第72話ゴンドリア帝国へ  3人での侵攻

全ての治療を終えたエンデが戻って来た。


「お帰り。


 皆は、もう大丈夫なのね」



「うん、

 でも、怪我が酷かったから、直ぐに動くことは

 止めたほうがいいと思うよ」


「それもそうね。


 でも、ゴンドリア帝国は、本当に酷いことをするわ」



不機嫌そうにエブリンが呟くと、

エンデも、続く。


「あの国は、何がしたいのだろう・・・」



ここは、ゴンドリア帝国が駐屯地にしていた村だが

本来は、アンドリウス王国の領地。


その村を、見事に奪還したのだが

エンデは、1つ疑問に思うことがあった。


現在、この村には、アンドリウスの兵士達と、山猫族の他に

屍と化したゴンドリア帝国の兵士達がいるだけで、

どこを探しても、村人の姿が無いのだ。


当然、殺されたことも考慮して、探索をしてみたが

やはり、見当たらなかった。


「お姉ちゃん、村の人達は、何処に行ったの?」


その質問を聞き、エブリンは、目を伏せる。


「お姉ちゃん?」


「・・・連れていかれたのよ」


「え?」


「死体が無いということは、

 奴隷として扱うか、若しくは、売り飛ばすつもりなのよ」


「そんな・・・」


村を奪還しても、人々が救われなければ

あまり意味を持たない。


自分たちさえ良ければ、後はどうでもいいと思えるような

ゴンドリア帝国の振る舞いに、

怒りの感情が、大きくなる。


エンデは、その場に食料を置くと

踵を返した。


無言で、広場から離れて行くエンデ。


「ちょっと、何処に行くのよ!?」


エブリンの呼びかけにも、返事をせず、

村の外に向かって歩くエンデ。


その横に、馬の姿のダバンが並ぶ。


エンデとダバンが、村の外に出ると

一際、大きな声で、2人を呼び止めるエブリン。


「2人とも、待ちなさい!」


足を止めるエンデとダバン。


「何処に行くつもりなの?」


その問いかけに

振り向き、笑顔を見せるエンデ。


「ちょっと、ゴンドリア帝国まで」


買い物にでも行くような気軽さで、言葉を返してきたが、

その表情は、笑顔で取り繕っていても、怒りを、隠しきれていない。


「そう・・・・なら、私も同行するわ。


 これは、決定事項よ。


 あんたたちだけだと、何をしでかすか、わからないもの」



エブリンの読みは、当たっていた。


この時、エンデは、ゴンドリア帝国の王都を崩壊させるつもりでおり

もし、ここで、エブリンが声を掛けなければ、

エンデは、ゴンドリア帝国の王都まで飛んで行き、

見境なく、人々を殺つもりだったのだ。



しかし、エブリンが声を掛けたこと、

また、同行を申し出たことで、

エンデの気持ちに、他者のことを考える

少しの余裕が生まれ

王都で起こり得た惨劇を回避することが出来たのだ。


エブリンは、エンデを抱きしめ、頭を撫でる。


「1人で行っちゃ駄目。


 お姉ちゃんだって、同じ気持ちなんだよ・・・・・・

 でもね、感情のまま、動いたら駄目よ」


エブリンは、エンデの顔を上げさせると、

視線を合わせたまま、問い掛けた。


「ゴンドリア帝国に行きたいのね?」


「うん、やられっぱなしは嫌だ」


「そうね、このままだと、同じことが繰り返されそうだし、

 いなくなった村の人たちの事もあるしね」


「うん、あいつ等に、思い知らせてやるんだ」


「わかったわ」


会話を終えた後、エブリンは、エンデと

マリウルとガリウスに合わせる為、

広場へと向かった。


到着した広場には、マリウルとガリウスの他に

ヒューイの姿もあった。


「ちょっと、いいかしら?」


エブリンの問いかけに、3人が振り返る。


「これからの事なのですが、

 私たちは、このまま、ゴンドリア帝国に向かいます」


「えっ!?」


驚くと同時に、ガリウスが歩み寄る。


「お前ら、何を言っているのか、わかっているのか?」


「ええ、勿論よ」


「わかっているなら、尚更、認めるわけには、いかねぇ。


 いいか、この先にある、街や村だって危険だ。


 それに、 そこを過ぎれば、ゴンドリア帝国の領地だ。


 奴らの領地に入ってしまえば

 こちらから、援軍を出すことも難しくなるんだぞ!」


「そのようなことは、勿論、理解しています」


「だったら・・・」


ガリウスは、3人を本気で、心配しているのだ。


その思いは、エンデ達に伝わっているが・・・

この様な状態を、放っておくことなど、出来ない。


その思いから、エブリンが告げる。


「万が一のことがあったとしても、

 それは、自己責任です。


 あなた方に、ご迷惑をお掛けするつもりは、

 ありません」


覚悟を決めた言葉を聞き、

引き留めることを、ガリウスは、諦めた。


だが、力を貸すことは、諦めてはいない。


「なぁ、俺達に、何か、出来る事はないのか?」


「それなら・・・・・」


エンデ達は、国境にある砦を、突破して、

ゴンドリア帝国に入らなければならない。


それが、3人だけなら、なんとかなる。


しかし、捕虜となった村人達を、奪還した後だと

犠牲者が出る可能性が高い。


なので、マリウルとガリウスに、お願する。


「私達が戻って来るまでに

 あの砦を、奪ってください」


「まぁ、それは、もともと俺たちの任務だ。


 任せておけ、必ず、奪い取ってやる」


ガリウスのその言葉に、マリウルも頷いた。


会話を終え、その場を離れようとすると

今度は、ヒューイが、話しかけてきた。


 「おい・・・・・」


不愛想な呼びかけに、エンデが答えるより先に

エブリンが、答える。


「『おい』って、なんですか?

 仮にも、貴方の同胞の命を救った相手だというのに・・・・・」


威嚇するように、ヒューイを睨みつけているエブリンに

ヒューイは、思わず、怯んでしまう。


「う・・・その・・・すまない。


 悪気はないんだ。


 俺はただ、礼を言いたくて・・・」


「そういう事なら、いいわ」


エブリンが、その場から離れると

エンデとヒューイが、向き合う形となった。


 

「あの時の事を改めて謝罪する。


 また、我らの同朋を救ってくれたことに感謝する」



ヒューイは、村から追い出し、襲撃を掛けたことを詫びた。


同時に、今回の治療について、感謝を述べ、頭を下げる。


すると、ヒューイの後ろには、

助けられた山猫族者たちが連なり、

同じ様に頭を下げていた。


その敬れるような感覚に、恥ずかしさを感じるエンデ。


 「ぼくは、ミーヤを助けたかっただけ。


 後は、ついでだから・・・・・御礼なんて、いらないよ」



素っ気なく返事をするエンデ。


それでも、ヒューイの態度は変わらない。


「そうか・・・・・それでも、仲間を助けられたことに変わりはない。


 本当に、ありがとう」


ヒューイは、再び、エンデに対して頭を下げた。



治療された山猫族とヒューイ率いる戦闘部隊、

ここまで休憩なく進み、戦い抜いたマリウルとガリウスの軍。


互いに、疲労が溜まっている。


その為、休戦協定を結び、お互いが、この村で休むことにした。


その日の夜


ちょっとした祝勝会が開かれた。


食料は、エンデが運び込んだおかげで、困ることはない。


その中で、代表者であるマリウル、ガリウス、

山猫族のヒューイは、今後の事を話し合う。


「我々は、先に進む。


 街道を少し外れたところに、いくつか、街や村がある。


 そのあたりも、確認しながら、

 砦に向かうつもりだが、貴殿らはどうする?」


マリウルとしては、今後の事を考えると、

仲良くなっておく方が得策だと思い、声を掛けた。


しかし、彼らには、彼らの事情がある。


「助けて頂いた側として、

 こんなことを言うのは、申し訳ないが、

 我らには、 捕えられていた者達を、

 里に連れ帰るという義務がある。


 なので、同行は出来ない」



「そうか、残念だが、仕方がない。


 だが、もし、王都を訪ねて来る事があったら、

 私の名前を出してくれ。


 歓迎しよう」


そう言って、手を差し出すマリウル。


その手を、見つけるヒューイ。


彼は、人族を嫌っていた。


だが、今回のことで、ヒューイの中の考えが

変わりつつあり、その手を握り返す。


「まさか、人族と手を握り合う日が来るとはな・・・・・」


ヒューイのその言葉を、聞き終えたとき

握り合う手の上に、ガリウスが手を乗せる。


「俺の事も忘れないでくれよな」


「ああ、勿論だ」



その後、3人は、お互いの健闘を称えながら

夜遅くまで、語り合った。




翌朝、一番に目を覚ましたのは、マリウル。


2人は、まだ寝ている。


1人テントから抜け出したマリウルの目に飛び込んできたのは

酔いつぶれた兵士と山猫族の姿だった。


その光景を見て、思わず笑みを浮かべてしまったが

これからの事を考えると、少し心配にもなった。


──二日酔いに、なっていなければよいが・・・・・・


浮かべていた笑みが、

苦笑いへと変わる。


そんな中、あることに気が付き

マリウルは、広場を抜けて、村の中を歩く。


だが、幾ら歩いても、

彼らの姿が見当たらない。


「何処に行ったのだ?」


テント、廃屋、何処を探しても、彼らの姿はない。


そうしていると、他の者達も起きて来たので、

その者達にも聞いてみる。


「おい、エブリン嬢と弟のエンデ殿は、何処に行った?」


起きてきた兵士に問いかけるが、

やはり、誰も、知らないのだ。


──もしかして、もう、行ってしまったのか・・・・・


見送ることが出来なかったマリウルは、

天に向け、彼らの無事を祈った。




一方、深夜のうちに、

村を旅立ったエンデたちは、次の街の近くまで来ていた。



「主、起きてくれ、街が見えるぞ」



その言葉を聞き、ダバンの背で寝ていたエンデとエブリンが、目を覚ます。


「ん・・・・・・ほんとだ。


 あそこで、朝ごはん食べれたらいいね」


「何を言っているのよ。


 あの街も、多分、ゴンドリア帝国の兵士が支配している筈よ」


「そっかぁ、なら、朝ご飯は、お預けだね」


その返事に、違和感を覚えるエブリン。


「あんた、まさかと思うけど、食料を全部置いてきたの?」


「えっ!

 駄目だったの?」


「!!!」


その言葉に、ダバンも反応する。


「あ、主、俺の食事は?」


思わず足を止めるダバン。


夜通し走り続けたダバンは、

寝ていた2人とは違い、空腹と疲労で

既に、限界に近かったのだ。


エンデも、そのことに気付く。


──やってしまったかも・・・・


そう思ったエンデは、申し訳なく思うと同時に

慌ててしまう。


「・・・・・ごめん、ちょっと待っていて」


そう言うと同時に、何を思ったのか

突然、翼を広げ、飛び立った。



「ちょっと、エンデ!

 何処に行くのよ!」



『直ぐ戻るから』


それだけ言い残し、エンデは飛んで行く。



『何処に行くつもりなのか?』


一瞬だけ、そう思ったが、エンデの飛んで行った方向にあるのは、街。


「あの子、まさか!?」


ダバンも、気が付く。


「お嬢、しっかり掴まって下さい!」


ダバンは、急いで街へと向かった。


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