第32話王都 とある貴族の謀略

ロナウ達が収監されて30日が経った。


今日は、鉱山へ護送される日。


護送車に乗っているのは、ロナウとその仲間達。


彼らは、ロナウと違い、1年間の鉱山労働で解放される。


だが、その日、護送馬車の兵士達に金を渡し、良からぬ事を企む者がいた。


それが、男爵家、当主【ビスド ドレイド】だ。


彼は、ロナウの仲間だったワグナ ドレイドの父である。


ビスドは、あの一件で、子爵への昇級話が流れるばかりか、

被害者である平民への賠償のため、財産の大半も没収された。


「何故、こんなことに・・・・・このままでは、腹の虫が治まらん」



悪さをしたのは、ロナウ達だが

ビスドは、この裁きに納得していない。


『貴族が、平民を好きに扱って何が悪い?』


その考えから、ビスドは、この度の一件の報告者である

エブリン達のことを、恨んでいる。


「わざわざ、これくらいの事を大事おおごとにしおって・・・・・」


必ず、仕返しをすることを誓うと同時に、

息子の救出を計画した。





王都を出発していた護送馬車が、山道の入り口に差し掛かると

斥侯に出ていた男が、待機している仲間たちに合図を送る。


斥候の男は、籠から鳥を取り出し、

片足に、赤い紐を括り付けた。


「たのんだぜ・・・」


空へと放たれた鳥は、迷いなく飛んでいく。



山道の奥、木々により、日が遮られ、薄暗くなっている場所で、

静かに待機している、ビスドに雇われた者達。


そこに、斥侯から送られた鳥が戻って来る。


【デイミアン】は、紐の色を確認した。


「赤か・・・・・予定通りだな。


 おい、お前ら、計画は順調だ。


 もうすぐ馬車が、ここを通る。


 いいか、失敗するんじゃねえぞ!」



「「「おう!!!」」」


デイミアン達の数は15名。


護送馬車を守る兵士の数は8名。


その内3名は、ビスドから賄賂を受け取り、この計画に加担している者達。


何も知らない5名だけでは、相手になる筈も無い。


それに、デイミアン達は

金の為なら、誘拐だろうと、殺人だろうと、

なんでも引き受ける『裏ギルド』のメンバー。


それなりの場数を踏んだ者達だ。


そんな者たちの前を、護送馬車が、通りかかったとき

御者を務めている兵士が、手綱を強く引いた。


驚かされた馬が暴れ、馬車が揺れる。


「おい、どうした?」


何も知らない兵士の問いかけに、御者を務めている兵士が答える。


「すまない。


 ちょっと、引っかかってしまったんだ」


そう言い終えて、馬車を止めた。


これが、合図となり、デイミアン達が、一斉に襲い掛かる。


突然の襲撃だったが、兵士達は、何とか対応しようと剣を抜き

素早く態勢を整えた。


日ごろの訓練の賜物か、

襲い掛かろうとしたデイミアン達の足を止めることに成功し、

上手く、対峙する形へと持ち込んだ。


しかしそれも、一時のこと。


突然、隊長の胸に、剣が突き刺さったのだ。


「うぐっ!

 き、貴様・・・・・裏切ったのか・・」


「ご名答・・・悪いね・・・・・」


仲間だと思っていた者に、背後から刺され

地面に倒れこむ体調を尻目に、デイミアン達の攻撃が開始された。


数の違いもあったが、それ以上に、

仲間の裏切りに動揺を隠せなかった兵士達は、成す統べなく倒された。


兵士達の始末を終えたデイミアンが声を上げる。


「おい、鍵はどこだ?」


それに、応えるように、

仲間を裏切った兵士が、鍵を持って近づいてきた。


「鍵ならここにある」


「ああ、助かったぜ」


デイミアンは、鍵を受け取ると、反対の手に持っていた剣を兵士に突き刺した。


「な、なんで・・・・・」


「悪いな、これは盗賊の仕業だ。


 お前達が生きていては、面倒でな」


この光景を見た、残りの兵士達は、慌てて逃げようとしたが

そんなことが、許される筈もなく、

デイミアンの手下に、殺された。


すべてを終えたデイミアンは、馬車の後ろに回り込み、鍵を開ける。



「おい、ワグナ ドレイドってのは、どいつだ?

 親父さんが、待っているんだ早く答えろ!」



「父上が!?」


「ほぅ、お前か?

 さっさと行くぞ、ついて来い」


デイミアンの指示によって、馬車を降りたワグナは、

与えられた馬に跨り、手綱を握った。


その時、ワグナを見つめる仲間達の姿が、目に映る。


デイミアンに尋ねるワグナ。


「待ってくれ、あいつ等は、どうなるんだ?」


「知らん、俺達が頼まれたのは、お前の救出だけだ。


 それに、余分な金は貰っていねぇ」


この場で放り出されたら、魔獣や魔物に襲われる可能性が高い。


助けを懇願する仲間たち。


「ワグナ殿、お願いです。


 私を連れて行ってください」


「ワグナ様、何でも仰って下さい。


 これからは、貴方様にお仕え致します」


次々に、掌を返し、ワグナに媚びを売り始める仲間達に、

ロナウが声をかける。


「お、おい!

 お前達・・・・・・」


ロナウが、呼び掛けているが、誰も耳を貸さなかった。



ロナウはこの時、彼らは、自分について来たのではなく、

地位と金について来ていた事を、初めて理解するが

今の自分に、出来ることなど、無いに等しい。


出来ることといえば、生き残るために、仲間達と同じ様に振舞うしかない。


今は、それが最良の手段だと、わかっている。


「わ、ワグナ・・・・・

 私も、助けてくれないか・・・・・」


今まで散々、好き放題に命令していたロナウが、命令ではなく、懇願している。


そんな、ロナウの姿に、思わず笑みが零れるワグナ。


ワグナに訪れた最高の瞬間。


既に、ロナウが貴族の地位を失った事は知っている。


だからこそ、改めて問う。


「ロナウ、貴様は、平民だったな」


「・・・・・・はい」


「ならば、貴族である私に、

 頼む姿というものが、あるのではないか?」



遠まわしに『土下座しろ!』そう伝えているのだ。


拳を握りしめ、地面に膝をつくロナウ。


「ワ、ワグナ・・・・様、どうか、お助け・・・・・下さい」


声を絞り出し、頭を下げるロナウ。


ワグナは、その頭を踏みつける。


「貴様には、今まで散々やられて来た・・・・・

 本来なら、助ける義理は無いが、

 せめてもの情けで、今回は助けてやる。


 その代わり、下僕として、この僕に仕えよ」


「・・・・・下僕だと?」


思わず、漏れた言葉を、ワグナは聞き逃さなかった。


ロナウを睨みつける。


「なんだ、その口の利き方は!?

 嫌なら、この場に置いて行くぞ!」


高圧的な態度を取るワグナに

悔しさを滲ませながらも、深々と頭を下げた。


「・・・げ、下僕として、お仕え致します」


「いい心がけだ。


 ついて来い」


満足したワグナは、デイミアンに指示された馬に乗ると

その場から立ち去った。



解放されたワグナ達は、デイミアン達に護衛されながら、

山中の道を進んでいると、2台の馬車が見えてくる。


デイミアンが、大声で叫ぶ。


「旦那!

 約束通り、連れて来たぜ」


声が届くと、馬車の中から、1人の男が降りてきた。


その男こそが、ワグナ ドレイドの父、ビスド ドレイドだ。


「息子よ!

 元気だったか!?」


「父上!」


ワグナは、ビスドの前で膝をついた。


「父上、この度の事、感謝致します」


「気にするな、私は、お前の無事な顔が見れただけで満足だ」


肩を叩き、ワグナを労うビスド。


その間に、ワグナの後ろに、仲間たちが集まる。


そして、ワグナと同じように、

一斉に膝をつく。


「ビスド様、この度は、私共もお救い下さり、感謝申し上げます。


 今後は、ご子息であるワグナ様のお力になれるように、精進して参ります」


「そうか、頼んだぞ」


「「「はっ」」」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る