第35話王都 しつこい男

翌日・・・・・


今日から、本格的に授業が始まる。


エンデもエヴリンも、指定された教室に入る。




すると、何故か視線が集中し、『ヒソヒソ』と話をする者達がいた。


エンデとエヴリンは、顔を見合わす。


「なんなの?」


不思議に思いながらも、空いている席に腰を下ろす2人。



『グルーワルド学院』


入学に決まった年齢はないが、大体が12歳で入学し、15歳で卒業を迎える。


しかし、中には、10歳や14歳で入学する者もいる為、

一括りに、12歳で入学だと決まっているわけではない。



その為、エンデとエヴリンは、一緒に授業を受けることが出来るのだ。


暫くして、鐘が鳴ると、教室に先生が姿を現した。



「本日より、君たちは、正式にわが校の生徒となり、

 3年間、授業を受ける事になるのだが・・・・・・」



エヴリンと教師【バーホルン】の目が合う。


「いささか自己主張が強く、挨拶に来た初日から、

 揉め事を起こす生徒も今年はいるようだが

 ここは、貴族としての嗜みを磨く場所でもあることを、決して忘れないように」



みんなが距離を置き、『ヒソヒソ』している理由がわかった。


前日の騒動を、誰かが広めたに間違いない。


その事がわかると、エヴリンは、大きく溜息を吐いた。


「はぁ~~~、本当に、面倒臭いわね」


「お姉ちゃんどうしたの?」


「何でもないわ。


 ただ、呆れただけよ」


エヴリンは、机の上に肘を立て、顎を乗せる。


そして、窓の外の景色を見た。





授業も進み、昼食の時間。


エンデとエヴリンは、学院の食堂へと向かった。


食堂は、バイキング形式で、好きなものを取って食べることが出来るようだ。


2人がトレイを持って、順番待ちの列に並んでいると、

目の前に立ち塞がる者達。


「おい、お前・・・・・・」


その者達に視線を向ける。


声を掛けて来たのは、昨日、校舎の入り口で揉めたブライアン達だった。


──しつこいわね・・・・・


エブリンは、わざと無視をして、通り過ぎようとした。


だが・・・・・


「おい、待て!」


ブライアンの仲間である子爵の息子【クライド エイベル】が、

回り込んで逃げ道を塞ぐ。


クライドを睨みつけるエヴリン。


「邪魔なんだけど・・・・・」


睨みつけるエブリン。


だが、クライドは怯むことなく、ニヤついている。


「ちょっと・・・・・」


エヴリンが、何かを言おうとした時、

背後にいたブライアンが、背中を蹴りつけようとしたが

咄嗟にエンデがかばった。


おかげで、エヴリンは事無きを得たが、

トレイを持っていたエンデは、

蹴りを受け、床に倒れこんだ。


『ガシャーン!』と大きな音が食堂に響く。


食堂を利用するのは、生徒だけではない。


その中には、教師の姿もある。


一瞬にして、視線が集中したが

ブライアンが関わっているとわかると、誰もが視線をそむけた。


「ちょっと、なにをするのよ!」


エンデに手を伸ばしながら、ブライアンを睨みつけるエヴリン。


エンデを起こした後、エブリンは、ブライアンと向き合う。


「これ、どういうつもり?

 ただじゃ済まされないわよ」


大切にしている弟を、

こんな目に遭わせて、許せるわけが無いが、

それよりも、上級生の集団が、

新入生の少年、少女を取り囲んでいるという状況なのに

誰一人として、助けようとしない。


エブリンは、そちらの方に腹が立った。


──ここの教師たちは、いったい、何をしているのよ・・・


そんな事を思っていると、エンデが、話しかけてきた。


「お姉ちゃん、大丈夫?」


蹴られたのは、自分なのに、エブリンの事を心配するエンデの姿に

思わず、笑みを浮かべるエブリン。


「心配しないで。


 私は、大丈夫よ。


 ただ、この状況が、気に入らないだけよ」



「どうするの?」


「そんなの、決まっているわ」


エブリンの言いたいことは、わかった。


エンデも許す気は無い。


ブライアンと向き合うエンデ。


「お、おい・・・」


昨日の事を、思い出したブライアンは、思わず後退るが、

ギャラリーが多いせいなのか

その場でなんとか踏み止まり、強気な姿勢を見せる。


「昨日と同じ様になると思うなよ!」


そう告げた後、ブライアンの背後から、大男が姿を見せた。


大男は、エンデの前に立つ。


「おい、小僧、痛い目に遭いたくなかった

 ブライアン様の言う事を聞くんだな」


身長が、2mを超えるオーガのような大男が、

睨みをきかせて言い放った。


流石に、周りで見ていた生徒や教師は、エンデが殺されるのでないかと

不安そうな顔をしているが、それだけだ。


やはり、助けようとする者は、いない。


先程の態度が、嘘のように、勝ち誇った表情を見せるブライアン。


「今、この場で、土下座して許しを請うなら、考えてやらない事もないぞ」


余裕の笑みを浮かべている。


──さぁ、跪き、この私に許しを請うんだ・・・・・


今か今かと、その時を待っているが、

エンデに、謝罪をするような気配はない。


『来るなら、来い』


相手になってやるだけだと、ずっと思っているので

ブライアンが、何を言っても気にも留めていなかった。


だが、今は、昼食時間。


時間に限りがあるのだ。


その為、エンデは、思ったことを口にした。



「ご飯食べる時間が無くなるから、早くしてよ」


この状況でも、怯むどころか、

『早くしろ』とブライアンを急かしている。


その態度に、顔を赤くして、怒りを露わにするブライアン。



「絶対に許さない。


 後で後悔をしても、遅いからな!

 やってしまえ!!!」


ブライアンの号令に従い、襲い掛かるオーガのような男達。


先頭に立っていた男が、拳を振り上げた。


狙いは、エンデ。


誰もがそう思った。


しかし、男の本当の狙いは、エンデの後ろにいるエブリン。


エンデを狙うかに見せかけ、エヴリンを狙った。


エンデの胴位ある、太い腕から放たれた一撃。


その拳が、エブリンに襲い掛かったが、

それを見逃すエンデではない。


拳を、難なく受けとめたエンデが、殺気を放つ。


「相手は、僕だよ・・・・・」


子供とは思えないほどの殺意を放つエンデに

大男は、舌打ちをし、距離を取ろうとする。


だが、エンデに握られた拳が、離れない。


「くっ!」


オーガのような男が、拳を引き剥がそうとするが、ビクともしない。


「ク、クソガキ!

 放せ!」


文句を言って来る大男の腕を捻り上げる。


そして、腕が、真っ直ぐに伸びた瞬間、エンデは、間接を逆方向に殴りつけた。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」


食堂に、響き渡る悲鳴。


エンデの一撃で、関節が完全に破壊されたのだ。



エンデの攻撃は、続く。


破壊された腕を押さえている大男に歩み寄ると

今度は、反対側の腕を掴む。


「お、おい・・・・・」


誰かが、そう呟やくと同時に、

『ゴキッ』と骨の折れる鈍い音が響く。


「うぎゃぁぁぁぁぁ!!!」


両腕を破壊された大男は、ありまり痛みにのたうち回っている。


「こいつ、折りやがった・・・・・」


呆然とするブライアン達。


その中に、もう一人の大男もいた。



──どういう事だ・・・・・

  ガキを痛めつけるだけの簡単な仕事だった筈だろ・・・・・・


そんな事を思いながら、立ち尽くしていると

いつの間に移動したのか、大男の背後に、エンデの姿があった。


「時間が残っていないから、早くしてよ」


何事も無かったかのように話しかけるエンデの姿に

大男は、今までに感じた事の無い恐怖にさいなまれた。



「わ、悪い、俺は、降りるぜ」


 大男は、そう言って踵を返すが、

 そんな事、許される筈が無い。


先回りをして、懐に潜り込んだエンデは

大男の鳩尾に、一撃を放つ。


すると、大男の体が、宙に浮き、

大きな音を立てて、床に倒れた。


白目をむき、意識を失っている。


当分、動くことはなさそうだ。


「嘘だろ・・・・・」


見物していた者達も、現実を受け入れるまで、呆然と立ち尽くしている。


その間に、次々と倒されるブライアンの仲間達。


そんな中、エンデの視線が、ブライアンたちへと向く。


「次は誰?」


その呼びかけで、我に返ったブライアン達。


昨日同様、戦意など残っていない。


エンデが、ゆっくり距離を詰めると

ブライアン達は、後退る。


「ま、待て・・・・・・私が、悪かった。


 言う事も聞く、それに、二度と手を出さないことを誓う」


必死に訴えかけるブライアン。


だが、エンデには届かない。


「わ、私は、侯爵家の者だぞ!


 それでも、この私に、手を出そうというのか!」


エンデの動きが止まる。


このような状況でも、権威を振りかざすブライアンに

エンデは、呆れ返った。


だが、ブライアンは、誤解をする。


──そうだ、この私に手を出せる者などいないのだ・・・・・


ここぞとばかりに、ブライアンは、言い放つ。


「いいか、お前が手を出せば、

 想えだけの問題ではなくなるのだ。


 お前の家族にも、害が及ぶことを忘れるな!

 そうなれば、そこのお前の姉も、どうなるのだろうな・・・」


歪な笑みを見せながら、言い放った言葉は、エンデのトラウマを刺激する。



──家族に害を与える・・・・・

  何を言っているの・・・・・


『貴族に殺された母』を思い出してしまったのだ。


エンデの目から、色が失われる・・・・・。


完全に動きが止まった事で『助かった』と思ったブライアン。


だが、それは真逆。


『殺す』


噴き出す禍々しいオーラ。


食堂内に、蔓延し始めると

見ていた生徒たちが、次々に倒れ始めた。


──これ、不味いわ・・・・・


咄嗟に行動し、エンデを抱きしめるエヴリン。


「エンデ、駄目よ。


 思い出して・・・・・」


力強く抱きしめ、エンデを止める。


「エンデ!」


それでも、前に進もうとするエンデだったが

エブリンの呼びかけと、背中に感じた暖かさのおかげで

我を取り戻した。


「お姉ちゃん・・・・・」


「良かったぁ~」


『ホッ』と胸を撫でおろすエヴリン。


エンデは、理性を失っていた事に気が付く。


「・・・・・ごめんなさい」


エヴリンは、頭を撫でる。


「いいの。


 大丈夫」


落ち着きを取り戻したエンデとエヴリンが、改めてブライアンに目を向けると、

ブライアンは、あまりの恐怖に失禁し、意識を失っていた・・・・・。

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