第62話ゴンドリア帝国軍 侵入

ゲイン率いるゴンドリア帝国軍を破ったメビウス率いるアンドリウス王国軍。


占領された村の1つを奪還した。


だが、これで終わりではない。


メビウス達は、次の村へと進軍する。



しばらくして、次の村に到着したのだが

家屋は破壊されており、人の姿は無かった。


あるのは、年老いた人々の死体だけ。


「・・・・・」


無言で、廃墟と化した村を見つめるメビウスに

部下達に、村の探索を命じたマリウルが歩み寄る。


「父上・・・・・・」


「ああ、どうやら連れ去られた後のようだ・・・・・・」


「そのようですね、それに、畑には、火を放った後が残っています」


「我が国を食糧危機に陥れるのも、目的の1つで、間違いないようだな」


「・・・・・はい」


マリウルも、田畑に、火を放った事実から

そのように予想していたが、メビウスの口から出ると

真実味が増す。


「父上、もしかして、この先も?」


メビウスは頷き、答える。


「間違いなく、同じようにされているだろう」


メビウス達も、多くの食料を持っているわけではない。


元々、村を取り返せば、現地調達で食料が手に入ると考えていた。


しかし、もう、それも無理だ。


まさか、ゴンドリア帝国軍が、ここまでするとは思っていなかったのだが

今更、嘆いても、何も変わらない。


現状、メビウス達が、この先の村まで進んでも

食料の調達は、困難な状況だと理解する。



──敵の大将は倒した・・・・・

  多分、あれが、主力部隊だったのだろう・・・・・


 そう考えれば、この先の村々に、

 多くの敵が潜んでいるとは思えんが・・・・・・・


再び、軍を分けて、調査に行かせることも考える。


それでも、村民を助ければ、

物資も食料も必要なことに変わりはない。


だが、生きている者や、捕虜になった者達を助けたい気持ちもある。


そうこう考えを巡らせていると、

メビウスの前で、マリウルが膝をつく。


「父上、先程の戦闘での失態を、挽回する機会を、この私にお与えください」


「マリウル・・・・・」


ここで引き返すことは可能だ。


しかし、国王から命じられたのは『奪還』。


まだ、1つ目の村にしか辿り着いていない。


理由を語れば、国王は、わかってくれる。


だが、他の貴族たちからは、責任追及の声があがることは明白。


そして同時に起こる、罵詈雑言の嵐。


状況もわからず、『役立たず』だの『腰抜け』だの、

好き勝手に、メビウスを責め立てるであろうことは、明白だ。


父親であるメビウスを、そんな場所に立たせるわけにはいかない。


そう思い、マリウルは志願したのだ。


しかし・・・・・


先へ進めば、食料も満足に得られないどころか、

村人を助ける事が出来ても、その先に待ち受けるのは困難でしかない。


それに、予想が外れ、大勢の敵が待機していれば、命を落としかねない。


『本当に、そんな任務を息子であるマリウルに与えていいのか?』と

葛藤するメビウス。


そこに、もう一人の息子ガリウスが姿を見せる。


「父上、俺もついて行くぜ」


今後、待ち受けているだろう困難を目の前にしても

悲壮感のかけらもない笑顔で、同行を口にするガリウス。


「食料が無いなら、狩りでもなんでもするさ。


 それに、大将が兄貴なら、副将は、俺が務めるしかないだろ!?」



そう言って、マリウルの横に並んだガリウスは、

マリウルと同じ様に、メビウスの前で膝をついた。


「父上、今回の任務、兄様と、この私にお与え下さい」


膝をついたガリウスは、突如、真剣な表情でそう告げた。



その態度と言葉に、

2人の成長を嬉しく思う反面、このような任務を与える事に、

申し訳なく思うメビウスだったが、

未だ、膝をつき、真剣な眼差しで、

こちらを見る2人の表情を見て、決心する。


「わかった。


 2人に任せる。


 編成もお前たちで決めるがよい」


「有難う御座います。


 この任務、我が一族の誇りに賭けて、全うしてみせます」


マリウルが、そう告げた後

2人は直ぐに立ち上がり、編成の相談を始めた。


そんな2人を見て、メビウスは呟く。


「そろそろ、儂も引退かのう・・・・・・」


そう呟いたメビウスの言葉は、

真剣に相談をしている2人の耳には

届かなかった。


最大の誉め言葉を聞き逃した2人は

暫くして、編成を終えた。


先行するマリウルの部隊の数は、72名。


中途半端な数になった理由は、

全員が、自ら志願した兵士たちで構成されたためだ。


今回の任務について

マリウルは、食料が少ない事や、

困難な任務であることを、皆に話した後

兵士たちに問いかけた。


「勲章や、褒美がある訳では無い。


 あるのは『名誉』だけだ。


 それでも、ついて来てくれる者は、手を上げてくれ」



その言葉を聞き、真っ先に手を上げたのは、

メビウスが若かった頃から従っていた者達だった。


「坊ちゃん、老い先短い儂らだが、構わないかね?」


笑顔で問いかける兵士に、思わず顔が綻ぶ。


「年寄りみたいな事を言うな、柄でもないぞ。


 宜しく頼む」


「ああ、任された」


そんな2人のやり取りを聞き、

触発されたかのように、

次々と兵士たちが名乗りを上げた。


おかげで、編成は、あっという間に集まった。


こうして出来上がった先行部隊が

出発の時を迎えた。


大将は、マリウル。


副大将には、ガリウスが就き、全体の指揮を執る。


「父上、行って参ります」


「ああ、頼んだぞ」


「はい!

 必ず民を救い、全ての村を開放して参ります」



隊列を組み、進軍を開始したマリウル軍を

見送った後、メビウスも行動に出る。


王都に戻る気など、更々無い。


メビウスは、この場所に拠点を築くことに決めていた。


負傷者と、軍を連れて王都に戻るとなれば

それなりの時間を要する。


そうなれば、怪我人が、死んでしまう可能性もある為

少人数を、王都に向かわせ、

必要な物資を取りに行かせることにしたのだ。


そして、残った兵士達を、王都に物資を取りに戻る者、

山に入り狩りをおこなったり、作物を探す者、

廃墟となった村の一部を修復し、

拠点となる小屋を建てる者たちに振り分け、作業を始めた。




その頃、色々な者達に変装し、

王都に侵入することに成功した暗殺部隊の者たちは、

約束していた商人の屋敷で落ち合っていた。



屋敷の持ち主である商人の名は、【ギドル】。


ギドル商会の会長である。


アンドリウス王国内では、中堅に位置する商会だが、

ゴンドリア帝国では、名の通った大手の商会。


チェスター エイベルの事件以降、

ゴンドリア帝国に肩入れしていた

多くの貴族や商人が逃げ出してしまい、

アンドリウス王国の軍に捕まることになったのだが

ギドルは、『今、行動するのは愚策』だと判断し、

他の仲間達との接触を避け、この場に留まる判断をしたのだ。


そのおかげで難を逃れ、今もアンドリウス王国で商売をしている。


そんなギドルの屋敷で集合した暗殺部隊。


リーダーのモンタナは、全員が揃っていることを

確認した後、口を開く。


「全員、揃ったようだな」


一通り、仲間たちの顔を見渡した後、再び口を開く。


「では、作戦に入ろう」




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