第73話ゴンドリア帝国へ  街への突入

城門など、すっ飛ばし、上空から街の中に降り立つエンデ。


すると、タイミング良く、少し離れたところに、

ゴンドリア帝国の鎧を着た兵士たちがいた。


向こうは、まだ、エンデの存在に気付いていない。


何食わぬ顔で近づくエンデ。



「おじさん、おなか減ったんだけど、食料は、何処にあるの?」



突然、後ろから声を掛けられた兵士は、素っ頓狂な声を上げて驚きながらも

エンデに問いかける。


「貴様、どうやって・・・・・

 いや、今までどこにいた?」


「えっ?」


この街の住人は、全員捕らえた筈だった。


だが、エンデが現れたことで、他にもまだいるのではないかと考えたのだ。



「飯が食いたいのか、ならば正直に話せ。


 内容によっては、腹一杯食わせてやるぞ」


そう言い放ち、兵士は、下卑た笑みを浮かべる。


「本当に、くれるの?」


「ああ、勿論だ。


 他にもいるだろ、

 さぁ、言え、何処にいるんだ?」



エンデは、迷いなく、街の外に向かって指を差す。


正直に答えただけだが

兵士は、エンデが、この街の住人だと勘違いをしている為、

ふざけているようにしか思えない。


エンデを睨みつける兵士。


「貴様、揶揄っているのか?

 正直に答えろ!」



エンデの胸倉を掴み、脅しをかける。


そんな事をしていると、

周囲を探索していた他の兵士たちも、続々と集まり始めたが

誰一人として、止めようとはせず

ニヤついた顔で、この状況を楽しみ始めた。



そんな中、遠巻きに見ていた1人の兵士が声を掛ける。



「おい、そいつに剣を渡してやれよ。


 1対1で戦うなんて、面白そうだろ」


ニタニタと笑いながら、そう提案してきた兵士は

エンデに話しかる。


「坊主、お前が勝ったら飯でも何でも食わせてやる。


 但し、負ければ死ぬぞ」


この発言に、暇を持て余していた兵士たちは、盛り上がった。


エンデの目の前に、剣が投げ込まれと

胸倉を掴んでいた兵士は、手を放し

ある程度の間合いを開ける。



「さっさと拾え、これは、1対1の勝負だ。


 何処からでもかかって来い」


言われた通り、剣を拾い上げたエンデ。


兵士も、剣を抜き、ニヤついている。



エンデが、剣を拾い上げると

この遊びを提案した兵士が、『始め!』と声を掛けた。


すると、兵士は、余裕の表情を見せ

エンデに告げる。


「お前から来い。


 相手になってやる」


その言葉を聞き、エンデは、剣を構えた。


「じゃぁ、行くよ」


言葉と同時に、エンデの姿が消える。


実際は、速くて見えないだけなのだが・・・・・


「え?」


驚きと同時に、兵士の首が飛んだ。


先程までの、歓声が嘘だったかのように

突然訪れる静寂。


訳が分からず、兵士達が立ち尽くしていると

その静寂を切り裂くように、

エンデが、周囲で見物していた兵士たちにも

攻撃を開始する。


突然の出来事に、成す統べなく屠られてゆく兵士たち。


『あっ』という間に、多くの兵士が、屍へと変わった。


壊滅と言っても、過言ではない状況にまで追い込んだところで

エンデは、動きを止める。


そして、生き残っている兵士に問う。


「まだやる?

 それとも、食料の場所、教えてくれる?」



生き残る事を許された兵士達に

抵抗する力など、残っていない。


それに、下手に反抗すれば、

目の前に転がる死体が、未来の自分になることなど

容易に想像できる。


武器を捨て、

慌ててエンデの質問に答える兵士。


「あ、あちらです」


食糧庫に向けて、指を差す兵士。


「案内してくれないと殺すよ」


「はいっ!」


生き残った兵士達は、食糧庫に向けて歩き始める。


しかし、しばらく進んだところで、

別部隊の兵士達とぶつかってしまった。


「おい、貴様ら、何をしているんだ!」


エンデに従い、食糧庫までの案内をしていた兵士たちを怒鳴りつけたのは、

この街を任されている部隊長の1人、【メンド】。



「持ち場を離れ、貴様らは、一体何をしておるのだ!」


その場に響く怒声。


メンドの声に、エンデの案内をしていた兵士たちが委縮する。


そんな兵士の遣り取りよりも、

エンデには気になる事があった。


メンド達の最後尾に、鎖で繋がれた女性の姿があったのだ。


エンデが、この街に降り立った時の兵士の言葉から

この街の住人だったと予想が付く。



引き裂かれたようなボロボロの服。


その隙間から、大小、無数の傷が見える。


その様子から、暴行を加えられたことは、明らかだ。



その女性の姿が、エンデの忌まわしき記憶を呼び起こす。


貴族に弄ばれ、傷だらけで捨てられていた母を思い出させてしまったのだ。


──貴様ら・・・・・


静かに爆発する怒り。


エンデの全身を、黒いオーラが包み込む。


すると、考えるより早く体が動き、

メンドの首を切り落とした。


「貴様ら、全員・・・後悔させてやる・・・・・」


エンデの視線の先にいた兵士達は、恐怖にさいなまれ

動くことが出来ない。


そんな中、エンデの姿が消えると同時に、1人の兵士の首が飛ぶ。


「まず1人・・・」


その声を聞き、我に返った兵士達は

武器と同時に、女性を繋いでいた鎖も放り投げ、

叫び声を上げて、逃げ出した。


ただ、ひたすらに、この場から逃げる事だけを考え、

足を動かす兵士達だったが、

そんな事、エンデは、許さない。


直ぐに追いつき、斬り殺す。


次々と、街に響き渡る悲鳴に

兵士達が集まって来た。


多くの同胞の屍を目の当たりにし、

武器を手に取る兵士達。


「敵襲!」


更に、巡回中の兵士を呼び寄せるための笛まで吹いた。


子供相手に、過剰とも思える程の人数が集まると

エンデは、本気を出す。


エンデは、オーラを全開に解き放ち

翼を出して空へと上がる。


空にあがると、兵舎と思われる場所から、

ゾロゾロと出てくるゴンドリア帝国の兵士達の姿が見えた。


その方向に向けて、

『スッ』と左手を伸ばす。


「消えろ・・・・・」


エンデの告げた言葉に従い

兵舎に向けて、黒い塊が放たれた。


野球のボール程度の大きさ程度しかなかった黒い塊だったが

地面に着くと同時に、大きく広がり

周囲の全てを、飲み込み始める。


『うわぁぁぁぁぁ!』


『ひぃぃぃぃぃ!』


叫び声を上げながら、近くの柱に抱き着き、

吸い込まれないように必死になっている兵士達を、

あざ笑うかのように、

その柱ごと、黒い塊は飲み込んでしまう。



どんな抵抗も許さず、全てを飲み込んだ後、

黒い塊は消えた。


残ってたのは、更地となった地面だけ。



しかし、先に兵舎から飛び出し、

生き延びることの出来た兵士達は、

この場所に向かっていた。


エンデが、その一団を目にすると

今度は、右手を前に出す。


そして、上空に向けた。


『慈悲無き世界に、裁きの雨を・・・・・』


その言葉に従い、空を覆う程の光の矢が出現する。


「おい・・・・・」


この異様な光景に、兵士達は、

呆然と見上げる事しか出来ない。


そこに聞こえて来たのは、エンデの声。


『今こそ、裁きの時』


振り下ろされる右手。


雨のように降り注ぐ光の矢。


慌てて隠れようとしても

その障害物ごと、光の矢は射貫き、命を奪った。




たった、数分の出来事で、

この街に、巣くっていたゴンドリア帝国軍は壊滅した。


地上に降り立つエンデは、蹲っている女性に近づく。


「大丈夫?」


声を掛けるが、女性は怖がって話せる状態ではない。


「ごめん・・・・・後で、また来るね」


そう言い残し、その場から離れるエンデ。




少し、歩いたところで辺りを見渡す。


「外した筈だよな・・・・」


独り言のように呟くと、

先程、真っ先に案内を始めた兵士を探した。


「あっ!

 いたいた」


『助けて、助けてください、

 ごめんなさい、心を入れ替えますから・・・・・・』


うずくまり、独り言を呟く兵士の肩を叩き、声を掛けるエンデ。


「ねぇ、案内してよ」


「へっ?」


思わず、変な声を上げる。


「案内するって、言っただろ。


 だから、案内してよ」


「はっ、はい!」


生き残ったことに安堵する兵士は

ゆっくりと立ち上がると、食糧庫に向けて歩き出した。


道中、嫌でも目に付く、無数の屍。


同じゴンドリア帝国の兵士だが、

今は弔ってやる事も出来ない。


それどころではないのだ。


兵士は、案内の為だけに、殺されずに済んだことを理解している。


だからこそ、それ以外の行動が出来ない。


──この少年の気に障ると、俺も・・・・・


無数の死体を眺めながら、兵士はそう思った。


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