第60話ゴンドリア帝国 開戦

計画の内容だが、

アンドリウス王国近郊の街や村を襲撃し

王都の兵士たちの目を向けさせている間に、

商人に変装し、王都に送り込んでおいた暗殺部隊に、

エンデを殺害させるというものだった。


だが、ガルバンは、それだけでなく、

そのまま襲撃を仕掛けた街や村を、占領するつもりでいると告げて

ゲインに、指示を出す。


「貴殿には、村や街を襲撃する部隊の指揮を任せます。


 いいですか、遠慮などは要りませんが、

 できるだけ捕らえる方向で、進めてください。


 貴殿の活躍に期待します」


「はっ!」


今後の事も踏まえて、殺すよりも、奴隷として扱うことを告げられたガイン。


実際、殺すよりも、捕らえる方が、幾分、気持ちが楽だ。


どのみち、ゲインに『断る』という選択肢など無いのだが・・・・・。


話を聞き終えたゲインは、1つだけ、聞きたいことがあった。


「ガルバン殿、1つだけお聞かせいただきたい」


「なんでしょうか?」


「その・・・あの小僧の襲撃についてですが

 どの程度の戦力で、挑むのでしょうか?」


「まぁ、確かに、気になるところでしょうね・・・・・

 ですが、ご安心ください。


 今回の部隊は、言い方は悪いですが

 そこらの兵士が、数人でかかっても、

 相手にならない程の強者の集団ですので

 確実に、あの者を、死に追いやるでしょう」



その言葉を聞き、ただ襲撃するだけだと感じ

一抹の不安を覚えたが、

これ以上は、不敬に問われることを考慮し

深々と頭を下げて、執務室を後にした。


今回ゲインに与えられた兵士の数は300。


村を襲うには、十分すぎる数だ。


ガルバンとの話を終えたゲインが、兵舎の前まで行くと、

既に兵士たちが、兵舎の前に並び、指示を待っていた。


──これだけの人数が、あの時にいれば・・・・・・


脳裏に過るのは、斥侯部隊の仲間たちのこと。


今現在、想像はしていたが

誰一人として、戻って来ていない。


壇上に立ったガインは、覚悟を決める。


──仇は、必ず討つ・・・・・・


そう心に誓ったゲインは、兵士たちに顔を向けた。


「よく集まってくれた。


 これより、アンドリウス王国の食料を絶つ為、近郊の村々に襲撃を掛ける。


 遠慮は要らぬ、誰一人として逃すな!」


兵士達の間にも、斥侯部隊が壊滅した事は知らされている。


その為、意識が高い。


「これより出発する!」


「「「おー!」」」


ゲインの合図により、進軍が始まった。



その様子を、少し離れた場所から、マジックアイテムを使い、

監視をしている男が、背後の男に告げる。


かしら、出発しましたぜ」


監視をしていた男は、

ベッドの上で、娼婦を両脇に抱えている男に話しかけた。


「ん、そうか、なら俺達も、そろそろ出掛けねぇとな」


男は振り向きもせずに、そう返事をすると、

ベッドから抜けだし、グラスに残っていた酒を、一気に飲み干した。


ここは、城の敷地内だが、王城から少し離れた位置に建つ、

離れのような建物の中で、現在は、暗殺部隊のアジトとなっていた。


ここに集められているのは、

元犯罪者とか、暗殺ギルドでも、手を焼き、解雇された者達。


この者達は、帝国と、とある条約を結んでいるおかげで

こうして、生き延びているのだ。


その条件とは、帝国の為だけに力を使うこと。


ただ、力の使い方は自由で、帝国の為になれば、何をしても許される。



そんな彼らを纏めているのが、『かしら』と呼ばれる男、【モンタナ】。


見た感じは、若く見えるが、年齢は不明である。


モンタナは、空いたグラスをテーブルに置くと

娼婦達に告げる。


「さぁ、今日は、お開きだ。


 おめぇたち、とっとと帰んな」


「「え~」」


口では、文句を言いながらも、娼婦たちはベッドから抜け出すと

部屋から出て行った。


娼婦たちが去ると同時に、突然【ヘルミナ】が姿を見せ

ベッドに腰を掛ける。


彼女も暗殺部隊の一員。


露出の多い服を着ているが、所々に、武器などを忍ばせている。


「また、物騒なのが、来たなぁ」


「んもぅ、それが乙女に対して言うセリフ?」


拗ねた口ぶりで、モンタナを睨みつけるが、本気ではない。


ヘルミナは、モンタナに心酔している。


そんなヘルミナの態度を気にすることも無く、モンタナは告げる。


「今回は、力を貸してもらうぜ」


「ええ、わかっているわ」


ヘルミナの返事と同時に、

ゾロゾロと部屋に入ってくる暗殺部隊の者たち。


皆が、思い思いの場所に、腰を掛けたりしている。


そんな中、モンタナが口を開く。


「今回の敵は、アンドリウス王国のガキだ。


 だが、ガキだからと舐めない方がいい。


 情報によれば、斥侯部隊を全滅させたと聞く」


その事を聞き、男達の顔つきが変わる。


緊張する者、笑みを浮かべる者、

反応はそれぞれだが、気後れした者はいない。



「まぁ、用心に越したことはねぇってことだ。


 俺たちは、先程、出発した部隊が暴れ始める前に

 商人に変装して、王都に潜り込む。


 そこで、さらに情報を集めた後

 襲撃を掛ける。


 いいか!?」


黙って頷く部下たち。


「よし、行くぞ」


モンタナの指示を受け、部屋を出た暗殺部隊の者達は、

準備を整えた後、アンドリウス王国の王都に向けて旅立った。






それから2日後・・・・・


ゲイン率いる襲撃部隊は、予定通り、

アンドリウス王国に向かう途中に存在していた村や街を襲い、

次々と手中に収めていた。



歯向かう者は、見せしめの為に、人々の前で処刑する。


それが子供だろうと関係ない。




「逆らう者には、容赦はしない。


 死にたくなければ、大人しく我らに従うのだ!」


ゲインの指示を受けた兵士たちは、村人たちに告げる。


成す統べの無い人々にとって、従う以外の選択肢はない。


こうして、制圧された村や町からの供給を絶たれたアンドリウス王国は

その事実を知ると同時に、討伐部隊を組み、

直ぐに、軍を向かわせ、民の救出と食料の奪還に動いた。



出陣するのは、王国第2団隊。


前回の斥侯軍とは違い、主に攻撃を任務とする部隊だ。


その部隊の隊長を務める【メビウス】は、

年齢は重ねているものの、数々の功績を立てた騎士でもある。


そんなメビウスの部隊に、

今回は、息子の【マリウル】と【ガリウス】も同行する。


「我が国の民を人質に取り、陛下の安寧を揺るがす蛮族を許すな!

 これより、奪還に向かう!」


親子揃って、初めての出陣ということもあってか

メビウスは、いつも以上に気合を入れていたが

その姿を見て、心配そうに声をかける者がいた。


「父上、もうお歳ですから、あまり無理をなされぬように」


長男であるマリウルの言葉に、メビウスは笑う。


「儂は、戦人。


 まだ若い者には負けぬ。


 それに、戦場で散るなら、本望じゃ!」


大口を開けて『ガハハ』と笑うメビウスの様子に、

もう一人の息子、ガリウスも溜息を吐く。





メビウス率いる第2団隊の進行方向にあるのは、ゴンドリア帝国。


報告では、進行方向に点在する村や街を襲っていると聞いていた。


その情報を信じ、メビウスは、迷いなく突き進む。




翌日、太陽が西に傾き始めた頃のこと。

メビウス率いる討伐部隊は、視界の先に上る煙を発見した。


「あれは・・・・・・」


「確か、あの辺りにも、村が、あったはずです」


「もう、こんなところまで・・・・・・」


ゲイン率いる襲撃部隊の進行の早さに驚きながらも、

メビウスは、的確に指示を出す。


「マリウル、50名を率いて先行せよ。


 そして、周囲の探索を、するのだ。


 近くに罠を仕掛けておるかもしれぬからな。


 よいか、マリウルよ、無理に戦おうとするな

 あくまでも、偵察ということを、忘れるでないぞ」



「畏まりました父上」




マリウルは、足の速い馬に乗る兵士50人を率いて、

煙の上がる村へと向かった。



マリウルを見送ったメビウスは、ガリウスに告げる。



「儂らは、速度を落として進む。


 いつでも、戦える準備を整えておけ」



「はっ!」


こうして、アンドリウス王国のマリウス軍と

ゴンドリア帝国のゲイン軍は、相対することとなった。



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