第97話幕間というべき王城での一幕

エンデ達が、謁見の間で、

国王ゴーレン アンドリウスと面談をしている最中のこと。


メイドのアラーナ達と一緒に、皆を待っているミーヤ。


「ご一緒しなくて良かったのですか?」


そう問いかけて来たのは、アラーナ。


ミーヤは、寂しそな笑顔を見せる。


「うん、私、亜人だから・・・・・」


アラーナは、その言葉の意味を理解する。


この国では、亜人差別は、無いに等しいが、

個人で嫌っている者はいる。



万が一、そのような思考の持ち主が

国王ゴーレン アンドリウスの近くにいれば、

エンデたちに迷惑が掛かってしまう。


その事を考慮してミーヤは、同行しなかったのだ。


そんなミーヤを、この場所に1人で置いておくわけにはいかず

アラーナ達も一緒に、馬車の傍で待機していると

5人の兵士が近づいてくる。


「おい!そこのお前たち。


 ここで何をしているんだ!?」


5人の中で、1人だけ立派な鎧を纏った兵士が詰め寄って来る。


その男は、品定めするように、1人ずつ、見てまわっていたが

ミーヤの所で、視線を止めた。


「亜人か・・・・・

 お前たちは、何処の者だ!」


「私たちは、ヴァイス家の者です。


 本日は、お嬢様方と共に参りました」


「ヴァイス家だと・・・・・・」


アラーナの言葉に、立派な鎧を纏った兵士は、一瞬躊躇した。


ここは、城の塀の内側にあるが、下働きの者も来る、馬房の前。


メイドは別にしても、身なりから、ミーヤを下僕だと思い

立派な鎧を纏った兵士は、ミーヤを舐め回すような目つきで見る。


「確かに、貴様らメイドは、ヴァイス家の者かもしれんが

 この亜人は、別だ。


 ヴァイス家、亜人がいるなど、聞いたことがないぞ。


 もしかして、貴様らは、脅されているのか?」


立派な鎧を纏った兵士は、訳のわからないことを言い出した。


「確かに、今までは、当屋敷に、亜人はおりませんでしたが

 この度、新たに、雇う事になった者ですので

 間違いなく、彼女は、ヴァイス家の関係者です」


アラーナの言葉に、立派な鎧を纏った兵士は

一瞬躊躇するが、すぐに気を取り直した。


「それが、本当なら、この私の質問に答えることが出来る筈。


 貴様らメイドは、黙って見ておれ、

 決して、口をはさむなよ」


立派な鎧を纏った兵士は、ミーヤの前に立つ。


──2,3問、問い質せば、必ず答えられない事がある筈だ・・・・・


立派な鎧を纏った兵士は、口角があげた後、口を開く。


 「ヴァイス家、御当主の名を答えよ」


立派な鎧を纏った兵士は、手始めに、簡単な問題を出したつもりだったが

ミーヤは、答えることが出来ない。


「なんだ、下僕でも答えることが出来る事だぞ」


背後に控えていた兵士達も、思わず、下卑た笑みを見せた。


立派な鎧を纏った兵士は、ミーヤの腕を取ると、

馬房の奥に連れて行こうとする。


「直々に、調べてやる。


 こっちにこい!」


立派な鎧を纏った兵士は、強引に手を引くが

アラーナが、それを許す筈が無い。


「お止めください」


兵士の腕を掴み、ミーヤを引き離そうとするアラーナ。


「貴様、メイドの分際で、この俺の邪魔をするのか!


 いいか、これは取り調べだ。


 邪魔をするなら、ただでは済まさぬぞ」


兵士は、脅し文句を口にするが、アラーナが怯むことはない。


「『ただでは、済まさぬ』ですか・・・・・

 構いません。


 この方を守らなければ、後から、お嬢様に叱られますので」


そう言うと、アラーナは、腕を掴んでいる手に力を込める。


「がぁぁぁぁぁぁ・・・・・い、痛ェェェェェ!!!」



あまりの痛みに、ミーヤを掴んでいた手を離すと、

すかさず、今まで黙って見ていたエリアルが、ミーヤを兵士から遠ざけた。


離れたことを確認すると、アラーナも兵士を掴んでいた手を離す。


解放された兵士は、顔を真っ赤にしてアラーナを睨む。



「貴様は、ただでは済まさぬ。


 おれは、ハーベスト男爵家の次期当主

 【オルタナ ハーベスト】だ。


 平民風情が、貴族に逆らうとどうなるのか、その身で味わうがよい」


オルタナは、感情に任せ、剣を抜く。


それに合わせて、残りの4人も剣を抜き、

アラーナたちを取り囲もうとした。



普通のメイドなら、この時点で、恐怖に震えるところかもしれないが、

アラーナもエリアルも、ただのメイドではない。


戦闘にも長けていないと、働くことの許されないヴァイス家のメイドなのだ。


ミーヤを背中に庇うように、一歩前に出るアラーナとエリアル。


「『ただで済まさぬ』ですか・・・・・・」


溜息を吐くアラーナ。



「そういえば、王都では、貴族が減った為に、

 貴族に成りあがった者や、 爵位が上がった貴族がいましたね。


 もしかして、貴方のご実家もそのたぐいでしょうか?」


「貴様・・・・・馬鹿にしているのか・・・・・」


先程以上に、顔を赤くするオルタナ。


それに対し、表情を変えることなくアラーナは答える。


「馬鹿になど、しておりません。


 ただ、長年ヴァイス家にお使いさせて頂いておりますが、

 『ハーベスト』とかいう名の貴族を、

 聞いたことが無かったものですので

 改めて、お伺いさせて頂いたまでです」


「貴様、メイドの分際で、何処までも我が一族を馬鹿にしおって・・・・・

 絶対に許さん」



ハーベスト家は、元々『準男爵』だった。


準男爵とは、国に対して、何らかの成果を上げた時、

褒美を渡す代わりに与えられる称号なのだ。


その為、国からの報奨金や、金銭の配布は一切ない。


名ばかりの貴族である。


しかも、期限付き。


だが、ハーベスト家は運が良かった。


一部の貴族が、ゴンドリア帝国と繋がっていた為、

地位や財産を没収された。


そこで、空席となった貴族の爵位を埋める為に、

準男爵家の中で、国への貢献度の高い者たちに、新しい爵位を与えたのだ。


こうして、ハーベスト家は『準男爵』から『男爵』に成り上がったのだが、

それは、オルタナの実力ではなく、

父親である【ススート ハーベスト】の努力の賜物なのだ。


その事を理解していないのか、それとも馬鹿なのか、

腹に据えかねたオルタナは、剣を上段に構えて突進して来る。


「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」


素人丸出しの剣技。


アラーナは、いとも簡単に剣を躱す。


すると、オルタナは、自らの勢いに耐え切れず、豪快に転んだ。


「えっ!?」


その様子を、呆然と見ているだけの4人。


剣を杖代わりにして立ち上がったオルタナは、

見ているだけだった4人に、命令を出す。


「貴様ら、何をしている!

 こいつらを殺せ!」


「お、おう!」


4人は、一斉に襲い掛かる。


剣の腕は、オルタナよりも立つようで、

アラーナたちは、応戦することになった。


素手では分が悪いと判断したアラーナとエリアル。


スカートの下に忍ばせていた短剣を手に取った。


4人の攻撃を2人で対応していると、復活したオルタナが

またしても、アラーナに襲い掛かる。


だが、結果は変わらなかった。


再び剣を躱すと、故意的に足を引っかけてオルタナを転ばせる。


何度襲い掛かっても、足を引っかけられてアラーナに転がされるオルタナ。


無様以外言いようのない有様に、ミーヤは、思わず笑ってしまった。


その様子を見てしまったオルタナは、ターゲットをミーヤに変更した。


「この、亜人風情が・・・・・・」


睨みつけるオルタナだが、

何度もアラーナに転ばされたせいで、迫力の欠片も残っていない。


それどころか、転ばされる前振りのようにも思えた。


ミーヤに襲い掛かろうと剣を振り上げた瞬間、

突如、風が吹き、その剣が折れる。


「えっ!?」


思わず、立ち止まるオルタナ。


そこに聞こえてくる声。


「あんたたち、何をしているの。


 この子たちに手を出して、ただで済むと思っていないでしょうね」


「エブリン様!」


アラーナの声に、皆の動きが止まる。


エブリンの横には、エンデとグラウニー。


その後ろに、大勢の兵士の姿もある。


5人の兵士が、アラーナたちに詰め寄った時、

エンデたちの事を知っていた下働きの男が、一大事だと思い、

急いで、知らせていたのだ。



そして、現場に到着した時に、エンデが見たのは、

アラーナ達に襲いかかるオルタナの姿だった。


オルタナの剣を折ったのは、エンデの魔法。


『首を落とす』と言っていたエンデだったが、

エブリンに止められ、仕方なく、剣にしたのだ。


「2人とも、この場は、儂に任せてくれ」


グラウニーは、2人に、そう伝えるとオルタナに話しかける。




「お前は、ハーベスト男爵家の者だな」


宰相の登場に、慌てて武器を下げる。


「はい、私は、オルタナ ハーベストで御座います」



「そうか、では問おう。


 お前は、ここで何をしておる?」


「その・・・・・」


返す言葉が無い。


オルタナたちがここに来た理由は、訓練をさぼる為。



「聞くまでもないようだな。


 お前の行いで、全てが無かったことになる。


 その言葉の意味を、理解しろ」


宰相であるグラウニーの言葉は重い。


『全てが無かったことになる』


その意味を、オルタナは、後に知る事になる。


オルタナたちが連行された後、アラーナたちのもとに駆け寄るエブリンたち。


「怪我はない?

 大丈夫?」


「はい、問題ありません。

 あのような輩に、遅れは取りませんので」


何事も無かったかのように答えたアラーナ。


安堵の表情を見せるグラウニー。



「怪我がなくて良かった。


 そんな事になれば・・・・・・」


グラウニーの視線の先にはエンデ。


「確かにね。


 報告を聞いた時も、飛び出して行きそうだったから

 抑える方が大変だったわ」


エブリンもそう言って、溜息を吐いた。

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