第87話 王都騒乱 誤算

オオカミ魔獣を先頭に、王城に向かって大通りを歩くエンデ達。


そのまま、しばらく進んでいると、

正面に、ソリウド率いるハーネス家の私兵たちが、道を塞いで

待っていた。


「私は、ソリウド ハーネス。


 これ以上、先には進ませぬ。


 大人しく捕まるか、この剣の錆びになるか選べ」


口上を述べるソリウドだが、エンデたちが立ち止まる事はない。


ソリウドの軍に向かって、真っ直ぐ進む。


その態度に、ソリウドが、苛立ちを隠しもせずに、叫ぶ。


「おい、聞いているのか!」


『グルルルルル・・・・・・』


オオカミ魔獣が、エンデ達の代わりに、

返事をするように、唸り声を上げると、

ソリウドの私兵たちが、思わず後退る。


そのせいで、1人だけ、突出する形で、その場に取り残されるソリウド。


自分の置かれている状況に気付くと、

私兵達に命令を下す。


「怯むな!

 奴らは、ただのアンデット。


 一度は死んでいる者たちだ!

 準備したアレを使え!」



ソリウドの言葉に反応し、私兵達は、ポケットから小瓶を取り出すと

その蓋を開け、剣に垂れ流す。


そして、仲間同士で、顔を見合わせ、

『ウン!』と頷くと、

ソリウドの命令に従い、オオカミ魔獣に向かって一斉に駆け出した。


オオカミ魔獣達も牙を剥き、ソリウドたちに襲い掛かる。


だが・・・・・


『ギャン!』


私兵達と衝突した途端に聞こえて来たのは、オオカミ魔獣の鳴き声。


「流石、聖水だぜ、これなら勝てる!」


自信を得た私兵達は、

オオカミ魔獣に怯むことなく襲い掛かった。


今までの戦いとは違い、対策をしてきたおかげで

ソリウドの私兵達は、次々にオオカミ魔獣を倒す。


溶解し、半身を残したまま動かなくなったオオカミ魔獣達が、

地面に横たわっている。


勢いに乗るソリウド軍。


「このまま、奴らを殲滅せよ!」


ソリウドの命令に、声を上げて盛り上がる私兵達。


だが、そんな状況は、長続きはしなかった。


突如、私兵の首が飛ぶ。


「!!!」


首が転がって来た先では、首の無くなった体が、

ゆっくりと倒れる。


そこに立っていたのは、ダバン。


「殲滅だと?

 やれるものならやってみろ。


 その前に、貴様らの命を頂く」


ダバンの言葉に、嫌悪感を見せるソリウド。


「ふんっ!

 貴様のような雑兵ぞうひょうが、何をほざく。


アンデットも、我らの前では、役に立っておらぬのに

これ以上、貴様らに、何が出来るというのだ!」


「それは、自分で確かめな」


ダバンが構えると、

ソリウドは、自ら剣を取り、正面に立った。


意気揚々とし、先程、屠られた者のことなど忘れているのか

余裕の表情を見せるソリウド。


「貴様など、

 我が剣の錆びにしてくれるわ!」


 私兵達と共に、ダバンに突撃する。


「これで貴様も終わりだ!」


下段に構え、勢いのまま突進するソリウド。


だが、斬りかかったソリウドの剣を、ダバンは、易々と躱すと

その状態から、蹴りを放ち、頭部を吹き飛ばした。


ソリウドの頭部は、エンデの目の前まで転がると

まだ、意識があるのか、口をパクパクしている。


エンデは、その頭部に、止めとばかりに、剣を突き刺した。


「ソリウド様・・・・・・」


私兵たちの動きが止まる。


その瞬間、生き残っているオオカミ魔獣達が、一斉に襲い掛かる。


ソリウドを失った事で、戦意を失くした私兵達は、

次々とオオカミ魔獣の餌食となり

あっという間に戦況がひっくり返ってしまった。


そして、戦いを終えた時、

ソリウドの軍は、誰一人として、残っていなかった。


王城へと続く大通りには、多くの死体が転がっている。


その中を、オオカミ魔獣に囲まれたエブリンとダバンが進む。






「ソリウド男爵は、敗れたか・・・・・」


「ああ、時間稼ぎにもならなかったな・・・」


陰に隠れて、今の戦いを、

密かに監視していた2人の密偵が立ち上がる。


「おい、報告に向かうぞ」


「・・・」


たった今、会話をしたばかりなのに

返事がない。


「おい、聞いているのか?」


面倒臭そうに振り返ると、

そこには、エンデが立っていた。


「隠れて、何をしているの?」


「えっ!」


思わず、先程迄エンデの居た場所を見るが、

当然、そこに、エンデの姿は無い。


「貴様、いつの間に!」


驚きと同時に、距離を取るように、後方に飛ぶ。


そして、逃げる事を優先した密偵は、

その場から、逃走を図る。


だが、走り出そうとした瞬間、足に何かが嚙みついた。


「ぐわぁ!」


その場で転倒する。


慌てて上半身を起こし、噛みつかれた足を見る。


噛みついたものの正体、それは、ソリウドの頭部だった。


「アンデットにしちゃったよ」


可愛く言われても、密偵にとっては、恐怖でしかない。


「ひぃぃぃぃぃ!!!」


ソリウドの頭部を、足をバタつかせて離そうとするが

一向に、離れる気配などなく、

ソリウドの首部は、『ガジガジ』と密偵の足を噛み続けている。


「や、やめてくれ・・・・・」


ズルズルと後退ると、何かに衝突した。


思わず振り返る密偵。


そこにあったのは、仲間の屍だった。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」




思わず、驚き、悲鳴を上げる密偵に

首だけとなったソリウドが、体を這いあがる。


「や、やめろ・・・・・」


恐怖に苛まれた、密偵は、動くことも出来ずにいると

ソリウドの頭部は、密偵の喉元に食らいついた。


『うぐっ!

 ガハッ・・・・・・・』


口から、血を流し、噛まれた喉元から血を拭き零しながら、

密偵は動かなくなった。


密偵の2人を倒した後、

エンデは、エブリンの元に戻る。


だが、近づいてくるエンデの手元を見て

エブリンの表情が歪む。


「・・・・・その首、捨てなさいよね」


「えーーーー

 これがあると、みんな驚くよ」


「それでも、気分のいいものではないから、捨ててきなさい!」


エブリンに叱咤されたエンデは、仕方なく、ソリウドの首を放り投げる。


「もう、あんなもの、持ってこないでよ」


「わかった・・・」


エンデ達は、再び、王城を目指して歩き始めた。




その頃、

王城では、ガルバンと貴族達は、密偵からの連絡を待っていた。


「まだ、戻らないのか?」


『イライラ』した様子で、兵士に尋ねるガルバン。



「申し訳御座いません。


 まだ、戻って参りません」


「一体、何をしているのだ・・・・・・」


玉座に腰を掛けたまま、不満を露わにするガルバン。


その態度に、重鎮たちは、

苦虫を嚙み殺したような表情をしている。


──あそこは、陛下のお席だというのに・・・・・・


ガルバンは、そんな重鎮たちの表情に気付いていたが、

気付かないふりをしていた。


だが、報告が無い事に苛立ち

不満を持ったガルバンは、

八つ当たり気味に、重鎮の1人に声を掛ける。


「【ダックマン】殿は、何か、不満でもあるのか?」


「いえ、そのような事は・・・・・」


目を逸らし、下を向く。


「そうなのか、だが、気に入らないような表情をしておったではないか?」


「・・・・・そのような」


言いたい事は、山ほどある。


しかし、この場でそれを口にすれば、殺されることは、容易に想像出来た。


その為、口籠ってしまう。


「何か言いたい事があるなら・・・・・・」


ガルバンが、ダックマンに、何か言おうとした時、扉が叩かれた。


「入れ!」


視線をダックマンから扉に向けるガルバン。


ガルバンは、待っていた報告が、ようやく来たと思ったが、

もたらされた報告は、

思っていたものとは、全く違うものだった。



「アンデット連れた者たちが、城の前まで、迫っております!」


思わず、玉座から立ち上がるガルバン。


「どういうことか、説明しろ!


 何故、今まで報告が無いのだ!」




「申し訳御座いません。


 それが・・・・・全く、連絡が取れず・・・・・・」


イライラが募るガルバンだったが、

今は、それよりも、優先するべきことがあった。


「もういい!

 話は、後だ。


 お前たちも配置に付け!

 奴らを殲滅するのだ!」


ガルバンの命令に従い、貴族達も、謁見の間を後にすると

一人残ったガルバンは、ゆっくりと、玉座に腰を下ろした。







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