第71話ゴンドリア帝国軍 混戦

ゴンドリア帝国の兵士と戦っているのは、山猫族。


戦闘隊長ヒューイの指揮の元、

山猫族達は、兵士たちを、上手く誘導しながら、

次々と屠っている。


そして、村への突撃を試みていた。


戦闘隊長のヒューイが、叫ぶ。


「進め!

 仲間を取り戻すのだ!」


とうとう、村の中に入ることに成功した山猫族は

ゴンドリア帝国の兵士達と戦いながらも、

建物の中を調べてまわっている。


もはや、両軍とも、マリウルたちの事は、眼中にないようだ。



ヒューイが、敵軍の中心で、叫ぶ。


「ヒューマンが、俺たちに勝てると思うな!

 命の欲しくない奴は、かかってこい!」


ヒューイの叫びを聞いた、ゴンドリア帝国の兵士達は

殺気に満ちた視線を向けた。


「亜人が、調子に乗るなぁぁぁぁぁ!!!」


叫びと共に、ヒューイに襲い掛かる兵士達。


先程までは、連携を取りながら

襲い掛かる山猫族に苦戦を強いられていた

ゴンドリア帝国軍だったが、

山猫族が、村に侵入した途端、

仲間の救出を優先させたため、連携を失う。


そのおかげで、戦況が、逆転する。


建物の扉を開けた途端に、潜んでいた兵士に、

槍を突きさされ、命を失う者や

捜索に気を取られ、背後から斬り付けられて

命を失う者が続出し、徐々に数を減らす山猫族。


もともと、数で優位に立っていたゴンドリア帝国軍は

命を吹き返し、個々で、殲滅にかかる。


戦況が、荒れ狂う中、マリウルとガリウスに

決断の時が迫る。


一旦、引き返し、再び兵を整えて戦いを挑むか?


それとも、このまま、残っている兵士達と共に、

ゴンドリア帝国に戦いを挑むか?


どちらを選ぶを、迫られている。


ただ、再び戦力を整えても、村への侵入が

簡単に出来る筈がないことも分かっていた。


「兄貴・・・」


「ああ、わかっている。


 敵が、彼らに力を注いでいる今なら、

 チャンスかもしれない・・・」


「それなら!」


「隊列を組みなおし、一気に攻め込むぞ」


マリウルの、その言葉を聞き、ガリウスは

一旦、その場から離れようとした。


その時・・・


「あれ、村に着いちゃったよ」


この場に似合わない子供の声がした。


驚きながらも、声のした方向に顔を向けるマリウルとガリウス。


「子供がなぜ?」


思わず、そう呟いたとき、

同じように、ゴンドリア帝国の兵士達も、気が付いてしまう。


「貴様、何者だ!」


呼び掛けには答えず、

状況を確認したエンデは、エブリンに告げる。


「真っ最中みたいだよ」


「そんなこと、見ればわかるわよ。


 それより、あれ」


エブリンが指し示した方向には、

武器を手に襲い掛かるゴンドリア帝国の兵士の姿があった。


「大丈夫」


そう告げたエンデは、馬から飛び降りると

迫っていた兵士を、一撃で倒した。


すると、その様子を見ていた兵士達が、

エンデにを敵と定めて

一斉に、襲い掛かる。


その様子を、隠れて見ているマリウルは思う。



──1人を倒せても、この数は無理だ・・・・・

  このままでは・・・・・あの子は・・・・・


マリウルが、助けに行かなければと思った瞬間

一足先に、ガリウスが、飛び出した。


「見ていられねぇぜ!」


剣を手に飛び出したガリウスだったが

2人の予想に反し、

次から次へとゴンドリア帝国の兵士が、倒されている姿に

思わず足を止めた。


「おい、どうなっているんだ?」



剣を手にしたまま、ゆっくりと近づいてくるガリウスに

馬から降りたエブリンが、話しかける。


「アンドリウスの兵士の方ですよね」


「ああ・・・」


「申し遅れました。


 私は、エブリン ヴァイスと申します。


 この度、メビウス様のご命令で

 食料を、届けに参りました」



「親父殿の命令で、食料を届けに来ただと・・・」


「はい、それで、この状況は?」


「我らの他に、この村に攻め込んだ者がいたのだ」


そう言われたエブリンがよく見てみると

ゴンドリア帝国の兵士の他に、獣人族の姿が見えた。


「あの人たちが、そうなのですね」


「ああ、その通りだ」


エブリンとガリウスが、ゴンドリア帝国の兵士と

獣人族の戦いに、目を向けていると

マリウルが姿を見せる。


「ガリウス、その子供たちは?」


「親父殿からの命令で、食料を運んできたそうだ」


「父上が、こんな子供達に、任せたのか?」


──こんななんて、失礼ね・・・・・


そう思ったエブリンが、マリウルを睨んでいると

ガリウスが、間に割って入る。


「兄貴、こんななんて、失礼だぜ。

 あれを、見てみろよ」


ガリウスの『あれ』とは、エンデの戦いの事。


こうして、3人が話すことが出来ているのも

エンデのおかげなのだ。


猫人族から、エンデへと、戦う相手を変えた

ゴンドリア軍だったが、

戦う相手を間違えたようで、エンデ1人に蹂躙されてしまい

壊滅に近い状態へと、追い込まれていた。


その光景を、まるで夢でも見ているかのように思えたマリウルは

先程の発言を訂正する。


「たしかに、その通りだった。


 先程の発言、訂正すると共に、謝罪しよう」


「別に、気にしておりませんが、

 その謝罪を、受け入れます」


「感謝する」


マリウルの謝罪を以って、2人が和解した頃

ゴンドリア帝国軍の兵士は、まばらとなり

もう、戦力というほどの人数が残っていなかった。


そのおかげで、山猫族の生き残り達は、

仲間の捜索に力を注ぐことが出来るようになった。



ヒューイ達は、散開して捕えられた仲間を探す。


「ミーヤ!ミーヤ!

 返事をするんだ!」


必死に呼びかけた声は、エンデにも届いた。


「あれ、もしかして・・・」


「知り合いなの?」


「うん、ちょっとね」


エブリンの問いかけに、答えを濁すエンデ。


それも仕方のないこと。


あの時のことを、エブリンが知れば、

怒り狂う可能性が高い。


エンデは、自分の心の中にしまい込んだ。


だが、ヒューイの発した言葉は、

放置出来ない。


エンデは、その場を離れ、ヒューイに近づく。


「ちょっと、聞きたいのだけど、いいかな?」


その声に反応し、振り返るヒューイ。


「あっ!

 お前は!」


「しー」


「何の用だ?」


「それは、こっちのセリフ。


 あなた達は、人族との関りを、嫌っていた筈だよね

 それなのに、どうして、こんなことをしているの?」


「・・・・・貴様には、関係のないことだ」


「そうもいかないよ。


 あの時、助けてくれたのは、ミーヤだから」


「聞こえていたのか?」


「あんな大きな声で、叫んだら、誰の耳にも届くよ」


「・・・・・そうか」


「それで?」


大方の予想はついている。


しかし、今後のことを考えると

ヒューイからの言質げんちを取っておいたほうが良いと思ったエンデは

答えるのを待つ。


それから、暫くして、ヒューイが口を開く。


「攫われたのだ」


「えっ?」


「仲間と共に、ミーヤは、攫われたのだ」


『何故、そんなことに?』と思ったエンデが、問い掛ける前に

ヒューイが、話を続けた。


ミーヤ達が捕えられた理由。


それは、食料事情が関係していた。


山の奥で、人族と関わらず生活していた山猫族だったが、

最近は木の実などの食料が採れず、

仕方なく、人族の村の近くまで下りて

採取することが多くなっていた。


その日も、ミーヤと友人たちは、

いつものように、人族に見つからないように下山し、

人里の近くで木の実を採集していた。


しかし、その日は、いつもと違っていたのだ。


やることが無く、ただ待機しているだけの日々に

飽き飽きしていたゴンドリア帝国の兵士達が、

山に入り、狩りをしており、多くの兵士が、山中を探索していたのだ。


そこで、ミーヤ達は、見つかってしまう。


ゴンドリア帝国の兵士に発見されたミーヤ達は、

急いで逃げようとした。


しかし、狩りの為に、兵士が持っていた武器は、弓。


次々と矢を射られ、1人、2人とその場に倒れる。


全員が、逃げ切ることは不可能と感じたミーヤは、

仲間と連携して、1人の少女を逃がすことにした。


「お願いだから、このことを里の皆に、伝えて」


そう伝えた後、ミーヤともう1人の少女は、

里とは、逆方向に走り出す。


「いたぞ、こっちだ!」


見つかるように、走ったおかげで

ゴンドリア帝国の兵士達の目が、ミーヤ達に集まり

上手く、逃がすことに成功するが

その代償に、ミーヤ達は、捕えられたのだ。


それからの事は、見ての通りだとヒューイは呟く。



1人逃げ伸びる事の出来た少女が、里に到着するなり、

この事を伝えると、ムーアは、怒りを露わにし、

『今すぐに救出に向かう』と発言したので、

山猫族は武器を手に取り、ヒューイの指揮の元、

人族の村に襲い掛かったということだった。


話し終えたヒューイは、その場から離れ

仲間と共に、捕えられた仲間を探す。


だが、幾ら民家の中を探しても、見つからない。


脳裏に最悪な状況が思い浮かび、額から冷たい汗が流れる。


──どこにいるんだ・・・・・

  生きていてくれ・・・・・



そう願いながら、必死に捜索するが、何処にもいない。


全ての建物を探し終え、残るは、馬房だけ。


ヒューイを先頭に、

馬房の扉を開けると、鼻を衝く匂いが・・・・・・


「うっ!」


生肉の腐った匂いの中に、立ち込める鉄サビの匂い。


紛れもなく、誰かが血を流したことが理解できる。


急ぎ、探索を始めると

馬房の奥に、もう1つ、道具を置くための倉庫があった。


匂いは、そこから流れ出ている。


「ここか・・・・・」


扉に手を掛けるヒューイ。


そして、開いた扉の奥に見えたのは、

鎖に繋がれ、男女違わず全裸にされ、

体中に無数の傷を負った仲間達の姿だった。


「なんてことを・・・・・」


そう思いながら、急いで救出するが、

その中でも、飛び抜けて酷い有様の少女の姿があった。


惨状を目の当たりにして、

慌てて駆け寄る。


「ミーヤ、ミーヤ!

 しっかりしろ!」


『ぴくっ』と指が動いた後

薄っすらと目を開けるミーヤ。


「・・・・・・ヒューイのおじさん?・・・・・・」


「ああ、そうだ。

 

 助けに来たから、もう大丈夫だ」



繋がれていた鎖を破壊し、

仲間達とともに、捕えられていた者達を、

外へと運び出す。


暗闇から抜け出し、日の光のもとに晒すと

傷の酷さがわかる。


「急いで村に連れて帰り、治療をしなければ・・・・・・」


誰が見ても、危険な状態であることには、間違いはない。


全員が、辛うじて、まだ生きている。


──村に着くまで、持つかはわからないが・・・・・


そんな思いに駆られながらも、

ヒューイ達は、近くにあった布をかけて、背負う。


「急いで、村に引き返すぞ」


そう合図をしたとき、声がかかる。


「ちょっと待ってくれるかな?」


エンデだ。


「その子、もしかして、ミーヤ?」


「そうだ、だが、一刻を争う状態なのだ。


 悪いが、話している暇などない」


そう伝えると同時に、走り出そうとする山猫族だったが

エンデが回り込み、それを阻止した。


「待ってって、言っているでしょ」


殺気を放つヒューイ。


「こちらも、冗談では済まない状況なのだ。


 邪魔をするのであれば、容赦は、しない」


ヒューイは、本気だ。


だが、エンデも本気。


ただ、ミーヤを助けたい。


それだけなのだ。


エンデは、怯むことなく、ヒューイの前に立つ。


「僕は、治癒魔法が使えます。


 里に、連れて帰るより、確実に助けることが出来る。


 それとも、人族が嫌いだから、

 生存率の低いほうを選びますか?」


「くっ!・・・・・」


──確かに、エンデのいう通りだ・・・・・

  だが、人族を信じていいのか?・・・・・


自問するヒューイに、人族の大将と思われる男が話しかけてきた。


マリウルだ。


「背負っているのは、怪我人みたいですね?」


「えっ!?」


アンドリウス王国には、獣人を差別する習わしは無い。


その為、毛嫌いする者も少ないのだ。


マリウルが、エンデの横に並ぶ。


「私は、アンドリウス王国軍のマリウルだ。


 背中に背負われている者は、重症に見えるのだが?」



布の間からでもわかる無数の傷と、黒く固まった血の跡。


マリウルは、ヒューイの返事を待たずに叫ぶ。



「救護班!

 急げ、一刻を争うかもしれぬ、早く手当てを!」


マリウルの言葉に従い、武器を持たない救護兵は、

躊躇することなくヒューイのもとまで来ると

背負われていた少女を観察する。


「これは、一刻も早く、手当てをしなければ・・・」


そう告げる救護班の男の言葉を聞き

ヒューイは、エンデに視線を向けた。


「本当に、助けてくれるのか?」


「勿論だよ」


エンデの言葉を聞き、ヒューイは、背負っていたミーヤを地面におろす。



「たのむ、助けてやってくれ・・・・・」


「わかった」


エンデが声を掛ける。


「ミーヤ?」


その声に反応して、目を開けるミーヤ。


「エンデ・・・なの・・」


「うん、今、助けるから」


エンデが、回復魔法を使う。


ミーヤが、淡い光に、包まれる。


すると、今まで受けた傷が嘘だったかのように消えて行く。


この光景を目の当たりにし、感嘆を漏らす一同。


光が治まると、ミーヤの傷は、完全に消えていた。


「『久しぶり』って挨拶をしたいところだけど

 まだ、怪我人がいるから」


そう言い残し、エンデは、次の怪我人へと向かった。



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