第79話ゴンドリア帝国へ  力の目覚め

エンデは、致命傷となりかねない一撃を、躱すことに成功したが

それでも、無傷とはいかず、肩口に傷を負う。


エンデは、一旦、距離を取ろうとするが

先程の攻撃のせいで、肩口に激痛が走り、

思わず、体勢を崩す。


そこに、エリゴの蹴りが直撃する。


想像以上の威力に、意識が飛び、地面を転がるエンデ。


そこに、追い打ちをかけるようにエリゴが、再び襲い掛かる。


「貴方も、私の血肉になるのです」


エリゴが、大きく口を開き

涎を垂らしながら、背後から、エンデに喰らいつこうとしたそのとき

意識を失っている筈のエンデが、突如、振り返り、攻撃を躱す。


エリゴは、警戒し、一旦距離を取る。


「まだ、起き上がるとは・・・・・

 手加減が過ぎましたか・・・・・・」


そう言い放つと同時に、最初と同じ様に、エリゴの姿が消えた。


エンデが、この速さについてこれない事は、もう、わかっている。


だからこそ、エリゴは、同じ手段で、攻撃に出た。


──こんどこそ、貴様を食ってやる・・・・・


前回同様、

エンデの背後に、回り込む為に、姿を消す。


──これで、終わりだ・・・・・


勝利を確信したエリゴは、

思わず、気を抜いてしまう。


一瞬だが、エンデから、目を逸らしてしまったのだ。


相手が、本当に格下なら、戦況に影響することはない。


だが、今のエンデは、何かがおかしく、

エリゴが、目を逸らした隙に、姿を消していた。



思わず、動きを止めるエリゴ。


「はっ?

 どこに行った!?」


辺りを見渡すが、何処にも姿がない。


それもその筈、エンデは、エリゴの上空にいたのだ。


エンデは、ゆっくりと右手を、エリゴに向ける。


そして、呪文を唱えた。


『神の怒りを纏いし、光を以って

 かの者を断罪し、

 輪廻の輪へと、帰趨きすうを決せよ』

 

その呪文に従い、エリゴを取り囲むように

雷を纏った光の剣が、現れる。


「これは、天使族の・・・」


焦りを見せるエリゴだったが、

もう、遅い。


取り囲んでいた雷を纏った光の剣が、一斉に襲い掛かった。


苦虫を嚙み潰したような顔をしながらも

エリゴは、強気の姿勢を崩さない。


「この程度の攻撃、この私なら・・・」


エリゴは、速さを以って、この攻撃を躱そうとした。


だが、流石に、全てを躱すことは出来ず

体中に、深い傷を、負うこととなった。


思わず、膝をつくエリゴ。


雷のせいで、体がうまく動かない。


「小賢しい真似を・・・・・」


追い詰められたエリゴは、エンデを睨みつけるが

攻撃は、まだ終りではない。


気付いていなかったが、

エリゴの周りには、一定の間隔で、

円を描くように、雷を纏った光の剣が、地面に刺さっており

まるで、エリゴを、光の檻に閉じ込めたような状態にしていた。


そんな中、

空に浮かんでいるエンデが、右手を掲げると

そこに、光の剣が、現れる。


狙いは、エリゴだが、エリゴも黙って見ている筈が無い。


エリゴは、『ニヤリ』と笑うと

エンデに向かって飛びあがった。


「そこにいれば、この私が、攻撃できないとでも思ったか!」


驚く程の跳躍力を見せたエリゴだったが、

あと少しで、エンデに辿り着くと思われた瞬間、

光の檻に阻まれ、攻撃を仕掛けることが出来なかった。


「クッ!」


仕方なく、地面へと方向を変えた瞬間、

先程まで、上空にいたはずのエンデが

突如、背後に現れ、

光の剣で、エリゴを斬りつけた。


『グワァァァァァ!!!』


無防備な状態で、斬りつけられるエリゴ。


足場が無い為、回避もできない。


エンデは、エリゴを、その場にとどめるように

剣を振るう。


エリゴの赤黒い血が、雨の様に地面に降り注ぐと

霧の中から無数の手が現れ、

エリゴに向かって、手を伸ばし始めた。


そこに、エリゴの切り落とされた両手両足が落ちて行くと

無数の手の中の1つが、それを掴み、そのまま地中へと引き摺り込んだ。


出血と両手両足を失い、

意識が途切れかかっているエリゴ。


エンデが攻撃を止めると、

そのまま地面に向かって落ちて行った。


意識が遠ざかる中、薄っすらと目を開き、呟く。


「ああ・・・今、思い出しました・・・・・

 あれは、魔王様の・・・・・・」


最強と謳われる七大魔王の1人ベーゼ。


エリゴは、自身の受けた攻撃により、はっきりと思い出したのだ。


とある大会にて、ベーゼが、相手を完膚なきまでに打ちのめした剣技が

最後に、エンデから受けた攻撃と同じだったと・・・。


何も知らなかったエリゴからしたら、

文句の一つでも、言いたくなる。


それと同時に、1つの疑問が浮かんだ。


だが、エリゴには、それを考える時間も、残っていなかった。



地面に到着する手前で、地面から飛び出した大量の手がエリゴを掴む。


そして、地中へと吸い込んだ。


エリゴを倒し、ゆっくりと地上に降り立ったエンデだったが

未だに、気を失っており、そのまま地面に、横たわる。



意識を失っているエンデは、夢のようなものを見ていた。


──ああ、これ、昨日の続きかな?・・・・・


辺りを見渡すエンデ。


昨日、夢の中で、黒い塊の魔法を教えてくれた人を探してみる。


──名前も聞いていないし、何処にいるんだろう・・・・・


そう思いながら、薄い霧の中を、彷徨っていると

声を掛けられた。


「エンデ、こっちだ!」


駆け足になるエンデ。


視線の先には、夫婦と思える男女の姿があった。


「昨日は、いろいろ教えてくれて、ありがとう。


 でも、 あの、エリゴって奴に、勝てなかったよ・・・」


そう話しかけるエンデの頭を、男性が撫でる。


「まぁ、今のお前では、難しいだろう」


「うん・・・・・僕、初めて負けたよ・・・」


俯くエンデ。


そんなエンデを、女性が抱きしめた。


「大丈夫。


 貴方は、まだまだ強くなれるから」


とても、温かく、やわらかい感触に、思わず、顔を埋めるエンデ。


「まだまだ、甘えたいのね、フフフ・・・」


そんな抱きしめあっている2人に、男性が近づき、声を掛けた。


「いいか、エンデ。


 今回は、あの場所だったから、

 俺も、お前の体を使って、お前を助ける事ができた。


 だが、毎回、このようなことは出来ない。


 だから、強くなれ!


 今回の戦いは、お前の体が、覚えている筈だ。


 死ぬんじゃないぞ」


男性が、そう告げると、女性がエンデから離れた。


「また、会えたらいいわね・・・・・」


その言葉を最後に、2人の姿が消えたが

エンデは、まだ、意識を失っていた。




一方、

砦の外で、待機をしているエブリンとダバンは、

黒い霧が晴れてゆくのを見ていた。


そして、完全に、黒い霧が晴れると

急いで砦の中へと向かう。


「ダバン、お願い、エンデの所に急いで!」


「ああ!」


ダバンは、エンデの匂いを便りに、砦の中を駆け回る。


その途中で、おかしなことに気付く。


ゴンドリア帝国の兵士達の死体が、無いのだ。


当然、生きている者もいない。


まるで、ゴーストタウンに迷い込んだような感覚に陥っていると

訓練場のような場所の真ん中で、倒れているエンデを発見する。


「エンデ!」


ダバンから飛び降り、エンデの元に駆けて行くエブリン。


ダバンも周囲を警戒しながら、後に続いた。


倒れているエンデを、エブリンが抱き起す。


「エンデ!エンデ!エンデ!」


必死に、声を掛けていると、エンデが目を開けた。


「良かったぁ・・・・・・」


ホッと、胸を撫でおろし、エンデに抱き着くエブリン。


「・・・お姉ちゃん?」


「良かった、わかるのね。


 大丈夫?

 何処か痛いところはない?」


「うん、大丈夫だよ」


安堵から、思わず涙を流すエブリン。


「お姉ちゃん、どうしたの?」


倒れていたエンデを見たとき、

死んでいたらと、不安に圧し潰されそうになっていたのだ。


だが、そんなことを、口には、したくない。


エブリンは、涙を拭った。


「何でもないわ。


 埃が、目に入ったのよ。


 それより、本当にだいじょうぶなの?」


「うん・・・・・でも、途中から記憶が無いんだ。


 僕は、どうしてここで寝ていたの?」


「私達にも、わからないわ」



エンデは、砦に単身で突入し、エリゴと対峙した時の事までは覚えていた。


しかし、それ以降の事に対しての記憶が、ほとんどない。


ゆっくりと思い出すエンデ。


「多分、悪魔だったと思う・・・・・・」


「「えっ!」」


エンデの発言に、2人が驚いている。


「多分だけど・・・・・それで、その悪魔に一撃喰らって・・・・・・」


ここから先の記憶が無いと、2人に説明をした。


「じゃぁ、その悪魔は?」


「わからない」


「この砦の兵士は?」


「・・・・・わからない」


何を質問しても、当然覚えていない。


この砦から、人が消えた理由。


その悪魔が、どうして此処にいないのかもわからなかった。


だが、ただ一つだけ、エンデは覚えていることがあった。


それは、夢の中の2人との会話・・・・。



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