第61話ゴンドリア帝国軍 囮

50人の兵士を連れて、先行したマリウル。


狼煙のように、煙の上がった村に近づくと、

馬から降りる。


そして、草木を掻き分けながら進んでいくと

そこには、ゴンドリア帝国の兵士達から、

暴力を受ける村人たちの姿があった。


「あいつら・・・・・」


思わず、飛び出しそうになるマリウル。


だが、『今は、その時ではない』と自分に言い聞かせ、

なんとか留まる。


それでも、虐げられている村人達の姿を見るのはつらい。


「絶対に、仇を・・・・・・」


マリウルは、部下に命令し、退路を断つように指示を出す。


しかし、部下たちが行動を起こした瞬間。


周囲を警戒していた、ゴンドリア帝国の兵士に発見されてしまった。


「敵襲!!!」


村中に響き渡るかと思われるくらいの声で、

発見を告げる敵兵士。


──クッ、仕方ない・・・・・・


マリウルは、迎え撃つ決意をする。


「剣を執れ!


 敵を殲滅し、村人を救出するんだ!」




運良く周りに広がりかけたところで、敵に発見された為、

ゴンドリア帝国の兵士より、有利な形で初戦を迎えるマリウル軍。


敵は、2人。


だが、先程の声を聞きつけ、大勢の兵士がこちらに向かっている。


マリウル軍は、容赦なく2人に襲い掛かり、殲滅すると、

改めて、こちらに向かって来る敵兵達に備えて、

戦闘態勢を整えた。



村から向かって来る兵士達と相対する形となったマリウル達。


もう、引く気はない。


この現状を、父親であるメビウスに伝える為の伝令も送った。


後は、この村を取り返すだけ。


「村人を救出する!」


残った兵士達で立ち向かう。




村の近郊で始まった戦い。


約300人対約50人。


戦況はよくない。


──このままでは・・・・・


無理に攻め込まず、体制を維持しているが

それにも、限界がある。


時が経つにつれて、1人、2人と数が減り、

マリウルの軍は、追い詰められてゆく。


勿論、ゴンドリア帝国軍の数も、それなりに減らすことは、出来ている。


しかし、戦況の悪さを覆すことはできず、

とうとう、兵士の数が、一桁まで減ってしまった。



包囲され、逃げ道も無い。


──一人でも多く、倒す!・・・・・


マリウルが、そう覚悟を決めたその時・・・・・



『ウォー!』という声と同時に、

ゴンドリア帝国軍に襲い掛かるアンドリウス王国軍。


その数250名。


先頭で指揮を執るのは、次男のガリウスだった。



「兄貴!

 迎えに来たぜ!」


「ガリウス!」


父親であるメビウスに代わり

250名の指揮を執っているのが

ガリウスという事にも驚くマリウルだったが

それ以上に、助けに来てくれたことが嬉しかった。


ほぼ、同人数の戦いだが、勢いが違う。


先陣を切り、一点突破で、マリウルの救出に向かうガリウス。


その姿に、仲間の士気も上がる。


次々と、敵を殲滅してゆくアンドリウス王国軍。


そんな中、ゴンドリア帝国の兵士の包囲網を突破し、

マリウルのもとに辿り着いたがリウス。


「兄貴、大丈夫か?」


「ああ・・・・・助かった、感謝する」


安堵するマリウルに、がリウスは、問いかける。


「兄貴、まだ戦えるか?」


「当然だ」


「ならば、ともに進もう!」


「ああ」


2人は、躊躇なく、戦闘の真っただ中へと飛び込んだ。


乱戦状態の中、徐々に押され始めるゴンドリア帝国軍。


遂に、この場で指揮を執るゲインのもとに、

アンドリウス王国の兵士たちが押し寄せた。


今まで、背後からの指示に、集中していたゲインも

乱戦に取り込まれる。


そのせいで、個々に動くしかないゴンドリア帝国の兵士達は、

連携を取る事も難しくなると、

一気に数が減った。


逆に、乱戦の中でも、数的有利を失わないように戦うアンドリウス王国軍。



完全に、立場が逆転すると

ゲインは、撤退を考え始めたが、その考えを見抜いたように

背後から、新たなアンドリウス王国軍が姿を現した。



「敵の退路は断った。


 村人を救出した後、前線に加わり、敵を殲滅せよ!」




大声で指示を出すのは、父親であるメビウス。


隙を突いた100名の兵士達と共に、ゴンドリア帝国軍に襲い掛かる。


退路も断たれ、撤退する事すら出来なくなったゴンドリア帝国軍。


兵士たちの士気も下がり、成す統べなく討たれていく。


「武器を捨て、投降せよ!」


頃合いを見計らってメビウスが叫ぶと

マリウルとガリウスも、それに続く。


「死にたくなければ、武器を捨て、投降するんだ!」


3人の警告を無視し、

襲い掛かってくる者には、容赦などしない。


それは、メビウスに、徹底してしごかれた兵士達も同じ。


勝ち目が無いことを悟った者から

次々と武器を捨て、投降して行くゴンドリア帝国軍の兵士達。


そんな中でも、ゲインは、未だに戦いを続けていた。




──このままでは、どちらにしろ死刑だ・・・・・

  ならば、望みは薄くても、

  逃げる道を探す・・・・・・


ゲインは、その思いから、必死に剣を振るうが

アンドリウス王国軍の包囲網は、徐々に狭まっていく。


疲労が増し、動きが鈍くなり始めるゲイン。


それでも、包囲網を破ろうと

必死に剣を振るう。


しかし、もう、掠りもしない。


アンドリウス王国の兵士たちは、

ゲインを取り囲み、疲れるのをただ待っている。


そんな中・・・・・


「道を開けろ!」


そう叫び、1人で、ゲインの前に立ちはだかるマリウル。


「貴方が、この軍の将か?」


「いかにも、この私がゴンドリア帝国軍、密偵部隊隊長のゲインだ」


「そうか、私は第2団隊所属、副隊長のマリウル。


 貴様の首を、貰い受けに来た」


「副隊長の分際で、この私に勝負を挑むとは・・・・・・」


挑発する様に、言い放ったゲイン。


だが、そこにもう1人、兵士の間を縫って、男が現れた。


「ならば、儂が相手をしてやろうか?


 ただし、その男に勝てたらだがな」



現れ、そう言い放ったメビウスは笑っていた。


ゲインは、マリウルが挑発に乗り、焦ってくれればと考えていたのだが、

それも、メビウスの出現により、意味をなさなくなってしまった。


「チッ!」


思わず舌打ちをし、メビウスを睨みつける。


メビウスは、その態度を見て、『ニヤリ』と笑って言い放つ。


「どうした?

 貴様の相手は、儂ではないぞ?」


ゲインは知らぬ間に、メビウスの挑発に乗せられていた。


その事に気付かず、剣を構え、マリウルに向かって走り出す。


当然、速さも失われている。


剣先もブレ、隙だらけだ。


そんな物が、マリウルに叶うはずもなく

一撃のもと、ゲインは倒された。


「うむ、見事であった!」


メビウスの言葉に、歓声が沸く。



だが、当の本人は気付いている。


「父上・・・・・・」


「ん?


 どうした?

 喜ばぬか」


恍けたように返すメビウス。


だが、マリウルはわかっていた。


──この結末は、父上が挑発したからだろ・・・・・・


そう思いながらも、その言葉を口にはせず

諦めたように御礼の言葉を口にした。


「有難う御座います・・・・・」




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