第55話斥侯 動き出す者

ゴンドリア帝国に向けて出発の日、エンデ達は、王城に集められた。


集合場所を決めたのは、グラウニー。



「なんでここなの?

 屋敷で良かったじゃない!」


エブリンの第一声を聞き、グラウニーが溜息を吐く。


「仕方なかろう、国王が待っておるのじゃ、

 ほれっ、謁見の間に向かうぞ」


グラウニーは、軽く流して、先へと促した。



準備が整うまでの間、待機していた部屋から出ると

エンデ達は、謁見の間に向かって歩き始める。


斥侯として、出立するメンバーは、エンデ、エブリン、ダバンの他に

メイドのアラーナとエリアル。


アラーナとエリアルは、お世話人として同行するメイドだが、

戦闘訓練を受けている。


それが、ヴァイス家のメイドとしての心得なのだ。


なので、同行に関して、問題はない。


他に、御者として、城の兵士が1名同行するが、その者は準備の為

この場にはいない。


5人が謁見の間に入ると、既に、国王ゴーレン アンドリウスの姿があった。


グラウニーが先頭で前に進み、国王ゴーレン アンドリウスの前で跪く。


「陛下、本日、出立する者達、ここに揃いました」




すると、国王ゴーレン アンドリウスは立ち上がり、

降壇こうだんして、エンデ達のもとに、歩み寄りを見せる。


「顔を見せてくれ」


言われるがまま、顔を上げるエンデ。


「貴殿は、この国の救世主ともなれる者だ。


 今回の任務、無事に成し遂げてくれ」


エンデの方を『ポンポン』と叩くと、

続いて、エブリンのもとへ。


「エブリン ヴァイス、顔をあげよ」


「はい」


今日のエブリンの服装は、流石にドレスではない。


キュロットスカートにロングブーツ、

上着も、薄い皮鎧を模した動きやすい物を着込んでいる。


「中々、似合っているではないか。


 この度の件、貴殿の采配に、かかっていると聞く。


 上手く事を成し、無事、帰国するのだ」



ゴーレンの言う通り、現地での指揮はエブリン。


エンデを、大人しく従わせることが出来るのは、エブリンだけだからだ。



2人に声を掛けた後、国王ゴーレン アンドリウスは、皆に向き直る。




「今回の任務で、この国の行く末が決まるかも知れぬ。


 それだけ重要な任務なのだ。


 それを、まだ若き貴殿達に押し付ける事に、申し訳なく思う。


 しかし、貴殿たち以上に、この任務を遂行できる者がいないのも事実。


 頼んだぞ」




国王ゴーレン アンドリウスの言葉を受け、グラウニーが答える。


「この国の安寧の為、必ずや成し遂げて見せましょう」




グラウニーが立ち上がると、皆もそれに習って立ち上がる。


そして、一礼の後、謁見の間を後にした。



謁見の間を出て、王城の外に向かう最中、エンデは、疑問を口にする。


「お姉ちゃん、叔父上も一緒に来るの?」


「来ないわよ。


 でも、どうして?」


「さっき、王様の前で、一緒に行くみたいなこと言っていたから」


「ああ、あれね。


 あれは、私たちの代表として、言っただけよ。


 あまり気にしなくていいわ」


「そうなんだ・・・・・わかった」




エンデたちは、王城を出ると、用意された馬車のもとに向かう。


用意された馬車は、既に荷物を積み終えており、

準備を終えた兵士が、待っていた。


「宰相様、準備は整っております」


「そうか、ご苦労」


グラウニーは、エンデ達を集め、兵士に自己紹介をさせる。


「私は、王国軍第1部隊所属【ノルマン】と申します。


 宜しくお願い致します」


勢いよく敬礼をした。


だが、それは、宰相であるグラウニーに対してのアピールであり

エンデに対してでなない。


その証拠に、エンデが挨拶をするが、

ノルマンは、相手が子供だと侮り、軽く流し、返答すらなかった。


エンデに対する態度に、『ムッ』としたエブリンは、名前だけ告げる。


「エブリン ヴァイスよ」


エブリンが挨拶を終えると、ノルマンの態度は、一変し、

笑顔を見せた。


「エブリン様、全て、この私にお任せください。


 必ずや、貴方様を守って見せましょう」


騎士のごとく、仰々しく挨拶をするノルマン。


エブリンは、グラウニーを睨む。


その後、視線をノルマンへと向ける。


「貴方、エンデと私では、えらく態度が違うのね。


 あの子は、私の弟で、子爵家の跡継ぎよ」


エブリンの怒りの表情に

ノルマンは焦り、焦った表情を見せ、言い訳を始めた。


「いえ、そんなつもりは・・・・・・

 わたしは、女性に親切にしようとしたまでで、

 エンデ様を蔑ろになど、しておりません。


 それに、子爵家を敵にしようなどと、微塵も思っておりません」



釈明するノルマン。


グラウニーとしては、自身の兵士を付けたかった。


しかし、これは、国の問題だと他の貴族から横やりが入り、

他の貴族からの推薦で、この男を御者にしたのだ。


その為、少々の事で、解雇することも出来ない。


溜息を吐きつつ、エブリンに、言葉を掛ける。


「エブリン、後の事は、任せてもよいか?」


エブリンとて、貴族の令嬢。


今更、交代など、時間が掛かるし、他の貴族が関わっていれば

面倒臭い事にも、なりかねない事は、理解できた。


──叔父様も大変ね・・・・・


そう思ったエブリンは、この男の同行を認め、

グラウニーに、返事をする。


「わかったわ。


 でも、道中、変な行動に出たら

 それなりの対応をさせて頂くけど、問題ないわよね」


「ああ、その時は、好きにしたらいい」


あっさりと、許可を得たエブリンは、ノルマンに

再び視線を向ける。


「貴方も、理解したわね」


睨みつけられたノルマンは、小さく『はい』と

返事をした。


ひと悶着あったが、無事に出発するエンデ一行。


それを見送るグラウニー。


──頼んだぞ・・・・・


心の中で、そう呟きながら、エンデ達を見送った。


一方、王都を離れたエンデ達は、森に辿り着く。


そこから、山を越え、ゴンドリア帝国の領地に向かうのだ。



エンデたちの目的は斥侯。


敵兵の進軍状況、若しくは、それに近い行動をする兵士たちの有無。


それと、連絡の途切れたアンドリウス王国の兵士達の探索が主な目的だが

アンドリウス王国の兵士達の足取りは、

途中までしか、把握できていない。


それでも、捕らえられているとしたら

何かしら、情報を掴んでいる可能性もあるので

その者達の探索を、行う事に決めた。


日が落ち始め、2つ目の山を越えたところで、野宿を始めるエンデ達。


食事は、アラーナとエリアルがいるので、問題は無い。


流石に、屋敷で提供される食事とは違ったが

2人の作った料理は、旨かった。


食事を終え、焚火を囲んでゆっくりとしていると

ノルマンが、エブリンの隣に座る。


先に口を開いたのは、エブリン。


「貴方、どういうつもりか知らないけど、

 用が無いのなら近寄らないでくれるかしら」


『ツン』とした態度に、苦笑いを浮かべるノルマン。


「ハハハ・・・手強そうですね。


 ですが、女性があまり強気にならない方が良いかと?」


脅しなのか、忠告なのか、どちらともとれる発言。


──この男、何をしたいの?・・・・・・


そんな疑問が、エブリンの脳裏をよぎった。




その日の深夜、皆が寝静まった頃、テントから這い出る男がいた。


当初から、怪しさ満載だったノルマンだ。



野営地から離れると、山の奥へと入っていく。


その足取りは軽く、まるで慣れた道を進むようだった。




最小限の灯りを便りに、山の中を進むノルマン。


暫く進んだところで、明かりを一瞬だけ遮り、合図を送る。


すると、それに、反応するように、遠くに明かりが灯り、

返事が返って来た。


その後、2つの灯りは、合流する。


ノルマンが合流したのは、ゴンドリア帝国の密偵部隊。


影で動くことを生業にしている者達だ。


「貴様が、協力者か?」


「ああ、殆どの貴族が捕まったが、私の主は用心深くてね、

 未だに、国王にも、宰相にも、バレていないよ」


「それは、僥倖」


「あの時、焦って逃げ出した者達は、全員捕まったが、

 まだ、数人の貴族は、残っている。


 これが、その者たちの名簿だ」


ノルマンは、懐から取り出した名簿を密偵に渡す。


「確かに受け取った。


 それで、これからの事だが・・・・・・」


暗い山の中、ノルマンと密偵は、密かに話しを始める。


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