第41話王都 チェスターの策略

応接室の扉を叩き、中に入るチェスター。


ソファーに腰を掛け、メイドに用意されていた紅茶を飲んでいるグラウニー。


「お待たせしました」


何事も無かったかのように、振舞うチェスターは、グラウニーの正面に座る。



「今日は、どういった御用ですか?」


直ぐに、話を切り出すチェスター。


グラウニーは、それに答えるかのように、

手に持っていたティーカップをテーブルに置いた。


「最近、良からぬ噂を聞いてな・・・・・・」


グラウニーは、チェスターの顔を見る。


変化はない。


「ほう、どんな噂ですかな?」


「儂の甥たちが、王都で暮らしているのだが、何処かの貴族が圧力をかけて、

 商品を売らないようにさせているらしいのだ」


そう言い切ると、チェスターを睨んだ。


──やはり、耳に入ったか・・・・・


そう思いながらも、この場を乗り切る為の言い訳を考える。


そして、思い出したのが、ロナウの存在。


王都に来て、エヴリン達と揉めたことは、チェスターも知っていた。


だが、ロナウの父であるリドガーは、責任を取る形で、王都から出て行った。


それに、ロナウと、その仲間を乗せた鉱山行きの馬車は、

何者かに襲われ、息子たちは行方不明だとも聞いている。


その為、オーディン家に責任を取らすことは出来ない。


しかし、男爵であるワグナの父、ビスド ドレイドなら可能だ。


チェスターは、グラウニーに伝える。



「私も、その噂は、聞いたことがあります。


 それで、少し気になって調べてみたのですが、

 どうやら、男爵家が絡んでいるようです」


「男爵家だと?」


「はい、ビスド ドレイド男爵ですよ。


 例のリドガー オーディンの息子、ロナウ オーディンと、

 ビスドの息子、ワグナ ドレイドは、行動を共にしておりましたから、

 例の件で、一緒に鉱山送りになっています。


 それに、あの仲間の中には、商人の息子もいたようなので、

 逆恨みで、そのような事をしているのではないかと、思うのですが・・・・・

 ただ、証拠が・・・・・」


あくまでも、調べたふりをして話す。


「そうだったのか・・・・・

 儂は、てっきり・・・・・いや、何でもない」


グラウニーは、チェスターの仕業だと言いかけたが、口を噤む。


だが・・・・・




「ハハハ、まさか、私の仕業とでも、思っておられたのですか?」


チェスターは、自らそう話し、グラウニーに罪悪感を与えるとともに、

『首謀者』という立場から、逃れる事にした。


「いや、すまない。


 あらぬ疑いをかけてしまった」



グラウニーから、謝罪を受けたチェスターは、笑って水に流し、

今後は、力を貸すことを約束する。


こうして、グラウニーの目を、欺くことに成功した。



グラウニーを見送った後、チェスターは、執事の【バートランド】を呼ぶ。


「旦那様、何か御用でしょうか?」


「至急、ビスド ドレイドを、今回の犯人に、仕立てる必要がある」


「左様ですか・・・・・ヴァイス家の方は、如何なさいますか?」


「放っておけ、ただし、監視は続けろ。


 何か動きがあれば、必ず報告するのだ」



「畏まりました。


 それで、ドレイド家の事ですが・・・・・」



「何か良い案でもあるのか?」


バートランドは、チェスターに促され、言葉にする。


「はい、王都の影といわれる、『闇』を使ってみるのは、どうでしょうか?」


『闇』


それは、王都に存在し、『どんな依頼でも引き受け、確実に任務を遂行する』

と言われている者達のチームの名前。



だが、まことしやかに囁かれるだけで、姿を見た者はいない。


そんな者達を知っているというバートランド。


チェスターは、バートランドの顔を見る。


「連絡が取れるのか?」


「勿論でございます。


 ただ、報酬が前払いで、少々高く・・・・・」


「構わん、受けてもらえるなら、金額は問わぬ。


 頼んだぞ」


「畏まりました」


バートランドは、一礼をして、部屋を出た。


『ドカッ』とソファーにもたれ掛かったチェスターは

大きく息を吐いた。


「これで、何とかなりそうだな」


チェスターは、安堵の表情を見せた。





チェスターの許可を得たバートランドは、屋敷を出て、街の中を歩いている。


住宅街を抜け、人通りの少なくなった道を歩く。


そして、スラムの手前、廃墟となった教会の隣に、

草木に隠れた細い道を見つけると、足を止めた。


「こちらでしたね」


バートランドが、草木を分けながらその道を進むと、

古びた小屋が、見えてきた。


服に着いた草木を払い、服装を整えてから扉を開ける。



小屋の中は埃だらけで、人の気配もない。


しかし、バートランドの顔には、笑みが零れている。


「懐かしいですね」


独り言を呟いたバートランドは、足跡が付かないように、小屋の中を進み、

キッチンにあった食器棚を押した。


押された食器棚が、ゆっくりと動く。


そして、地下に続く階段が姿を現した。



階段を降り、地下通路を進むと、明かりの零れている部屋があった。


バートランドは、その部屋の中へと入る。


すると、中にいた者達の視線が、バートランドに向けられた。


「皆さん、お久しぶりです」


視線が集まる中、何食わぬ顔で挨拶をするバートランド。


そんなバートランドに、一番奥に座っていた男が声を掛ける。


かしら!」


バートランドを『頭』と呼んだ男の名は【ジェイク】。


『闇』の現リーダー。


ジェイクは、椅子から立ち上がり、バートランドに近寄った。


「ご無沙汰してます頭」


「頭は、よしてください。


 私は、引退した身です。


 今の頭は貴方ですよ、ジェイク」


「ははは、そうでした」


がっちりと握手をする2人。


バートランドが、用意された席に座ると、話が始まる。


「ところで、こんなところに来るなんて、どうしたんですか?」


「ええ、依頼を持ってきました」


「ほぅ・・・・・」


男達の目つきが変わった。


「頭・・・・いえ、バートランドさんからの依頼なんて、珍しいですね。


 俺達に頼むより、御自身で、やった方が早くないですか?」


「いえ、私は、この通り、もう年ですから、貴方達に任せた方が確実です」



「なら、話を聞かせてもらいましょうか?」



バートランドは、考えた話を聞かせる。


その話を、黙って聞いている男達。


一通り、話を聞き終えると、ジェイクが口を開く。


「それなら、ヴァイス家の者に近づき、

 失敗したふりをして、証拠を残さないと駄目ですね」


「まぁ、その通りなのですが、色々と不思議な事がありまして・・・・・」



バートランドは、困らない食料、監視者の死など、今までの出来事を伝えた。


話を聞いても、ジェイクの表情は変わらない。


「取り敢えず、様子を探ってみます」


「では、引き受けて頂けるのですね」


「勿論です」


「では、これが報酬です」


バートランドは、懐から、金貨の詰まった袋を取り出して渡す。


中身を確認するジェイク。



「これはまた、凄いですね」


満足のいく報酬額だった。


笑みを浮かべるジェイクに、バートランドが話しかける。


「エイベル家の、今後に関わる事ですから、頼みましたよ」


「任せてください」


ジェイクの返事を聞き、バートランドは、その場から去り

屋敷へと戻っていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る