第68話ゴンドリア帝国軍 裏切り者

謁見の間での話し合いが終わると、

エブリン達は、兵舎の手前にある、広場へと案内される。


そこには、積み上げられるように、

食料が準備されていた。


だが、それだけではなく、兵舎が近いということもあるのか

多くの兵士も集まっていた。



彼らの目は、この食料を託すというには、ほど遠く、

完全に、敵を見る目で、

遠くからは、ひがむ声も聞こえてくる。


「あんなガキに、本当に運べるのかよ・・・・・」


「どういうつもりなんだ・・・・」


「ここは、子供の遊び場じゃねぇんだよ・・・・・」


その声を耳にして、ダバンが反応する。


「あ奴ら・・・・・」


直ぐにでも、殴りかかりそうな雰囲気を醸し出す。


「まぁまぁ、いいから」


笑顔で宥めるエンデ。


「だが、主・・・・・こ奴らは・・・・・」


「うん、わかってる。


 まるで、僕達が敵みたいだね」


エブリンも同じように感じ、集まっている兵士達を睨みつけている。


そんな雰囲気の中

グラウニーが、第1王子のアランと王女サーシャを連れて

姿を見せた。


3人を見つけ、『スタスタ』とグラウニーに歩み寄ったエブリンは、

グラウニーの正面に立つ。


「叔父様、準備が出来たようですわね」


「ああ、すまないが、この食料を運んでほしいのだ」


目の前に積まれた大量の荷物を指差しながら、エブリンに告げた。


だが・・・・


「ごめんなさい、叔父様。


 この依頼、やっぱりお断りすることにするわ」


突然の辞退の申し出に、困惑する3人。


その中から、王子アランが問いかける。


「エブリン殿、それは、どうしてでしょうか?」


アランの質問に、エブリンが答えた。


「どうやら、この食料を、私たちが運ぶことに

 不満に思っておられる方々が多いようですので、

 私たちは、辞退を申し上げたまでです」


「不満だと!」


エブリンの話を聞き

アランより先に、グラウニーの目つきが変わる。


グラウニーは、集まっている兵士達を

一睨みした後、兵団長を呼びつけた。


「【キルード】、キルードは、おるか!」


呼びつけられた【キルード モンスーン】は、

この統括兵士団の団長であり

この国の軍部を統括する男だ。


グラウニーに、呼びつけられたキルードは、

不満そうな顔を隠しもせずに、姿を見せる。


「これはこれは、宰相殿。


 何か御用でしょうかな?」


不満を見せる兵士達を咎めることもなければ

悪びれる様子もない。


「御用もなにも、これはどういう事なのだ!

 貴殿は、陛下のご命令に、背くつもりなのか!?」


「ご冗談を・・・・・

 陛下のご命令に、背く気など、御座いません。


 ですが、この大事な任務を、我らでなく、

 そこの子供に任せるという事に

 いささかの不満を感じておりましてな」


「なんだと!」


「失礼を承知で、言わせていただくと

 我らとて、この国を守る者としての自負が御座います。


 だからこそ、この一大事を、子供に任せてしまい

 我らのことを、蔑ろにされれば、多少の不満もありましょうぞ」



 至極真っ当とも思える意見だが、

 キルードも、それでは、間に合わないことが分かっている筈だ。


それなのに、不満を口にするキルードに

グラウニーが問う。


「ならば、貴殿は、どうしたいのだ?」


グラウニーの問いかけに、皆に聞こえるように

声を大にして、キルードが告げる。


「あまり時間も無い事ですし、

 ここは、代表者3名による模擬戦で決着をつけては、如何ですかな?」


その発言に、歓喜の声を上げる兵士達。


「ちょっと待て、3名という事は、エブリンも入っておるのか?」


「そうでしたな、そちらは少女を合わせて3名でしたな」


ニヤついた表情で、返答するキルード。


──こ奴、わざと・・・・・・


キルード モンスーン。


中年のいけ好かない男だが、実力は本物。


だが、グラウニーは、好ましく思っていない。


あまり時間が無いことも、わかっているはずなのに

このような提案を申し出るあたりが、

グラウニーは、気に入らないのだ。


しかし、この提案に乗ることが、決着をつけるにあたり

一番の近道でもあり、

同時に、キルードの鼻を明かすことも出来る。


そう考えたグラウニーは、納得した振りをして

一つだけ条件を出すことにした。


「よかろう、だか、そちらの提案ばかりを呑むのでは、些か不公平ではないか」


「ほぅ・・・・何が言いたいのですか?」


「代表が3人だというのは、構わない。


 ただ、勝った場合は、その者が、次の相手も出来る事にして頂きたい」


「まぁ、それくらいは・・・・・いいでしょう」


キルードが、その提案を受け入れた為

時間の押し迫る中、3対3の代表戦が始まった。



先鋒に名乗り出たのは、ダバン。


次鋒に、エンデ。


大将がエブリンという当然の順番で、

エンデ達は、戦いに挑む。


「主たちの出番はありません。


 俺が1人で、決着を付けます」



そう言い残し、ダバンが前に出ると

兵士達の間から、一際、大きな男が現れて、舞台に上る。



「儂は、【ゴードラ】。


 貴様の名前を聞こう」


「・・・・・ダバンだ・・・・・」


面倒臭そうに答えたダバンの態度に、

ゴードラの眉が『ピクッ!』と動いた。


「貴様、生きて帰れると思うなよ」


そう告げると同時に

始まりの合図も待たずに、ゴードラが襲い掛かる。


その攻撃を、軽々とかわしたダバンは

すれ違いざまに、腹部に一撃を加えた。


「うげっ・・・・・」


その一撃で、体をくの字を曲げて、嘔吐するゴードラ。


周囲に立ち込める酸味の利いた匂いに、

周りの兵士達も顔をしかめて、距離を取る。


無様な醜態を晒したゴードラは、

その後、立ち上がることが出来ず、退場した。



次に舞台に上って来た男は、見た目は普通の男。


また、先程のゴードラと違い、防具も着けていない。


そんな男に、ダバンが告げる。


「先程の奴を見ただろう。


 降参するなら、今だぞ」


ダバンの忠告を受けた男は、笑みを浮かべる。


「その必要はありませんから、ご心配なく」


男は、そう言うと手鉤を装備する。


「私は、【モド】

 さぁ、始めましょう」


合図と同時に、距離をあけたモドは

ダバンの様子を伺っているのか、

距離を詰めようとはしない。


静まり返る中、モドが笑い出す。


『キヒィヒィヒィ・・・・・』


その様子から、まともとは思えず

本当に、この国の兵士なのかと疑ってしまうダバン。


お互い、睨みあう状態の中、

突然、モドの足元から、怪しげな煙が噴き上がり始める。


ゆっくりと地を這い、広がり始めた煙は、

甘い香りをばら撒きながら、徐々に、上へと昇り、

広場と共に、ダバンを包み込んだ。


「これはなんのつもりだ!?」


煙の甘い香りを嗅ぎ、一瞬、毒を疑ったダバンだったが

体に、問題が無かった為、気にするのを止めた。


だが、視界は、完全に塞がれている。


そんな中、足音を消し、距離を詰めるようにモドが動く。


すると、見えているかのように、ダバンも動いた。


「ほぅ・・・」


モドが、再び距離をあける。


「どうした?

 貴様の攻撃は、これだけだったのか・・・

 ならば、こちらから行くぜ!」


一気に距離を詰めようとするダバン。


しかし・・・・・


体が、思うように動かない。


「な、なに!」


『キヒヒヒヒヒ・・・』


「効いてきたようですね」


モドは、甘い香りのする煙を撒き、

ダバンの鼻の感覚を麻痺させた後

同じ、甘い香りのする毒煙を、撒いていたのだ。


そのせいで、先頭で観戦していた兵士達も、徐々に、倒れ始めた。


「貴様、仲間までも、巻き添えにするつもりか・・・・・」


ダバンが、そう問いかけると、モドは笑みを浮かべて答える。


「犠牲は、つきものです。


 それより、そちらの方々は、大丈夫ですか?」


笑みを浮かべたまま、視線をエンデ達へと向けるモド。


つられて、ダバンもエンデ達に視線を向けると

そこには、エンデに守られているエブリンとグラウニーと

第1王子のアランと王女サーシャの姿があった。


「なにっ!!!」


「流石、主だ・・・」


体が、完全に痺れ、今にも倒れそうなダバンだったが

その光景に、安どの表情を浮かべた。


だが、それとは逆に、モドは、怒りを滲ませている。


「まとめて、始末するつもりが・・・」


聞き逃せない一言を聞き、グラウニーが、キルードに問いかける。


「キルード、これはどういうことだ!

 これは、模擬戦ではないのか!?


 それに、始末とは、どういうことだ!」


問いかけられたキルードも、始末など考えてもいなかった。


キルードも、模擬戦のつもりだったのだ。


だが、確かにモドは、『始末』と言った。


それに、現状、毒をばら撒かれ

仲間の筈の兵士達も血を吐き、

次々と、倒れている。


その光景に、キルードが、慌てて命令を下す。


「モド、攻撃を中止せよ!」


その命令に対するモドの答えは・・・・・

毒煙の大量放出だった。


「貴様らは、ここで死ね!


ゴンドリア帝国に歯向かった報いを受けよ!」


モドは正体を明かすと、笑いながら、放出を続ける。


次々と倒れる兵士たち。


キルードは、信じていた部下が、

ゴンドリア帝国の手の者だと知り、愕然とするが、

このままでは、大勢の兵士が犠牲になってしまうと思い

モドに向かって、攻撃を仕掛ける。


「ゴンドリアの手下め!」


剣を振りかざし、モドに迫るキルード。


だが、その攻撃も無駄に終わる。


辿り着く前に、毒を吸い、倒れてしまったのだ。


「キヒヒヒヒヒ・・・本当に、馬鹿な人ですね」


倒れたキルードを見ながら笑うモドだったが

突然、何かが、真横を通り過ぎると、その笑い声が止んだ。


そして、首が落ちる。


一瞬にして、首を刈られ、屠られたモド。


何が起きたのか、理解が出来ないキルード。


だが、煙が消えてくると、その正体が明らかになった。


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