第85話王都騒乱 蹂躙

サルドは、己の剣に炎を纏わせた。


「投降の意思が無いのなら、遠慮はしない」


剣が纏っていた炎の色が、青く変化すると、

サルドの目の色も変化し、青く輝く。


そして、青い炎を纏った剣を一振りすると

青い炎の塊が、エンデに向かって飛ぶ。


そして、青い炎は、徐々に大きさを増し

エンデの元に辿り着く頃には

エンデを、飲み込むほどの大きさになっていた。


「貴様は、これで終わりだ!」


サルドの言葉を証明するように

青い炎は、エンデを飲み込んだ・・・・・

かと、思えたが、そこに、エンデの姿はなかった。


「あーびっくりした」


「ふっ・・・・・少しは、やるようだな」


サルドは、エンデが、あの攻撃を躱せると思っていなかった為

言葉とは裏腹に、内心では焦っていた。


──あれを躱すというのか・・・・・・

  ならば・・・・・


サルドは、再び、青い炎を放つが

今回は、先程とは違い、連続で放った。


だが、その攻撃も、エンデは易々と躱す。


攻撃を仕掛けているサルドに、焦りが浮かぶ。


「ちょこまかと・・・・・」


焦り、動揺するサルドだったが

なんとか、冷静さを取り戻すと、

新たな手を打つ。


先程と同じように、青い炎を飛ばしているが

ゆっくりと、距離を詰めているが

その間も、エンデに、青い炎が当たることはない。


だが、それはサルドも想定内。


ゆっくりと、間隔を縮めていたサルドは、

ある程度のところまで来ると、新たな魔法を使う。


それは『擬態化』の魔法。


習得が難しく、その途中で、命を落とす可能性が高い為、

好んで学ぶ者が少ない魔法だが、

習得すれば、能力を知る全てのものに擬態できる強力な魔法なのだ。


サルドは、呪文を唱える。


『オルクスの意を汲みし者よ

 我が身をにえとし、

 溢れんばかりの力を放て』


その言葉に従い、サルドの体に変化が訪れる。


徐々に、体が膨らみ始め、両手両足が丸太のように太くなると、

体、全体が赤みを帯びた。


そして最後に、牙と2本の角が生える。


変化を終えたサルドは、

白い蒸気のようなものを発しながら

エンデを睨みつけた。


「貴様を、喰らってやる・・・・・」


サルドは、オーガへと変化していた。


その姿を見て、ゴルバが、大声でエンデを挑発する。


「サルドが、この姿になれば、貴様も終わりだ。


 私に楯突いたことを、後悔しながら死ね!」


その声を聴いたエンデが、思っていたことを口にした。



「なんで、そこの五月蠅くて、弱っちいおじさんが隊長なの?

 どう考えても、この人の方が強いでしょ」


緊迫した状態でも、マイペースなエンデに、

ゴルバが、怒りの表情を見せる。


「この私を侮辱するとは・・・・・・

 小僧、調子に乗るなよ。」


『ワナワナ』と震えながら、

エンデを睨みつけているゴルバは、

サルドに、八つ当たりじみたことを口にしながら

命令をする。


「いつまで、かかっておるのだ。


 貴様が愚図だから、私が侮辱されたのだ。


 そんな小僧、とっとと始末してしまえ!」


サルドは、その命令に頷くと

エンデに、視線を向けた。


「隊長の命令は、絶対・・・・・

 遊びは無し・・・・・・」


どことなく、口調がおかしくなっているサルドが

体格に似合わない速さでエンデに詰め寄ると、

剣を振り降ろしながら、炎を吐いた。


2段構えの攻撃に、流石のエンデも

逃げ場はない。


一瞬にして、炎に包まれるエンデ。


「エンデェェェェェェェーーーーーー!!!」


エブリンの悲痛な叫びが響く。


炎に包まれたエンデを見て

ダバンの動きも止まっていた。


「おい、主・・・・・」


炎の中のエンデが、黒く染まると

サルドは、勝利を確信したように、口角を上げ、牙を見せる。


「食べるの諦める。


 そのまま、灰となれ・・・・・」


言葉通り、エンデが燃え尽きるのを待っているサルドだったが

いつまでたっても、黒い状態からの変化が無いことに気付く。


「おい・・・・・」


不安を感じたサルドは、確実に、止めを刺す為に

炎に近づくが、その時、突然、炎が霧散した。


「!!!」


慌てて距離を取ったサルド。


目の前には、黒い繭のようなものがある。


その黒い繭が、ゆっくり開くと、

そこには、無傷のエンデの姿があった。


繭のように見えたのは、エンデの翼。


エンデは、翼を繭のようにして、時間を稼ぎ

サルドの炎を、打ち破ったのだ。


無傷のエンデには、3対の翼が生えており

その姿を見たサルドは、誤解する。


「貴様も、擬態化が使えたのだな・・・」


「『擬態化』?

 そんなの知らないよ。


 この翼は、自前だよ」


「自前だと・・・貴様は何を言っている?」


「本当のことを、言っているのに

 理解できないんだ。


 まぁ、そんなことはどうでもいいよ。


 それよりも・・・次は、僕の番だよ」


言い終えると同時に、

目の前にいたエンデの姿が消える。


そして、次に現れたのは、サルドの背後。


そこから、エンデは、手刀を突き立てた


背中から、心臓を貫かれたサルドが

口から、血を吐く。


『グフッ!』


思わず、倒れそうになるが、

エンデの左手が、突き刺さったままなので

それも出来ない。


突き刺さったままのエンデの左手には、

心臓が握られており、

もう、サルドに、出来ることはない。


心臓を、握り潰し

確実に、サルドを屠ったエンデが、

エブリンへと視線を向けと、

何故か、怒っているエブリンの姿があった。


「ばかぁ!

 心配させないでよ!」


涙目になっているエブリンを見て、エンデは、慌てて、謝罪を口にするが、

エブリンの怒りは、収まらない。


「本当に、死んだと思ったんだから!

 次からは、きちんと報告すること!

 いい?

 わかったら、返事!」


「あ、うん、わかった」


言いくるめられたエンデは、言われるがまま

返事をしたが、考え込んでしまう。


──あの状況で、どうやって、報告すればいいのだろう・・・・・


そんな事を、考えている隙に

ダバンと、オオカミ魔獣達が、敵を屠っており

気が付くと、敵兵は、残り少なくなっていた。



エンデは、兵士は、ダバンとオオカミ魔獣に任せ

自身は、隊長のゴルバへと向かった。



距離が縮まるにつれ

ゴルバは、馬上にも拘らず、

後退りをしたせいで、馬から落下して

腰を強打した。


そんな状態であっても、

両腕を使い、必死に逃げようとするゴルバだったが

とうとう、エンデが、目の前に現れる。


「ひ、ひぃ!」


情けない声を上げるゴルバに、エンデが問いかける。


「おじさんを殺せば、この戦いは終わるの?」


言葉自体は、軽いが

その言い方とは逆に、目の奥は、笑っていない。


エンデの圧を感じたゴルバは、

必死に、声を絞り出す。


「く、来るな!


 こ、この私が、誰か知らんのか!」


必死に、言葉を投げかけるゴルバに、

エンデが告げる。


「そんなこと、どうでもいいよ。


 それより、もう、いいよね?」



その言葉に、手も足も震えだすが

ゴルバは、諦めていなかった。


「た、助けてくれれば・・・・・金、金を出す。


 言ってくれれば、貴様の言い値を払うぞ」


エンデの神経を、

逆撫でするような事を提案してきたゴルバの暴走は

止まらない。


「そうだ、私の部下になれ、

 そうすれば、何不自由なく暮らせるぞ。


 お前が欲しがれば、どんなものだって手に入る生活を約束しよう」


その言葉に、反応するエンデ。


「本当に、どんなものでも手に入るの?」


エンデの返した言葉に、ゴルバは、内心、ほくそ笑む。


──やはり、強くても、

  所詮は子供だな・・・・・

  このまま、丸め込んでやる・・・・・・


ゴルバは何度も頷くと、笑みを浮かべて答える。


「勿論だ、どんなものでも準備させよう。


 金か?

 女か?

 領地か?」



エンデが話に食い付いたことで、自然と笑みが零れる。


「何でも言ってみろ、この私が叶えてやろう」


「じゃぁ、これ」


エンデが指を差した方向には、ゴルバしかいない。


「へ?」


「その首をもらうよ」


「ま、待て・・・・・・」


エンデは、問答無用で首を刎ねた。




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