第66話ゴンドリア帝国軍  露見

久しぶりに学院に到着したエンデ。


馬車を降りた後、校舎に向かって歩きながら

辺りを見渡すが、たかが数週間で、景色が変わるはずもなく

普通に、通学する生徒たちの姿があるだけで、

何も変わりはない。


だが、教室に入ると、空気が重く

皆も、沈んでいた。


その理由は、授業が始まると、直ぐに分かった。


所々、空席があるのだ。


この空席は、ゴンドリア帝国に関係あった

貴族や商人の関係者の席。


正確には、子息、子女の席。


貴族という立場を失うと同時に

金銭も、ほぼ没収された。


その為、学院に通うことが出来なくなり

こうして空席となったのだ。


それでも、授業は、何事もなく進み

午前の授業を終えたとき、エブリンが姿を見せる。


「エンデ!」



教室に入ると同時に、声をかけてきたエブリンは、

ツタツタと足音を立てながらエンデに近寄ると

腕を掴んだ。


「行くわよ」


それだけ伝えて、腕を引いた。


「お、お姉ちゃん?」


驚きながらも、エブリンに従うエンデ。


エブリンは、校舎を抜けると、

学院の入り口に停めていた馬車に乗り込む。


「どこに行くの?」


「叔父様のところよ」


「でも、さっきまで居たんじゃないの?」


「ええ、でも、叔父様が、貴方の話も聞きたいというのよ」


「そうなんだ。


 なら、ダバンも連れて行こうよ」


エブリンは、その意見を尊重し、

一度、屋敷に戻り、ダバンと合流することにした。



ダバンは、いつものように、庭で休んでおり

直ぐに合流できたおかげで、思ったより時間がかからず

グラウニーの屋敷に到着した。


入り口に馬車を止め、3人が降りると、メイドが近づいてくる。


「エブリン様!」


駆け寄ったメイドの話によれば

急な呼び出しを受けて、

グラウニーは、城に向かったというのだ。


「なにがあったのかしら・・・・・」


エブリンは、そう思いつつ、再び馬車に乗り込む。


向かう先は、

グラウニーが宰相として働いている王城。


グラウニーを追うように、城に向かっているが

エブリンは、あることを思い出す。


「ねぇ、私たち・・・・・約束していないわよね・・・・・」


「うん・・・・・」


突然、城に出向いたところで、面会させてもらえるのか不安になるが、

ここまで来て、引き返すという選択肢はない。


「まぁ、出たとこ勝負ね、ここは任せておきなさい」


「うん、よろしく」


姉に対し、絶対の信頼を寄せているエンデが、疑う事はない。


ただ、ダバンだけは、不安そうな表情をしていた。




城に到着し、門の所で馬車を止める。


すると、通路を塞いでいた門兵が馬車に近づいてきた。


扉を叩く門兵。


「失礼致します。


 本日は、どのようなご用件でしょうか?」


誰が乗っているかわからない為、門兵は、丁寧に話しかける。


扉を開け、出て来たのは、綺麗なドレスを纏った美少女。


その顔には、門兵も見覚えがあった。




「エブリン様でしたか・・・・・

 本日は、どういった御用でしょうか?」


「叔父様に会いに来たのよ。


 通してもらっていいかしら」



何時もなら、ここで


『失礼致しました。どうぞ、お通り下さい』と

返事が返ってくるのだが、

今日は、違っていた。



「宰相のグラウニー様ですね。


 申し訳御座いません、確認を取って参りますので、

 ここでお待ちください」



門兵は、一礼すると、急いで城内へと向かう。


思わずため息が漏れるエブリン。


貴族だとわかった上で、門の前で待たせるなど、あり得ない話。


だが実際に、貴族であるエブリン達は、門の所で待たされているのだ。


──何かあったのね・・・・・


エブリンは、近くにいた先程とは違う門兵を呼びつける。


「何か御用でしょうか?」


畏まった様子の門兵にエブリンが問いかけた。


「これって、何があったの?」


「えっ!?」


驚いた表情を見せる。



「普通、私達を、こんなところに放置なんてしない筈よ。


 それでも、事実として、私たちは、ここで待てされている。


 そんなの、何かがあったと考えるほうが自然よ」



確かに、上の命令に従い、この様に対応しているが、

これでは、城に顔を出した全員が、何かあったと捉えてしまう。


気まずそうな顔をする門兵。


仲間に助けを求めるが、

『子爵』にこの状況で関わるのは得策ではないと判断した兵士達は、

見て見ぬふりを貫く。


「おい・・・・・」


助けを得る事の出来なかった門兵。


『誰にも言わないで下さい』


そう告げて、どうしてこうなっているのかを、エブリンに伝える。


内容は、ゴンドリア帝国が攻めて来ていたので、厳重に警備しているとの事だった。



「ふうん・・・・やっぱり、そう言う事だったのね。


 だったら、話が早いわ」


『叔父様の所に、案内しなさい』と告げる。



「ですが、それは・・・・・」


慌てて話を最初に戻し、待機するようにお願いをする兵士。


しかし・・・・・


「無理よ、それに無関係とは、思えないから・・・・・

 いいから、早く通しなさい!


 これ以上の邪魔は、『不敬罪』として、処罰するわよ」


おもっいっきり睨みつけるエブリンに、思わず後退りする門兵。


『不敬罪』だと言われ、これ以上ここに留まらせる訳にもいかない。


「し、失礼致しました。


 直ぐに、ご案内致します」


城内に向かった同僚が戻って来るのを待たず、

城の入り口に向けて歩き始める門兵。




他にも門兵はいたが、先程の会話の内容を聞いていた為、

誰も近づこうとはしなかった。




丁度、城の入り口に辿り着いた時、

先程、面会の予定を伺う為に、城に向かった門兵と鉢合わせになる。




「お待たせしてしまい、申し訳御座いません。


 宰相様とご一緒に、陛下もお会いになるとの事です。


 ここから先は、この者が案内致します」


よく見ると、門兵の後ろには、メイド服を着た女性が立っていた。


エブリンと目が合うと女性は、頭を下げる。


「エブリン様で、いらっしゃいますね・・・・・・

 そちらは、次期ヴァイス家当主エンデ様、それから・・・・・」


「ダバンだ」


女性は、『コホン』と咳払いをした後、ダバンと挨拶を交わした。



「ここからは、私【サレア】がご案内いたします。


 陛下が謁見の間でお待ちですので、どうぞこちらへ」



サレアの案内に従い、ゆっくりと城の廊下を歩く。


何度も通った事のある廊下だが、今日はやけに兵士の姿が目に留まる。


──想像以上に、大事になっているのかしら?・・・・・


そう思っているうちに、謁見の間へと辿り着くと

メイドが、話しかけてきた。




「私の案内は、ここまでです。


 中で、陛下と宰相様がお待ちです。


 どうぞ、お入りください」


サレアは、そう言い残して、去っていった。



エブリンは、謁見の間の扉の前に立つ兵士に伝える。


「開けてください」


「はっ」


兵士が扉を開けると、エブリン達は、謁見の間に足を踏み入れた。


「エブリン様が、ご到着致しました」


その言葉を合図に、エブリン達は、ゾロゾロと奥へと進む。


謁見の間の壁際には大勢の兵士、

また、陛下や宰相の居る正面にも、護衛がついており

武装を施した兵士の姿もあった。


「なんか、物騒だね。


 もしかして、僕たち、敵かなんかだと思われているの?」


エンデのその言葉に、ダバンが反応する。


「そうであれば、容赦は致しません。


 必ず、主をお守りいたします」


2人の会話に、エブリンが突っ込みを入れ、釘を刺す。


「違うわよ、何かあったから、こうして武装した兵士を置いているのよ。


 私達を敵と思っているわけではないから、余計な事はしないように」




エンデは、『は~い』と返事をし、エブリンに従い歩く。


そして、定位置に到着すると、足を止めた。


膝をつき、頭を下げる。


「陛下、この度は、急な面会に答えて下さり、誠に有難う御座います」


国王であるゴーレン アンドリウスは、『うむ』と頷き、言葉を返す。


「そう畏まらなくてよい。


 グラウニーに会いたいとの事だったので、私も同席させてもらったのだ」


陛下に続き、グラウニーが言葉を発する。


「それで、早急な用と見えるが、どうしたのだ?」


『それは、こっちのセリフ』だと

エブリンは、口から出そうになる。



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