第45話王都 襲撃者達

誰もが、寝静まっている深夜。


チェスターの集めた奴隷兵たちが動き出す。


目的地は、ジョエルの屋敷。


「では、頼んだぞ。


 報告を待っている」


「ご安心ください。


 必ず、成し遂げてみせましょう」


そう答えたのは、

奴隷兵たちを纏めるのは、同じ奴隷兵の【マントーン】。


戦闘に特化した者達を纏めるだけの実力を持ち、

これまでも数々の依頼をこなしてきた男だ。


「では、出発するぞ!」



掛け声とともに、暗闇に紛れて、進軍を始めた。




それからしばらくして、奴隷兵達は、貴族街と平民街を隔てる壁の所まで進み、

その先にあるジョエルの屋敷へと向かおうとしたのだが、

突然、道のど真ん中に、何者かの姿が見えた。


「おい、あれはなんだ?」


足を止め、目を凝らす奴隷兵達。


その瞬間、偶然、雲の隙間から、月の光が漏れ

その正体を照らした。


見えたのは、馬と少年だった。


「なんだ、ガキじゃねえか」


そう言って、マントーンより先に、

後ろに控えていた【エルマー】が前に進み出る。



「おい、そこをどけ!

 邪魔だ!」


エルマーは、武器を手にして、馬に近づく。


相手が子供だからなのか、

エルマーは、強引な手段に出ようと、さらに前へと進み出た。


この時、

エルマーは、肝心な事を忘れている。


今は、深夜、誰もが寝静まっている時間・・・・・


そんな時間に、

子供が一人が、馬に乗って現れること自体、あり得ないという事を

エルマーは忘れており、少年を馬から落とそうと、

馬の横へとまわる。


だが、馬は、向きを変え、常に、エルマーを正面に立たせた。


完全に、キングホースに遊ばれているのだ。



「おいてめぇ、このっ!!」


何度やっても、同じことの繰り返された為

徐々に、怒りを滲ませる。


「ちょ、調子に乗んじゃねぇ!!!」


荒れた呼吸のまま、正面から、キングホースに襲い掛かるエルマー。


タイミングを見計らっていたキングホースは

エルマーの動きに合わせて、前足を大きく上げると

剣を持つエルマーを圧し潰した。


『ブルル』(馬鹿め・・・・・)


頭部が潰され、大の字になって横たわっているエルマー。


一瞬の出来事に、呆然と見守るだけだった奴隷兵たち。


「あの馬は、悪魔か!?」


何気なく奴隷兵から漏れた言葉に、エンデが笑う。




「お前、悪魔だって・・・・・」


『・・・・・・ブル』(・・・・・・どっちがだ)


他愛もない会話を、一言二言交わしたエンデは

馬から、飛び降りる。


奴隷兵達と向き合う形となったエンデは

声を掛けた。


「お前たち、チェスターの仲間だろ」


「チェスター?

 誰だ、それは?」


奴隷兵の纏め役でもあるマントーンは、

知らないふりをした。


「恍けるんだ・・・・・

 まぁ、喋らないなら、別に構わないよ。


 もう、他の人から、話して貰ったから」


「知っていたのか・・・・・

 死んでもらうしかない!」

 

そう言い終えたマントーンは、武器を構えた。


エンデも、応えるように翼を開放すると

その姿を見た奴隷兵達が驚く。



「なっ!

「こいつ何者だ!?」



奴隷兵たちは、一瞬、驚いたような表情を見せたが、

直ぐに、戦闘態勢をとり、エンデに攻撃を仕掛ける。



「空に逃がすなよ!

 一気に畳み掛けろ!」


マントーンの命令に従い、それぞれの役割を果たそうとする奴隷兵たち。


しかし、奴隷兵たちの攻撃は、エンデに届かない。




何かに阻まれ続けている事に、気が付いたマントーンだが、

それと同時に、キングホースの姿が見えない事に気付く。


「おい、あの馬がいないぞ!

 あの馬は、どうした?」



マントーンの声を聴き、奴隷兵達が

辺りを見渡すが、姿が見当たらない。



キングホースを、完全に見失ってしまっていたのだ。


この状況に、マントーンの頭の中で、警笛が鳴る。


『直ぐに逃げろ!』


そう叫んでいるが、逃げる選択肢など、

この討伐に参加した時点で、失われている。


──やるしかない・・・・・


覚悟を決めて、もう一度、辺りを見渡すマントーン。


──何処に隠れた・・・・・


必死に、探していると、

突然、轟音と共に、人が空へと舞った。


「な!!!」


「あ、始まった」


その言葉から、例の馬の仕業と理解できた。


だが、マントーンは、エンデを放って

ここを離れる訳にはいかない。


「チッ!」


思わず舌打ちをしたマントーンは、

エンデを倒すことを優先して、再び攻撃を仕掛ける。


幾度となく、剣を振り下ろすマントーン。

だが、どの攻撃も、掠りすらしない。


──早く助けに行かなければ・・・・・・


その思いが、焦りを呼び、

攻撃が、散漫で、精細を欠いてしまっている。


そんな状態で、エンデに戦いを挑んでいるマントーンの視界に

轟音と共に、仲間が吹き飛ぶ光景が、視界に入る。



「クッ・・・・・」


思わず視線を外してしまったマントーン。


その隙を、エンデが逃す筈が無く

マントーンに、一撃を加えた。


無防備な状態で、喰らった一撃は、

マントーンの肋骨を砕き、吹き飛ばす。


「グァァァァァ!!!」


壁に衝突し、何とか止まったマントーンだが

起き上がることの出来る状態ではない。



「・・・・・こ、この化け物め!」


この言葉を最後に、マントーンは、呼吸を止めた。



その頃、奴隷兵達を相手にしていたキングホースは

確実に、1人、また1人と敵の数を減らしていたが

途中から、魔法を使う奴隷兵達に、阻まれて

防御に専念せざる負えない状態へと、追い込まれていた。


『ブルルル・・・』


──鬱陶しいな・・・・・



そう思いながら、攻撃を躱すキングホース。


何かきっかけが必要だと思い、色々考えていた時

こちらに視線を向ける

大きな気に気付く。


──主か・・・・・

  これは、助かる・・・・・


キングホースは、奴隷兵達に背を向け走り出す。


向かった先にいるのはエンデ。


だが、奴隷兵達は、誤解をする。


「おい、あの馬、逃げるぞ!」


1人の奴隷兵の言葉が合図となり

1部の者達が、キングホースの後を追った。


だが、人の足が、馬の速さに適う筈が無い

ましてや、相手は、伝説とも謳われているキングホースだ。


あっと言う間に、エンデとの合流に成功すると

追いかけてきた奴隷兵達と対峙した。


再び戦闘が開始する。


だが、ただの奴隷兵が、エンデとキングホースに適う筈が無く

あっさりと屠ったのだが、相手の数の少なさに気付いた。



「まだ、生き残りがいるみたいだね。

 でも、何処に?」


「ブルルル・・・」

『奴らが行きそうな場所と言えば・・・・・」



「ジョエルさんの屋敷!!!」



エンデは、キングホースに跨ると

全力で、屋敷へと向かった。




その頃、キングホースを追う事を

あっさりと諦めた奴隷兵達は、

当初の目的でもあるジョエルの屋敷へと向かっていた。


 

だが、ジョエルの屋敷に到着する寸前

エンデとキングホースが、立ち塞がる。


「戻って来やがったか・・・」


ポツリと呟いた奴隷兵は、仲間達に合図を送った。


遠距離での攻撃を、仕掛けるつもりだ。



しかし、キングホースの背中から

エンデが飛び出し、奴隷兵達に襲い掛かる。


一瞬にして、混乱する奴隷兵達。


そこに、キングホースも、参戦し

一気に、形勢が逆転した。


最終的に、15人いた筈の奴隷兵達は、

1人残らず、屠られ、

誰一人として、ジョエルの屋敷に辿り着くことは出来なかった。



送られてきた奴隷兵達の殲滅を終えたエンデとキングホースは、

再び歩き出す。


「これからが本番だけど、大丈夫?」


エンデの問い掛けに、キングホースは、軽く嘶いて答えた。


『当然だ。

 問題ない。』


その返事を聞いたエンデは、笑顔を見せる。


「頼んだよ、相棒」



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