第48話王都 屋敷崩壊

朦朧とする意識の中、エンデは、ギリギリで躱した。


「ほぅ・・・・まだ、動けるとは・・・・・」


バートランドは、距離を保った状態で

もう一度、構える。


「まだ、終わりではありませんよ。


 これからが、本番です」


そう言い放ったバートランドは、先程拾った剣を捨てると

両袖に、隠し持っていた短剣を取り出し、

エンデに襲い掛かった。



意識を必死に保ちながら、バートランドの攻撃を躱すエンデだったが

攻撃の合間に、繰り出された蹴りに対応しきれず

吹き飛ばされるエンデ。


意識が朦朧としている為、上手く着地が出来ず、

壁に衝突する。



そこからは、一方的だった。


バートランドは、わざと致命傷を負わせず

甚振るように、攻撃を繰り返す。


「さて、どこまで持ちますかね・・・・・」


不敵な笑みを浮かべるバートランド。


血塗れのエンデの姿を見て

口角が上がる。


「さぁ、そろそろ仕上げに掛かりますか」


エンデの襟首を掴み、持ち上げる。


「あの屋敷の方々も、じきに貴方の後を追うことになります。


 ですので、ご安心を」



丁寧な口調で話しながらも、

その顔には、下卑た笑みを浮かべていた。


勝利を確信して、余裕を見せたバートランドだったが

その行為を、後悔する事となる。


意識を失っていると思っていた

エンデの瞼が微かに開いた。


そして、バートランドの腕をつかむ。


「つ、か、まえた・・・・・」


『ニヤリ』と口角を上げるエンデ。


「まだ、意識があったとは・・・・・・」


バートランドは、エンデの襟首をつかんでいる手を離し、

距離を取ろうとするが、エンデは、掴んだ腕を離さない。


子供とは思えない程の力に、驚き、焦るバートランド。


必死に、引き剥がそうとするが、びくともしない。


焦りから、口調が汚くなる。



「このガキ!

 離せ!

 離すんだ!」


空いた手で、エンデを、何度も殴りつけが、エンデは離さない。


ずっと、この時を待っていた。


未だに視界が定まらないが

掴んでしまえば、ぼやけていようが関係ない。


力強く握られた腕から、『ミシミシ』と鈍い音が響く。


先程迄の余裕の表情は消え、顔が歪む。


「うぐ・・・・・離せ・・・・・」


引き剥がそうにも、引き剝がせない。


足掻くバークランド。


エンデは、そんなバートランドを無視して

小さく息を吸い込むと、静かに呟く。


それは、脳裏に浮かんだ呪文。


『我に宿りし漆黒の炎よ、今ここに顕現し、かの者を焼き尽くせ」


バートランドを掴んでいるのは左手。


悪魔の力を宿したその腕から、『黒炎』が噴き出すと

一瞬にして、バートランドを飲み込んだ。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


黒炎に飲み込まれたバートランドの体が、一瞬にして炭と化す。


そして、炭となった両足から崩壊し、

バートランドは、この世から、姿を消した。




バートランドを倒す事の出来たエンデだったが、

体中に傷を負わされ、満身創痍の状態には

変わりない。


廊下に腰を下ろし、『ふぅー』と息を吐く。


そこに、外の兵士たちを片付けた、キングホースが姿を見せた。


『ブルルル』(その怪我は、どうした?)


「執事のおじさんと戦ったら、こうなった」


『ブルル』(強かったのか?)


「ううん、ただ、変な薬を使われて・・・・・」


エンデは、バートランドの戦いをキングホースに話した。


そして、キングホースに、頼みごとをする。



「あいつ、『屋敷の方々も、じきに貴方の後を追うことになる』

 とか言ってから、もしかしたら、別動隊がいるかもしれない。


 悪いけど、屋敷に向かってくれるかな?

 心配なんだ」


その言葉を聞いたキングホースは踵を返し、

チェスターの屋敷を出て、ジョエルの屋敷へと急いで、向かった。


キングホースを見送ったエンデは、右手を自身に翳す。


「さてと・・・・・」


『ヒール』


右手から放たれた淡い光がエンデを包み、体中に負っていた怪我を癒した。


立ち上がるエンデ。


だが、例の薬の効果が、残っている為、未だふらつく。


「ああー、もうっ!」


自己嫌悪に陥りながら、再度右手を自身に翳した。


『リカバリー』


エンデの体から、薬の症状が消える。


「ふぅ~」


安堵して、息を吐いたエンデ。


再び屋敷の中を歩き始める。


バートランドの攻撃は、エンデに回復させる暇さえ

与えなかった。


あいつが、甚振る事をせず、致命傷となる一撃を放っていたら

どうなっていたんだろう・・・・・


そんな事を考えながら、屋敷内を探索するエンデ。


しかし、屋敷が広く、何処を探してもチェスターの姿を見つける事が出来ない。


「なんか、探すの面倒臭くなってきた・・・・・」


エンデは、近くの窓から翼を広げて外に飛び出した。


そして、屋敷の上空で止まると、左手を上げる。


すると、屋敷の上空に暗雲が集まり、光を遮り始めた。



突然、暗雲が立ち込め、王都の空を覆った異様な状況に、

王都の民たちは、思わず足を止めた。


「おい、なんだ?」


「どうなってんだよ・・・・・・」


既に、日は昇っていた筈だったが

再び、夜へと戻されたと思える程の暗闇に包まれた王都。


民たちは、その場で立ち尽くす。


「一体何なんだよ・・・・」


「わかんねえよ」


王都の民たちは、何が起こっているかわからないながらも、

成り行きを見守っている。


そんな中、エンデは右手を掲げた。


すると、今度は暗雲の中に光が走る。


遠くから、この様子を見ている王都の民たちには、

その光が、まるで暗雲の中を泳ぐ黄金の竜のように見えた。


「竜だ・・・・・」


誰かが、そう呟くと

その言葉が伝染し、各々が、口々に呟き始めた。


「竜神様だ・・・・・」


その場に座り込み、祈りを捧げ始める王都の民。



そんな大事になっているとは、露知つゆらず、

エンデは、掲げた両手を屋敷に向けて、振り下ろした。


「消え去れ・・・・・」


発した言葉と同時に、暗雲の中より現れた巨大な稲妻が、

屋敷に落ちる。


『ドゴォォォォォン!!!』


轟音と共に、地が揺れる。


その振動は、祈りを捧げている民たちだけではなく、

王城に住まう者達にも届く。


その為、敵襲と勘違いをし、騒ぎ始める城内。


また、同じように、祈りを捧げていた民たちも、

黄金の竜が襲いに来たと勘違いをし、混乱している。



そんなことになっているとは、思いもしないエンデは

冷静に屋敷跡を見つめていた。


そこには、融解してガラス状になった土と、何かが焦げた跡があるだけ。


屋敷があった事すらわからない。


屋敷跡では、まだ火が燻っているが、ジョエルの屋敷の事が心配になり、

急いで、その場から立ち去った。




その頃、屋敷を監視していた『闇』の者達。


上空の様子と、地響きに困惑しながらも

合流する予定の兵士達を待っていた。



だが、いくら待っていても、姿を見せない。


約束の時間は、とうに過ぎている。


痺れを切らした『闇』のメンバーは、行動に出る事に決めた。




「待っていても仕方ねぇ。


 前金は頂いているんだ。


 俺達だけで、始めるぞ」



「「「へい!」」」



ジェイクの指示に従い、隠れていた木々から、

次々に姿を現す。


しかし、木から飛び降りると、

そこには褐色の肌に、漆黒の長い髪の男が立っていた。


「何処に行くつもりだ?」


突然話しかけられた『闇』の者達は、

一斉に距離を取り、武器を構える。



「貴様、何者だ!

 いつから、そこにいたのだ!?」



ジェイクの問いかけに、褐色の肌の男は

笑みを浮かべるだけで、何も答えない。


「おい、聞いているのか!

 貴様は、何者だ!?」



もう一度、問いかけたジェイクに

褐色の肌の男は、口を開く。


「俺は、『キングホース』。


 この姿になるのは、久しぶりでな」


人化したキングホースが、屋敷を守る為

『闇』のメンバーの前に、立ち塞がった。




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