第59話ゴンドリア帝国 報告

男を牢獄から助け出した後、他の牢獄に捕らえられていた兵士達も救出する。


生きていた兵士達は、痩せこけたり、傷を負っていた者もいたが

エンデの回復魔法のおかげで、元気を取り戻した。


だが、全員が無事に救い出されたわけではない。


情報を聞き出す為に、拷問され、命を落とした者もいたのだ。


その殆どが、上級士官達。


その情報を、どうやって掴んだかは、わからなかったが、

一先ず、彼らを連れて、アンドリウス王国へ戻る事に決めた。



だが、直ぐに動けるほどの体力が、兵士たちには無い。


その為、この村で2日間滞在することとなった。





一方、

仲間に託され、村を脱出したゲインは、

無事に、帝国へと辿り着いていた。



謁見の間にて、今回の敗戦と、

その時に現れた少年の事を、

皇帝【サンボーム ゴンドリア】に報告をするゲイン。


全てを聞き終えた皇帝サンボーム ゴンドリアは、

考えているような素振りを見せた後、口を開く。


「その少年が、敗北の現因という事で、あっているな?」


「はい・・・・・」


にわかに信じられない報告内容だったが、

皇帝サンボーム ゴンドリアの表情に、変化はなく

いつものように、隣に控えていた宰相の【ガルバン】に、話を振る。


「ガルバンよ、貴殿は、どう思う?」


宰相のガルバンは、元枢機卿という異例の肩書を持つ男。


彼は、男爵家の次男として生まれた。


頭脳明晰で成績も良かったが

次男だった為に、家督を継ぐことが出来ず

教会に入信することとなった。


だが、教会に入信したその後、

彼は、持ち前の人当たりの良さと賢さで、異例の出世を遂げ、

枢機卿にまで上りつめたのだが

ここで思わぬ事件が起きる。



家督を継ぐはずだった兄が、事故で命を落としたのだ。


その為、家督を放棄していなかったガルバンに

後継ぎの話が、持ち上がり、

両親に懇願された事もあり、枢機卿の座を捨てる決断をした。


家督を継いだガルバンは、

それから暫くして、男爵家という身分でありながら、

子爵家の令嬢と結婚する。


そのおかげもあってか、

パーティーへの招待も増え、

度々、顔を見せるようになると、

持ち前の人当たりの良さで、人脈を広げることにも成功した。



そして、前宰相の【ルードル】が体調を崩して、

新たなる宰相を迎える話となった時、

候補者の一人として、ガルバンの名の挙がったのだ。


男爵という身分の男が、宰相の候補者になるなど前代未聞の出来事だったが、

貴族からの推薦者が多いだけではなく、教会からも推薦された。


普段なら、相対する立場の教会までもが

宰相に、ガルバンを推した為、無下に出来ずにいると

何故か、他の候補だった者たちが不慮の事故にあったり、

辞退を表明したこともあって、ガルバン以外の候補者がいなくなったのだ。


そういう事情も絡み、ガルバンは、見事に宰相の座を、手にする。


この出来事に、一番喜んだのは、家族ではなく

ガルバンの後ろ盾になっている教会だった。


ガルバンが宰相になると、

教会は、教えを広めるという名目のもと、

今まで以上に力を強め、『布教活動』と『邪神教の撲滅』を掲げ、

近くの村や街を、配下に置き始めた。


勿論、この事に反対する貴族達もいたが

『神の教えに反し、邪教を敬っている』とか、

『私利私欲の為に悪事を働いている』などの噂を流され、

徐々に信用を失くし、

最後には、身に覚えのない証拠が出て来て、全員、牢獄へと送り込まれた。


実際は、教会とガルバンが仕組んだことなのだが・・・・・・



こうして、権力を手に入れたガルバンは、

王城に勤める主だった者達も配下にした。


そして、皇帝サンボーム ゴンドリアの食事に薬を混ぜ、

操り人形のように仕立てたのだ。


虚ろな目をし、まともな判断が出来なくなった皇帝サンボーム ゴンドリアは、

いつものようにガルバンに問う。


『・・・・・ガルバンよ、貴殿は、どう思う?』


「そうですね・・・・・」



アンドリウス王国の情報を掴み、斥侯を捕えるところまでは、作戦通りだった。


だが、今、耳にした少年の情報など知らない。


それに、内通者だったチェスター エイベルからの連絡も途絶えている。


他の貴族からの連絡も無い。


──何がどうなっているのだ!・・・・・・


絶対の自信を持っていたガルバンは、

今まで、失敗など、したことが無かった。


しかし、ゲインの報告から、

この度の作戦が、失敗したことを知る。



思わず苦虫をかみつぶしたような表情になるが

強くこぶしを握り、呼吸を整え

いつもの表情へと変えた。


だが、心は穏やかではない。


──誰が、この私の邪魔をしたのだ!

  何も聞いていないぞ・・・・・・クソッ!・・・・・

  もう一度情報を集めるのが先か?

  それとも・・・・・・・


考えが纏まらないガルバンに、皇帝サンボーム ゴンドリアが声を掛ける。


「・・・ガルバンよ、どうかしたのか?」


「いえ、何でもございません。


 ただ、少し準備したい事がございますので、

 一度、退席させていただきたいと思います。


 準備が出来次第、改めて、陛下に、ご報告させていただきますので」


「うむ、頼んだぞ」


「陛下に、ご心配は、お掛け致しません。


 安寧のまま、ごゆるりとお過ごしください」


「わかった。


 貴殿には世話になるが、頼んだぞ」


その言葉を聞き、ガルバンは、仰々しく膝をつき、

頭を下げ右手を左胸の上に載せる。


「陛下のお心遣い、感謝致します。


 この件は、どうぞ、お任せを・・・・・」


話を終えると、皇帝サンボーム ゴンドリアは、席を立つ。


謁見の間を出て行く皇帝サンボーム ゴンドリア姿を、

頭を下げたまま見送るガルバンだが

その間も、左胸に乗せた手に自然と力が入り、

血が出そうになるほど歯を食いしばっている。



──どこの誰かは知らぬが、この私の邪魔を・・・・・・

  絶対に、後悔させてやる・・・・・・



皇帝サンボーム ゴンドリアが謁見の間を去ると、

ガルバンは顔を上げた。


そこで見せた表情は、怒りの感情を剝き出したままだ。


振り返ったガルバンは、ゲインに告げる。


「挽回の機会を与える。


 だが、次はない。


 よいか、この私の計画を邪魔したガキに 

 それ相応の報いを受けさるのだ!」


ゲインは、ガルバンの見たこともない表情に驚きながらも、

名誉を挽回できる機会を与えられたことに感謝の意を示す。


「この私に出来ることでしたら、なんでも、お申し付けください。


 必ずや、任務を遂行して、ご覧に入れます」


力強く、言い放つゲインの心には

自身を逃す為に、囮となった仲間達の思いが窺えたが、

それは、本人にしかわからないこと。



しかし、その意気込みを聞いたガルバンが、

応えるように言い放つ。


「ならば貴殿に全てを託す!」


 「はっ!」


ゲインは、この上ない喜びを感じた。


──必ず、皆の仇はとる・・・・・


再び覚悟を決めたゲインの横で

ガルバンも、エンデに対して、復讐を誓う。


──必ず、後悔させてやる・・・・・


2人の思惑が一致したところで、

ガルバンが、言葉を発する。


「場所を変えるぞ」


先頭に立ち、

謁見の間を出ていくガルバンの後に、ゲインが続く。


行先は、執務室。


2人が部屋に入り、席に着いて、一息つくと、

ガルバンが、今回の計画について話し始めた。

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