第96話 王都帰還


メイド達やミーヤも加わったエンデ達は、

砦での滞在を終え、王都を目指していた。


しかし、その道中、メビウスの駐屯地に立ち寄った時

この度の出来事について、

詳しく話を聞きたいとの要望があり

一泊することにした。


その日の夕食後・・・・・


エンデが、帝国での出来事などを話し終えると

ゴンドリアの使者が、目の前にいるにも拘らず、

メビウスが豪快に笑う。



「あの厄介だった砦が、我が領地になるとは・・・・・

 わはははは・・・・・これ以上嬉しい事はないわ!」


そして、一息吐くと、直ぐに、この場に部下を呼びつけた。


「失礼致します。


 メビウス様、お呼びでしょうか?」


「おう、明日一番で、この砦を放棄し、ゴンドリアの砦に向かうぞ。


 早速、準備に取り掛かれ」


「畏まりました」



兵士が出て行くと、エンデは、メビウスに伝える。


「あの・・・・・ガリウスも、行くつもりだよね」


「当然だろ!」


「ぬ・・・・・やはり、考える事は同じか、

 まぁ、どのみち連れて行くつもりだったから、構わぬ」


「感謝するぜ、親父殿」


話を聞き終え、満足したメビウス達は、

使者の案内を、兵士に任せ

自身は、寝所へと戻って行った。



そして、その翌日・・・


エンデ達を見送るメビウスとガリウスの姿があった。


「小僧、また会おう!」


「色々、お世話になりました」


「ああ、気にするな。


 それよりも、儂らは、当分王都には帰らぬ。

 そのことだけは、しっかりと伝えておいてくれ」


「わかったけど、帰らなくて大丈夫なの?」


「問題ない。


 頼んだぞ」


「わかった」


エンデは、会話を終えると

使者達と共に、王都へと旅立つ。



その後、エンデ達を見送ったメビウス軍も、

砦に向かって、出発した。






その数日後・・・・・・


エンデたちは、王都の壁が見えるところまで戻って来ていた。


長い期間、離れていた事もあり、少し懐かしく感じるエンデ。


「やっと帰って来れたね」


「ええ、当分は、王都でゆっくりと過ごしたいわね」


エブリンの言葉に、エンデもダバンも頷く。


だが、その願いは叶いそうになかった。


門の手前から、大勢の兵士が隊列を組み、待機している姿が見てとれた。


「ねぇ、あれって・・・・・・」


「聞かないで、嫌な予感しかしないから」


エブリンも顔を背けたくなる光景の中に、

この国の宰相でもあり、叔父でもあるグラウニー マルコールの姿もある。


「叔父様もいるのね・・・・・」


『ハァ~』と溜息を吐くエブリン。


「ねぇ、僕たち帰っちゃダメかな?」


「ダメに決まっているわよ。


 この後、陛下に、報告に行かされることになるわ」


それを聞き、心なしか、エンデとダバンの表情も暗い。


エンデは、面倒臭いという思いからだが、ダバンは違う。


サーシャが待っているからなのだ。


サーシャの片思いだが、

ダバンが来ると知って、彼女が何もしないわけが無い。


必ず、会いに来ることはわかっている。


その事を考えると、尻尾の付け根の部分がむず痒くなる。


主であるエンデに相談しようにも、内容が内容だけに無理。


エンデでは、対応できない事はダバンも理解している。


だからと言って、エブリンには、相談しづらい。


──諦めるしかなさそうだな・・・・・・


そんな事を考えている内に、入り口の門に辿り着く。


多くの兵士に見守られている中、馬車を止めたエンデは

荷台から飛び降りる。


それに、続くようにエブリンとダバンが降りて来た。


そして、最後に、ゴンドリア帝国の使者が姿を見せる。


皆が、馬車から降りると

グラウニーが、馬車に近づき、声を掛けた。


「お前たち、ご苦労だったな」


エンデたちに労いの言葉を掛けた後、ゴンドリア帝国の使者と向き合う。


ゴンドリア帝国の使者は、グラウニーの正面で足を止め、頭を下げる。



「この度の件について、まずは、謝罪を申し上げる。


 私は、ゴンドリア帝国で、公爵の地位を賜っております


 【ウルスナー ゴンドリア】と申します」


『ウルスナー ゴンドリア』

ゴンドリア帝国、国王サンボーム ゴンドリアの血を分けた本当の弟である。



「宰相のグラウニー マルコールと申します。


 国王陛下がお待ちですので、先ずは、こちらへ」



使者達は、王都内に、用意されている馬車に乗り換えると、

グラウニーと共に、城へと向かう。


当然、エンデ達も一緒だ。



城に到着すると、その足で国王の待つ謁見の間へと案内されたが

城の中は、いつもと違い武装した兵士たちが、

壁に沿うように並んでいた。


「なんか、凄いね」


「シッ!

 静かにしなさい」


相変わらず緊張をしないエンデの態度に、

グラウニーは、咳ばらいをし、注意を促す。


「ごめんなさい・・・・・」


エブリンとグラウニーに監視されながら

廊下を進んでいると、謁見の間の前に辿り着く。




扉の前には、普段と違い、装飾を施した鎧を纏った兵士が2人待機している。


その2人が、グラウニーの合図に従い、扉に手を掛けた。


開いた扉の先の景色も、いつもとは違い

左右に並ぶ、貴族達も、普段よりも豪華な装飾を施した服を

身に纏っている。


グラウニーを先頭に、

国王の鎮座する玉座の前まで続くように

敷かれた赤い絨毯の上を進む。


その後ろから、ゴンドリア帝国の使者、ウルスナーが続いた。


グラウニーは、とある位置で足を止めると跪く。



「陛下、ゴンドリア帝国から、使者が参っております」


グラウニーは、意図して、エンデ達の事には触れず、

使者が来ていることだけを告げると

グラウニーに続き、同じように跪いていたウルスナーが挨拶を始めた。


「お初にお目にかかりますゴーレン アンドリウス国王陛下。


 私は、ゴンドリア帝国、国王、サンボーム ゴンドリアの弟で、

 侯爵の地位を賜っておりますウルスナー ゴンドリアと申します。


 この度は、貴国に多大なる迷惑をかけたことを、謝罪する為に参りました」


「うむ、おもてをあげよ」



こうして始まったゴンドリア帝国との面談。


ウルスナーは、今回の経緯の報告をし、

幾らかの賠償を支払い、手打ちにしたいと考えている。


現状、今、アンドリウス王国に、兵を向けられたら、敗北は必至。


兵団は壊滅に追い込まれ、

国に使えていた魔法士団長もアンデットにされた。


残っているのは、他方面へと遠征に出ている魔法士団だけ。


そんな状況で勝てるはずがない。



確かに、国中から、かき集めれば兵士は、まだ数万といる。


しかし、それらは、街や村、国境の警備に配置している者たちだ。


そんな彼らを、王都へ、呼び戻すわけにはいかない。


もし、そんな事をすれば、街や村、国境の警備が無くなり、

今度は国が滅んでしまうだろう。


それが、わかっているからこそ、

ウルスナーは、この場で全てを片付けたいと願っているのだ。


全ての話を聞き終えた国王ゴーレン アンドリウスが

口を開く。


「貴殿の話を聞く限りでは、此度の一件は、

 貴国の宰相の独断だったと申したいのだな」


「はい、左様でございます。


 その証拠に、我が国の第2王子、コルコッド様が、

 ガルバンに人質にされている所を

 貴殿の国のエンデ殿により、助け出された事が、何よりの証拠です」


『???』


突然、話を振られて驚くエンデ。


国王ゴーレン アンドリウスの視線が、エンデへと向く。


「エンデよ、それは真か?」


「はい。


 とある塔にて、人質に、されておりましたので、

 救助いたしました」


「そうか・・・」


国王ゴーレン アンドリウスの視線は、再びウルスナーへと戻る。


「貴殿の言葉に、嘘偽りはないと判断した。


 だが、此度の件で、我が領地にも甚大な被害が出ている。


 それは、どう考えておる?」


賠償を求めて来た。


ウルスナーにとっては、有難い事だ。


相当、高額でなければ、ウルスナーは、受け入れるつもりでいる。


「その事に関してですが、出来る限りの誠意をもって、応える所存です」


「そうか、ならば後の事は、グラウニーと話すがよい」


「感謝致します」


こうして、面談を終えたウルスナーは、

城内で与えられた部屋で、一息ついていた。


──今日の所は、問題なく進んだ・・・・・・

  だが、本番は、明日からだ・・・・・

  

再び、気を引き締めなおしたウルスナーだったが

思った以上に、疲れていたのか、知らぬ間に眠ってしまった。



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