第81話 ゴンドリア帝国へ  捕虜

エンデたちを発見し、報告に向かった兵士は、駐屯地に辿り着いていた。


「そうか、それで奴らは今どこに?」


「はっ、大草原の大木の所です。


 監視をつけておりますので、何かあれば報告があると思います」



報告を受けた【フラウド】は、直ぐに部隊を動かす準備にかかる。


「急げ!

 この隙に、あいつ等を捕えるぞ」


フラウドの指示に従い、兵たちが慌ただしく動き始めた。


そして、準備が整うと、直ぐに出発をする。


深夜の行軍。


気付かれないように、大木を目指す。


しかし、行軍の最中、

またしても軍の前に、1つの陰が立ち塞がった。


月が雲に隠れていたので、人が立っていると判断できる程度だったが、

雲の隙間から、月の灯りが照らすと、その姿が露わになる。


人の姿をしているが、背中には6枚の翼。


そして、『ニヤリ』と笑う。


「あ、悪魔・・・・・・」


「悪魔だぁぁぁぁぁ!!!」


1人の兵士の声が響く。


その声に、周りの兵士達も動揺し、思わず後退る。


「怯むな!

 陣形を整えろ!


 この世に悪魔などおらぬ、ただの亜人だ!

 亜人に過ぎぬ」



フラウドは必死に叫び、

兵士達の動揺を、打ち消そうと躍起になっている間に

翼を生やしたエンデが、ゆっくりと部隊に近づく。


雲の隙間から、月が顔を覗かせると

フラウドの目に、はっきりとエンデの姿が見えた。


「子供・・・・・」


フラウドの漏らした言葉に、兵たちの動きが止まる。


「子供だと・・・・・」


「えっ!・・・・・」


驚いた表情で、動きを止める兵士たち。


「焦らせやがって・・・・・」


相手が子供だとわかると、翼の事などどうでもいいとばかりに、

怒りを露に、1人の兵士がエンデに近づく。


「亜人のガキが、驚かせやがって!!!」


「お、おい!」


先走った兵士に、フラウドが慌てて、制止の声を掛けようとしたが、

既に兵士は、剣を抜いていた。


「ガキのくせに、舐めた真似しやがって!」


兵士は、少し痛い目を見せた後、捕えるつもりでいた。


しかし、そんな事は、エンデにとっては関係ない。



襲い掛かって来たという事実で十分。


エンデが、右腕を横一閃に動かすと、

突如、一列に並んだ光の剣が現れた。


「えっ!」


兵士は慌てて足を止めたが、もう遅い。


エンデは、躊躇いなく、光の剣を放つ。


先走った兵士は、当然の事だが、放たれた剣は

背後の兵士達にも、突き刺さり、その場に倒れ込んだ。



1人の兵士の行動で、数人の兵士の命が消えた。


「貴様ぁぁぁ!!!」


フラウドは、声をあげて、エンデを睨みつけるが、

それ以上の事が出来ない。


その理由は、エンデの前に、新たな光の剣が

こちらに、向いていたからだ。


逃げることも出来ず、立ち尽くしていると

エンデが攻撃を仕掛けた。


「防御魔法を使え、奴の攻撃を防ぐのだ。


 我らは、隙をつき、攻撃を仕掛ける」


フラウドの指示に、兵士達は、一斉に動き出す。


しかし、光の剣は、防御魔法を突き破り

兵士達に、突き刺さった。



次々と兵士達が屠られる中、動く事も出来ないフラウド。


そこに、エンデの後方から、ダバンに乗ったのエブリンが姿を見せる。


「また1人で、行動して・・・・・・」


場の雰囲気など、お構いなしに、

溜息を吐き、文句を言うエブリン。


「ダバンが、見張りを退治したから、今度は僕の番かなって・・・・・」


エブリンが、ダバンを睨みつけ、踵で腹を蹴る。


「ねぇ・・・・・どういう事?」


背中から伝わる冷たい感覚。


「俺は、その・・・・・・」


エブリンと会話する馬に、フラウドが驚く。


「馬が人の言葉を・・・・・・」


「えっ、普通の事よ。


 こんなの何でもないわ」


そう言い退けると、エブリンはダバンから降りた。


人型に戻るダバン。


呆気にとられるフラウド。


その間も、エンデの攻撃は続いており、

とうとう、ゴンドリア帝国の兵士達は、壊滅した。


だが、フラウドは、無傷で、生き残っている。


近づくエンデ。


「ねぇ、おじさん。


 周り見てよ、おじさんしか残っていないよ」


何事も無かったかのように伝えてくるエンデに、恐怖を感じるフラウド。


「お前は、何も感じないのか・・・・・・」


「ん?

 何を言っているの?

 襲って来たのは、そっちだよね。


 それに、僕たちの国に攻めて来たのも、そっちが先だよ」


「それは・・・・・・」


宰相のガルバンに操られつつあるゴンドリア帝国。


全ての企みは、この男の指示。


だが、フラウドは知らない。


全ては、国王の指示によるものだと信じて行動している。


「我らの行動は、陛下のご意志。


 何も間違っていない。


 敵国であるアンドリウス王国に攻め込んで、何が悪いというのか!」


フラウドは、エンデを睨みつけるが

エンデは、気にも留めず、言い返す。


「なら、反撃しても、問題無い筈だよね」


「!」


『クィックイッ』と手招きをして、フラウドを挑発するエンデ。


「貴様・・・・・舐めるのも大概にしろ!」


我慢の限界に到達したフラウドは、攻撃を仕掛けるために、

一歩前に出ると、

その瞬間、光の剣が、フラウドの両腕を切り落とした。


「グワァァァァァァ!!!」


両腕を、失ったフラウドは、その場で蹲り、叫び声を上げている。


エンデは、切り落とした両腕を拾い上げると

光の力で、元の状態へと、戻した。


痛みも消え、切り落とされた筈の両腕も

元に戻っている現状に

フラウドは困惑している。


「こ、これは・・・・・どういう・・・」


困惑しながらも、腕の感覚を確かめているフラウドに、

エンデが声を掛ける。


「おじさん、この国の事を教えてよ」


思わず顔を上げたフラウド。


目の前には、笑顔のエンデがいる。


「だ、誰が、貴様なんかに・・・・」


先程の嘘のような現実に怯え、額から大量の汗を流しながらも、

必死に抵抗の意思を見せた。


──俺を、残したのも、治癒をしたのも

  情報を聞き出すためか・・・・・

  だが、そう 簡単に、口を割るわけにはいかぬ・・・・・


覚悟を決めるフラウド。


「ほんとにそれでいいの?」


「に、二言はない!」


その返事とともに、再び、両腕が飛ぶ。


「うぎゃぁぁぁぁぁ!!!」


叫び声を上げるフラウドに、エンデが声を掛ける。


「まだだよ」


フラウドの横には、いつの間にか、宙に浮かぶ2本の光の剣があった。


正座をするような恰好だったフラウドの太腿に、

その剣が突き刺さると、フラウドは、地面に縫い付けられた。


「グゥゥゥゥゥ・・・・・」


唸り声を上げるフラウド。


そんなフラウドの両腕を、再びエンデが、治療を施す。


だが、治療を施したのは、両腕だけ。


両太腿に刺した剣は、そのまま。


「話す気になった?」


大量の汗をかき、息も絶え絶えのフラウド。


「・・・・・断ったら、どうする?」


「そんなの決まっているよ。


 繰り返すだけだよ」


その言葉を聞き、心が折れたフラウドは

小さく、『・・・わかった』と呟いた。


「良かった。


「じゃぁ、行こうか」


ダバンが、ゴンドリア帝国軍の乗っていた馬を

何処からか引っ張ってくると、

フラウドを、強引に乗せた。


それから、エンデとエブリンが、

いつものようにダバンに跨る。


「しゅっぱーつ!」


エンデの合図に、ダバンとフラウドを乗せた馬が進み始めた。




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