第93話 王都騒乱 黒幕ガルバン

左手で掴まれた土の精霊は、そのまま吸収されて消えた。


「・・・・・何をしたの?」


「消したんだよ」


──やっぱり、無理だったんだ・・・でも、ホルストだけは・・・・・


勝ち目のない事を悟った炎の精霊は、エンデに突撃する。


「ホルスト、今のうちに逃げて!」


炎の精霊の狙いは、ホルストを逃がすだけの時間を作る事。


その思いから、玉砕覚悟の手を打ったのだ。


全身に炎を纏い、魔力を全開にしてエンデに迫る。


「ホルスト、元気でね・・・・・・」


その言葉を最後に、炎の精霊は、エンデに衝突した瞬間

大爆発を起こした。


爆発が収まった時、

城の屋根も、吹き飛んでおり、外の景色が見えていた。


だが、謁見の間には、未だ、煙が立ち込めており

お互いの姿は、見えない。


そんな中、逃げる事も忘れ、その場に立ち尽くしている。


「どうして、こんな・・・・・」


四精霊を失ったホルストの目から、

自然と涙がこぼれる。


「皆を失って、勝てても・・・・・嬉しくないよ」


感傷に浸っていたホルストだったが

煙の隙間から、見えたあるものによって

現実に、引き戻された。


「ど、どういうこと・・・・・?」


「どういうこともないよ。


 確かに、危なかったけど、それだけだよ」


ホルストの目の前には、擦り傷程度の傷しか負っていない

エンデの姿があったが

その傷も右手から放たれた淡い光によって癒され

今は、無傷の状態へと戻っている。


「こ、こんなこと、有り得ない!!!」


ホルストは、唇を噛みしめると

握っていた剣に、魔力を込め、エンデに向かって走り出す。


「お前は、絶対に、許さない!

 あの子たちの仇をとる」


残っていた魔力のすべてを剣に込めたホルストが

上段に構え、一気に加速する。


そして、エンデを正面に捉えると

剣を、振り下ろした。


「悪魔よ、消え失せろぉぉぉぉぉ!!!」


ホルストは、渾身の力を込めて

振り下ろした。


だが、その剣は、エンデに届かなかった。


『グフッ!』


血を吐き、倒れるホルスト。


その体には、無数の光の剣が、突き刺さっていた。


「僕の方が、早かったね」


エンデが使ったのは、光の魔法。


一瞬のうちに、無数の光の剣を浮かび上がらせたエンデは、

その全てを、ホルストに向けて、放っていたのだ。


「みんな・・・ごめん・・・」


この言葉を最後に、ホルストが、息を引き取ると

エンデは、迷いなく、ホルストの魂を吸収する。


「さてと・・・・・」



謁見の間を後にしたエンデは、城の奥へと歩を進めた。


途中で、生き残っていた兵士達と遭遇したが

エンデは、容赦なく屠る。


そうしていると、とうとう、国王一家の軟禁されている部屋へと辿り着いた。


その途端、扉の前にいた兵士が、襲い掛かってきたが、

エンデは、遠慮なく屠り、部屋の扉を開ける。



すると、部屋の中で

待機していたメイド長のマリーゼが、

短剣を手に、エンデに襲い掛かった。


だが、そんな攻撃が当たる筈もなく

エンデは、その攻撃をいとも容易く交わすと

マリーゼの首を落とした。


床に転がるマリーゼの首。


『ひぃ!』という叫び声を上げるメイド達だが、

王家の人々は、表情一つ変えない。


緊張感が漂う中、

王妃のシルーゼが立ち上がる。


「貴方が、襲撃者ですか?」


「襲撃者?

 なんか、酷い言われようだね。


 最初に、襲ってきたのは、そっちでしょ。


 僕達は、その責任を取ってもらう為に、仕返しに来ただけだよ」




「仕返し?

 それは、どういうことですか?」



「『どういう事?』って、僕はアンドリウス王国のエンデ ヴァイス。


 この国が、僕たちの国に、攻撃を掛けて来たから、

 仕返しに、来たんだけど・・・・・」


シルーゼには、それを指示した男の顔が浮かんだ。


──この騒動は、ガルバンの仕業でしたか・・・・・・


ようやく理解したシルーゼは、頭を下げる。


「申し訳御座いません。


 信じて頂けないかも知れませんが、この国の王家は、力を失っており

 全ての権力は、宰相のガルバンが、握っております」


「じゃぁ、その人が、犯人だと、いうんだね」


「恥ずかしながら、仰る通りです」


「わかった。

 

 それで、そのガルバンとかいう人は

 今、何処にいるの?」


あまりにも素直に、聞き入れたことに、

シルーゼは驚きを隠せず、

思わず問い掛ける。


「私が言うのも、おかしな話ですが

 疑わないのですか?」


エンデは、考えるような素振りを見せた後

答える。


「嘘だったら、その時は、その時だよ。


 それに、そう言う事は、お姉ちゃんのほうが得意だから。


 取り敢えず、僕は、そのガルバンを追うよ」



「わかりました。


 ガルバンは、転移装置のある、あの塔にいます」


シルーゼは、転移装置のある塔に向けて、ゆびを指す。


「わかった。


 じゃぁ行くよ」


エンデは、その場から立ち去ろうとしたが

突然、足を止め、振り返る。




「シルーゼさんの言ったことが本当なら、

 今すぐ、戦闘を止めて、

 城の入り口にいる僕のお姉ちゃん達を迎えに行ってよ。


 それで、この部屋で一緒に待っていて」


エンデは、それだけ伝えると、部屋を後にした。


エンデが、出て行った後、

シルーゼは、直ぐに、メイドを、城の入り口へと向かわせると同時に

生き残っている者達に、戦闘の中止を伝えるように、指示を出した。




その頃、エンデは、通路の窓から飛び出し、

空から、転移の塔へと向かっていた。


そして、転移の塔の屋根に飛び降りると、

左手を屋根に当てた。


『崩壊』


その言葉に従い、屋根が崩れ去り、

最上階の部屋の中に、瓦礫が降り注ぐ。


「ぐわぁぁぁぁぁ!」


部屋の中から響く声。


崩壊が止まると同時に、エンデが部屋の中に降り立つ。


そこには、瓦礫に足を挟まれ、身動きの取れなくなったガルバンと

部屋の隅で震えているコルコッドの姿があった。


「ガルバンは、どっち?」


エンデの問いに答えたのはガルバン。


「あ、あいつだ!

 あいつがガルバンだ!」


ガルバンは、コルコッドを『ガルバン』に仕立てようとしたが

コルコッドが、慌てて首を振る。


「ぼ、僕は、コルコッド ゴンドリアです。


 宰相のガルバンは、あの人です」


コルコッドの言葉に、手元にあった石を投げる。


「このガキ、嘘を吐くな!

 貴様がガルバンだ!

 おい、小僧、騙されるな!」


コルコッドに文句を言った後、エンデに命令するガルバンだが、

その物言いから、明らかにガルバンは、誰かという事がわかる。


「おじさんが、ガルバンだね」


「ち、違う!

 私は、ガルバンでない!」


いまだ認めようとはしないガルバンに、エンデが告げる。


「わかった。


 面倒だから、2人とも殺すよ」


エンデの言葉に、ガルバンは騒ぎ出す。


「貴様、ふざけるな!

 この私を殺すだと・・・・・


 いいか、よく聞け、

 この国には、最強の魔法士団長がいる。 


 彼女が来れば、貴様は、おしまいだ!」



悪足掻きともとれるその言葉を聞き、

エンデは、とある者を召還する。


「出ておいでよ」


その言葉に従い、黒い霧の中から姿を現した者を見て

愕然とするガルバン。


「・・・・・ホルスト魔法士団長?」


「正解。


 今は、僕のアンデットだよ」


エンデは、ホルストの過去の記憶も、意識も残したままにしており

今までと、何の変りもない。


ただ、以前と違うのは、アンデットということと

エンデが主になったということだけだ。


「・・・・・ガルバン」


ホルストの言葉を聞き、エンデが『ニヤリ』と笑う。


「やっぱり、おじさんがガルバンなんだね」


「ぐ・・・・・・」


エンデが、剣先をガルバンに向ける。


「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」


その場から、必死に逃げようとするが

足が、瓦礫に挟まれている為

それも、叶わない。


逃げることも叶わないことを自覚すると

ガルバンは、急に態度を変えた。


「わ、わかった。


 大人しく、捕まろう。

 

 逃げも隠れもしない。


 素直に、罪を認め、裁きを受けることを誓おう」


態度を変えてまで、裁きを受けると言い放つガルバンには、

ある考えがあった。


裁判を受ける場合、必ず、教会関係者が出席する。


そうなれば、

表向き、罪を問われても

実際は、何のお咎めも受けなくて済む可能性が高い。


ガルバンは、それに賭けたのだ。


「おい、 私は、裁きを受けると言っているんだ。


 早くこの瓦礫を除けてくれ」


打って変わった態度を見せるガルバンに

エンデは、一度も返事をしていない。


そのことに、疑問を持ちながらも、

ガルバンは、再び声を掛ける。


「おい・・・・・聞いているのか?」


そう問いかけた瞬間、ガルバンの首が落ちる。


「五月蠅いなぁ、

 どうせ、何か企んでいたんでしょ。


 それがわかっていて、言う事なんて

 聞く筈がないよ」


ガルバンを、あっさりと始末したエンデは

コルコッドに、手を差し伸べる。


「みんなの所へ、戻ろうか」


その言葉を聞き、

怯えながらも、コルコッドが、エンデの手を取ると

ホルストも引き連れて、王家の者達が待つ部屋へと向かった。





 


 





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