第50話 王都 消え去る者

生き残っていた『闇』のメンバー達は

完全回復をしたキングホースの相手になる筈が無く

瞬殺され、この世から去った。


肩を軽く回しながら、エンデに近づくキングホース。


その顔には、笑顔が見える。


「旦那、助かった。

 

 今回は、死ぬかと思ったぜ」


「お前が死ぬわけないだろ!

 それよりも、その姿、どうしたの?」


キングホースの姿に、疑問を持つエンデ。


「ああ、これか、これはだな・・・・・」


キングホースは、自身の事について話し始めた。


キングホースとは、馬であって馬ではない。


種族的には、亜人に分類されるのだ。


その為、人型に変化出来ても不思議ではないのだが

ただ、人型になる為には、条件があった。


その条件を、キングホースは、言い難そうにしている。


「どうしたの?」


「あ、いや・・・・・」


キングホースが、人型になれる条件、それは・・・・・・


『信頼できる主を見つけた時』


主となるエンデを目の前に、中々告げることが出来ない。


「はっきり言えよ!

 友達だろ!」


「ともだち・・・・・」


「違うの?

 僕は、てっきりそう思っていたんだけど・・・・・」


慌てるキングホース。


「いや、そうではない!

『友達』は有難いのだが、俺が人型になれたのは、お前を主と認めたからだ!」


「えっ!?

 そうなの?

 まぁ、どっちでもいいや」


一大決心の告白も、あっさりと流された。


──何故、俺は、こいつを主と認めたのだろう・・・・・・


疑問に思いつつも、キングホースとエンデは、

屋敷へと向かって歩き始めた。




到着した屋敷で出迎えてくれたのは、エブリン。


「お疲れ様。


 それで、どうなったの?」


「え・・・・・」


「わかっているわ、侯爵の屋敷に行ってきたんでしょ」


深夜、エンデとキングホースが出掛けて行く姿を、

エブリンは、メイドのアラーナと共に、部屋から見ていたのだ。



それから、帰ってくるまで口には出さないが、

心配な事に変わりはなく、一睡もしていない。


「ちゃんと、全部話してよね」


『キッ』とエンデを睨みつけるエブリン。


「わ、わかったから、そんな怖い顔しないでよ」


「そう、なら、いいわ。


 でも、それより先に、この男の事、紹介してくれるかしら?」


この男とは、キングホースの事。


素直に話すと決めたからには、正直に打ち明ける事にした。


「これは、キングホースだよ」


「おい!

 これってなんだ!?

 きちんと紹介しろよ」


「わかったよ・・・・・」


エンデは、この男がキングホースの人化した姿だと話す。


「そう・・・・・なの・・・・・」


怪しむ顔で、キングホースを眺める。


「ハハハ、驚いたか。


 俺は、キングホースだ。


 俺ほどになると、人に化ける事も出来るのだ」


自信満々に語る。


しかし、エンデが、本当の事を口にした。


「飼い主が決まると、人化できるようになるんだって」


間違いではないが、その言い方が、気に入らないキングホース。


「『飼い主』、言うな!

 心から、忠誠を誓える主が見つかると、人化出来るようになるんだ」


「忠誠を誓える主???」


キングホースが、エンデに指を差す。


「これだ」


「主を『これ』って言うな!」


2人が、言い合いを始めそうだったが、エブリンが、間に割って止めた。


「2人共、話は、分かったから、静かにしなさい!!!」


「「・・・・・はい」」


2人が落ち着いたところで、話を進めるように促す。


エンデとキングホースは、チェスター エイベルの屋敷に乗り込んだことや

屋敷を見張っていた者たちを、始末したことを告げたが

エンデは、屋敷の後の事は、語らず、ぼかした。


その理由は、やり過ぎたと思っているからだ。


そんなエンデの気持ちなど、お構いなしに尋ねるエブリン。


「それで、伯爵は何処にいるの?」


今後の対応を考え、宰相をしている叔父にも

伝えた方がいいだろうと考えを巡らした末の言葉だったが、

何故か、その言葉を聞き、そっぽを向いているエンデ。


その態度に、疑問を持つエブリン。


「ちょっと、エンデ、どうしたの?

 早く答えなさいよ」


「・・・えと・・・多分死んだよ」


「えっ!!!」


「・・・屋敷ごと、消した」


「は!?」


「だから、屋敷にこう『ピカァーーー』と光った稲妻を

 『ズドーン』って落として、全部消したんだよ」


「・・・・・」


「・・・・・」


「ねぇ、聞いてる?」


固まっているエブリンの顔を覗き込むエンデ。


「え・・・ええ・・・きちんと聞いているから、大丈夫よ」


エヴリンは、溜息を吐く。


あんな擬声混じりで話されてても、はっきりと分かるはずが無い。


「明日、色々と調べないといけないのね・・・・・」


エンデは、ウトウトしながら、笑顔で頷く。


その様子を見て、エブリンは、再び溜息を吐いた。


「あんた、眠たくなって、もう、どうでもいいんでしょ・・・・」


苦笑いをするしかないエンデ。


仕方なく、エブリンが手を叩くと、エリアルが姿を見せる。


「お願いね」


「はい、お任せください」


エンデは、エリアルにより、自室へと連行された。




そして、翌日、エンデ達よりも、先に起きていたエヴリン。


本当は、寝ていない。


眠れなかったのだ。


だが、アラーナや他のメイドに心配を掛けない為に、

眠ったふりをして昨晩を過ごしたのだ。



朝食を摂り終えると、

エヴリンは、アラーナが御者を務める馬車に乗り、とある場所を目指す。



目的地に近づくにつれ、早朝にも関わらず、多くの人たちが集まっている。


エヴリンは、馬車から降りると、人だかりの方に向かって歩く。


そして、強引に人々を押し退け、人だかりの先頭に、辿り着く。


そこには、立ち入り禁止とばかりに

ロープが張られ、その中で、働く兵士たちの姿があった。


そこで見た光景は、

広大な空き地と、焦げた大地。


未だに、火も燻っている。



エブリンが、目指した場所とは、

チェスター エイベルの屋敷が建っていた場所。


辛うじて残っていた周りを囲む塀の残骸から、

それが間違いではない事を示す。


「凄いわ・・・・・何も残っていないなんて」


「はい、エンデ様の仰ったとおりですね」


「・・・・・うん」


屋敷を見てから、この先のことを決めようと思っていたエヴリン。


だが、現場には、屋敷も死体も無い。


エブリンは、仕方なく叔父であるグラウニー マルコールを頼る事にした。


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