第86話王都騒乱 権力を握る者

一方、

兵士より報告を受けた宰相のガルバンと

王都に住む貴族と重鎮達は、

謁見の間にて、議論を始めたところだった。


「ガルバン殿、貴殿の意見を伺いたい」


声を掛けたのは、子爵の【ゲッペル】。


彼も、ガルバンの子飼いの貴族だ。


彼の言葉に対して、ガルバンが口を開こうとしたが

その前に、重鎮ともいえる存在の貴族、【アルゴ】侯爵が、

ガルバンに尋ねる。



「会議を始める前に、1つ、伺いたいことがある。


 ガルバン殿、

 この一大事に、陛下は、どこにおられるのですかな?」


アルゴ侯爵の言葉通り、皇帝陛下は、姿を見せておらず

玉座は空席となっている。


だが、それだけではない。


王家の誰一人として、この場に姿を見せていないのだ。


アルゴ侯爵の質問に、

本日、この場に、姿を見せている一部の貴族が

同意するように、ガルバンを問い詰める。


「前にも、お伝えしたはずです。


 皇帝陛下は、お体の調子が良くなく

 皆様の前に立てる状態ではないのです」


「ならば、他の王家の方々は、どうなさっておいででしょうか?

 最近、誰一人として、お顔を、拝見しておりませんが」


「それも、前に申し上げた筈です。


 皆、皇帝陛下のお体のことを案じ、

 看病に専念したいとの、申し出がありましたので

 そのように、図らったまでの事です」


「そのようなことがあるか!?

 今は、国の一大事ですぞ!」


流石に、王都が攻められることまで、

想定していなかったガルバンも言葉に詰まった。


薬を盛り、操り人形へと仕立てた

皇帝アンゴリウス国王に、一筆書かせて、

皇帝一族を軟禁し、全ての権利を奪ったことなど

口が裂けても言えるはずがない。


現在、王城で働く者たちの中で、ガルバンに逆らう者などいない。


そのことも利用し、

更なる一手として、皇帝一族の軟禁に成功した後、

教会派遣の医師を使い

皇帝サンボームに毒を飲ませ、

言葉を発する事も出来ない程の寝たきりにさせていた。


そんな事になっているとは、

知る由もないアルゴを筆頭とした重鎮達は、

『陛下をお迎えに行く』と言い出し、

謁見の間から出て行こうと歩き出した。


しかし、謁見の間の扉を開いたところで

待ち構えた兵士たちに捕らわれる。


「おい、これは、どういうことだ!

 放せ!

 貴様は、何の権限があって、このようなことをするのだ!」


騒ぐアルゴの前に、ガルバンが立ちはだかる。


「これを見て頂きましょうか」


そう言って、兵士に両腕を抑えられたアルゴの前に、

皇帝サンボームのサインの入った親書を見せつけた。


「なんだこれは?・・・・・」


「皇帝陛下が、私に宛てた親書です」


「どういう・・・・・・」


親書に書かれている内容に、アルゴは自身の目を疑う。



『1つ、軍務に関しては、宰相ガルバンの指示に従い、

 騎士団長、魔法士団長は、職務を全うする事。


 1つ、ゴンドリア帝国の政において、

 宰相ガルバンの意見を尊重し、

 爵位を持つ者は、惜しみなく助力に励む事。


 1つ、これを破りし者は、反逆の意志があるものとみなし、

 財産没収、領地剥奪、国外追放とする。


 ただし、その行為が、我が国に、

 多大なる被害を及ぼすと判断されし場合は、

 即刻死刑と致す。


 また、その全ての判断は、宰相ガルバンに一任する。


 1つ、宰相ガルバンは、

 ゴンドリア家長女、【ラフィーゼ ゴンドリア】と婚姻した後、

 ゴンドリア帝国、皇帝に任命する』


全てを読み終え、愕然とするアルゴ。


思わず、悪い夢かとも思ったが、親書には

皇帝サンボームのサインもあり、本物であることが証明されていた。


「・・・・・」


「分かって頂けましたか?

 次はありませんよ」


ガルバンは、兵士に命令をし、

アルゴを解放した。


解放された後も、愕然とした顔をしているアルゴのを見て、

ほくそ笑むガルバン。


──この国は、もう、私のものなんですよ・・・・・


そう言っているように見えた

ガルバンの笑みに、アルゴは、強く拳を握った。


──こんな事が、まかり通って良い筈が無いが

  親書があるために、何も出来ぬ・・・・・・


  せめて、陛下が、ご無事ならよいが・・・・・・・




そんな思いを抱きながらも、逆らうことが出来ず、

謁見の間に戻されたアルゴと重鎮たち。


再び、会議を開始すると

ガルバンは、先程、アルゴに見せた親書を、

貴族たちの前で読み上げる。


内容を聞き、何も知らなかった貴族たちは、

アルゴと同じ様に、愕然とするが

ガルバンの子飼いとなっている貴族達からは、

笑みが零れていた。


親書を読み終えたガルバンは、神妙な面持ちで皆に伝えた。


「お話して、いませんでしたが

 陛下は、病に伏しております。


 一族の方々も、ご心配為されて、お傍を離れようとはしません。


 ですので、今後、この国の事に関しては、親書に従い、

 この私、ガルバンが舵をとらせて頂きます。


 引き続き、皆様には、この国と皇帝陛下の安寧の為、

 ご尽力下さいます様、 改めて、お願い申し上げます」


ガルバンは、丁寧に言葉を選んで伝えてはいるが、

要約すると、

『この国は、私の物になった。


 逆らうな!持てる財を私の為に使え、逆らえば殺す』である。


本来であれば、誰もが反対したくなるような内容だが

ガルバンに忠誠を誓っている貴族達は違う。


一全員が、その場で膝をつき、頭を下げた。


「皇帝陛下が、ご病気に伏している今、

 私共は、親書に従い、ガルバン様に忠誠を誓います。


 なんなりとお申し付けください」



ゲッペルが代表して発した言葉に、

何も知らなかった者たちは、立ち尽くしていた。


──フフフ・・・・・これで、この国は、わたしのもの・・・・・


思わず笑みが零れそうになったが

そんな雰囲気をぶち壊すかのように、

謁見の間に、兵士が飛び込んで来た。


視線が集中する中、兵士が告げる。



「アンデットの群れを連れた者たちが、こちらに向かっています」


ガルバンの目つきが変わった。


「どういうことだ?

 団長たちは、どうした?」


「申し上げます。


 団長は、既にお亡くなりになりました。


 それから、申し上げにくいのですが・・・・・・」



「何だ!?

 早く言え!」


「はいっ!

 我が軍ですが、既に半数以上が倒され、

 足止めも、厳しいかと・・・・・」


その返答に、

静まり返っていた謁見の間に、不安の声が飛び交う。


そんな中、宰相のガルバンだけは、

顔を歪め、怒りを露わにしていた。


──この国を、手中に収めようとしているこの大事な時に

  誰が、こんな余計な事を・・・・・・


ガルバンが、考えを巡らせていると

ふと、あることを思い出す。


「そうだ、魔法士団は、どうした?」


その質問に、兵士が答える。


「早馬を送ったのですが、未だ遠征から、戻ってきておりません」


「この大事な時に・・・・」


拳を握りしめるガルバンは、新たな命令を下す。


「敵の進路を塞ぐように陣形を築き、少しでも奴らの到着を遅らせろ。


 それと、もう一度、魔法士団に早馬を送れ。


 『至急戻ってくるように』と、伝えるのだ!」


「はっ!」


兵士が謁見の間から去ると

ガルバンは、この場にいる貴族達に向けて

言葉を発する。


「聞いての通りだ。


 何処の誰かは知らぬが、今、この国には、招かざる客が来ている。


 ここは、陛下に忠誠を誓うあなた方の力を、お借りしたい」


再び静寂に包まれる謁見の間。


先程読み上げられた親書の事がある為、

『断る』という選択肢は断ち切られている。


だが、どの貴族も先陣を任されることだけは、遠慮したいと願っていた。


何の情報も無く、敵と戦うなど、死にに行くようなもの。


それを自分の部下にさせたくはないのだ。


お互い顔を見合わせ、誰かが名乗り出る事を待つ。



誰も手を上げないと思われたその時、

末席の壁際にいた男が手を上げる。


「ガルバン様、宜しければ、この任、私に任せて頂けないでしょうか?」


手を上げた男は、【ソリウド ハーネス】、ハーネス家の現当主。


父親から、爵位を譲り受けたばかりの新参者だ。


「私と、部下200名とで、そのアンデットの大軍を、討ち取って見せましょう」


ソリウドは、功績を欲しがっていた。


だが、新参者で爵位も低い。


その為、発言も我慢していたが、誰も手を上げる素振すら無かったので、

『チャンス』とばかりに手を上げたのだ。


ガルバンは、笑みを浮かべる。


「貴殿が名乗り出てくれたか、

 ならば、任せましょう。


 ご健闘を・・・・・良い報告を、お待ちしております」


「はっ、必ずや、吉報を持ち帰って参ります」


一礼した後、ソリウドは、一足先に、謁見の間から去って行く。



先陣が決まった事で、残りの貴族たちは、安堵の表情を見せている。


「では、他の方々の持ち場を決めましょう」


誰となく呟いた言葉に、

次々と配置が決まり、エンデ達を、迎え撃つ準備を整えた。




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