第52話王都 面会

2人は、エブリンに並んでソファーに腰を掛けた。


「揃ったようだな・・・・・」


グラウニーは、一息ついた後、話を始める。


「先に、もう一度問うが、お前達は、知っているのだな」


グラウニーは、エンデとダバンを見る。


「えと・・・・・」


エンデが口を開きかけた時、エブリンが横から口を挟む。


「チェスターの屋敷の事なら知らないわ。


 街の人たちは、天災だって言っていたわよ」


先程、街で聞いた噂をグラウニーに伝え

エブリンは、何も知らない事だと強調した。


「天災か・・・・・

 ならば、この屋敷の周辺で見つかる死体についてはどうだ?


 奴らは、チェスターの雇った冒険者や、

 息の掛かった者たちだという事は、わかっている」


グラウニーは自身の手の者に命令を下し、

死んだ者たちの素性を調べ上げていたのだ。


その為、チェスターの屋敷が消滅したこととの関係を疑っている。


「エブリンよ、悪いようにはせぬ、

 素直に話してもらえぬか?」


「叔父様・・・・・」


「それに、チェスターについては、陛下の一存で、

 内々で処理されることが決まっておる。


 なので、何も心配することはない」


『処理される』


それは、抹消され、この世にいなかった者として扱われることを意味していた。


その事を知っていたエブリンは、驚きを隠せない。



「えっ!

 それは、どういう事でしょうか?」


何故、そこまでしてチェスター エイベルの存在を消そうとするのか、

その事が気になる。


「話してやっても良いが、言は無用だぞ。


 それと、こちらも話すのだから、お主も話すのじゃ」


交換条件を持ち掛けられ、エブリンは悩む。


だが、今後の事を考えれば、グラウニーには、味方になっておいて欲しい。



暫く考えた後、エブリンは決意して、口を開いた。


「わかったわ、全部話すから、叔父様も他言無用で、お願い致します」


「勿論だ、誓おう」


約束を交わしたのち、グラウニーが、先に口を開く。


今回の出来事に対して、

国は、今回の出来事を噂通り『天災』でかたをつける事に決めていた。


そう決めた背景には、今までチェスター エイベルの犯した罪が関係している。


彼は『伯爵』という地位を利用し、様々な悪事を働いていた。


その中には、国に収める金を着服していた事実もあった。


だが、それ以上に、看過出来ない事が判明したのだ。


この国『アンドリウス王国』には、

長年、目の上のたんこぶのような存在の国がある。


『ゴンドリア帝国』


国王、【アレクサンド ゴンドリア】は、強欲な男で、

常日頃から近隣の国を狙っていた。


そして、その為には手段を選ばない男でもある。


チェスター エイベルは、その国から、多大な賄賂を受け取る代わりに、

子飼いの貴族を使い、アンドリウス王国の情報を流していたのだ。


この事実が判明したのは、『天災』の後。


チェスターが屋敷ごと消滅したという事実に、

チェスター子飼いの貴族達は、

『この度の天災は、神の怒りに触れたからだ』

という街の噂を信じ込んだ。


その為、この街にいれば、次は、自分の番かもしれないと

恐れを抱き、焦って王都から逃げ出そうとしたのだ。


しかし、以前から内偵を進め、監視をしていた

グラウニーの部下たちに、逃亡を謀り、

王都の外まで、逃げ出したところで、取り押さえられた。


そこから、この事実が、全て明るみになったのだ。


この事件で、捕まった貴族は多い。


だが、おおやけにすることは出来ない。


万が一、この事が、国民に知られると、

貴族の信用は、地に落ちる。


その為、国王ゴーレン アンドリウスは、

この件に関わっていた者達を、内々で処分し、

全てを消し去る事に決めた。


だが、首謀者であるチェスター エイベルは、

腐っても『伯爵』という地位の者。


断罪し、一族を消し去るには、王都が被る被害が大きすぎる。


当然、それも仕方なしと捉え、一族全てを処刑する事も考慮したが

今回の事件では、裁かれる貴族の数が多すぎた。


その為、チェスター エイベルは、

天災で死亡とだけ伝え、詳細を明かさない事に決めた。


勿論、エイベル一族にも、話は通している。


エイベル一族も、断罪され、全てを失うより

この案に賛成し、『伯爵』という地位を保てる事に

感謝を示し、この案に同意した。


だが、ここで終わりではない。


国としては、今回の出来事について

詳細は、掴んでおきたいのだ。


その為、色々と調べていくと、

この屋敷付近で、チェスター子飼いの者達が、

多く死んでいる事実を突き止めて、

叔父であるグラウニーが、やって来たのだ。


グラウニーから聞かされた事実に、驚きを隠せないエブリン。


「そんな事が、あったなんて・・・・・」


口元に手を当て、驚いた表情を見せているエブリンだが、

内心は違う。


ただ、単に、エンデ達が助かった事に、喜んでいた。


──良かった・・・・・

  これなら、なんとかなりそうね・・・・・


そんな思いのエブリンを、ジッと見つめるグラウニーは

全てを語り、念を押す。


「先程も言ったが、他言無用じゃぞ。


 まだ、あの国の手下が、隠れているかも知れぬしな」


黙って頷く一同。


「では、今度は、そちらの話を聞かせてくれ」


促され、エブリンが口を開く。


「そうね、まず、この屋敷の近くで見つかった死体だけど、殆どが彼の仕業よ」


そう言ってエブリンの視線の先にいたのは、キングホース。


「彼は?・・・・・」


「彼は、キングホース。


 叔父様も、知っているでしょ」


グラウニーは、目を見開いたまま止まった。


「・・・・・叔父様?」


「ああ、すまない。


 だが、エブリンよ、今、語った事は、事実なのか?」


「ええ、本当よ、嘘はつかないわ」


その言葉を裏付けるように、

ダバンは、キングホースの姿に変化する。


「お、おお!」


感嘆の声を上げ、見上げるグラウニー。


「分かって下さったかしら?」


エブリンの言葉に、何度も頷く。


グラウニーは、その後、キングホースの周りをうろつき、

感心するように眺めていた。


「まさか実在するとは・・・・・・

 それに、本当に、人型にもなれるとは・・・・・」


興奮が冷めず、キングホースの周りをウロウロしていたグラウニーは、

立ち止まると、エブリンに話しかける。


「これだけでも凄い事じゃが・・・・・・」


『まだあるのだろ?』


グラウニーは、そう言いたげに、エブリンに目で訴えかけた。


先程の行動から、威厳を失いつつあるグラウニーの訴えに、溜息を吐く。


「ええ・・・・・・ですがその前に、少し、落ち着いてください」


エブリンの言葉に、襟を正し、ソファーに腰を掛けるグラウニー。


「これでよいか?」


グラウニーが座ったところで、話を再開する。


「叔父様が一番知りたいのは、チェスターの屋敷が崩壊した件ですね」


──やはり知っておったのか・・・・・


内心で呟くグラウニー。


「話してくれる気になったのだな」


「ええ、約束しましたから」


エブリンは、エンデに、視線を送る。


「お願い」


「うん!」


立ち上がったエンデは、背中から翼を出して見せた。


「こ、これは!?」


古の物語の中の絵でしか、語られぬ姿をしたエンデが

目の前にいる。


呆然としていたグラウニーが、ゆっくりと口を開く。


「黒い4枚の翼に、白い2枚の翼・・・・・・・まるで、神と悪魔・・・・・」


衝撃の光景を目の当たりにし、涙を流し始める。


そして、ソファーから降りて、床に跪く。


「神と悪魔の翼を持つお方、お会いできて光栄です」


頭を下げたまま、微動だにしない。


「叔父様、お顔を上げてください。


 エンデは、私の弟です。


 そして、ヴァイス家の次期当主ですよ」


宥めるように、エブリンは、グラウニーを説き伏せる。


「次期当主・・・・・弟・・・・・ああ、そうだったな」


ゆっくりと顔を上げ、ソファーに座りなおすグラウニー。


「話を続けていいかしら?」


未だ、興奮冷めぬグラウニーだが、深呼吸をして、落ち着きを取り戻した。


「すまない、話を続けてもらおう」



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