第88話王都騒乱 城内突入

エンデ達が王城に到着すると

兵士達が、立ちはだかった。


彼らも、これ以上進ませるつもりはないようで

陣形を整え、一歩も引かない構えを、見せている。


「第1陣、突撃!」


兵士達は、号令に従い、エンデたちに向かって突進した。



「ダバンは、ここでエブリンを守っていて」


そう告げたエンデは、一歩前に出た。


突進してくる兵士に向かって、独り言のように告げる。


「僕も、容赦しないよ」


その言葉通り、背中から翼を出し、本来の姿に戻ると

左手を前に差し出した。


エンデの脳裏に、ある魔物の姿が浮かぶ。


──この子達、何処にいたんだろう・・・・・


受け継いだ魔法の中から、召喚魔法を選んだが

会ったことのない魔物だったので

そんな疑問が浮かんだが、今は、有難く行使することにした。


「出ておいで、出番だよ」


エンデの左手から、黒い霧が噴出すると

徐々に光を奪い、王都を暗闇の中に埋ずめた。


「おい、どうなっているんだ!?」


視界を奪われた兵士たちは足を止め、『キョロキョロ』と辺りを見渡す。


「何も見えねぇ・・・・・」


暗闇に包まれ、戸惑いをみせる兵士達の耳に

『ズルズル』と何かを引き摺る音が聞こえてくる。


「おい・・・・・」


1人の兵士が、隣にいた兵士に声を掛けるが返事がない。


「冗談だろ・・・・・・」


「気を付けろ!


 何かいるぞ!」


誰かが叫んだその言葉に、兵士達の間に緊張が走り

静まり返る。


そんな中、静寂を切り裂くような叫び声が響くと

それが合図となり、あちこちから悲鳴と逃げ惑う兵士たちの声が響き渡る。


この状況に、ガルバン子飼いの貴族の1人、【ロクシー】男爵は、

動揺を隠せないでいた。


「何がどうなっているのだ・・・・・・」


自身の周りは、兵士達で固めているが、

それでも、暗闇に取り込まれている為

離れた所の様子はわからない。


敵の姿は未だ見えず、聞こえてくるのは、兵士達の悲鳴だけ。


「誰か、様子を見て来い!」


ロクシーは、自身を守っていると思われる兵士たちに指示を出すが

近くにいた筈の兵士達の姿が見えず、返事もない。


「おい、どうした!?」


思わず後ろを振り返ると

暗闇の中でもわかるほどの大きさの何かがいた。


その何かの目が赤く光り、ロクシーを捉えている。


「ヒッ!ひぃぃぃぃぃ!!!」


後退り、尻餅をつくロクシー。


そこに、何者かの顔が、近づいた。


そこで気付く。


何者かの正体は、『ブラックバイパー』だった。


鎌首を上げた『ブラックバイパー』が、

ロクシーを、丸吞みにしようと大口を開けて、襲い掛かる。


「〇×〇×▽$!!!」


言葉にならない叫び声が響く中、

ロクシーの姿が消えた。


この黒い霧の中には、

エンデが召喚した10体のブラックバイパーが這いずっており

獲物として見定めた兵士達を、次々に丸呑みにしていった。


完全に陣形は崩れ、

仲間の位置も把握できない王国兵達に、成す統べはない。


エンデは、ブラックバイパーの狩場となっている戦場を放置し、

空から、城へと向かった。


到着した城の入り口には、槍を持った兵士達が待ち構えていたが

先程の悲鳴が聞こえていたのか、

恐怖に苛まれており、既に、戦意を喪失している。


その者達の正面に降り立ったエンデだが

兵士達が、城の入り口を背にしていた為

前に進めそうもない。


「邪魔・・・・・」


エンデは、右手を前に差し出すと

軍勢に向けて、光の矢を放った。


突如、暗闇の中から、迫りくる光を放つ矢に、

次々と貫かれて、兵士達は、命を落としてゆく。


そんな状況でも、

少なからず、対応する兵士もいた。


「敵襲!敵襲!」


「どこだ!どこにいるんだ!?」


初撃を免れた兵士達は、必死にエンデを探しにかかるが

暗闇に紛れているせいで、場所を把握することはできない。


それでも、必死に足搔く。


だが、徐々に兵士の数が減り、城の入り口に

屍の山が築き上がってゆくと

元々、戦意を失っていた兵士達は、逃走を図り始めた。


「嫌だ、嫌だ、助けてくれ!」


暗闇の中、方角もわからぬまま走る。


お互いが、敵か味方かわからない状態。


そんな中で、冷静でいられるわけが無かった。


仲間と衝突した途端、

『見えない敵』という恐怖に、心が押しつぶされ、

無我夢中で剣を振るう。


「うわぁぁぁぁぁ!」


その行為は、衝突した者だけでなく、

周囲にいた仲間も巻き込んだ。


そこから始まった同士討ち。


エンデは、その様子を横目で見ながら、城の中へと入る。



城に入ると、外とは違い、黒い霧の効果が及んでおらず、

いつもと変わらない光景。


ただ、薄暗さを解消する為にか、明かりが灯っている。


 

初めて訪れた場所だけに、何処に何があるのかなんてわからない。


エンデは、明かりが灯っている通路を、奥へと進む。


暫く進み、開けた場所に出ると、

人の気配と一緒に、何かの気配を察知した。


足を止め、辺りを見渡すエンデ。


そこに聞こえてきた号令。


「撃てぇぇぇぇぇぇぇ!」


隠れていた者達が、一斉に姿を現し、

エンデに向けて、矢を放つ。



虚をつかれた形になったエンデ。


だが、焦ることなく左手を前に差し出すと

黒い塊が現れ、全ての矢を吸い込んだ。


「クッ、化け物め・・・・・」


ガルバン子飼いの貴族の1人【ラザード】は

弓での攻撃が無駄だと知ると、次の一手を打つ。


「奴らを前に!」


目の前に現れたのは、鎖で繋がれた3頭のオオトカゲ。


ビーストテイマーの【ムロア】により、飼い馴らされた魔獣だ。


「ラザード様、ここは、我らにお任せを」


「うむ、それなりの成果を期待しておるぞ」


「お任せを・・・」


『ニヤリ』と笑みを零すムロア。


「お前たち、食事の時間だ!」


『グギャァァァァ』


ムロアに応えるように、声を上げるオオトカゲ。


鎖を外されると、

地鳴りを響かせて、エンデに突撃した。



全長10メートル近い体のオオトカゲが3頭。


体は、大きな鱗で覆われていて、剣も通りそうにない。


オオトカゲは、大きな口を開けて、エンデを飲み込みにかかる。


エンデは、その攻撃を、飛び上がって躱したが

2頭目のオオトカゲが、棘の付いた尻尾で、エンデに攻撃を仕掛けた。




エンデは、上空で、その攻撃も躱すと

待ってましたと言わんばかりに、3頭目が体当たりで

エンデを、弾き飛ばした。


咄嗟にガードはしたものの、それでも、壁際まで吹き飛ばされるエンデ。


なんとか耐え、壁への衝突は免れたエンデだったが

ガードした両腕は、骨にヒビが入ったようで

持ち上げようとすると、激痛が走った。


「痛っ!」


エンデは、両腕に意識を集中する。


すると、右手から淡い光が現れ、エンデの体を包み込んだ。

その途端、傷を負っていた両腕が癒され、傷痕すら消え去る。


両腕を『ブンブン』と動かすエンデ。


『うん』と頷き、エンデは、オオトカゲに視線を向けた。


「今度は、僕の番だよね」


エンデの反撃が始まる。


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