第91話 王都騒乱 魔法士団長

ハーフエルフ


この世界では、ハーフエルフという存在自体が珍しい。


その理由として、人族とエルフが交わる事が珍しい事だからだ。


人族から、その容姿を好まれ、

時折、里を襲われることもあったエルフ族だが、

エルフの持つ力の前に、多くの死者をだし、

痛い目を見るだけで終わってしまう。


その為、エルフを、手に入れる事は難しい。


しかし、そんな中でも、例外はある。


『里を追われたエルフ』とうい存在だ。


何故、里を追われたかは、不明だが

そんなことは、人族にとってはどうでもいい話。


追放され、疲れ切ったエルフを捕らえれば、

多くの財産を手に入れることが出来る。


それだけわかっていれば、いいのだ。


捕えられた後、『里を追われたエルフ』は

奴隷に落とされることが多い。


奴隷に落とされたエルフは、悪い意味で、殆どが愛玩用と扱われる。


魔封じの首輪を填められ、ただ、主人の欲望を満たすだけの道具。


それが『里を追われたエルフ』の末路なのだ。



ただ、そのような行為を繰り返していると、

稀に、エルフが、孕むことがあった。


本来、他種族との間に、子を孕むことはない。


だが、何故か、エルフだけは、稀に孕んでしまう。


だが、産まれても、エルフの持つ膨大な魔力の前に、

人間の器では、生存する事が難しいらしく、

生きて、産まれてくることは、稀なことなのだ。



ただ、生存することさえ出来れば、

膨大な魔力や稀有な力を持つ存在として重宝される。



ホルスト魔法士団長。


正式名【ホルスト オル ファランゼ ゴンドリア】。


王家の人間ではないが、その名を与えられ、この国を守護する者である。


ホルストが何時いつの時代から、

この国を守っているのかは、王家の人間でも一部しか知らない。


そんなホルストが、転移の塔の螺旋階段を下りて行く。


「一大事みたい・・・・・直ぐに戦闘になるかも・・・・・」


見えない何かに話かけるホルスト。


見えない何か・・・・・それは、この大陸に住まう精霊たち。


ホルストが、抱える精霊は【炎、水、土、風】の四精霊。


風の精霊が問う。


「緊急事態なんでしょ。


 でも、アンデットって言っていたけど・・・・・」


「ウフフフ・・・・・そうね、でも、アンデットなら、貴方の出番かも?」


ホルストが振り向いた所には、炎の精霊がいた。


「大丈夫、僕に任せてよ。


 全部焼き払うから」


螺旋階段を下り、転移の塔の扉を開けると

徘徊していたアンデットオオカミが襲い掛かってきた。


すると、ホルストの側面から、突然、炎が現れ、

アンデットオオカミを、一瞬にして灰にした。


「流石ね・・・・・」


「だから、任せてって言ったんだよ」


炎の精霊に笑顔で答えた後、ホルストは、城に向けて歩き出した。


隠し通路の事など無視し、城の壁まで近づくと指を差した。


「あそこでいいわ」


「僕の番だね」


答えたのは、土の精霊。


土の精霊が壁に手を触れると、その部分から壁が崩れ去り、通路が出来上がる。


「これでいい?」


「・・・・・うん、ありがと」


ホルストは、出来上がった通路を通り、城の中に入る。


ホルストが向かう先は、王家がいると思われる場所。


風の精霊にお願いをする。


「皆さんの所に、連れて行って・・・・・・」


「うん・・・・・」


風の精霊を先頭に、廊下を進んでいると、途中で、濁った空気を感じた。


「・・・・・近くにアンデットがいる」


「なら、僕も先頭に立つよ」


炎の精霊が、風の精霊の横に並び、再び王家が監禁されている部屋を目指す。


しばらく進み。王宮のとある部屋の前に立つ警備兵の姿を見つけると、

ホルストは、王家の無事を確信し、安堵の表情を浮かべた。


警備兵は、ホルストの姿を見つけて、敬礼をする。


「ホルスト様、王家の方々は、この中におられます」


「うん・・・・・わかってる」


ホルストは、ノックもせずに扉を開けて中に入った。


王妃シルーゼは、

ホルストの姿を見つけると、喜びの声を上げ、小走りに駆け寄る。


「ホルスト、無事だったのですね」


抱き着くシルーゼ。


「・・・・・シルーゼ、私は、無事だから・・・・・

 それより、どうして逃げなかったの?」


「陛下もおられますから、

 それに、ガルバンが、コルコッドを連れ去って・・・・・・」


「それなら、大丈夫。


 転移の塔にいるから・・・・・」


コルコッドが無事だと知り、安堵はするが、

ガルバンと一緒だという事実に不安は拭えない。


「ホルスト、お願いがあるの」


シルーゼが、そう言った時、再び大きな音が城の中に響く。


「何か来る・・・・・近いわ」


会話を切り、ホルストは、廊下へと駆け出す。


『コルコッドを助けて』


そうお願いをしたかったが、今は、間近に迫る危機の方が、優先される為、

言葉を飲み込み、その背中を見送った。


──無事に帰ってきて・・・・・・




音の響く方に向かって、走るホルスト。


飛び込んだのは、謁見の間。


到着と同時に、謁見の間の扉が破壊され、

2体のアンデットオオトカゲが姿を現した。


「行くよ」


ホルストの言葉を合図に、四体の精霊が姿を現す。


最初に仕掛けたのは、風の精霊。


『ウインドカッター』


謁見の間の空気が止まったように感じた瞬間、

透明の刃が無数に表れ、アンデットオオトカゲを切り刻む。


抵抗出来る術もなく、アンデットオオトカゲは細切れにされた。


だが、すぐに『ウニョウニョ』と動き、復活しようとしている。


「次は、僕の番!」


『ファイヤーボール』


炎の精霊の放った『ファイヤーボール』は、

細切れになったアンデットオオトカゲを焼き尽くした。


先程までの地響きが消え、静まり返る謁見の間。


炎の精霊は、その呆気なさから、ホルストに尋ねる。


「もしかして、これだけ?」


「わからない・・・・・・でも、油断は禁物・・・・・」


頷いた後、四体の精霊は、謁見の扉へと目を向けた。


静まり返る中、誰かが近づいてくる足音が聞こえる。


何とも軽い足音だが、四体の精霊は、気付いてしまった。



異様な気の中に漂う、圧倒的な力を持つ者のオーラ。


絶対に関わっては、ならない者だとわかる。


「ねぇ・・・・・ホルスト、やばいよ、あれはダメ。


 逃げた方がいいよ」


「えっ!?」



今まで、『気を付けろ』とか『様子を見て』などの助言を受けたことはあったが、

『逃げた方がいい』などと言われたのは、初めての事だ。



「どういう事?

 何が来ているの?」


「ごめん、言えない・・・・・

 でも、敵対すること自体、あり得ない事なんだ」


精霊たちは、震え、顔色も悪い。


「ねぇ、早く逃げようよ」


その言葉を最後に、土の精霊は姿を消した。


「あっ、酷い!」


次に、水の精霊が姿を消す。


「ホルスト、まだ間に合うかもしれないから、逃げようよ」


炎の精霊の提案に、ホルストは首を横に振る。


「みんなは逃げて、私は残る・・・・・

 この国を守るのが、私の使命だから・・・・・」


「ホルスト・・・・・」


炎の精霊は、溜息を吐いた。



「仕方ないなぁ、『覚醒』していない事を願って、僕も残るよ。


 2人も出ておいでよ」


消えていた水と土の精霊も姿を見せた。


「本気?」


「仕方ないよ、ホルストが残るって言うんだもん。


 今まで一緒に過ごして来たんだ。


 危険だから、『さよなら』は、なんか違うだろ」



炎の精霊の説得に、2体の精霊も頷き、

謁見の間に迫る者と対峙することに決めた。


徐々に足音が近づき、破壊された扉の間から、襲撃者の姿が見えた。


「えっ!」


「こども?」


「・・・・・だよね」


「でも・・・・・」


魔法士団長ホルストとエンデの対決が始まる。


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