第34話王都 登校日

とある日の朝、エヴリンとエンデは、学校に行く準備をしていた。


いつものように食堂に集まり、朝食を食べる。


だが、今日から学校が始めるので、普段よりは慌ただしい。


ヘンリエッタとジャスティーンは、既に学園に向かっている。


彼女達は、貴族ではない。


その為、予定も違い、朝も早いのだ。


だが、エンデとエブリンは貴族なので

まだ、自宅にいたのだが

それでも、時間は、押し迫っていた。


「あんた、そんなにゆっくりしていたら、遅刻するわよ。


 初日から遅刻とか、絶対だめだからね」



「う、うん。


 わかっているよ」



『今日は、入学の挨拶だけだから、焦ることはない』


そう思いながらも、エヴリンに従い、急いで準備をする。


エンデが屋敷から出ると、

目の前には、既に馬車が止まっており、

その中から、エブリンが、手招きをしている。


「早く乗って!」


駆け足で乗り込むと

直ぐに、馬車は、学校へ向かって走り出した。


『グルーワルド学院』


この国の魔法学の第一人者、【ビグル グルーワルド】が

魔法学や、貴族としての嗜みを学ぶ為に建てた学院だ。



その為、この学院に通うのは、殆どが貴族の地位を持つ者達。


後は、金持ちの商家や魔法の才を見出された者達なのだ。


エヴリンとエンデも、今日から、この学院の生徒になる。


学院に到着し、門の前で馬車を止めると

2人が降りる。


「ありがとう、行ってくるわ」


 「いってらっしゃいませ。


  それでは、後ほど、お迎えに参りますので」


御者の男は、そう言い残し、再び馬車を走らせた。



馬車が、学院の前から走り出すと

エヴリンとエンデは、校舎に向かって歩き出す。


校舎は3階建て。


だが、横にやたら広く、廊下や教室も、大きい。


これは、どこで話しをしても、

他の人の妨げにならないように、考慮された結果だという。


建物は、校舎の他に、講堂や研究棟もある。


この講堂や研究棟の広さについては、言うまでもない。




エブリンとエンデには、学院に到着したら

まず最初に、やらなければならない事があった。


その為、今は、学院長室へと向かって歩いている。


校舎全体は、ロの字ような形で、中庭を囲むように建っており

エブリン達の向かう学院長室は、丁度、中庭を挟んだ向かいにあった。


その最中、通り過ぎる教室の中には、人の姿が見える。


──みんな、新入生なのかな?・・・・・


エンデが、そんなことを考えながら、学院長室に向かっていると

正面から、歩いてくる男女の集団と鉢合う。


その集団は、通り過ぎる事はせず、2人の前で足を止める。


「あなた達、新入生?」


集団の中心にいた女性が、声をかけて来た。


彼女の名は、【シャーロット アボット】。


アボット子爵家の長女。


シャーロットは、エブリンとエンデを、

品定めをするように見ている。


「私達に、何か用でも、あるのかしら?」


エヴリンが、シャーロットに問う。


「・・・何でもないわ。


 それより、私達は上級生よ、道を開けなさい」


「えっ!?」


広い廊下。


通る場所など、幾らでもある。


それなのに、シャーロットは、『ズイッ』と肩を入れ、

強引にエヴリンとエンデの間を通り過ぎた。


後を追う、取り巻きの生徒たち。


その後ろ姿を、睨みつけるエブリン。


「なによ、あれ?」


少し憤慨しているエブリンの手を引くエンデ。


「お姉ちゃん、行こうよ」


「・・・ええ、そうね・・・」


エンデに手を引かれ、仕方なくエブリンは、歩き始めた。



学院長室の近くまで来ると、部屋の扉が開いている事に気が付く。


部屋の前まで行くと、中の様子が窺えた。


一番奥の席に座って仕事をしている老人の姿が見える。



「失礼します」


開いた扉を叩き、声を掛ける。


すると、机に向かっていた老人が、顔を上げた。


「ん?

 どなたかのぅ?」


「初めまして、私はエヴリン ヴァイス。


 この子は、エンデ ヴァイス。


 今日から、この学院のお世話になります」



「おお、そうか。お前達がヴァイス家の子供達か」


老人は席を立ち、エヴリン達に近寄る。


「ほう・・・・・お前は、マリオンによく似ておる・・・・・」



「えっ!

 お父様をご存じなんですか?」


老人は、笑みを零す。


「知ってるもなにも、儂の教え子の一人じゃ」


「!!」


「儂は、【ルードル グルーワルド】。


 今は、学院長だが、元々は、教壇に立つ教師じゃ」


「それで、お父様を、ご存じなんですね」


「勿論じゃ、彼は元気か?」


「お父様は元気です。


 今日は、私達だけですが、そのうち顔を出すと思います」


「そうか、久しぶりに会ってみたいもんじゃ」


「きっと、お父様もお会いしたいと思いますわ」


「ほほほ・・・・・そうか、そうか」


ルードルは、笑みを浮かべていた。



エブリンは、学院長と話をした後、父に伝える事を約束し、部屋から出た。


ずっと空気のようになっていたエンデは、

学院長室から出ると、エヴリンに声を掛ける。


「これで、終わりなの?」


「ええ、今日は挨拶だけだから、もう帰れるわよ」


「そうなんだ」


エンデは、エヴリンと共に、先程、入って来た

校舎の出入口へと向かった。


校舎内を見学しながら、ゆっくりと歩き

2人は、会話を楽しみながら、出入口へと向かったのだが

そこには、大勢の生徒が屯しており

広い筈の出入口を塞いでいた。


彼らは、この学院の3年生で、普段から素行の悪い事で、有名な集団だ。


当然、学園でも、手を焼いている。


その集団の中心にいるのが、侯爵家の息子で

リーダーの【ブライアン エイベル】。


この学院で、唯一の侯爵家のご子息。


その為、ブライアンに逆らう者は殆どいない。


その者達の視線が、エブリンを捕えている。


「・・・・・」


一呼吸置いた後、エブリンは、エンデの手を引き、

無言で突き進む。


人が一人、やっと通れる程の隙間しかないところを、

強引に通り過ぎる。


やはり、肩がぶつかりそうになったが、

上手く通り抜けることに、成功する。


しかし・・・・・


「おい・・・・・」


ブライアンが声を掛けて来た。


エブリンは、無視。


「おい!

 待てって言っているだろ!」


駆け寄り、エヴリンの肩を掴もうとするブライアンだったが

その手は、エンデによって阻まれた。


「何の用ですか?」


エブリンとブライアンの間に割り込むエンデ。


「なんだ?

 貴様に用はない。


 そこをどけっ!」



エンデを振り払う為、肩を掴もうとしたが、

あっさりと躱され、体勢を崩す。


勢い余って、ふらついたことで、

エヴリンが『ぷっ』と噴き出してしまった。


顔を赤くして、エンデを睨みつけるブライアン。


「貴様如きが、この俺に恥をかかせやがって!

 おい!」


ブライアンの合図で、取り巻き達が、エンデを取り囲む。


「少し、痛い目を見てもらうぜ」


そう言い放つと、一斉にエンデに、襲い掛かった。


だが、その攻撃を、エンデは、のらりくらりと躱す。


空を切る取り巻き達の攻撃。


何度やっても同じことの繰り返しで、かすりもしない。


次第に息を切らし、フラフラとよろめく取り巻き達。


「き、貴様・・・・・・逃げるな・・・・・正々堂々と・・・・・」


そこまで、言ったところで、地面に倒れ込んだ。


「あ・・・・・」


思わず声を漏らしたエンデ。


ブライアンを見ている。


疲れ切った取り巻き達の様子に、ブライアンも立ち尽くしていた。


拳を握り締め、エンデを思いっきり睨みつけるブライアンだが

手を出そうとはしてこない。


そんな状況の中、突然声が掛かる。


「そこまでにしなさい!」


そう言って、割り込んで来たのは、

先程、廊下ですれ違った女性、シャーロット アボットだった。



先程と同じ様に、こちらも、大勢の取り巻きを連れている。


現状を見て、大きく溜息を吐いた。


「どういう事で、こうなったのかは知らないけど

 上級生の・・・・・それも、ブライアンを相手にして・・・・・

 貴方達、これからが大変よ」


そう告げるシャーロットだったが、

それを聞いても、エヴリン達に、怯えた様子もみえない。


それどころか、反抗の意を示した。


「だから、どうだと言うの?

 もし、また来たら また同じ目に合わせるだけだわ」


「そうかもしれないけど、これでもブライアンは、侯爵家の息子。

 しかも長男なのよ」


 「えっ!侯爵の人だったの・・・・・」


流石に、上位貴族だと知ると、エヴリンも考え込む。


──どうしようかしら・・・・・・


シャーロットの言葉に、

エヴリンは、怯えたわけではない。


また、手を出して来たら、どうやって懲らしめようか考えている。


しかし、傍から見たら、相手の立場を知り、悩んでいるようにも見えた。


その為、手助けを申し出るシャーロット。


「ねぇ、もし困っているなら、私が手を貸してあげてもいいわよ」


胸を張り、笑みを零すシャーロット。


新しいおもちゃを与えられ、喜んでいるように見える。


だが、エヴリンは、あっさりと断った。


「ありがとう、気持ちだけ受け取っておくわ」


そう言い残し、エヴリンは、エンデの手を引き、

門の所で待っていた馬車に乗り込んだ。



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