第40話王都 同行者

監視をしていた冒険者達は、

帰って来たエンデの姿を見て、驚きを隠せなかった。


「あのガキ、いつの間に・・・・・」


知らせるべきなのだが、その後の事を考えると、億劫になる。


だが、仕事なのだから仕方がない。




エンデが屋敷に戻ってから、しばらくの時が過ぎ、

交代の時間が迫る。


いつものように、仲間の到着を待っているビルドだったが

ふと、木の下に何かがいる事に気付いた。


「なんだ、馬か・・・・・ん?」


そう思ったが、よくよく考えると、とある疑問が、脳裏を過る。


「何で馬が・・・・・いつの間に?」


ビルド達が監視の為に陣取っていた木は、

ジョエルの屋敷から、道を挟んだ向かい側にある。


その為、正面の道を通れば

わかるはずだ。


だが、そんな記憶はない。


それに、接近に気付かない筈が無い。


また、馬が逃げ出していれば、大騒ぎになっていても

おかしくはない。


だが、騒ぎは起きていない。


ビルドが、下を見れば、馬は、未だに、こちらを見上げている。


「気味が悪いぜ・・・・・」


そう呟いたビルド。


この馬は、人の言葉を理解する。


人間だって『気味が悪い』と言われては、いい気分がしない。


それは、馬も同じ。


ビルドを睨みつけた馬は、体制を変え、後ろ足で、

木を薙ぎ倒す勢いで蹴る。


「うわぁ!」


思わず、体制を崩したビルドは、落下してゆく。


すると、馬は、タイミングを計ったかのように、

ビルドに向かって蹴りを放った。


『ゴキッ』という音と共に、首の骨が折れ、顔が陥没したビルド。


確実に死んでいる。


馬は、地面に転がるビルドを覗き込んだ後、

何事も無かったかのように、ジョエルの屋敷に戻って行った。



その後、交代の為に現れた監視者達は、

ビルド達の死体を発見し、慌てて逃げていった。



そして、その翌日、

ジョエルの屋敷の近くで、3つの死体が発見される。


その全ての遺体は、首の骨が折れ、顔が陥没していた。



馬は、エンデ達を助けた訳では無い。


ただ、庭で休んでいると、どうしても奴らの視線が気になり

我慢できなかっただけなのだ。


彼は、伝説とも謳われる『キングホース』


草原を駆け回る日々に、少々飽きていた彼は、

人族にわざと捕まり、

飼いならされた馬のふりをして、他の仲間達と一緒に生活をすることにした。


少しの労働で、黙っていても、食事が出る。


そんな生活に、文句はない。


当分は、こんな生活でもいいかと考えていたのだが

偶然、異質な存在と出会ってしまう。


異質な存在、それはエンデだ。


キングホースから見た少年、エンデは

人族のように見えるが、人族ではない事は、理解できた。


そんな異質な存在に、

興味を惹かれたキングホースは、運よく彼の馬車を引くことになった。


だが、彼は、疲れていたのか、手綱を握ったまま

途中で寝てしまう。


だが、行き先はわかっている。


なので、キングホースは、仕方なく、王都に向けて走らせたのだが、

王都に到着するなり、揉め事に巻き込まれた。


キングホースは、この事態に、大いに喜んだ。


──俺に、任せろ!・・・・・


自ら、首を突っ込んだキングホースは

状況を把握すると、場所を変える事にし、馬車を走らせる。


逃走する様に、見せかけてはいるが

キングホースは、全力を出していない。


追って来い!と言わんばかりの絶妙な距離を保ちながら

走っている。


そんな、キングホースが、戦いの為に選んだ場所は、

休憩を取った草原で、

エンデが、馬車から降りると

キングホースは、少し距離を置いた場所まで下がり、

待機する。


そこでの戦いは、圧倒的過ぎて、言葉にならない。


また、文句を言いながらも、

エンデは、キングホースの忠告を聞き入れた。


その行動の1つ1つが、キングホースの感情を揺さぶり

『この男なら、我が主になっても構わない』

そう思う程だったのだ。


また、

再度、王都に到着した際には、

キングホースは、大勢の馬を引き連れて

勝手に、王都の門を、突破してみせたが

咎めたりすることも無かった。


その後は、口では、文句を言いながらも、

手綱を握る事もしないエンデ。



そんな小さな出来事が、キングホースには新鮮に映り

今後も、一緒にいる事に決めたのだ。



そして、現在・・・・・


彼のいる場所は、

自然のまま、草花を生やした庭に

雨宿りの出来る馬房。


後、食べ切れないほど、与えられる食事。


この状況に、キングホース満足している。


ただ、1つの事柄を除いては・・・・・



とある日

いつものように、庭で昼寝をしていると

キングホースを『駄馬』と呼ぶエンデが、屋敷の方から見ていた。


その隣には、エヴリンも立っている。


「あの馬、あのままでいいの?」


「うん、大丈夫だよ」


キングホースだとわかり、エヴリンは、大切に扱おうと思うが、

エンデは、そんな素振りも見せない。


「本当に、このままでいいの?」


庭師がいなくなってから、庭の手入れは、行き届いていない。


雑草が伸び、芝生というより、最早、草むらと言えるレベルにまで伸びている。


そんな状況だからこそ、

せめて、整えた方が良いのではと思い、エンデに相談を持ち掛けたのだが


『あいつ気にしていないから、いいんじゃない』と笑うだけ。


流石にそれは、不味いと思ったエブリンが告げる。


「キングホースだよ!

 本当にいいの?」


「うん。


 満足しているみたいだから

 このままで、良いと思うよ。


 餌も、持って帰って来た中にあった、野菜で十分だよ」


「まぁ、確かに沢山あるし、喜んで食べているけど・・・・・・」


2人は、キングホースを眺めている。


しかし、キングホースに、気にする様子はない。


草むらに、体を半分沈ませて、日の光を浴びながら眠るキングホース。


ただ、その寝姿に、疑問が浮かぶ。


「「・・・・・・」」


「・・・・・本で知ったんだけど、キングホースって高貴な馬だよね?」


「・・・・・ええ」


「お腹を、上にして寝てても高貴?」


「気にしちゃダメよ」


「ただの叔父さんにしか見えないけど・・・・・」


「あれでも、私達の言葉がわかるんだから、本人の前で言わないでよ。

 多分、傷つくから」


「うん、わかった」


会話を終えたエンデとエヴリンは、静かに屋敷へと戻って行った。






同時刻、屋敷で報告を待つチェスター エイベルは、苛立ちを隠せないでいた。



「どうなっているのだ!」


監視をしている冒険者からの連絡がこないのだ。


それに、廃村で待機している者達からの連絡も無い。


椅子に座ったり、立ち上がったりを繰り返しているチェスター。


──もう少しで、あいつ等を追い詰められる筈なのに・・・・・・



イライラが募る一方のチェスター。


そんなチェスターのもとに、ある人物が訪れる。


「旦那様、グラウニー マルコール様が、お見えです」


「グラウニーだと!」


このタイミングで、グラウニーが屋敷に来たことを考える。


──もしかして、もう・・・・・


考えれば、考える程、良い話とは思えない。


だが、断る事など、不可能に近い。


「ふぅ~と」と息を大きく吐いた後

面会に応じる旨を伝える。


「応接室に案内しておけ」


「畏まりました」


執事が、部屋から出て行ったことを確認したチェスターは

『ドサッ』とソファーに腰を下ろすと、テーブルを蹴りつける。


「なぜ、こうなったのだ!

 それに、グラウニーだと!

 わたしに、どうしろと、言うのだ・・・・・」



頭を抱えるチェスターのもとに、

交代要員の冒険者が戻ってきた。


だが、その顔色は悪い。


そんな冒険者に向かって、吐き捨てるように

言い放つチェスター。


「なんだ、報告があるなら、早くしろ!」


「はい・・・・・昨夜、監視の任務に就いていた3人ですが・・・・・」


「彼らが、どうした?」


「はい、3人共、死体で発見されました」


「なんだと?・・・・・」


思わず、立ち上がる。


──監視がばれたとでもいうのか・・・・・・


そう思うと、グラウニーの来訪は、

その事かも知れないと、背筋が寒くなった。



実際は、キングホースが、ただ目障りだからと、

殺しただけなのだが、

そんなこと、チェスターが、知るはずも無い。


1人で勘違いをし、困惑するチェスター。


──どうする?

  どうしたらいいのだ!?・・・・・


盛大な勘違いをし、額から冷や汗を垂らすチェスターに

考えが纏まる筈が無い。


だが、これ以上、待たせる訳にもいかないのだ。


「ともかく、会ってみよう」



そう呟いた、チェスターは、グラウニーの待つ、応接室へと向かった。


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