第51話王都 来客

チェスターの屋敷から戻って来たエブリン。


エンデ達が起きている事を確認すると、食堂へと向かう。


食堂に入ると、いつもの光景だが、

今日からは、キングホースも、同席していた。


「あっ、おはよう!」


エブリンに気が付いたエンデが声を掛ける。


「おはよう」


エブリンは、挨拶を返すと、いつもの席に座った。


正面の席には、エンデ。


右隣には、ヘンリエッタとジャスティーン。


静かな食卓だったが、暫くして、エブリンが口を開く。


「・・・・・・本当に、何もなかったわ・・・・・・」


「え?」


「先程、チェスターの屋敷を見に行って来たの・・・・・

 あそこは、公園でもできるのかしら・・・・・」


食事をする手を止め、エンデの方に顔を向ける。



頭の痛くなる現状に、皮肉った言い方をしたエブリン。


それに答えるエンデ。



「だから、きちんと伝えたよ。


 何も残っていないって」


「確かにそうね、そうだったわね。


 でも、まさか、一つの死体も残っていないなんて、思わないわよ」



全てが灰となり、跡形もなくこの世から消えていた。


宰相である叔父に、この事をどう話そうか考える。


素直に、エンデの力の事を話すべきか?


それとも・・・・・


知らないふりを通し切るのか?



しかし、この国から侯爵一家が消えたことは、大事件である。


その為、有耶無耶にすることは難しい。


本当の事を語りたい気持ちではあるエブリンだが

今後の事を考えると、悩んでしまう。


それでも、事の成り行きだけは伝えたいと思い

この日の午後、エブリンは、グラウニーに会うために、馬車を走らせた。


同乗者は、メイドのアラーナだけ。


「先に、市場に寄って頂けるかしら、

 叔父様に、手土産でも買っていくわ」



御者の男は、エブリンに従い、一路、市場へと方向を変える。



市場に到着し、骨董屋に向かって歩いていると、とある話が耳に届く。



「おい、お前は、見たかよ」


「ん?

 もしかして、例の天災の事か?」


「ああ、でもよ、あれは、神様が天罰でも与えたんじゃねえかって事よ」


「まぁ、確かに、俺らにとっちゃ、碌でもねえ奴だったからな」


「そうだな、死んでいなきゃ、こんな話出来ないもんな」


あちらこちらで、似たような話が聞こえて来る。




──天災ですか・・・・・・


エヴリンは、思いついた。


このまま天災が、起きたことにしてしまおうと・・・・・・


そう決めてからの行動は、早い。


「屋敷に戻るわよ」


お付きのメイド、アラーナに告げ、

再び馬車に乗り込むよ、来た道を引き返す。


「お嬢様?

 もしかして・・・・・・」


「ええ、あれは天災だったのよ。


 急いで帰って、あの2人に、口裏を合わせるように伝えるのよ」


エブリンは、昨日から悩んでいたことが、馬鹿らしく思える程、

気が楽になった。



だが、そう思えたのも束の間。


屋敷に戻ると、一台の馬車が止まっていた。


エヴリン達が馬車から降りると、

屋敷から出て来た客人と、鉢合わせになった。


「叔父様!?」


「おお!

 エブリン。


 儂の屋敷に向かったと聞いてな、今から戻るところだったのじゃ」


最悪のタイミング。


それに、屋敷に向かった事も知られていた。


エブリンは、平静を装い、カーテシーで挨拶をした後、

叔父であるグラウニーを、屋敷へと招き入れる。


エンデやキングホースを連れて来れば、

ややこしい事になりそうだから、

まずは、1人で会う事にした。


応接室に通し、再度挨拶をする。


「叔父様、ご無沙汰しております」


挨拶を軽く交わした後、向き合うようにソファーに座った。


テーブルに用意された紅茶に口をつけた後

グラウニーが口を開く。


「儂が、ここに来た理由だが・・・・・」


そう話し始めたグラウニーの表情は硬い。


「叔父様、なにか面倒な事でも?」


「わからん・・・・・

 ただ、色々と調べさせているうちに、この屋敷の周辺でも

 多くの死者が、出ている事を知ったのだ」


「あっ・・・・・・」


思わず漏らした一言。


犯人に心当たりがあり過ぎる。


エンデとキングホース。


特に、キングホース。


あの馬の仕業。


この屋敷を監視し、悪意を持つ者達を、次々に屠った。


その後、死体を放置した為に、屋敷の周辺には、多くの死体が転がっていた。


──あの駄馬、最後まできちんと片付けていなかったわね・・・・・・


そう思いながらも、表情に出さないように努めるエブリンだが、

その前に『あっ・・・・・』と声を漏らしてしまった為に、

グラウニーから、怪しい眼差しを向けられている。


再び、ティーカップを手に持ったグラウニーは

残っていた紅茶を一息に飲み干した。


「では、詳しい話を聞こうではないか・・・・・」


親戚としてではなく、『宰相』としての顔をして迫る。


「叔父様、お顔が・・・・・」


若干、引き気味のエブリン。


だが、話さずに迷惑をかける訳にもいかない。


背筋を伸ばし、グラウニーと向き合うエブリン。


「叔父様、これからお話しすることは他言無用です」


そうグラウニーに告げた時、部屋の扉が叩かれる。


入って来たのは、エリアル。


「お話の途中、失礼致します」



普段、扉を叩いただけで許可を得ず、

部屋に押し入るなど、失礼な事だが、

エブリンは、エリアルの後ろにいる者の姿を見て気が付く。


「構わないわ。


 貴方達も、いてくれた方が話が早いわ」


当初は、1人で話すつもりだったが、こうなれば仕方がない。


エンデとキングホースに同席するように促す。


グラウニーに挨拶をするエンデ。


「ご無沙汰しております叔父様」


「エンデか、元気そうで何よりだ。


 それより、その隣の男は誰だ?」


「はい、彼は【ダバン】。


 亜人です」


「『ダバン』?」


「うん、名前があった方がいいと思って、僕が付けた」


「もしかして、『駄馬』だから、『ダバン』なの?」


「覚えやすいでしょ」


そう言って、笑顔を見せるエンデ。


エブリンは、ダバンの表情を窺うが、本人も満更ではない様子。


「ダバンで、いいの?」


「ああ、主から初めて頂戴した名だ。


 大切にする」


満足そうなダバン。


エブリンは、憐れみの表情でダバンをみた。


──『駄馬』だから『ダバン』なんて、

   もう少し、考えてあげればいいのに・・・・・・



そう思いながらも、2人に開いている席に座るように促した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る