第38話隠れ家 廃村での戦い

周囲の家々から、飛び出した盗賊達は

叫び声のした家の前に、集まりつつあった。



「おい、何かあったのか!?」



家の前に集まった盗賊の声に、

中からの反応はない。


仕方なく、家に近づいていくと、突然、扉が開く。


入り口に向かって、手に持っていた松明を掲げると

暗闇から、トーマスの顔が浮かび上がる。


「トーマスか、何があった?」


そう呼び掛けてみるが、返事をしない。


もう少し近寄り、松明を掲げて、よく見てみると

トーマスの体が無いことに気付く。


「おい・・・・・」


そんな、体を失ったトーマスが、ゆっくりと近づいて来る。


思わず後退る盗賊達。


「な、なにがあったというのだ・・・・・」


武器を手に持ち、警戒する盗賊達の前に

松明の灯りに照らされて、姿を見せたエンデ。


「思ったより、多いね・・・・・

 まぁ、いいや。


 あのさ、僕達の荷物、返してくれるかな?」


姿形は、少年だが、その異様な雰囲気に、盗賊達の動きが止まる。


そんな状態の盗賊達に、エンデが告げた。


「ねぇ、誰も襲ってこないの?

 だったら、こっちから行くよ」


そう言い放ったエンデは、

手に持っていたトーマスの頭を放り投げた後、

地面に落ちている小石を拾うと、

盗賊達に向けて、その小石を飛ばした。


暗闇の中、『ヒュン!』という小さな音がすると、

松明を持っていた盗賊の男が倒れる。


「え!・・・・・」


エンデは、松明を持つ盗賊だけを狙い、

続けて、小石を飛ばす。


倒される度に、辺りが暗闇に包まれていく。


そして、最後の松明を持つ盗賊が倒されると、

村は、漆黒の闇に包まれた。


「おい!」


「どこだ!」


「気を付けろ!」


仲間同士で、声を掛け合い

辺りを警戒する盗賊達。


だが、恐怖に耐えられなくなったその中の1人が、

叫び声を上げながら、闇雲に剣を振るい始めた。


「く、来るな!」


「死ね!死ね!死ね!」


「俺は、まだ死にたくないんだぁ!」


闇雲に振るわれた剣は、仲間を傷つける。


「ぐわぁぁぁ!」


その叫び声が合図となり、混乱する盗賊達。


武器を振り回す者、逃げ出す者、

それぞれが思うままに行動し始め

より一層の混乱を招く。


「落ち着け!

 同士討ちになるぞ!」


そんな状況の中でも、必死に呼びかける者もいたが、

その声は、誰の耳にも届かなかった。


エンデは、逃亡を計った者だけに、狙いを定めて

次々と屠る。


おかげで、逃げ延びることの出来た者は

1人もいない。


逃亡する者がいなくなると

今度は、同士討ちをしている盗賊達に近づき

1人、1人、確実に狩ってゆくエンデ。



あと少しで、全滅というところで、朝日が昇り始めると

盗賊達にも、エンデの姿が見えた。



「おい・・・・」


エンデの姿が見えると、盗賊達は愕然とする。


「こんなガキに・・・・・」


たった一人の子供に、振り回され、同士討ちを繰り返した盗賊達は、

怒りの感情よりも、虚無感に襲われた。


「俺達は、何をしていたんだ・・・・・・」


思わず、握っていた剣を地面に落とす。


中には、座り込んでしまう者までいる。


「どうするんだ、俺達・・・・・」


辺り一面に広がる盗賊達の屍。


大半が、同士討ち。


それを、証明する様に、生き残った者達の剣には、

べっとりと血の跡が残っていた。


「おじさん達、まだ、戦うの?」


そう問いかけるエンデに、視線を向ける盗賊達。


その時、背中から浴びた太陽の光のせいで、

エンデの翼が、光り輝いて見えた。


思わず、言葉が漏れる。


「て、天使様・・・・・・」


本来、彼らは、盗賊ではなく

冒険者や、兵士だ。


その為、命令とはいえ、

自分達のやった事に、罪悪感を持ってしまった者達は、

エンデの前で跪いた。


「どうか・・・・・どうか、ご慈悲を・・・・・」


盗賊達は、武器を手放し、地に頭をつけて、懇願している。


完全に誤解なのだが、これを利用しない手はない。


エンデは、問いかける。


「なら、話してくれるよね。


 これは、誰の指示?」


「それは・・・・・」


「言いたくないの?」


「いえ・・・・そういう訳では・・・・・」


「なら、早く!」


エンデに促され、口を割る盗賊達。


そして、語られた内容から

今まで、起った全ての出来事は、

予想通り、チェスター ブライアンの命令だった。



怒りを滲ませながらも、御礼を口にするエンデ。


「話してくれて、有難う。


 約束通り、命は助けるよ。


 でも、もう、王都には戻らないでね。


 戻ってきたら、殺すから・・・・・あと、荷物は返してもらうよ」



その後、エンデは、盗賊達に、荷物の保管場所へと案内をさせると

全ての物資を、用意させた馬車に、積み込ませた。


準備が整うと、エンデは、王都へと旅立った。


その姿を見送った盗賊達は、

王都とは、反対の方向へと歩き出す。


未だ、震える手を見つめる盗賊。


「もう、関わりたくねぇ・・・・・」


「ああ、同感だ」


生き残った盗賊達は、兵士だった者も、冒険者となり、

誰にも話せない重荷を背負いながら、その場から去っていった。


一方、王都を目指すエンデだが、一晩中起きていたせいか

急激な睡魔に襲われていた。


「もう、無理・・・」


そう思ったエンデは、近くの草原で、馬車を止める。


ゆっくりと御者台から降りたエンデは、草原に寝転ぶと

知らないうちに眠ってしまう。


その後、暫くして、目を覚ましたエンデ。


だが、未だ、眠気が取れていない。


それでも、御者台に上り、馬車を走らせたのだが

再び、睡魔に襲われて、手綱を握ったまま寝てしまった。


暫くして、誰かに呼ばれる声で起き上がるエンデ。


「なんだ、坊主、やっと起きたのか?」


話しかけて来たのは、兵士。


慌てて起き上がると、そこは、王都の入り口だった。


エンデが馬に視線を向けると、勝ち誇った様に嘶く。


『ヒヒィィィィン!』


「おまえ・・・・・」


馬のおかげで、王都に辿り着いたエンデは、

言われれるがまま、通行税を払った。


しかし・・・・・



門を潜りかけたところで、

偉そうな武具を付けた兵長の【ゲルド】に呼び止められた。


「お前、ヴァイス家の者だな」


「・・・・・はい、確かに、ヴァイス家の者ですけど?」


エンデが素直に答えると、ゲルドが言い放つ。


「馬車を調べさせてもらう」


ゲルドは、エンデの返事を待たずに、荷台へと飛び乗ると

荷物を確認し始めた。


そして・・・・・


「これは、なんだ!」


ゲルドは、発見した小袋を手に持ち、エンデに詰め寄る。


「貴様、これをどこで手に入れた?

 これは、侯爵様の宝石だぞ。


 この宝石を運んでいた馬車が、盗賊に襲われ

 奪われてしまった筈なのに、何故、貴様が持っているのだ!」


大声で、問い詰めるゲルドだが、

今の話は、全くの出鱈目。



実際は、盗賊のふりをしていた冒険者と兵士が、

ジョエル商会から、奪った物だ。


その事実を知っているエンデに、

ゲルドは、尚も続けて叫ぶ。


「今すぐ、馬車から、降りろ!

 貴様を捕える!」


その言葉に従い、兵士達が、馬車を取り囲んだ。


この状況に、『はぁ~』と溜息を吐くエンデ。


昨夜といい、今日といい、いい加減うんざりしてきたエンデは

攻撃を仕掛ける事に決めたのだが、

突然馬が暴れ出し、王都から離れ始めた。


「ちょっと!

 止まって!

 言う事を聞いてよ!」


必死に、問いかけたり、手綱を引いたりしたが

馬が止まる気配はない。


遠くで、『追え!』とか

聞こえて来るが、エンデには、何も出来ない。


馬が、言う事を聞かないのだから、どうしようもないのだ。



そんな馬は、王都から遠ざかると、突然、足を止めた。


その場所は、休憩を取った草原。


『ブルルルル・・・』


嘶く馬から、飛び降りたエンデは、馬車を木陰へと移動させようとすると

馬は、素直に従った。


その態度が、腑に落ちないエンデは、

思わず文句を口にする。


「言う事を聞くなら、さっきも聞いてよ・・・」


『ブルルル』


再び嘶く馬。


だが、何を言っているのか分からない。


『はぁ』と思わずため息をついたエンデ。


そんなエンデの視界の先に

こちらに向かって来る一団が、目に映った。


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