地下牢獄の清掃業務である。


牢獄の清掃、拷問室の清掃、地下下水の清掃など、多岐にわたり、

その全てを、炎の灯りだけを頼りに、仕事をすることとなる。


これを1年間。


逃亡をさせない為、首輪をはめられ、強制労働を強いられる姿は

完全に、犯罪を犯した者の姿だ。


それに、ここで労働を強いられた後、まともな精神でいた者は少なく

誰もが、多少なり、精神を病んでしまう。


それがわかっているこそ、ハーベスト家は、オルタナを勘当したのだ。


当然、オルタナとともに、罰せられた4人の兵士も

罰せられることとなった。





一方、王城から、屋敷へと帰って来たエンデ達は、

久しぶりに、我が家で寛いでいた。


自室のソファーに『ドカッ』と腰を下ろすエブリン。


「今回は、長かったわね。


 当分、旅はしたくないわ」


独り言のように呟いた。


すると・・・・・・


「僕も賛成だけど、

 王様、また何か言ってこないかなぁ・・・・・・」


エブリンより先に、ソファーに座り

本を読んでいたエンデが返事をする。


「不吉な事を言わないでよ」


「うん、そうだね」




フラグの立ちそうな会話をした

その翌日。


エンデたちは、久しぶりにグルーワルド学院に行くことになった。


学院に行けば、何かと絡まれ、問題になることの多いのだが

それでも、王都に来た目的が、学院に通うことだったので

仕方なく、暇なときは、学院に通うしかない。



グルーワルド学院に向かう馬車の中で、

エブリンが、エンデに注意を促す。


「教室は、別々だから先に言っておくわ。


 何あがるかわからないけど、揉め事になったら必ず、私を呼ぶ事。


 それと、翼を出したら駄目だからね」


「うん、わかった」


笑顔で返事をするエンデに、過保護な姉は、不安しかない・・・・・


──本当に、大丈夫かしら・・・・・・


エブリンの不安を他所に、

馬車は、学院に到着した。


馬車から降り、校舎に向かう2人は、

入り口に立っている女性に目を向ける。


彼女の視線も、エンデたちを捉えていた。


エンデたちが近づくと、彼女は頭を下げる。


「始めまして、私は【ツヴァイ】と申します。


 ご案内致しますので、ついて来て下さい」


ツヴァイの案内に従い、後ろから、ついて歩くエンデとエブリン。


案内された場所は、学院長室。


ツヴァイは扉を叩いた後、部屋の中に入ると、直ぐに足を止め、振り返る。


「どうぞ中へ」


エブリン、エンデの順番で、学院長室に入る。


「やぁ、よく来てくれた。


 もう来ないのかと思ったよ」


そう言って、出迎えてくれたのは、学院長のルードル グルーワルド。


確かに、来なくても不思議ではない。


入学して直ぐに揉め事を起こして停学。


その後は、国王の命令でゴンドリア帝国へ行っていたので、

学院には、全く通っていない。


その為、改めて学院長直々に説明を受けた後、

それぞれの教室に案内された。


教師と一緒に教室に入ると、エンデに視線が集まる。


エンデの姿を見つけると、物珍しい物を見るというか、

興味津々といった表情で見ているクラスメイトたち。



だが、その中には、嫌悪感を抱きそうになる視線も混ざっていた。


「それでは、空いている席に座ってくれ」


このクラスの担任である【グラウス】の指示に従い、空いている席に座る。


すると、隣に座っていた少年が声を掛けて来た。


「初めまして、じゃあないけど、改めて自己紹介をするね。


 僕は、【サンド バール】よろしくね」


「うん、宜しく」


こうして、学院最初ともいえる1日が始まった。



その日の授業の合間、

近くに座っていた生徒達は、エンデの所に集まっていた。


だが、それとは別に、

遠くの方からエンデを睨みつけているグループがあった。


「あいつ、調子乗りやがって・・・・・」


そう呟いた彼の名は、【グラン ハーベスト】。


城でミーヤやメイド達に絡んで来たオルタナ ハーベストの弟である。



ハーベスト家が準男爵に降格したのは、

エンデ達のせいだと思っており、

恨みを抱いていた。


オルタナは、裁きが下った後

一度だけ、父親との面談と、

荷物を取る為に屋敷に戻った時、

グランは、兄であるオルタナに会っていたのだ。



父親と面談し、勘当を言い渡された後

部屋に戻ったグランは、大声で叫んだ。


『あいつのせいだ。あのガキ、絶対に許さねぇ』


その言葉と同時に、罵詈雑言と、激しい音。


その全てが、隣の部屋にいたグランにも届いており

心配になったグランは、オルタナの部屋を、訪れる。


「兄様、何かあったの?」


「ああ、グランか・・・・・・」


動きを止めたオルタナは、反省などしていない。


それどころか、脳裏に浮かんだある考えを実行することにした。



「グラン、『エンデ ヴァイス』とかいうガキを知っているか?

 多分お前と同じ年齢位だと思うのだが」


聞いたことのない名前だったので

グランは、正直に答える。


「いえ、そのような者は、知りませんが

 その者が、どうかしたのですか?」



──畜生!

  学院にはいなかったのか・・・・・・


思わず、『チッ』と舌打ちをする。


「兄様・・・・・」


「ああ・・・・・・

 お前も知る事になるだろうから、先に教えてやる。


 我が家は、つい先日、『準男爵』から『男爵』に昇格した。


 だがな、そのガキのせいで、また『準男爵』に逆戻りだ」


「え・・・・・それでは・・・・・」


「ああ、あと1年もすれば、我が家の貴族としての地位は失われる。


 なんせ、『準男爵』だからな」


オルタナは、怒りをぶつけるように机を蹴りつけた。


その後、オルタナはグランに『部屋に戻れ』と伝えた後、

何も話さなくなり、数時間後には、

表で待機していた兵士と共に、

荷物を持って自宅から出て行った。



その後、グランは、兄が出て行ったこと、

爵位が『準男爵』に戻った事について

父親に聞いてみたが、はっきりとは答えてもらえず、

ただ『お前の気にすることではない』とだけ伝えられた。



それから数日後・・・・・・


兄の言った事が気になりつつも

いつものように学院に行くと、何故か、クラスが騒がしい。


「何かあったのか?」


グランは、いつも、つるんでいる仲間の1人、【オルガ コール】に聞くと

ある答えが返ってくる。


「登校初日に、謹慎になった生徒が

 今日から、来るそうだよ」


グランも、その話は聞いているが、

その謹慎になった者の名前までは、知らなかった。


その為、今のグランには、どうでもいい話題だったのだが・・・



教師のグラウスと共に入って来た少年の自己紹介を聞き

その考えが、一変する。


「エンデ ヴァイスです。


 宜しくお願いします」


名前を聞き、思わずエンデの方に顔を向けるグラン。


「あいつが・・・・・・・」


兄との会話で出て来た名前、忘れるわけがない。


──あいつのせいで・・・・・・

  絶対許さない・・・・・・・


グランは、密かに復讐を誓った。


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