第77話ゴンドリア帝国へ  砦へ

人々が、屋敷から離れると

エンデ達は、屋敷の中へと戻った。


「あとは、上の階だけだね」


エンデが、そう告げると、ダバンが先陣を切り

二階へと、階段を上る。


すると、階段を登り切ったところで、

1人の男が待ち構えていた。


「おい、あれをやったのは、貴様か?」


どう見ても、兵士と思えない風貌の男の問いかけに

ダバンが、答える。


「そうだとしたら、どうだというのだ?」


「いや、その答えで十分だ」


男が、静かに剣を抜くと

合わせるように、戦闘態勢をとるダバン。


そこに、後を追って階段を上ってきたエンデとエブリンが姿を見せた。


「やっぱり、まだ残っていたんだ」


男の視線が、エンデ達へと移る。


「まさかと思うが、このガキどもも、戦ったのか?」


「貴様に、話すことなど、ない」


会話を、バッサリと断ち切ったダバンが

距離を詰める。


──速い!!!・・・・・


男は、必死に距離を取ろうとするが、

ダバンの方が早く、回避は、間に合わなかった。


男の脇腹に、ダバンの蹴りが突き刺さる。


持っていた剣を手放し、

壁に激突した男だったが、まだ、意識を保っており

すぐさま立ち上がろうとした。


だが、そんなことをダバンが許すはずもなく、

止めの一撃を放つ。


血を吐き出し、再び倒された男は、

二度と起き上がることなどなく、

ただの屍と化した。


男から、興味を失ったダバンの視線の先には

1つの部屋が、見えていた。


ダバンは、ゆっくりと進み、

その部屋の扉を開け放つ。


「本当に、ここまで来るとは・・・」


「だが、それも、終わりだ」


「ねぇ、この男、私が貰ってもいいかしら?」


好き勝手なことを話す3人は、

この街を、掌握していたゴンドリア帝国の隊長【ヨルバ】と

そのヨルバに、雇われている冒険者の【キリネ】と【ライド】だ。


キリネとライドは、冒険者と名乗っているが

本当は、盗賊崩れの殺人者で、

ゴンドリア帝国では、名の知れた者達だ。


その2人が、隊長のヨルバを庇うように

ダバンとの間に、割って入る。


「ここは、私に、任せてよ」


キリネが、そう切り出すと、ライドがため息をつく。


「お前、ほどほどにしておけよ」


「大丈夫、任せてよ」


キリアは、笑みを浮かべながら、ダバンの前に立った。


「さぁ、一緒に、遊びましょう」


キリアが取り出したのは、半月刀。


それを両手に持って構えたその時

部屋の中に、エンデとエブリンが、入ってきた。


すると、ヨルバの表情が変わる。


「なんだ、他にもいたのか、

 それに・・・・・」


値踏みするような表情を見せた後、

ヨルバが提案してきた。


「お互いに3人だ。


 ここは、対戦相手を決めて、決着をつけようではないか。


 キリアの相手は、そこの若造だとして、

 ライド、貴様は、あのガキだ。


 儂の相手は、残った女としよう」


そう告げたヨルバは、

欲情を剥き出しにして、エブリンに視線を向けると

その視線を感じとったエブリンは、不快感を露にする。


「気持ち悪い・・・・・」


「き、気持ち悪いだと!」


「ええ、気持ち悪いわ。


 それに、何故、そちらの提案を、受け入れられたつもりでいるの?」


「貴様、この儂に逆らうつもりか!?」


「逆らうも何も、敵である貴方達の命令を、

 何故、私達が聞かないといけないのか

 理解できないわ」


至極当然の言葉に、ヨルバが怒りの表情を見せた瞬間、

エンデとダバンが、動き出す。


先手必勝とばかりに攻撃を仕掛け

一瞬にして、ライドとキリアの首が、吹き飛ばした。


「えっ!?」


何が起きたのか、わからないまま、2人の部下を失ったヨルバ。


だが、時間が経つとともに、

己の状況を、理解する。


3対1。


この状況と、ゴンドリア帝国では、有名な2人が

一瞬にして屠られたことをかんがみて、

勝てないことを理解すると、命乞いともいえる行動にでた。


「ちょ、ちょっと、待ってくれ」


「何よ、何か言いたいことでもあるの?」


エブリンが、そう問いかけると

ヨルバは、醜い笑みを浮かべて、答える。


「儂も、好きで、このようなことをしていたわけではないのだ。


 全て、本国からの命令で、仕方なかったのだ。


 そ、そうだ、貴殿の国に、亡命しよう。


 勿論、ただとは言わぬ。


 亡命を認め、命の保証をしていただけるのならば

 貴殿らが、一生かかっても稼げないほどの金を進呈する。


 ど、どうだろう、良い提案だと、思わぬか?」


必死に言葉をかさね、命乞いをするヨルバに

エブリンが問う。


「ねぇ、その、一生かかっても稼げないほどの金とやらは、

 どこで調達したの?

 もしかして、この街から、なんてことは、言わないわよね」


「それは・・・・・」


ヨルバの金は、この街から、奪い取ったものの為

エブリンの質問に対して

口籠ってしまう。


そこに、追い打ちをかけるエブリン。


「この街の財産は、この街のもので

 貴方のものではない。


 それを、理解したうえでの発言かしら?」


「ぐ・・・・・」


歯を食いしばり、エブリンを睨みつけるヨルバ。


「貴様・・・・・調子に乗りおって・・・・・」


我慢の限界だった。


一回りも年齢の低い少女に

見下したような態度をされたヨルバが、剣を抜いた。


「調子に乗るなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


襲い掛かるヨルバ。


だが、そんな行動を、2人が黙って見ているだけの筈が無い。


一瞬にして、ヨルバの武器を持っていた腕と首が飛ぶ。


抵抗は無意味と、いわんばかりの攻撃を受け

頭部と片腕を失ったヨルバの胴体が、その場に崩れ落ちた。



この街を支配していたヨルバを屠ったエンデ達は、

屋敷を出ると、娼館街に向けて歩き出した。


残党が残っていることも考え、街を歩きながら

娼館街に向かっていると

ある一団と鉢合わせることとなった。


「やっと、追いついたぜ」


馬に乗った男が、そう告げると

一団は、エンデたちの前で止まる。


「また、会ったね」


「『また、会ったね』じゃねえよ。


 何も言わずに出て行きやがって!」


文句を言いつつも笑みを浮かべる男は、メビウス家の次男ガリウスだ。


ガリウスは、周囲を見渡した後、馬から降りて

エンデに近づく。


いぶかしげた表情を見せるガリウスが、問いかける。


「おい、もしかして・・・・・・もう、終わったのか?」


「うん」


素っ気なく返事を返すエンデに、ガリウスは溜息を吐く。


「お前たちは・・・・・・」


一言でも、文句を言ってやろうとしたガリウスだったが、

その言葉を遮るように、エンデが話しかける。


「ねぇ、後の事は、任せてもいい?」


「は!?

 ちょっ!おま・・・・・・」


エンデは、ガリウスは、何か言おうとしていたが、

それを無視して、収納袋から、大量の食料を取り出す。


その量に、ガリウスが圧倒されていると

エンデが告げる。


「これ、この街の倉庫にあった分だから置いていくよ。


 それと、後の事はお願いね!」


エンデは、それだけ伝えると、

いつの間にか、馬に変化したダバンに跨った。


「僕達、先を急ぐから!」


ガリウスに、それだけ伝えると

ダバンが走り出す。


「おい、ちょっ!

 お前、勝手すぎるだろ!!!」


ガリウスの叫びに、エンデは笑顔で手を振ると、

そのまま街を出て行った。


驚きはしたが、一切の欲を見せないエンデに

思わず笑みを零すガリウス。


「あいつらしい・・・・・のか?


 まぁ、この先は、俺たちの仕事だからな」




エンデから、この街の後処理を任されたがリウスは

直ぐに行動に移し、

治安維持の回復や、食料配布を行った。



また、この街を襲った者たちの話を

あの給仕から聞くと、

まだ息のあったゴンドリア帝国の者達を捕え

地下牢へと放り込んだ。



こうして、街の復興に尽力して3日後

兄であるマリウルが到着する。


2人は、領主の屋敷の応接室にて

会話を交わす。


「エンデ達には、会えたのか?」


「ああ、でも、あいつら、

 俺が来た時には、この街にいたゴンドリア帝国の兵士を一人残らず始末して

 街の住人たちを解放していやがった」



「まぁ、彼らなら、やりかねないな。


 それで、今は、どこに?」


「ゴンドリア帝国を目指して、行っちまったよ」


「そうか・・・・・」


兄弟の間に、少しの沈黙が訪れる。


先に、口を開いたのは、ガリウスだった。


「なぁ、兄貴、俺・・・・・・」


そこまで言いかけた時、マリウルが、被せるように話を始める。


「ここは、引き続き、お前に任せる。


 俺は、エンデたちの後を追う」


「へっ?」


マリウルも、エンデたちを追うつもりでいたのだ。


だからこそ、マリウルは、話を遮ってまで

『自分が追う』とガリウスに伝えたのだ。


「ちょっと待ってくれ、兄貴」


必死に、話を遮ろうとするガリウスだが

マリウルは、話を続けた。

 

「父上に、手紙を送って、

 この街を拠点にしてもらうように、お願いするつもりだから

 頼んだぞ」


「なぁ兄貴、・・・・・・それって・・・・・」


「ああ、父上が到着したら、お前も来ればよい」


「でもよ、

 あいつ等、想像以上に早いんだぜ」


「わかっている。


 だが、ゴンドリア帝国の領地に入るとなれば

 嫌でも、あそこを通るしかない」


「砦か!?」


マリウルは、黙って頷いた。



ゴンドリア帝国とアンドリウス王国の境には、強固な砦が築かれている。


また、その砦には、数千の兵士が常駐し、常に周囲を警戒しているのだ。


そんなところに、3人で突撃など、無謀に思える。


しかし・・・・・


苦笑いを浮かべながらガリウスは、マリウルに伝える。


「でもよ、あいつ等、そんなことお構いなしに突撃しそうだぜ」


マリウルも同じように考えていた。


だからこそ、このままエンデたちを失ってしまう事態は避けたいと思い

先行することを、申し出ていたのだ。


「いいか、我々が、そんな無茶をする前に、彼らを止めるのだ」


兄であるマリウルの話を聞き、ガリウスは頷く。


「わかった。


 後の事は任せてくれ」


ガリウスとの話を終えたマリウルは、

この街で一泊した後、エンデたちの後を追った。





一方、街の後始末を

ガリウスに押し付けたエンデ達は、

通り沿いの村を開放しながら進み

とうとう、砦が一望できる場所にまで

辿り着いていた。


「あれが、砦かぁ・・・・・」


 感心しているエンデに、エブリンが話しかける。


「あれは、砦だけど、小さな街くらいの大きさがあるのよね」


エブリンの言葉に、ダバンが問いかける。


「主、どうしますか?」


「う~ん・・・・・取り敢えず、ご飯を食べてから考えようよ」


相変わらず、マイペースなエンデに、

エブリンから笑みが零れる。


「そうね、悩むだけ無駄かも知れないわ。


 食事にしましょう」


3人は、再び歩き出し、少し離れた山の中へと入っていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る