第53話王都 国王の御前

落ち着きを取り戻したグラウニー。


エブリンは、覚悟を決めて、切り出す。


「チェスターの屋敷が崩壊させたのは、エンデよ」


「先程の姿を見た後では、それも理解できる。


 だが、1人ではあるまい」


普通に考えれば、そう思うのだが、エブリンは首を横に振る。


「いえ、エンデ1人よ」


既にエンデから、話を聞き終えていたエブリン。


グラウニーに、その時の出来事を、途中でエンデも参加しながら話した。


聞けば聞くほど、段々と顔色が悪くなっていくグラウニー。


最後まで聞き終えた頃には、動かなくなっていた。


「叔父様?」


「・・・・・・」


「・・・・・叔父様?」


グラウニーは、エブリンの問いかけに、呆然としながら口を開く。


「ああ、すまない。


 ただ、それは本当の事なのか、未だに信じられぬ。


 もし良ければ、一度、その力を見せてはもらえぬか?」


グラウニーがそう思うのは、仕方の無い事。


一瞬にして、屋敷が消滅するなど、誰もが信じられない。


その為、エブリンは、エンデと話し合い、グラウニーの提案を受ける事にした。




それから3日後。


ここは、王都から、少し離れた森の中にある廃屋だらけの集落。


人払いも終わっており、誰も近寄ることが出来ないように

周囲の道は、閉鎖しており、警備の兵士も置いている。



ここにいるのは、エンデとエブリンとダバン。


それにグラウニーのはずだったが、

何故か、国王であるゴーレン アンドリウスを筆頭に

王妃【レイビア アンドリウス】、

第一王子【アラン アンドリウス】の姿があった。


そっとグラウニーに近づくエブリン。


「叔父様、これは、どういう事ですか?」


目つきが怖い。


エブリンは、秘密にすることを条件に、エンデの事を話した筈なのだが、

ここには、この国の国王たちが、姿をみせている。


「そ、それはだな・・・・・」


目を逸らしたまま、グラウニーは話を続ける。


「その・・・・・ チェスターの子飼いだった貴族から入手した話なのだが、

 どうやら、この国に、冒険者のふりをして、

 大勢の密偵が入り込んでいる様なのだ」


密偵を放っているのは、ゴンドリア帝国の事で

虎視眈々と、この国を狙っているのは、分かっている。


だが、既に、問題になる程の多くの密偵が紛れ込んでいるとは、

思っても見なかった。



「その貴族から入手した情報なのだが・・・・・・

 奴らは、この国に兵を向ける準備をしているらしい」


『戦争が起きる・・・・・・』


エブリンは驚きの表情を見せた。


「叔父様、それでは・・・・・・」


「ああ、今回、そういう事情があったから、

 この度の顛末を陛下に話したのだ」


 「でも、それは、エンデを戦争に巻き込むという事ですよね!」


エブリンは、グラウニーを睨みつける。


「すまないと思っている。


 だが、この国を守る為には、仕方のない事なのだ。


 チェスターの一件で、多くの貴族を粛清した為に、

 未だに混乱が続いておる。


 なので、あの話を信じるとするなら、エンデの力を借りないわけにはいかぬのだ

 わかってくれ・・・・・・」


グラウニーも、苦渋の選択だった。


情報が集まれば集まるほど、

この国が窮地に立たされている事を知ったグラウニーは、

あの話が事実なら、どうしてもエンデの力を借りたいのだ。



「陛下がここに来た理由は、察しているとは思うが、

 王国を守る力として、エンデを直に見たいと希望されてな」



不確定なものに頼るわけにはいかない。


その為、国王が王都を離れてまでここに足を運んだこと、

それに、この場所を選んだのには、それなりの理由があった事をエブリンは知る。



王都の中では、密偵の目に留まる恐れがある。


また、王都の近くの草原などでは、言うまでもない。


だからこそ、こんな山奥で、厳重に人払いまでして、この場所を選んだのだ。



「責任は、全て儂が取る。


 頼む、エンデの力を見せはくれぬか?」


事情を聞き、仕方がないと思う反面、エブリンはエンデの心配をする。


力を見せれば、必ず軍に取り込まれる。


それは間違いない。




エブリンは、それを望まない。


だが、今の状況を聞く限り、力になれるのはエンデ。


でも・・・・・


──このままだと、エンデが一人ぼっちになってしまう・・・・・・


エブリンは、その事を心配し、悩んだあげく

ある決断をする。


「叔父様、1つ条件があります」


「条件?」


「はい」


真剣な表情でグラウニーと向き合う。


「エンデの力を軍が欲するなら、その時は、私も軍に入ります。


 そして、エンデの面倒は、私が見ます」


その言葉に驚くグラウニー。


どう考えても、戦争が似合うとは思えない。


今日も、可愛いピンクのドレスを着ているエブリン。


色も白く、手足も細い。


だが、真剣な顔をして、こちらを見ている。


そんなエブリンに、グラウニーは、もう一度尋ねた。


「お前が軍に、志願するというのか?」


「ええ、勿論ですわ。


 エンデを1人になんかさせません!」



弟、マッシュを失った時、エブリンには何も出来なかった。


だが、今回は違う。


ついて行くことは出来る。


「本気なのだな」


「勿論です。


 但し、それはエンデが、軍に入るならという条件付きですが」


エブリンの真剣な眼差し。


彼女の強い意志を感じる。


それに、エブリンを大切に思い、エブリンの言う事なら素直に聞くエンデ。


軍にとっても、悪い話とは思えない。


「わかった」


グラウニーは、その場から一度立ち去り、

国王ゴーレン アンドリウスのもとへと向かう。


その間に、エブリンは、エンデに話しかけた。


「さっきの話、聞いていたわよね?」


「うん」


「貴方は、どう思うの?」


「・・・・・・」


暫く考え込むエンデ。


そして・・・・・・


「父上や母上が、戦争に巻き込まれるのは嫌だよ。


 でも、それ以上に、お姉ちゃんが狙われるのは嫌だ」


「ありがと、でも、私たちが直接狙われる訳では無いの。


 狙われているのは、この国。


 この国の人、全員なのよ」


「それって、お姉ちゃんたちも含まれているよね?」


「そうね、それで、どうするの?」


「戦うよ、お姉ちゃんの敵は、僕の敵だから」




エンデが、決心した頃、グラウニーもゴーレン アンドリウスから、

許可を頂いていた。


国王との話し合いを終え、

エブリンとエンデの元に戻って来たグラウニー。


「待たせたな、先程の件は、陛下から許可を頂いた。


 あとは、存分に力を見せてくれ」


エンデは、黙って頷く。



国王を筆頭に王族たちは、廃村が一望できる場所で、

用意された椅子に座り、こちらを伺っている。


国王達から少し離れた廃村の外で、

待機しているエンデは、合図を待っていた。



「始めていいわよ」


エブリンの言葉に頷くエンデ。


エブリンは、もう一度、エンデに、声を掛ける。


「目にものを見せてやりなさい!

 遠慮なんて、しなくていいわよ!」


その言葉に従い、エンデは力を見せつける為の行動を起こす。


静かにたたずむエンデの背中から3対6枚の翼が現れる。


「あれは、なんだ!?」


「神話の翼?」


テントの中にいる王族たちや、見守る兵士たちから、驚きの声が上がった。


だが、エンデは、気にも留めていない。


左手を前に差し出し、頭の中に浮かび上がった呪文を唱える。


『我が力に抗う全てを虚無の世界に・・・・・』


呪文を言い終えると、緩やかな風が廃村に吹いた。


ただ、それだけ。


見ている者たちからしたら、何も起こっていないように見えた。


「おい、どうなっているのだ?」


「まだ始まらないのか?」


周囲が、ざわめき始めた頃、廃村に残っていた家屋が崩壊を始める。


音も立てず、砂のように消えて行く。


まるで、初めから何も無かったかのように、跡形もなく消える。


その現象は徐々に広がり、最後には、全ての家屋が消え、

そこには、空き地が広がっているだけになった。


「一体何を・・・・な、何をしたんだ!?」


この出来事に、国王ゴーレン アンドリウスは、思わず立ち上がる。


国王の横に控えていたグラウニーも

口を大きく開けたまま、動きを止めていた。


廃村だった場所を、空地へと変えたエンデは、

エブリンに話しかける。


「これでいい?」


笑顔で問いかけるエンデ。


「上出来よ」


エブリンは、笑みを浮かべ、満足そうに答えた。


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