第65話ゴンドリア帝国軍 バルド

バルドが、意識を取り戻すと

そこは、暗く冷たい石畳の上だった。


両手両足は、拘束されているようだが

怪我は、治療されており、生きている。


同時に、自分の置かれている状況に気が付く。


「捕まったのか・・・」


諦めたかのように、溜息をつくバルド。



バルドが囚われているのは、

エンデたちの住む屋敷の地下。


簡単な治療を施した後、意識を失っているうちに

ダバンが、運び込んだのだ。


バルドが、辺りを見渡していると、声がかかる。


「おっ!

 起きたようだな」


声の主は、ダバン。


ゆっくりとバルドに近づく。


「色々聞きたい事があるから、生かした。


 あんたは、何者だ?」


ぶっきらぼうに問いかけるダバンに対して、

バルドは、顔を背けようと体を動かす。


その態度は、答える気がないと言っていると判断され

バルドは、顔面を殴り飛ばされた。


『ぐはぁぁぁ!』


拘束している鎖のせいで、

その攻撃を躱すことも、ガードすることもできなかったバルドは

顎の骨が砕けたと思える程の衝撃を受け

脳が揺れた。


『アガガガ・・・』と

言葉にならない声を発しているバルドの開いた口に

ダバンが、小瓶に入った液体を流し込む。


すると、体が跳ね上がり、意識が薄れてゆく。


「おい、聞こえるか?」


ダバンが問いかけると、

半分白目をむいた状態になったバルドが返事をする。


「・・・はい」


──上手くいったのか?・・・・・

  まぁ、返事をしたなら、大丈夫だろ・・・・・


そんなことを思いながら、空いた小瓶を放り投げる。


小瓶の中身は、自白剤とのこと。


ダバンも、詳しくは知らないのだが

バルドを屋敷の地下に運び込んだ時、

『困ったときは、これをお使いください』と言われて

メイドのアラーナから、手渡された物なのだ。


半分白目をむいたままの状態で、視界の定まっていないバルドに

ダバンは、尋問を開始する。


「おい、聞こえているなら、もう一度返事をしろ!」


「・・・はい」


「お前は、どこの誰だ?」


薄っすらと残る理性で、必死に抵抗を試みるが

そんな思いすら、無駄に終わる。


自身の意識とは、関係なく、勝手に口が動き始めた。


「・・・俺は、ゴンドリア帝国の者だ。


 この街に来たのは・・・・・・」


バルドが、発したのは

想像される中で、最悪の答えだった。


未だに、ゴンドリア帝国の手の者が、

残っているというのだ。


同時に、今回のターゲットが、エンデだと知る。


その言葉に、ダバンは、今まで見たこともない程の怒りを露わにして

バルドの胸倉を掴んだ。


「主の事を誰から聞いた?

 言え!!!」


エンデの事を知ることが出来るのは、王族か貴族。


他には城に出入りしている一部の者だけ。


バルドの胸倉を掴む手に、力が入る。


「言え!」


そう叫んだが、薬が効きすぎたのか

バルドは、完全に白目をむき、モゴモゴとつぶやいている。


「おい、これ、大丈夫か?・・・」


まだ、尋問の途中。


ダバンが、不安に思っていると、突然、扉が開き

エンデとエブリンが入ってきた。


「そのおじさん、なにか喋った?」


いつもと変わらぬ調子で、問いかけるエンデ。


その横には、エブリンもいる。


「この人が、今回の?」


「うん、この屋敷を見張っていたんだ。


 だから連れて来た」


「そう・・・・・

 それで、何か喋ったの?」


「ああ、こいつはゴンドリア帝国の者だ。


 それと、今回の狙いは、主の殺害だ」


『主の殺害』


その言葉を聞き、エブリンの眉が『ピクリ』と動いた。


「エンデの事を・・・・・」


ゆっくりとバルドに近づくエブリン。


エンデの事になると見境の無くなる姉。


「貴方、この子の事、誰から聞いたの?」


バルドを見つめる美少女。


綺麗なドレスを着ていて、この場には、似つかわしくない筈なのだが、

その表情だけは、拷問官のように見えて、似つかわしい。


「答えなさい」


大声で怒鳴る訳でもなく、淡々と発する声に、些かの恐怖を感じる。


だが、薬が効きすぎて、相変わらず白目をむき

モゴモゴしているバルド。


「ふっ・・・答えられないのね」


鼻で笑う。


「おじょ・・・・」


ダバンが声をかけようとしたとき、

エブリンが、バルドの頬を叩く。


『パンッ!

 パンッ!パンッ!パァンッ!パァァァンッ!パァァァァァンッ!!!』」


何度も何度も、力強く両頬を叩く。


すると、バルドの意識が、少しだけ戻る。


「さぁ、答えてちょうだい。


 あんた、エンデのこと、誰から聞いたの?

 それと、仲間のことも、話しなさい!」


「フガ・・・・・

 し、知らぬ・・・・・

 仲間・・・・・ギドルに、聞いてくれ・・・」


──ギドル・・・・・


「ギドルって誰よ?

 答えなさい」


「ギドル商会・・・・・」


ギドル商会の名前は、エブリンも知っていた。


「ギドル商会が、貴方の関係者で、間違いないのよね」


「・・・・・はい」


その言葉を聞き、エブリンは、この場を離れた。


取り残された2人は、顔を見合わせる。


「主よ・・・」


「うん、相当怒っていたみたいだから、

 勝手に、動かないほうがいいみたい・・・・・」


「だよな・・・」


本当なら、直ぐにでも、ギドル商会に乗り込みたいところだが

今、勝手に動くと、エブリンの怒りを買うことになる。


それが、容易に想像ができた2人は、大人しく待つことに決めて

バルドを放置したまま、部屋から出ていった。


 

それから、しばらくして、自白剤の効果が薄れたおかげで

バルドの意識がはっきりとし始めた。


「俺は、何を・・・・・」


両手両足を動かしてみるが、

拘束は、解かれていない為、ある程度しか動かせない。


「クソッ!」


悪態をつきながら、必死に藻掻いていると

尋問室の扉が開く。


「そろそろだと思って参りましたが

 予定通りですね」


「あの・・・今回は、お三方が終わらせたと思うのですが・・・・・」


「確かに、あの方々に、お任せはしましたが

 取りこぼしがあってはなりません。


 それに、本来は、私達の仕事です。


 ちょうど、よい具合に目覚めているようですので

 ここからは、私達で・・・」


「はい、頑張ります!」


2人は、手袋を装着すると、ゆっくりとバルドに近づく。



バルドの地獄は終わらない。


ここからが、本当の意味での尋問の始まりだった。



2人の尋問は朝方まで続き、全てを吐きだしたバルドの髪の色は、色素が抜け落ち、

白く変化していた。


呼吸も、かろうじてしているだけで

意識も、朦朧としており

自分の名を語ることも難しい。


そんな状態のまま、牢獄へと移され

『もう、用はない』

そう言わんばかりに、放置されている。



バルドの尋問を終えた2人は、いつものように

朝食の準備にとりかかっていた。


太陽が昇り、いつもの時間になると

食堂に、いつもの面々が、顔を出す。



先に姿を見せたのは、ヘンリエッタとジャスティーン。


「おはようございます」


アラーナとエリアルは、挨拶をした後

椅子を引く。


「ありがとうございます」


2人が、席に着くと

スープが、注がれ、朝食が始まった。



それから暫くして、眠そうなエンデとダバンが姿を見せる。


「おはようございます」


「うん、おはよう」


寝ぼけまなこで、挨拶を返したエンデは、促された席に腰を掛けた。


「あれ、エブリンは?」


「お嬢様は、朝方早く、お出掛けになりました」


「どこに行ったの?」


「グラウニー様のお屋敷です」


「そうなんだ・・・」


「はい、それで、お嬢様から伝言を預かっております」


「伝言?」


「はい。


 遅刻せず、学院に行くようにと」


「あ、うん、わかった」


確かに、停学が解けた後も

何かと忙しくて、学院には、通えていなかった。


行かなければならないことは、理解しているが

昨日は、バルドのこともあって、今日は寝不足。


その為、休むつもりでいた。


だが・・・


「お嬢様も、後から向かうとのことでした」



エブリンのその一言で、

その選択は、失われた。


諦めて、学院に通うことを決め、食事を摂っていると

ヘンリエッタが、尋ねてきた。


「昨夜は、また、何かありましたの?」


この屋敷のことは、包み隠さず伝えるようにしているので、

エンデは、素直に答える。


「うん、また、この屋敷を見張っている者達がいたんだ」


「そうですか・・・・・」


「どうかしたの?」


ヘンリエッタとジャスティーンは、顔を見合わせた後、

口を開いた。


「ええ、もうすぐ学祭ですので、

 せめてそれだけでも参加できればと思いまして」



「そっかぁ・・・・・」


確かに、前に手渡された行事予定表には、

そんなことが書かれていた。



5日間にわたって開催される学祭。


王都の行事の1つだ。


その為、一般の方の来場も許されており、

毎年、多くの人々で、賑わっている。



そんな、1年に1回の行事、エンデだって、参加したい。


しかし、ゴンドリア帝国のせいで、それどころではない事も事実。


朝食を終え、学院に向かう馬車に乗り込んだ後も

エンデは、考えていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る