第39話隠れ家 草原での戦い

草原で待つエンデの元に、馬に乗った兵士達が迫る。


徐々に距離が詰まり、とうとう、エンデと対峙する事となった。



正面に陣取り、馬から降りた兵士達。


その中から、先程、エンデに疑いをかけたゲルドが、一歩前に出る。


「エンデ ヴァイス、強盗の罪で逮捕する」


剣先を向けて、エンデに言い放つが、エンデも黙っていない。


「あれは、ジョエル商会のものだよ」


「戯言をぬかすな!

 あれは、侯爵様のものだ!

 言い逃れが出来ると思うな!


 この者を、捕らえよ!」


ゲルドの命令に従い、兵士達が、一斉に襲い掛かる。


しかし、エンデは、収納ボックスから剣を取り出すと、

兵士の攻撃を躱しながら、次々に切り倒す。


叫び声を上げ、次々に草原に倒れる兵士達の姿に、怯むゲルド。


「たかが、ガキ1人に・・・・・・」


言葉では、そう言っているが、ゲルドの顔色は悪く、

エンデに怯えていることは、明らかだ。


次々に兵士達が倒され、とうとう、ゲルドが最後の1人となる。


ゆっくりとゲルドに近づくエンデ。


「く、来るな!

 来るんじゃない!」


後退るゲルドは、逃走の為の馬を探すが、

馬達は、何処かに逃げてしまっていた。


「う、馬は、馬は、何処に行ったのだ・・・・・」


狼狽するゲルドに、向かいながらエンデが問う。


「本当の事を言ってよ。


 あれ、ジョエル商会のものだよね」


「だ、黙れ!」


震えながらも剣を構え、襲い掛かるゲルドだったが

そんな攻撃が、エンデに当たるはずも無く、

あっさりと躱されると、勢いの余って、草に足を取られた。



思いっきり地面にダイブしたゲルドが、

慌てて起き上がろうとした時、

既に、目の前には、エンデの姿があった。


「もう一度、聞くけど

 嘘は、駄目だから・・・・・」



再度、『あれは、ジョエル商会のものだよね』と問いかけたエンデの表情は、

先程までとは違っており、子供が見せるものとは思えなかった。


恐怖のあまり、悲鳴を上げる、


「ヒィィィィ!」


そして、四つん這いのまま、逃走を図ろうとするゲルド。


しかし、脹脛[《ふくらはぎ》に激痛が走る。


「ギャァァァァァ!」


エンデが剣で、脹脛を突き刺し、右足を地面に縫い付けていたのだ。


「ヒィィィィ!

 頼む、た、助けてくれ・・・・・」


懇願するゲルドを無視し、

エンデは、刺さっていた剣を抜くと、

今度は、左足の脹脛に突き刺した。


「ギャァァァァァ!」


痛みに転げまわろうとしたが、

地面に縫い付けられた左足のせいで、その場でのた打ち回るしかない。


「ねぇ、本当の事聞かせてよ・・・・・

 それから、これ、誰の命令?」


エンデは、そういった後、収納ボックスから、もう一本剣を取り出すと


ゲルドの顔の前に突き立てる。


「気は長い方じゃないから・・・・・・」


顔をぐしゃぐしゃに濡らしたゲルドは、懇願する様に口を割る。


「わかった、話す。


 話すから・・・・・」



ゲルドは、直接の指示を受けた訳では無く

ただ、『ヴァイス家の話は聞くな!

 奴らをこの街で孤立させ、追い詰めろ』と命令されていただけだと話した。


『なら、何故、ここまでの事を』


そう思ったエンデが、再び問い詰めると

ゲルドは、今回の一件を利用し、功績を上げれば、昇給と報奨がもらえると思い、

勝手に、エンデを犯罪者に仕立て上げようとしたのだと口を割った。


「ふ~ん。


 それで、ここまで、殺しに来たんだ」


「違う!

 殺そうなんて・・・・・」


「でも、兵士達は、その気だったよね。


 今更、そんな言い訳は、通用しないよ」



たしかに、兵士達も、功績を得る為に、我先にと、エンデに襲い掛かった。


それは、見ていたゲルドにもわかっている。


その為、言葉に詰まったが、何か言わなければならないと思い

必死に、頭を動かすが、何も浮かばない。


返事に困っているゲルドを見ていたエンデは、

大きく溜息を吐く。


「もういいや、面倒臭いから死んでよ」


ゲルドに左手を翳す。


「覚悟はいい?」


「ヒィ!」


怯えるゲルドは、動く事が出来ない。



そんなゲルドに、魔法を放とうとしたエンデだが、

とあるものが邪魔をした。


馬だ。


馬がエンデを咥え、邪魔をしたのだ。


「なんで、邪魔するの?」


エンデが、馬に問いかけると『ブルゥゥゥ』と鳴き、

馬は、ゲルドを蹴り上げ意識を失わせた。


「え?」


馬は、エンデに『乗せろ!』と言っているかのように嘶く。


──なんで、僕、馬の言葉がわかるんだろう・・・・・


そう思いながらも、馬の指示に従い、荷台にゲルドを放り込んだ。




エンデが再び御者台に乗ると、馬は勝手に走り出す。


馬の身勝手な行動に、既に諦めているエンデは、手綱さえ、握っていない。


馬の行き先は、王都。


道なりに、のんびりと進む。


すると、逃げだしていた馬達も集まり始め、

エンデの馬車と、並走する。


エンデ達が、王都の入口が近づくと、

並走していた馬達が、一斉に門に向けて走り出した。


順番を待っていた人達を巻き込んで、

馬達は、王都の入口を、パニックに陥れた。


逃げ惑う人々。


そんな中、頃合いを見計らったかのように

馬の集団は、王都の中に向かって走りだす。


兵士達を吹き飛ばし、勢いのまま、王都に突撃する。


その隙を縫うように、エンデを乗せた馬車も、王都へ入った。


『ブルルル、ヒィィィ!』(どうだ!俺様の作戦は?)


自信満々の馬に、『イラッ』とするエンデだが、

馬のおかげで、無事に王都に入れたので、文句が言えない。


その後、エンデの馬車が逃げ切ったのを確認した馬達は、

市場でニンジンを盗み、

再び、王都の外に、駆け出して行った。


ジョエルの屋敷に向かうエンデ。


貴族街の近くまで来ると、

馬が手綱を咥え、エンデに『案内しろ』と言わんばかりに視線を向ける。



「わかったよ・・・・・そこ右」


面倒臭そうに、馬に指示を出すエンデ。


エンデを睨みながら、仕方なく指示に従う馬。


その光景は、屋敷に到着するまで続いた。


ジョエルの屋敷に到着すると、馬は、そのまま庭まで進み、嘶く。


その声に驚き、外に飛び出して来たメイド達。


御者台にいるエンデを見つける。


「エンデ様!!!」


「うん、ただいま」


エンデがメイド達に挨拶をすると、

その後ろに隠れていたエヴリンが、怒りの表情で近づいてくる。


「エンデ、遅かったじゃない・・・・・」


「お姉ちゃん・・・・・ただいま?」


「『ただいま』じゃないわよ!

 ちょっとこっちに来なさい!」


エンデは、エヴリンに連行された。


その姿を、憐れみの表情で見送るメイド達と、何故か嬉しそうな顔の馬。



その後、メイド達は、荷台の荷物を屋敷に運び終えると

捕えたゲルドを、地下牢へと放り込んだ。


荷車を外された馬は、何故か馬房に入ろうとはせず、

広い庭で休憩を始め、そのまま居座ってしまう。





その頃・・・・・

屋敷に連れていかれたエンデは、事の次第をエヴリンに話した。


「そう、それで、メイドからも聞いたけど、あの男も共犯なのね」


「うん、仲間の兵士は、やっつけたけど、

 あいつは、馬が持って帰れって、五月蠅かったから、連れて帰ったんだよ」


「馬?」


「うん、馬・・・・・」


「エンデ・・・・・どこか、打ったの?」


「打ってないよ。


 あの馬、普通じゃないんだ。


 僕、あの馬の話していることわかるし、

 王都に入れたのも、あの馬のおかげなんだ」


エヴリンは、目を丸くしている。


「ねぇ、エンデ。


 貴方も聞いたことがあると思うけど、

 そんなこと出来るのは、伝説の『キングホース』だけよ」


「なに、その偉そうな馬?

 あの駄馬は、そんなんじゃないよ。


 それに、伝説の存在なんて、いる訳無いよ」


ケラケラと笑うエンデに、エヴリンは真顔で返す。


「伝説の存在なら、いるわよ」


「何処に?」


「ここ」


エヴリンは、エンデに向かって指を差す。


「あ・・・・・」


「貴方、自分の事を棚に上げて、『キングホース』がいないなんて、

 よくも言えたわね」


「・・・・・そうでした」


すっかり、自分の事を忘れていたエンデだった。




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