第94話 王都騒乱 王家との会談

エンデは、コルコッドとホルストを連れて

王家の者達が監禁されていた部屋へと戻ると


そこには、エブリンとダバンの姿もあった。


「エンデ、無事だったのね」


エンデの顔を見て、安堵するエブリン。


「うん、それより、なんか、ややこしい事になっているんだけど・・・・・」



「知ってる。


 この国の状況でしょ。


 詳しいことは、シルーゼ王妃から聞いたわ」


エブリンの言葉を聞き、

『ほっ』とした表情を見せるエンデ。


「じゃぁ、後は大丈夫だね」


「なにが、『大丈夫だね』よ・・・・・

 面倒な事ばかり押し付けて・・・・・」



エンデを睨むエブリンだが、本気で怒っていない事は、エンデにはわかっている。


「お姉ちゃんに任せれば、全部解決するって、信じているから」


「全幅の信頼、ありがと。

 

 でも、任せっきりはダメだからね。


 ちゃんと、手伝ってもらうわよ」


「うん!」


エンデの言葉を受け、エブリンは、今回の騒動の解決に向けて動き出す。



エブリンが最初におこなったのは、皇帝の病状の回復。


毒を飲まされ、意識が混沌とした状態だったが、

エンデの魔法により、元気な状態へと回復させた。




そして、起き上がることが出来るようになった国王にも参加してもらい、

今後の事について話し合う。




「この度は、貴殿の国に多大な迷惑をかけたことを、まずは謝罪する」


会議の冒頭、皇帝サンボームは、頭を下げた。


「それから、この国を救ってくれたこと、改めて御礼申し上げる」



国王が謝罪と御礼を述べてから始まった会議。



エブリンが考えた、今回の騒動を終わらせるための条件は、以下の通り・・・・・。




『1、被害を被った町や村への賠償。


 2、兵の出動、それにより掛かった出費の補填。


 3、アンドリウス王国へ使者を送り、国王の御前での直々の謝罪。


 4、今後5年間の不可侵条約。



 この4つを骨子案として、

 改めて、国同士で、会議の場を持ち、

 宰相、もしくはそれに見合う者と話し合いをする事。』



ゴンドリア帝国にとって、兵団長を始め、魔法士団長や、

一部の貴族を失っている現状をかんがみると、

ここでの停戦は、悪いことではない。


それに、この帝国を、私物化しようとしていたガルバンを

倒してくれたという恩もある。


その為、皇帝サンボームは、この条件を飲んだ。


「早急に、使者を送り、

 この度の騒動についての説明と謝罪をおこなうことを約束しよう」


「それは、有難いお話ですわ。


 ですが、今までの事を考えると、

 誤解を招く恐れもありますので、

 私も、一筆書かせていただきます」


「おお、そうか!

 それは、有難い」


エブリンの発言を受け、皇帝サンボームは、感謝の意を言葉にした。


だが、エブリンの横に座っているエンデは、

この先の展開を考え、頬が引き攣る。


──絶対、これ、叔父さんに任せるつもりだ・・・・・


エンデが、グラウニーの頭を抱える姿を思い浮かべている間にも

会議は進んでおり、話は、アンドリウス王国に送り込まれている

刺客にも及んだ。


「その事に関してだが、申し訳ないが

 我らも顔を知らぬのだ。


 奴らは、ガルバンの子飼なのだろう、

 城にも来たことが無いし、会った事も無いのだ。


 何も、答えることが出来ず、本当に申し訳ない」


そう答えた皇帝サンボームだったが、少し間を置いた後

再び口を開く。


 「これは、私の憶測でしかないのだが

 関係しているとしたら・・・・・教会だ」


「教会?」


 「ああ、ガルバンの後ろ盾は、教会なのだ。


 これは、何処の国にも、言えることなのだが

 教会には、良い噂もあるが、悪い噂もある。


だが、この国の場合は、 違う。


悪い噂を聞かぬのだ。


しかし、そんなことは、普通有り得ない。


教会に行き、神に縋ってみたが、何も起こらず、

身内が死ねば、誰だって、文句の一つも言いたくなるだろう。


ましてや、難病にかかり、教会にお願いに行ったが

金が無いことを理由に、門前払いを食らったりしたら、どうなる?


その者が、普段から、真っ当に生き、教会にも足繫く通っていたのなら

それを見た者達は、普段から、お布施もしていたのに

いざというときに、『金が無いことを理由に断るなんて』と思い

口々に、囃し立てるだろう。


だが、そんな噂も、この国では、直ぐに消え、誰も口にしなくなるのだ。


「それって、おかしいわ」


「ああ、その通りだ。


 その噂を、誰かが、口に出来なくしているのだろうと想像がつく」


「では、その口封じを・・・」


「多分、エブリン殿の想像で、間違っておらぬ。


 だが、証拠がない」


「それなら、その者たちを吐かせれば・・・」


「それも、無駄だ。


その者達が、口を割ったとしても、

『盗賊や強盗風情の戯言を信じ、教会を敵に回すのか!?』

と言われれば、それまでだ。


教会は、それ程の力を、持っているのだ」


皇帝サンボームの話を聞き、

このまま教会に乗り込むということは、無駄だと知り

エンデ達は、一旦、引くことにした。



その後も、話は続き、エンデ達が国に帰る際に

使者も同行することが決まり、会議は、終わった。



こうして、皇帝との会議を終え、部屋から出て行こうとした時

シルーゼに声を掛けられる。


「エブリン様、あと少し、お時間を頂けますか?」


「あっ、はい」


この会議の場には、王家全員が出席していたが

皇帝以外からの発言はなく、傍観者と化していた

シルーゼの呼びかけに、

エブリンは、引き留められた理由がわからない。


しかし、意を決したかのような表情を見て、

足を止めたのだ。


「それで、どんなご用でしょうか?」


問いかけるエブリンに対して、シルーゼが、『お願い』を口にする。


「ホルストの事なのですが・・・・・」


エンデに召喚されてから、ずっとエンデの後をついて来ており、

今も、この話し合いの場にいた。


また、会議が始まる前には、王家の者たちと普通に会話をしており

その時に、アンデットになったことも、話したようだ。


それでも、王家からの信頼は厚いようで、

シルーゼが口にしたのは・・・。


「ホルストを、この国に残していただくわけには、まいりませんでしょうか?」


「アンデットだよ?」


エンデの言葉にも、シルーゼは、問題ないとばかりに即答する。


「勿論わかっています。


 ですが、意識もはっきりしているので、問題ないかと思っております」


エンデは、ホルストと向き合う。


「ここに残る?

 残ったとしても、アンデットだから、いつかは朽ち果てるよ」


ホルストに迷いはない。


「叶うのならば、朽ち果てるその時まで、

 このゴンドリアに忠誠を尽くしたいと思います」


「・・・わかった」


エンデは、ホルストの覚悟を受け取ると、

右手をホルストに向け、魔法を使う。


『エバポレーション』


その言葉通り、右手から放たれた光は、

ホルストの体から残っていた水分を抜いた。


そして、ホルストをミイラ化させた後

腐食を防ぐ魔法を使う。


『プリベント コロージョン』


これで、腐敗は防げる。


だが、まだ終わらない。


ホルストを、元の姿に戻す必要があるのだ。


『リ、ストア』


エンデの言葉に従い、

ホルストは、生前の体へと変貌を遂げた。


「これで、もう、腐ることも、朽ち果てることも無くなったけど

 1つだけ、どうしても必要なことがあるんだ」


「それは?」


「血肉」


「!!!」


「今のホルストの状態は、アンデットでも、グールに近い。


 その為、生きていくには、食事となる血肉が、

 どうしても、必要なんだ」


シルーゼが、恐る恐る質問をする。


「そ、それは、人肉という事でしょうか?」


「まぁ、それが一番だけど、

 獣でも、十分だよ」


「わかりました。


 有難う御座います。


 それならば、用意できますので、問題は御座いません」


「シルーゼ・・・」


ホルストは、エンデに跪いた。


「わがままを、聞き入れてくださり、感謝申し上げます。


 それから、先達せんだってのご無礼を、改めて、お詫び申し上げる」


「もういいよ、こっちも殺しちゃったしね」


エンデとの会話を終えたホルストは、新たな体の様子を調べる為

軽く動いてみると、

以前よりも、体が軽くなり、動きやすくなっていることに気付く。


「これは!!

 エンデ殿、感謝致します」


頭を下げるホルストに、エンデは告げる。


「この国に残っても、僕に逆らう事は出来ないからね」


「はい、その気も、そのつもりもありません」


ホルストが、この国に残る事が決まり、

シルーゼを筆頭に、王家の者たちは喜んだ。



戦いから2日後、王家の使者と共に、

エンデたちは、用意された2台の馬車の内の1台に乗り込み

アンドリウス王国に向けて、帰路に立つ。


王城を出た後の街並みに、変化はない。


だが、視線の先に見える教会が、黒幕なら

この先、何か仕掛けてくる筈。


まだまだ油断できる状態ではないことを自覚しながら

ゴンドリア帝国の帝都から離れた。




帰路の旅は順調に進み、

廃墟と化し、誰もいなくなったはずの砦に近づくと、

兵士の姿が見えた。


「ねぇ、あれ・・・・・」


エブリンが指を差したのは、砦に掲げられている旗。


旗が、アンドリウス王国のものだと気が付いたのだ。


「もしかして・・・・・・」


エンデと顔を見合わせるエブリン。


エンデも旗を見て、この砦を制圧しているのが、

アンドリウス王国の者たちだと理解する。


馬車をゆっくりと砦に近づけると、多くの兵士が集まって来た。


「止まれ!」


両手を上げ、道を塞ぐ。


ゴンドリアで雇われた御者は、言われた通り馬車を止めた。


「この先は、アンドリウス王国の領地となる。


 お前たちは、何処に向かっているのだ?」


敵国の人間だからか、

兵士の態度は、威圧的なものだったが

エブリンが顔を覗かせると、兵士の態度が一変する。


「エブリン様?」


「そうよ、何処かであったかしら?」


「はい、私は、マリウル様の部下で、【コルネオ】と申します。


 以前、この先の街で、お見掛けいたしましたので」


「そう、なら丁度良かったわ。


 マリウルに話があるから、そこを通して頂けるかしら」


 「畏まりました」


コルネオは言われた通り、兵士たちは道を開けさせ、

2台の馬車を砦に中へと招いた。


指定された場所に馬車を止め、御者を残して、皆が降りる。


エブリン、エンデ、ダバンに続き、

ゴンドリア帝国の使者も降りた。


「エブリン様、この者たちは?」


「ゴンドリア帝国の方々よ。


 先程も言ったけど、マリウルに話があるから、余計な事はさせないでね」


集まって来ていた兵士たちに釘を刺したエブリンは、

コルネオの案内に従い、使者たちを引き連れて、マリウルの所へと向かう。



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