第47話王都 チェスター エイベルの屋敷

食事を提供した太った男は、エンデが食事をしている隙に

執事のバートランドのもとに、弟子を向かわせていた。


屋敷に戻っていたバートランドは、弟子の話を聞き、

急いで兵士たちを集めると、調理場へと向かわせる。


そして、調理場の手前まで来ると、

斥侯の兵士だけが進み、扉の隙間から中を覗いた。



そこから見えたのは、食糧庫の手前で、食事をする少年の姿。


彼は、エンデの姿を知らない。


その為、バートランドに、見たままの状況を伝える。




「確かに、奥で少年が食事をしております。


 まだ、こちらに気が付いていないようですが・・・・・・」



「そうですか・・・・・・では、逃げ道を塞いでしまいましょう」



バートランドの指示により、裏口にも兵士たちが待機し、

調理場からの逃げ道を完全に塞いだ。


準備が整うと、バートランドは、指示を出す。


「では、突撃してください。


 直ぐに、攻撃が出来るようにしておくことを、忘れないで下さい」



その指示に対して、兵士が問い直す。



「まだ、中で、働いている者達がおりますが?」



兵士は、同じ屋敷で働く者として、

未だに調理場に残っている者達の事を気にかけたのだが、

バートランドは、気にも留めていない。


「なるようになるでしょう。


 それよりも、確実に仕留める事を考えてください。


 絶対に、逃がしてはなりませんよ」


口調は丁寧だが、目は、有無を言わせぬ輝きを放っていた。


「か、畏まりました。


 おい、行くぞ!」


小声で合図を送ると、一斉に調理場へと飛び込み、エンデに襲い掛かる。


「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


扉が開くと同時に、聞こえてきた叫び声に、

一瞬『ビクッ!』と驚いたエンデだったが、

敵の攻撃だとわかると、音も立てずに立ち上がり、

食事の為に持っていたナイフを、先頭の兵士に向かって投げつける。


そのナイフが、眉間に刺さり、先頭の兵士は倒れたが、

その後ろから、もう1人の兵士が襲い掛かる。


だが、限られた通路しかない為、

先程倒された兵士の屍が邪魔になり、

攻撃が届かない。


「クソッ!」


悪態をつきながら、屍を避けて進もうとする兵士。


流石に、仲間の屍を踏みつける事には、抵抗があったのだ。


だが、その光景をみたバートランドが

声を荒げた。


「何をしているのですか!

 屍など、踏みつけて進みなさい!

 目の前に、敵がいるのですよ!」


「は、はいっ!」


命令を受けた兵士は、心の中で謝りながら

仲間の屍を踏みつけ、エンデに迫る。


そして、剣が届く位置まで来ると

思いっきり、剣を振るった。


だが、その攻撃は、持っていたフォークで

防がれた。


「なに!?」


驚く兵士。


だが、バートランドは違う。


剣を受け止め、エンデの腕が塞がってしまった

今がチャンスとばかりに、号令をかける。


「今です!」



最後尾で、指示を出したバートランドの声に従い

手の空いていた兵士たちが、テーブルなどを乗り越えて


エンデに襲い掛かった。



絶体絶命と思いきや、エンデに焦りはなく、

至って冷静に対処する。


目の前の男を蹴り飛ばし、襲い掛かる兵士にぶつけて、正面の道を塞ぐ。


そして、収納袋から剣を取り出すと、

障害物を乗り越えてこようとした兵士に向かって、剣を振るう。


突然の反撃に、面を喰らった兵士達。


次々と、エンデの餌食となった。


屍を乗り越えながら、

調理場に突撃して来た兵士たちを、倒し切ったエンデ。


勢いのまま、廊下に飛び出す。


すると、そこには、

3人の護衛を引き連れたバートランドの姿があった。


エンデの姿を見るなり、バートランドの表情が変わる。


「このガキ・・・・・好き勝手に暴れやがって」


バートランドの言葉と同時に、

3人の兵士のうちの1人、一番の大男【ゴンズ】が、

先陣を切って、エンデに襲い掛かった。


体形の割に素早い動きをし、ハルバートを振り回しながら、エンデを追い詰める。


その攻撃を、下がりながら回避するエンデの姿に

ゴンズは、笑みを見せた。


「ハハハ、手も足も出ないではないか!

 このまま、儂のハルバートの餌食になれ!」



今までは、ただ大振りをさせていたゴンズだったが、

突如、ハルバートの動きを変える。


大振りを止め、真っすぐに突き放った。


「もらったぁぁぁ!!!」


ゴンズの腕の長さと、ハルバートの長さで、

エンデとの距離は無くなり、完全に間合いに入っている。


だが・・・・・


エンデは、ゴンズの攻撃を避けるどころが、

突き刺す動きを見せたハルバートの一撃を

指先で、止めて見せたのだ。


そして、ハルバートを掴む。


「ぐっ・・・・・」


ゴンズは、ハルバートを引き戻そうとしたが、ビクともしない。


「このガキ・・・・・・」


押しても、引いても、動かなくなったハルバート。


「このガキ!

 その手を、離せ!」


ハルバートを掴んでいるエンデが、『ニヤリ』と笑う。


「おじさん、思ったより、力は無いんだね」


馬鹿にされ、顔を真っ赤にするゴンズ。


ムキになって、ハルバートを引っ張った瞬間、

エンデが手を離した。


自らの勢いで、尻もちをつくゴンズ。


「クソッ!」


慌てて、エンデの方へ顔を向けたが、もう遅い。


エンデは既に、目の前まで、迫っていた。


「えっ!・・・・・」


声を上げたと同時に、胸に剣が突き刺さる。


『ゴフッ!!!』


血を吐くゴンズ。


エンデが、突き刺した剣を抜くと、

ゴンズは、その場に倒れた。


エンデは、ゆっくりと顔を上げ

バートランドたちと向き合う。


「次はだれ?」


その言葉に、護衛の兵士の2人は、怯む姿勢を見せたが、

バートランドは違った。


「ほう・・・・・」


昔の血が騒ぎ、目の奥が光る。


「貴方たちは、下がって下さい」


バートランドの言葉に、躊躇する護衛の兵士たち。


「しかし・・・・・」


「構いません。


 ここは、私にお任せください。


 それよりも、チェスター様にご報告を」


「畏まりました」


2人の護衛は、足早に、その場から離れると、

チェスターの元へ駆け出した。


その間も、バートランドは、エンデから目を離さない。


エンデも、同じで、去ってゆく兵士達には目もくれず

バートランドだけを見ていた。


そして、兵士達の姿が見えなくなると

バートランドが、声をかけてきた。


「お待たせしました。


 では、始めましょうか」


一歩前に出るバートランドだが

武器を持っていない。


だが、もう一歩前へと進み出る。


ゆっくりとした所作で、間合いを詰めるバートランド。


たった、それだけの行動しかしていない筈なのだが

突然、エンデの視界が歪む。


「あれ?」


初めて味わう感覚に、思考が追い付かない。


そんなエンデの様子を見ながら、

更に、間合いを詰めるバートランド。


「幾ら強くても、戦いの経験は、少ないようですね」


バートランドが使ったのは、『幻惑の花』の花粉。


少しの痺れと同時に、麻薬のような症状を引き起こす。



バートランドは、エンデがゴンズと戦っている最中から、下準備をしていた。


そして、ゴンズが敗れると判断した時、

風の魔法に乗せて、花粉を飛ばしていたのだ。



護衛の兵士たちをチェスターのもとに向かわせたのは、自身の攻撃を見せない為。


また、ゆっくりと間合いを詰めたのも、時間稼ぎだったのだ。



『幻惑の花』の花粉の効果で、フラフラしているエンデ。


なんとか、態勢を整えようとするが、

視界が歪んでいる為に、それもままならない。


バートランドは、落ちていた剣を拾い上げると、

エンデの正面に立った。


「お別れの時間です」


バートランドは、それだけ告げると、

エンデの心臓目掛けて、剣を突き放つ。


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