第54話斥侯 幕開け

国王にエンデの力を披露したその日、

何事もなく王都に戻る事になった。


その後、今のところだが、軍に誘われることも無く、

食事会に呼ばれることも無い。



だが、エンデたちがジョエルの屋敷に戻った頃、

王城では、グラウニーが国王ゴーレン アンドリウスに呼ばれていた。




「あれは、本当に人の力なのか?」




国王ゴーレン アンドリウスの第一声は、

あの力に恐れを抱いたと、とれる発言だった。


その意を汲み取り、グラウニーが答える。



「確かに、あの力は、

 人の手に余る恐ろしいものだと感じました。


 しかし、あの力ならば、我らの切り札になる事は、疑いようのない事実です」



「確かに、グラウニーの言うとおりだ。


 だが、彼らは、この王都にずっと滞在するのか?」



「それは、わかりません。


 ただ、現在王都に滞在している理由は、

 学院に通っているからだと伺っております」



「学園・・・・・」


国王ゴーレン アンドリウスは、少し驚いた表情を見せる。


そして・・・・・


「あの学院には、我が娘も通っておるが、休校になった話など聞いてはおらぬ。


 あの二人は、本当に学校に行っているのか?」


国王ゴーレン アンドリウスは、娘から学院の事を聞いたりもしているが

2人の事が、話題に上がる事も無かった。


──あれほどの者が、通っていれば、

  何かしら報告があっても良いものなのだが・・・・


そう思った国王ゴーレン アンドリウスは、

グラウニーに『一度、確認した方が良い』と伝えた。


その意見に従い、

翌日、グラウニーは、学院に赴く。


校長室で、面会するルードルとグラウニー。


「率直に聞くが、エンデとエブリンは、この学院に在籍しているのだな?」


「それは、もちろんです」


「では、何故、学院に通っている形跡が無いのだ?」


「・・・・・・・それは」


ルードルは、言いずらそうに下を向く。


「貴様は、この学院の責任者だろ!

 はっきりと申せ!」


 グラウニーに叱咤され、ルードルが口を開く。


そして、聞かされた内容は、チェスターの息子、ブライアンと揉め事を起こし、

停学にされたという事実だった。


初めて知る事実に、八つ当たりのようにルードルを責める。


「停学だと!

 儂は、聞いておらぬぞ、

 それに、どういう経緯でそうなったのか、貴様は、きちんと調べたのか!?」


グラウニーの問いかけに、重い口を開いたルードル。


「申し訳御座いません。


 実は・・・・・・」


ルードルは、チェスターの圧力に屈し、2人を停学にした事を話した。


「チェスター家から、退学にせよと申し立てられた為

 これ以上は、どうしようも出来なかった。


 2人が悪くない事は、理解しております。


 悪いのは、彼らだとわかっていたのだが・・・・・本当にすまない」




学院に、多額の献金をしていたチェスターに逆らえなかった事情は、理解できる。


だが、納得は出来ない。


2人に対して、おこなった処罰について、チェスターに文句を言ってやりたいが

既に、この世にはいない。


怒りを鎮める為に、深く深呼吸をした。


そして告げる。


「チェスターは、もうおらぬ。


 それで、これからあの2人を、どうするのだ?」


「あの一件の事は、聞き及んでおりますが

 本当に、もう・・・・・」


「ああそう言っているだろ」


グラウニーの言葉を聞き、ルードルは、返答する。


「停学処分は、終わりに致します。


 明日からでも、登校して頂いて構いません」


「わかった。


 2人には、私から伝えておこう。


 だが、少し後になるかも知れぬがの・・・・・・」


何かを含んだような言い方は、少し気になったが、

それよりも、2人の停学を解くことが出来た事に安堵した。


「いつでも学びの門は、開いております。


 どうか、そうお伝えください」


胸のつっかえが取れ、深々と頭を下げるルードル。


「わかった、伝えておこう」


そう言い残し、学院長室から出て行った。





学院を出たグラウニーは、その足でジョエルの屋敷に向かった。


屋敷に到着したグラウニーは、

馬車から降りて屋敷に向かって歩いていると、

中庭の方から声が聞こえて来る。


「なんじゃ、あいつらは、中庭におるのか?」


グラウニーは、声のする中庭へと向かう。


そして、中庭で見たのは・・・・・


「まだ出来るよね!」


「はい、主、もう一度行きます」


木刀と足技で、競い合う二人。


ただ、その速度が尋常ではない。


動きが止まっている時は、誰にでも見えているが、

一旦、動き始めると、人の目には、見えなくなった。


ただ、伸びた雑草が荒々しく揺れる様子から、

二人が戦っている事だけはわかる。




時折、『ハッ!』とか『ヤァ』とか聞こえてくるだけだが、

そんな2人の様子を、ベンチに腰を掛けて見学しているエブリン。


テーブルにカップを置き、後ろに控えていたアラーナに問う。


「もう、外を出歩いても、いいと思うのだけど?」


「いいえ、まだ残党が残っているかもしれません。


 もう少しの間は、我慢して下さい」


「本当に、あいつらのせいで・・・・・」


未だに、外出が出来ない事を嘆いていたが

直ぐに態度を変え、アラーナに、再び問いかける。


「もしよ、まだ、残党がいたとして

 あの2人に、勝てる者などいると思う?」


エブリンは、激しく揺れている草花に目を向けた。


相変わらず、二人の姿は見えない。


──こんなのに、誰が勝てるというのよ?・・・・・


そう思うエブリンに、アラーナは告げる。


「私の知っている限りでは、お1人ですが、おられます」


「嘘!!!」


『そんな人物が身近にいたなんて・・・・・』


そう思いながら、アラーナの顔を見る。


「誰?」


アラーナは、笑顔で応える。


「エブリン様ですよ」


「え・・・・・私?」


「はい、力では叶わなくても、お2人を止めることが出来ます」


「そうかしら・・・・・」


『確かに、私の言う事は聞いてくれるなぁ』なんて考えていると、

アラーナが、前に出て手を叩く。


「そろそろ、食事の時間です。


 止めて頂かないと、食事を抜きにしますよ!」


アラーナのその言葉に、草花の揺れが止まる。


「さぁ、体を拭いて、手を洗ってから食堂に来てください」


「「はーい!」」


アラーナは振り返り、エブリンのもとに歩みを進める。


エブリンは、言葉には出さないながらも思う。


──貴方が、最強よ・・・・・・


そう思いながら、アラーナと共に屋敷に向かって歩き始めると

その後ろから、エンデとダバンが追いかけて来た。


1人放置されていたグラウニーも、慌ててエンデたちの後を追う。




屋敷に入ると、一同で食事を摂る。


勿論。、急に訪ねて来たグラウニーも一緒だ。


そして、食事を終えると、グラウニーが口を開く。


「お前たち、どうやら学院には、行っていないようだな」


「ええ、停学だと言われたから、仕方ないのよ」


態度には出さないが、言葉には、怒気を含んでいる。


「そうか・・・・・」


グラウニーは、ルードルから話を聞いてきた為、驚く様子もない。


「その事だが、停学は、今日で終わりだ。


 学院長の了解もとっておる。


 明日から学院に通えることになった」



なんだか、今更という感じに思う反面、嬉しくもなるエブリンだが、

わざわざそれだけの為にと、グラウニーが来たとは思えなかった。


疑問を感じる。


「叔父様、話は、それだけですの?」


「確かに、その事が一番なのだが・・・・・・」


グラウニーの向いた視線の先には、エンデ。


「?」


頭に『?』を浮かべるエンデ。


グラウニーは、もう一度エブリンの方に向き直り、話す。


「ゴンドリア帝国は、知っておるな」


「ええ、前にも聞いた名前ですから」


エンデを軍に取り込む理由となった国。


エンデと離れる事が無くなったので、エブリンは、あまり気にしていない。


所謂、どうでもいい国。


だが、グラウニーや国王ゴーレン アンドリウスは違う。


「あの件を詳しく調べる為に、斥侯を放っておったのだが、連絡が取れなくなった。


 毎日、欠かさず定時連絡もあったのだが、2日前より届いておらん」


グラウニーは捕まったか、殺された可能性があると伝える。


「それで、叔父様は、私たちに見て来いとでも?」


「本当ならば、エンデ1人に頼みたいのだが・・・・・・」



見てくるだけなら、簡単な事かもと、考えたのだが、

それを許さない人がいる。


「無理!」


当然のように断固として、拒否の姿勢を示す。


「そう言うと思って馬車を用意した。


 2人で行っては、もらえぬか?」


本来、少年に頼むような事ではない。


しかし、エンデの実力を知った後なので、そうとも限らない。


「僕は、構わないよ」


横から話に割り込むエンデ。


「それに、馬車なら、ダバンに引かせたら?」


エンデは、隣に座るダバンを見る。


「俺は嫌だね。


 戦いに参加したいし、万が一の為に、力は残しておきたいからな」


その発言に、グラウニーが頷く。


「そうだな、馬は、こちらで準備する。


 他の準備も、全てこちらでしよう。


 出発は2日後だ、頼んだぞ」


何故か、決まった事のように話すグラウニーは、

反対の意見が出る前に席を立ち、『見送りも要らぬ』と言い屋敷から出て行った。


その場に取り残された3人。


「・・・・・これ、決定なの?」


「そうみたいね、なんか、上手く乗せられた感が否めないわ」


エブリンは、溜息を吐いた。

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