第83話 ゴンドリア帝国へ  王都到着

上空から、獣の群れを発見したエンデ。


「思ったより多いね」


独り言のように呟いたエンデは、ダバンに合図を送る。


ダバンは、その合図に従い、群れに向かって駆け出すと

その群れも、その足音に気付き、動きを変えた。


相手ははオオカミの魔獣。


統率がとれており、オオカミの魔獣達は、

ダバンを取り囲むように動く。


しかし、上空から、その様子を見ていたエンデが、

最後尾あたりのオオカミの魔獣に対して、無数の光の矢を放つ。


『ギャン!』


光の矢に貫かれたオオカミ魔獣の数は10頭。


一度の攻撃で、10頭ものオオカミ魔獣を屠ったエンデは

次の群れへと狙いを移す。



その頃、ダバンもエンデの攻撃が始まったことを感じると、

足を止め、オオカミ魔獣達を迎え撃つ。


牙を剥き、ダバンに襲い掛かるオオカミ魔獣の群れ。


しかし、ダバンは、確実に、頭部に蹴りを入れて倒してゆく。


そうしている間に、追いついたエンデが参戦する。


すると、屠るペースも加速し、

あっという間に、オオカミ魔獣達は、全滅した。


オオカミ魔獣は、50頭ほどいたが

その群れを、あっという間に屠ったエンデとダバンは

ゆっくりと、村に向かって歩きだす。


しばらくして、エンデとダバンが村に到着すると

その2人の姿を見つけた村人達は、食事をしていた手を止めた。


そして、全員が跪く。


何も知らないエンデは、エブリンに近づき、声を掛ける。


「お姉ちゃん、何かしたの?」


村人の態度を不思議に思い、エブリンに問いかけたが、

エブリンは、ため息をつき、呆れた顔をして村人達を見ている。


「・・・・・お姉ちゃん?」


「あんたの翼を見て、『神の使い』だとか騒ぎだしたの・・・・・

 後は、見てのとおりよ」


未だに、頭を下げたままの村人達と

エブリンの言葉を聞き、

なんとなく理解したエンデ。


「僕は、どうしたらいいの?」


「・・・どうしようもないから、

 取り敢えず、声でも、掛けてあげたら」


「うん」


エンデは、リグルのもとに行き、声を掛けた。


「リグルさん、頭を上げさせてください。


 それから、この村に近づいていたオオカミ魔獣の群れは、退治したよ。


 でも、数が多いから放置したままなんだ。


 この村にあげるから、後の事は、任せていい?」


思わず顔を上げ、驚いた表情を見せるリグルは、

エンデに、問いかける。


「頂けるのですか?」


「うん、あげるよ。


 少しは、食料の足しになるでしょ」


「はい、それはそうですが・・・・・・」


「遠慮は要らないよ。


 でも、さっきも言ったけど、

 放置したままだから、急いだほうがいいかも?」


リグルは、笑顔で『勿論です』と答えると

集まっている村人達に、この事を伝えた。


すると、男連中は、急いで食事を済ませると、

エンデに一礼をした後、

オオカミ魔獣の群れの所に向かって駆け出した。



村人たちは、久しぶりの食事と、思わぬ収穫という吉報に、

笑顔を見せている。


勿論、女性連中も、

同じように笑顔で、解体場所の準備に取り掛かっていた。




そんな中、食事を終えたエンデたちは、宿にしている家へと戻った。


家に入ると、エブリンが口を開く。


「賑やかね」


「うん、これで当分は、食べる物に困らないよね」


外の様子を見ながら

会話をするエンデとエブリン。


ダバンは、家の入り口で横になり、寛いでいる。


唯一、食事会に参加できなかったフラウドにも

食事は与えられたが、現在は、拘束され、柱に括りつけられていた。


だが、諦めたわけではない。


──なんとかして、ここから逃げて報告を・・・・・


フラウドは、チャンスを待っているのだ。


体に負っていた傷は、

食事の前に、エンデが治しており

今は、拘束されているだけ。


そのせいか、再び、脱走を考え始めたフラウドは、

じっと、チャンスを待っていた。


そして・・・・深夜・・・


エンデたちが、寝静まった頃を見計らい

下着の中に隠し持っていたナイフを取り出し

ゆっくりと、縄を切りにかかる。


静かに・・・・焦らず・・・・・ゆっくりと・・・・・


神経を集中し、額に薄っすらと汗を滲ませながらも、

縄を切ることに成功する。



──よし・・・・・・


気付かれないように立ち上がると

出口に向かって歩き出した。


だが、古い民家ということが、災いし

足の踏み場を間違えると『ギシギシ』と音が鳴る。


神経を研ぎ澄ませ、慎重に歩き続けたフラウドは、

見事に、脱出に成功した。


外に出たフラウドは、辺りを見渡す。


──馬だ、馬を探さねば・・・・・


そう思ったのだが、ここに来るまでの事を思い出し、

『また、馬は、言う事を聞かないのでは?』と疑問が浮かんだ。



「やはり、止めておこう」


馬を諦めたフラウドは、村の外に向かって歩き出した。


そして、村から離れると、王都に向かって

全力で、走り出す。


迷う事はない。


脇目も振らず、次の村を目指して、走る。


そして、夜が明け始めた頃、

フラウドの目に、村が見えた。


後ろを振り返るが、誰の姿もない。


「上手くいったようだな」


少し落ち着きを取り戻したフラウドは、

そのまま、村に入ると

近くにいた村民に声を掛け、

村長を呼んでくるように伝える。



兵士が来たと聞き、慌てて姿を見せる村長。


「兵士様、この村に、何かご用でしょうか?」


「うむ、私はフラウドという。


 訳あって、道中を急いでいる。


 馬を準備してもらいたい」



「畏まりました。


 ですが、この村にいる馬は老馬で、荷を引くのが精一杯で、御座います。


 あまり無理をされると・・・・・・」


村長の話を遮り、フラウドが言い放つ。



「構わん、一刻を争うのだ!


 一番元気な馬を連れて来い!」


「は、はい!」


急いで馬を準備させると、フラウドは、礼も言わずに村を後にする。


前の村から、全力で走り続けていたフラウドは、

疲れが、ピークに達していた。


その為、速度の出ない馬でも、満足していた。


──老馬でもいい、自分で走るよりマシだ・・・・・


老馬に跨り、王都を目指す。



急いでいるとはいえ、老馬に無理をさせると、

再び走る事になり兼ねない。


その為、多めに休憩を取りながら王都に向かう事にしたので、

予定より、数日遅れて、王都の見える位置まで到着した。



目の前には、王都を取り囲む壁。


「もう少しだ、頑張ってくれ」


馬に声を掛け、首を撫でる。


王都が、近づくにつれ、

生き延びた事への思いと、仲間を失った思いが入り交じり、

何とも言えない気持ちになるが

今は、それよりも、報告する方が先だと、

自分に言い聞かせて、城門を目指す。


そして、とうとう城門に辿り着く。


生きて帰ることのできたフラウドは、

ゆっくりと、老馬から降りた。



フラウドを発見した門兵が、慌てて近づいてくる。


「フラウド様!」


疲れ果てた表情のフラウド。


無事、王都の門を潜ったところで、意識を失い、倒れた。


「フラウド様!!!!!」









どれくらい寝ていたのだろう。


フラウドは、目を覚ました。


「ここは・・・・・俺は王都に・・・・!!!」


フラウドは、ベッドから飛び起きると、横に置いてあった鎧を装着する。



「急いで報告をせねば」


そう思い、部屋から出たのだが、なにやら騒がしい。


窓から外を見ると、多くの兵士達が、武装した状態で

慌ただしく動いている。


「敵襲!敵襲!」


聞こえてきた声に、背筋が凍る。


「まさか・・・・・」


近くを通り掛かった兵士を、

フラウドが止めて、何が起こっているのかを尋ねた。



「何が、あったんだ?」



「何者かが、門を破壊し、城に向かっているとの知らせが入りまして」



その言葉を聞き、どうしても確かめたいことがあった。



「敵の数は?

 どんな奴らだ?」



「それが、アンデットが多数と子供らしき・・・・」

 


その言葉で確信する。


「ここまで、どうやって・・・・・

 それに、アンデットだと・・・・・」



疑問に思うところもあったフラウドだが、

彼らを、王都まで案内をしたのは、

間違いなく、自分だと、

容易に、想像できた。




後ろを振り返り、追手がいないことは、何度も確認した。


だが、空までは見ていない。


その見ていない上空から、後をつけていたエンデ達は

フラウドの脱走にも、気が付いていた。


しかし、このまま案内をさせた方が、楽だと判断したエブリンに従い

放置したままで、王都までの案内をさせたのだ。



そして、フラウドが王都に到着した時、

上空で待機していたエンデ達は

近場で着陸すると、そこから徒歩で、

王都を目指した。



だが、城門の辿り着いたとき

子供2人と馬1頭という組み合わせを

不思議に思った兵士に、止められる。


「お前たちは、何処から来た?」


「アンドリウス王国だよ」


馬鹿正直に答えるエンデ。


門兵達は、エンデたちに向けて、

武器を構えた。


「それが事実なら、聞きたいことが山ほどある。


 おい、捕らえろ!」


兵士の命令に、他の門兵達が従い

エンデたちを取り囲む。


「大人しく従えば、痛い目を見ずに済む。


 だが、逆らうと・・・・・」


エブリンに、イヤらしい視線を向けた兵士は

突然、エンデに襲い掛かった。


「こうなるんだよ!!!」


アンドリウス王国から来たということが災いしたのか、

兵士は、全力で、持っていた槍を振り下ろす。


だが、馬の姿だったダバンが割り込み、

兵士の攻撃を防ぐどころか、

返り討ちにして、門兵を吹き飛ばした。


「き、貴様!

 何をする!」



この行動により、目の前にいるエンデより

ダバンを優先して、捕えにかかる。


「この馬を抑えろ!」


しかし、一兵卒が、

ダバンの相手になる筈も無く、悉く吹き飛ばされた。


「何をしておる!

 構わん、殺せ!殺してしまえ!」


その言葉に、エンデが反応する。


「殺す・・・・・そうか・・・・・なら、殺される覚悟、出来ているよね」


エンデは、エブリンを後ろ手に庇うと、左手を前に差し出した。


「遠慮は、しないから」


突如、目の前に現れた禍々しい門。


その門の隙間から抜け出してくる

禍々しい霧が、こちらの世界を侵食してゆく。


兵士達が、思わず、距離を取る。


だが、そんなことは関係ない。


「さぁ、出番だよ」


エンデの命令に従い、不気味な音を立てながら門が開くと

そこから無数のアンデットと化したオオカミ魔獣が飛び出し、

門兵を襲い始めた。



このアンデットこそ、村を襲おうとした

あのオオカミ魔獣なのだ。



オオカミ魔獣の群れを屠った時、

エンデは、体に流れ込む何かに気付いた。


流れ込んで来たものの正体は、オオカミ魔獣の魂。


エンデは、その魂を掌握すると、

新たな肉体を授け、召喚獣として、この場にを呼び寄せたのだ。


新たな肉体を授かったオオカミ魔獣達は、

通常のゾンビのようなアンデットとは違い

体に、傷や、腐食した部分はない。


ただ、エンデから、漆黒に染まり、攻撃を跳ね返す体毛と、

何でも破壊する鋭い牙と魔力を、授かっており、

力は、数段に上がっている。



突然現れ、そんな力を授かったオオカミ魔獣達に、

兵士達が、敵う筈もなく、

ただ、餌と化し、貪り食われていく。


そのような状況を、目の当たりにした兵士達の中には、

武器を手放し、形振なりふり構わず、その場から離れ

王都の中に逃げようとする兵士も、現れ始めた。


だが、王都の中に攻め込まれたら不味いと思った者達の手により

そんな仲間を置き去りにして、門が閉まり始める。


「待ってくれ!」


「助けてくれ!」


叫ぶ仲間の声を無視して、王都の門は、完全に閉じた。


逃げる事さえ、叶わなくなり

ただ、アンデットに襲われるだけの兵士達を見ながら、エンデが呟く。


「見捨てられたね」


そう呟いたエンデも、まだ王都の外にいる。


この状況に、人型に変化したダバンが、エンデに声を掛けた。


「主、この後どうするんだ?」


「それは、任せてよ」


今度は、右手を前に差し出すエンデ。


「吹き飛ばせ」


呪文とは思えない短い言葉だったが、その言葉に従い

小さな光の玉が現れると、門に向かって飛んで行く。


そして、門に衝突した瞬間、

大爆発を起こして、門を、木っ端微塵に破壊した。


砂煙が舞う中、エンデが、2人に声を掛ける。


「さぁ、行こうか」


エンデ達は、アンデットと化したオオカミ魔獣達を引き連れ、

王都へと入った。




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