第42話王都 監視者たち

ジェイクの指示に従い、仲間達は、ヴァイス家の監視を始める。


そのやり方は、チェスターの雇った冒険者達とは違い、一ヵ所に留まらず、

通行人や商人のふりをして、見張るというやり方だった。


それでも、深夜になると、一ヵ所にとどまって監視するしかない。


チェスターからの監視者が2人。


『闇』の監視者が3人。


5人の男達が、ヴァイス家を囲んで監視をしている。


流石に、エンデでも、この中を抜け出すことは、至難の業。



「う~ん、どうしようかな・・・・・・」



考え事をしながら、窓の外を眺めていると、エンデの部屋の真下に、

キングホースが、やって来た。



『ブルルルル・・・・・』(おい、行くぞ!)



エンデを急かすキングホース。



「でも、今日は、見張りが多いよ。


 流石に、見つかってしまうよ」



エンデの意見を聞き、キングホースは、何処かに駆けて行く。


「えっ!?」


向かった場所は、監視者のもと。


前回の監視者と同じ様に、木の枝に、寝そべっている冒険者。


その木の根元に、辿り着いたキングホースのやる事は1つ。


『蹴る』


前回以上の力で、木を蹴り倒す。


周囲に響く轟音と共に、木は倒れ、冒険者は、真っ逆さまに落下した。


地面に打ち付けられる冒険者。


「ウグッ!」


その冒険者に、キングホースは近づくと、足を上げ、踏みつけた。


内臓が破裂したのか、大量の血を噴き出しながら、

監視者は、息を引き取った。


キングホースは、次の場所に移動を始める。


──なんなんだ!あの馬は!!・・・・・


その光景を隠れて見ていた『闇』の監視者達は、

急いで、撤退を始めた。



彼らは、日中、同じ場所に留まっていなかったお蔭で、

まだ、キングホースに、見つかっていなかった。



しかし、朝から晩まで、同じ場所で監視を続けていた冒険者達は、

キングホースに、居場所がバレていたので、次々と餌食となる。



キングホースが冒険者を狙っている隙に、

『闇』から、送り込まれていた監視者達は、

少しでも遠くに逃げようと躍起になって走った。



「あの、化け物みてえな馬は、なんなんだ!」


「知るかよ!

 こんなの聞いてねえぜ」


「まぁ、それを調べるのが、本来、俺達の任務だったからな」


3人は、話をしている最中も、走る速度を落とすことはない。


「おい、こっちだ」


必死に走ったおかげであらかじめ用意しておいた隠れ家の近くまでやって来た。


その隠れ家は、今は使われていない大きな屋敷。


無断で使用している為、表から入るわけにはいかず

何時ものように、壁を乗り越えなければならない。


その為、用意しておいた

鉤の付いたロープを取り出すと

壁を超えるように投げた。


壁の向こうに、回り込んだ事を確認すると、ゆっくりと引く。


『カチッ』と何かに引っかかった音がして、ロープが止まる。


軽く引っ張り、掛かっている事を確認した。



「よし、先に行くぜ」


1人目が登り始めた。


残った2人は、周囲を監視している。



すると、突然、『ヒィ!』という短い悲鳴と共に、

登っていた男が、空から降って来た。



『ドサッ』と音を立てて落ちて来た男は、

首の骨が折れており、既に意識はなかった。


「おい・・・・・」


「今度は、何だ?」


突然の出来事に、固まる【ニドル】と【ネフィーロ】。


2人は、辺りを見渡した後、落ちて来た方向に目を向ける。



そこには、月の光を背に浴びながら、

少年が立っていた。


エンデだ。


「聞きたいことがあるから、大人しくしてよね」


ニドルとネフィーロは、エンデの言葉を無視したわけではないが、

それ以上に、空に浮かんでいる事に疑問を持ち

よくよく見てみると、エンデの背中に翼が生えている事がわかった。


「お前・・・・・人間じゃないのか?・・・・・」


「さぁ、どうなんだろうね?」


曖昧な返事で、はぐらかす。


そのやり取りの最中、ニドルは、タイミングを計っていた。


そして、ネフィーロに、視線が移った瞬間、

来た道を引き返すように走り出した。


──俺だけでも、逃げ切ってやる・・・・・・


ネフィーロを放置し、ニドルは走り続けた。


──夜が明けるまで、何処かに隠れねぇと・・・・・・



だが、来た道を引き返すという事は、平民街に背を向けているという事。



この先にあるのは、貴族街。


勝手に入りこみ、見つかってしまうと、死罪になり兼ねない場所。


それに、貴族街に入るには、壁を乗り越えなけれなばならないのだ。


──畜生、早くどうにかしないと・・・・・・


気持ちばかりが焦り、無駄に走り回ってしまう。


そのせいで、息が切れ、体力も失っていくニドル。


『もういい・・・・少し休みたい・・・・・』


そんな気持ちが芽生え、安易な選択をしてしまう。


ニドルは、近くあった民家の馬小屋へと忍び込んだ。


奥まで進むと、藁で体を隠す。



━━ここなら、見つからないだろう・・・・・・


藁の中に、隠れた二ドルは、大きく息を吐いた。


追手の足音は聞こえてこない。


胸を撫でおろすニドル。


──もう大丈夫だ・・・・・

  ここに居れば安全だ・・・・・

  


必死に、自分に言い聞かすのだが、

先程から、何故か馬達が騒がしい。


太い丸太の檻で、囲まれている為、外に出てくることはないが、


その場で、地団駄を踏むようなしぐさをしたり、

空に向かって、嘶いたりしている。


「畜生!

 このままだと、この家の者が、来てしまう」


安堵したのも束の間、

直ぐに立ち上がったニドルは、馬小屋から出て行く。


そして、見つかる前に、柵を越え、外の道へと出る。


暗闇の中、辺りを伺うが、

人の気配は無い。


「何処か、早く探さないと・・・・・」


そう思った瞬間、何かが、凄い速さで、迫って来る事に気が付いた。


「ん!?

 あれは、なんだ?」



ニドルが目を凝らしてみると、それは、馬のように見えた。


「馬?・・・・・・!!!」


エンデのインパクトが強すぎて、記憶が薄れていたが、

思い出してしまう。


あの場所から、逃げなければならなかった原因の存在を・・・・・


「あの馬だ!」


そう思った時には、決着は付いていた。


キングホースは、勢いのまま、ニドルを吹き飛ばした。


大型トラックに、撥ねられたかのように、上空に舞うニドル。


落ちてくるのを、待ち構えているキングホース。




意識を失いかけているニドルに、出来る事はない。


スローモーションのように、周りが見える。


──あれ!?・・・・・・俺・・・・・


意識はあるのに、体が動かないニドルが最後に見たのは、

馬の蹄鉄だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る