第63話ゴンドリア帝国軍 嵌った者

先行して、ギドルが偵察を進めていたおかげで、

既に、エンデの屋敷は判明していた。


そのおかげで、直ぐに行動に移すことができた。


モンタナは、エンデの屋敷を見張るように

配下に指示を出す。


「【バルド】、3人を連れて屋敷を見張れ」


名を呼ばれたバルドは、

その言葉に頷き、立ち上がる。


「行ってくる・・・・・」


それだけ告げて、部屋を出ていこうとするバルドに続いて

3人の男が部屋を出ていく。


4人が出て行った後、モンタナは、他の部下達にも

指示を出す。


「残った者達は、街に出て、情報を集めろ。


 それから【マド】、

 お前は、ゲインとか言ったか、あれの様子を見てこい」


「へい」


それぞれ指示を受けた暗殺部隊の面々が出ていくと、

1人になったモンタナのもとに、ギドルが姿を見せる。


「モンタナさん、私にも出来る事がありましたら、

 お手伝い致しますが?」


「お前は、今まで通り、商人として情報を集めてくれればいいが

 もし、可能なら、王家の情報も手に入れてくれ」


「かしこまりました」



ギドルは、モンタナからの命を受け、1人の貴族のもとを訪れる。



【チャコール ベクター】男爵。


彼は、ゴンドリア帝国との関係はない。


むしろ、アンドリウス王国に忠誠を誓っていると言ってもよい男だ。


しかし、領地も無く、才能にも恵まれなかった彼は、

貴族でありながら、日々の生活に困り、ギドルから金を借りていた。


その為、ギドルに頭が上がらない貴族なのだ。



建前上、ギドルは、家族や人前では、チャコールを貴族として扱っているが

2人になると立場が変わる。


「ギドル殿、今日は何用で?」


「ちょっと、力をお貸しいただきたいと思いまして・・・・・・」


その言葉を聞き、チャコールの顔色が悪くなる。


今までも、こういう言い方の時は、決まって厄介ごと。


『人を攫え』だの、『あの商店を潰せ』など、表に出れば捕まる案件ばかりだった。


「それで、私に何を?」


「はい、チャコール様のご子息が、

 王城で働いているとお聞きしておりますが・・・・・・」



その言葉を聞き、驚いた表情になったチャコールは、ギドルに問いかける。


「貴様、陛下に何かするつもりなのか!」


流石に金を借りている身とはいえ、もしそうなら、看過出来る筈がない。


だが、ギドルは首を横に振った。


「いえいえ、陛下に何かするなど、恐れ多いです。


 私はただ、商人として、色々な情報が欲しいだけです」


 「それは・・・・・・」


ギドルの言いたいことが分かった。


チャコールの子息である【マリオール】に、

城内の様子、動向を探らせるつもりなのだと・・・・・


「ま、待ってくれ、それだとマリオールに・・・・・」


「確かにそうですね、貴方の借金・・・

 いえ、貴方様のお家事情といいますか、

 ベクター家が、既に破綻しており、多額の借金を負っていることが

 ご子息に露見してしまいますね」



「ああ、だからそれは・・・・・」


ギドルは、再び笑顔で答える。


「では、仕方ありません。


 お貸ししている金銭を、今すぐ返していただきましょう。


 まぁ、そうなれば、ご子息だけでなく、奥様や他の貴族の方々にも、

 知れ渡るでしょうけど・・・・・・」


ギドルは、笑顔のままそう告げる。


瞳の奥は笑っていない。


チャコールは、ギドルが本気だと直ぐに分かったが、即答は避けた。


「少し時間をくれないか・・・」


ギドルに待つつもりなど微塵も無かった。


本音を言えば、直ぐにでも返事が欲しい。


ギドルも成果を欲しているのだ。


だが、焦っては駄目だと思い、1日だけ待つことにした。


「わかりりました。


 ですが、こちらも急いでおりまして・・・・・

 そうですね、明日、もう一度、お伺いいたします。


 その時は、良い返事を伺えることを期待しております」


「わかった、今晩、息子に話すことを約束しよう」




ギドルが帰った後、チャコールは溜息を吐いた。


実際、ベクター家には金が無い。


その理由の1つが、話に出てきた息子、マリオールだ。


元々賢い方ではなかったマリオールを、学園に通わせるだけでなく、

留年させず、卒業させるために多額の寄付や賄賂を贈った。



そのおかげで、仕事も王城という好待遇の場所を紹介されたのだが、

この就職にも、試験管や面接官に賄賂を贈り、

裏から手をまわしたものなのだ。


爵位が高ければ、声を掛けるだけで優遇されて、

就職できるかもしれないが

男爵だと、そうはいかない。



男爵の息子など、学園の紹介があっても、優遇などされる筈が無い。


だから、多額の金を用意したのだ。


勿論、チャコールがそういう行動に出る事も、学園側はわかっていて

紹介したのだが・・・・・・


同時に、男爵であるチャコールが、そんな金を用意出来ないこともわかってる。


その金を用意したのはギドル。


ギドルを紹介したのは、『親切』を装った貴族。


その貴族から、ギドルは、貴族相手なら、

無利子で金を貸してくれるというのだ。


その話を聞いたチャコールは、直ぐに連絡を取った。


ギドルは、チャコールからの頼みを、嫌な顔1つ見せず了承し、

その場で現金を渡した。


噂は、本当だったのだ。


笑顔で金を貸してくれるギドルに、チャコールは勘違いをする。


ギドルを紹介してくれた貴族に聞けば、借りた金は返していないと言った。


その事から、『貴族だから優遇されている。


私のような貴族を味方につける為に、金をばら撒いているのだな・・・・・』と

勝手に思い込み、返すあても無いのに、

ちょっとした事でも簡単に金を借りるようになっていった。



元々、ギドルは、ゴンドリア帝国の人間だ。


その為、国の利益に繋がる情報を得る為の手駒が欲しかった。


そこで、目をつけた1つが、ベクター家。


勿論、紹介した貴族もギドルの仲間である。


その事に気付かず、勝手な思い込みで、金を借りまくっていたチャコール。


気付いた時には遅かった。



ある時、突然ギドルが屋敷を訪ねて来た。


チャコールは、普段通り、ギドルを屋敷に招き入れ、応接室へと案内をする。


ソファーに腰を掛け、一息つくと、

ギドルが話を切り出す。


「少々、困った事がありましてね、

 出来ればチャコール様のお力をお借りしたいのです」



金を借りているチャコールは、出来るだけの便宜を図ればいいだろうと思い。


『この私に、出来る事なら、お力になりますよ』


そう答えたのだが、ギドルから返って来た返事は、予想外の言葉だった。


「『出来る事なら』では、困ります。


 貴方様には、やって頂かないと・・・・・」


お願いではない。


『やれ』と言っている。


一瞬、呆気にとられたチャコールだったが、直ぐに我に返り問い直す。


「それは、貴族である私に命令をするということか!?」


少し怒気を孕んだ様に言い放ったが

その言葉を聞いても、ギドルは、慌てた素振りすら見せない。



「確かに、貴方様は貴族様。


 ですが、私が、貴方に貸し付けている金を全額回収すれば、

 どうなると思いますか?

 勿論、私の後ろには、子爵様もついておりますことも忘れずに・・・・・」


笑顔で言い放つギドルの態度を見て

この時に初めて気が付いた。


『自分は、嵌められた』んだと。


金に困っている貴族を手駒にするには、この方法が一番だとギドルは知っている。


だからこそ、手駒になりやすい爵位の低い、金に困っている貴族に近づいた。


そして、今回選ばれたのが、ベクター家だっただけだ。



子爵までもが、ギドルの仲間だったと知り、

脅しも、無碍にすることも不可能だと悟るチャコール。


「私に、何をさせたいのだ?・・・・・・」


諦めたように、吐き出した言葉を聞き、ギドルの顔が歪む。


──いつ見ても、この瞬間が堪りません・・・・・

  最高の瞬間です・・・・・


  今まで、威張っていた貴族が、また1人、この私の奴隷・・・・・・



この時から、チャコールは、ギドルの言いなりとなり、現在に至る。


そして、今回も・・・・・




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